きまぐれな日々

ついに衆議院選挙の公示日を迎えた。衆議院選挙の公示から投票までの選挙期間が参議院選挙より短いことを知ったのは、1980年の衆参同日選挙の時だった。あの年、衆議院選挙より一足早く公示された参議院選挙初日の5月30日に、大平正芳首相が遊説先の横浜で気分が悪くなってそのまま入院し、選挙期間中の6月12日に心筋梗塞で急逝したのだった。皮肉にもこれが追い風になって自民党が衆参同日選挙に圧勝した。

「2ちゃんねる」などで自民党の劣勢に焦るネット右翼の中には、選挙期間中に麻生太郎首相にもしものことがあったら、などと不謹慎なことを書く者がいる。当然、大平首相が死去して自民党が勝った1980年の選挙のことを念頭に置いて書いている。そんなことが強烈に印象に残っているとは、2ちゃんねるに巣食うネット右翼も、私同様決して若くないのだろうとしか思えないのだが、仮にそんな「万一のこと」があったとしても、あの年のような結果にはなり得ない。それは、当時の流れを覚えている私にとっては当然のことである。

あの年の少し前、70年代後半は、世の中の空気が急速に右旋回を始めた時期だった。自民党の党勢の底は、ロッキード事件の起きた1976年で、あの年に河野洋平らが自民党を離党して新自由クラブを結成し、同年の衆院選で躍進する一方、自民党は過半数割れの敗北を喫し、追加公認によってようやく過半数を上回った。しかし、ロッキード事件が忘れ去られた翌1977年になると、与野党逆転の成否が注目された参院選で、自民党は議席を減らしたものの与野党逆転を阻止した。これを機に自民党の党勢は拡大へと転じ、自民党は翌1978年の京都府知事選で28年続いた蜷川革新府政に終止符を打ったのを皮切りに、1979年の統一地方選における東京、大阪の知事選でも革新都政・府政を終わらせた。それにもかかわらず総理大臣は今と同じで短期でクルクル変わり、ロッキード選挙敗北の責任を取って辞任した三木武夫の後任となって参院選で踏ん張った福田赳夫は1978年の総裁予備選で大平正芳に敗れて退陣し、1979年には初の東京サミットで議長を務めた大平首相が、国内の景気回復もあって飛ぶ鳥を落とす勢いだった。その大平首相が満を持して一般消費税の導入を公約した上で衆議院を解散して国民に信を問おうとしたのが1979年の衆議院選挙だったが、増税を嫌う有権者の反発によって公約の撤回に追い込まれた上に選挙にも敗れ、そこから「40日抗争」と呼ばれる熾烈な自民党内の抗争が始まったのである。

つまり、あの当時は順調に党勢を伸ばしていた自民党が、増税でこけたばかりに政局になり、1980年の国会で野党が不用意に提出した大平内閣不信任案が、自民党の福田派と三木派の造反によって可決されて衆参同日選挙になってしまったのだが、底流はあくまでも自民党の拡大基調の時代だったのだ。だから、大平首相の死で一丸となった自民党が劇的な勝利を収めたのだが、当時のことを記述した本などを読むと、大平首相が亡くなる前から自民党の独自情勢調査は自民党有利のデータを得ていたことがわかる。首相の側近は、そのデータを病床の大平首相に伝えていた。大平首相の死は自民党の勢いに弾みをつけたのは確かだが、首相の死がなくても、あそこまでの大勝にはならなかったかもしれないにせよ、自民党はやはり勝っていたはずだ。自民党の党勢拡大はその後も続き、中曽根康弘内閣時代の1986年に、やはり衆参同日選挙で自民党が圧勝した時にピークに達したが、これを最後に自民党の長い退潮が始まった。その始まりはやはり間接税がきっかけであって、1987年には中曽根内閣はいったん打ち出した売上税の撤回に追い込まれた。そして、消費税を導入した1989年には参院選で自民党は社会党に大敗した。

事実は小説より奇なりで、この1989年というのがまた大変な年であり、国内ではバブル経済がピークに達したが、国際的にはベルリンの壁が壊され、ルーマニアのチャウシェスク大統領が革命によって銃殺刑に処せられるなど、社会主義体制が崩壊して冷戦が終結した。そして、参院選で大勝した社会党にとっては、この選挙が最後の輝きとなってしまい、以後急速に社会党は党勢を衰退させていった。

組織が衰える直前には、このような狂い咲きがままあるようだ。「郵政民営化」を単一争点にして自民党が大勝した2005年の衆議院選挙も、後世の歴史家によって、1989年の参院選における社会党の大勝と同様の位置づけをされるだろう。今や何をやっても支持が得られなくなった自民党は、北朝鮮の脅威を強調して改憲を強く訴えるマニフェストを作成したが、これがえらく不評で、候補者は党のマニフェストとは別に候補者独自のマニフェストを作って有権者にアピールしようと懸命だと聞く。党執行部は冷戦思考からなかなか脱却できないのかも知れない。「小泉構造改革」が神通力を失った今、自民党は昔ながらの反共イデオロギー政党に先祖返りしているかのようで、同じくイデオロギー色の強い産経新聞などの応援団が、まだ不足だ、もっとイデオロギー色を強めよと煽るが、私にはなぜかその姿が、「改革が不十分だから経済が振るわないのだ、もっと改革を進めよ」と叫ぶ竹中平蔵とダブって見える。産経新聞も竹中平蔵も今となっては自民党の足を引っ張るばかりであって、改憲や構造改革では国民生活は良くならない。自民党内でも特にイデオロギー色の強い中川昭一が、党内の大物の中でも特に苦戦が伝えられていることはそのあらわれと言える。麻生首相はあまり盟友である中川昭一の影響を受け過ぎない方が良い。今回も国民の主たる関心事は年金、雇用、医療など国民生活にかかわる問題であり、改憲や、ましてや地方分権などではない。マスコミは地方分権を争点に誘導しようと動いたが、人々の関心はそんなところにはなく、その空気を察した橋下徹は支持政党名だけ挙げて、あとは高みの見物を決め込んでしまった。

当ブログでは本日以後の選挙期間中、特定の政党や候補者への投票の呼びかけはしないが、各党や無所属の候補者たちの訴えがどこまで有権者の心を捉えるかによって選挙の帰趨が決まるだろう。今回の総選挙は、日本の政党政治史上における大きな節目の選挙になると思うが、各政党や候補者のフェアな選挙戦を期待したい。
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2009.08.18 08:00 | 2009年衆議院選挙 | トラックバック(-) | コメント(7) | このエントリーを含むはてなブックマーク

 1980年、当時学生だった私は、自民圧勝の選挙速報を見ながら、自分が徴兵されることに恐怖していました。
 しかし、その後潮が引いたり満ちたり、既存の枠組みの中での議席数の増減でしたが、1993年の諸派共同政権によるつかのまの政権交代の時は、何も変わるような気はしませんでしたが、今は、新たな枠組みが生まれ、自民党は、古代の恐竜のように倒れようとしています。
 保守的な日本人も、コイズミ以降の国民生活無視の、政治家のエゴと利権あさりによる自民党政権に、もはや愛想を尽かしたということでしょうか?
 ここにきて、いまだ右翼的言説で保守層をつなぎとめようと言う、産経新聞や、自民党の主張は、自らへの反省は何一つなく、しかも新たな支持を獲得する材料もない、末期的状況を示していると言えます。
 とはいえ、野党各党も国民も、まだ気を緩めることなく、自民党の息の根を止めるべく、各人の行動が期待されます。

2009.08.18 09:08 URL | 眠り猫 #2eH89A.o [ 編集 ]

こんにちは。
選挙期間にも入りましたし、キワドイ政治家ネタは、私も控えたいのですけど(苦笑)

>2ちゃんねるに巣食うネット右翼も、私同様決して若くないのだろう

やや、私と同じ感覚を持っておられるようで。
ネトウヨとされる人たちの、もっとも多い年齢層は、50歳代でないか、と私も思っていたところです。
たとえ話の得も言えない古さとか、若者をヘンに見下した表現をしたりとか……。
ネット界の光景は、イメージ以上に大人の世界であるように思えます。行動が大人か……、うーんそこは、私も肝に銘じたいところです(汗)

2009.08.18 20:43 URL | デルタ #JnoDGgPo [ 編集 ]

 政治ブログランキングで2番以下ずらっと並んだ大同小異のウヨのお店が、政権交代後どうなるか楽しみですね。
 失礼な例えかもしれませんが、点々とシャッターを下ろすことになるかどうか。

2009.08.18 23:22 URL | cube #- [ 編集 ]

ネトウヨさんはこれからどこに行けば良いんでしょうねぇ。

自民党は崩壊し、新保守主義者は落選しまくり、似非保守新聞は部数激減、似非保守雑誌は廃刊・・・
なにより、彼らが(口先だけ)敬愛する皇室から見捨てられ、頼りにしていた新しい教科書をつくる会は金の亡者であることが明らかになって分裂・・・

哀れだ。すごーく哀れだ。

90年代に左翼運動が消滅したのに続いて、右翼も一部の本物を除いて消え去る運命にあるんでしょう。
その出来の悪い追随者にすぎないネトウヨさんたちは…ほんとどうなっちゃうんでしょうね?

2009.08.19 03:33 URL | そにっく #GCA3nAmE [ 編集 ]

>政治ブログランキングで2番以下ずらっと並んだ大同小異のウヨのお店

あれ、カウンターいじってんでしょ?

2009.08.19 03:34 URL | そにっく #GCA3nAmE [ 編集 ]

私は93年の総選挙を思い出します。
まずは93年の政治改革と行政改革。
夏の総選挙。
93年の新党躍進と今回の民主のみ野党が勝つ。
自民党が下野しても新自由主義が取られると予想できること。

自民党は下野しなければならないが、新自由主義になりそうというのも寂しいです。
93年以降マスゴミは新自由主義を継続して主張していますね。

2009.08.19 12:19 URL | 宇宙人 #- [ 編集 ]

とはいえ、8/12のとーしゅとーろんを見ると
とてもUI氏には首相が務まらないだろう
というのもたしかなわけで。
「せーじとはわるさ加減のせんたくである」とは
一万円札の人の言葉ですが、何年たっても
色褪せそうにありませんねぇ。

2009.08.22 00:58 URL | orsted #- [ 編集 ]













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