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きまぐれな日々

今年はとんでもない夏で、天候も不順なら、芸能人が次々と麻薬事件を起こすのも不愉快で、おかげで城内実のいんちきポスター事件も吹っ飛んでしまったが、それ以前に、先月の衆議院解散によってニュースが選挙の話題ばかりになり、戦争を考える月である8月に、戦争に関する議論が例年になく少なくなってしまっている。

城内実の件にしても、城内のような排外主義者が台頭して「鬼畜米英」を叫んで戦争に突き進んでいく恐れがあることと関連づけて議論されなければならないと思うが、単なる芸能スキャンダルと化し、しかもどこからどういう圧力がかかっているのか知らないが、女性週刊誌でさえ大して取り上げず、結局スポーツ紙間でバトルが展開されただけだった。日刊スポーツの勇み足をサンスポと報知が取り上げて騒ぎ、それに対抗する形で、スポーツ紙の中でももっとも格下のデイリーが飛ばし記事を流して大いに城内実陣営に恩を売ったというチンケな騒動で終わってしまったのである(その後の事務所の抗議などは、なぜか大きく報じられていない)。

そんなわけで、今年も風化が進む戦争報道だが、毎日新聞が先週4日から7日までのコラム「記者の目」で、連日若手記者が戦争や核廃絶について奮闘して取材した記事を載せていたことも、ほとんど話題になっていない。そのうち、4日の記事「被爆者の新たな取り組み学べ」(下記URL)は、同紙長崎支局の下原知広記者が書いた記事である。
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20090804k0000m070120000c.html

この記事は、約1万回もの語り部活動で被爆体験と核廃絶を訴え続ける長崎原爆遺族会顧問、下平作江(しもひらさくえ)さん(74)を紹介している。下原記者は書く。

 下平さんは10歳の時、爆心地から約800メートルの防空壕(ごう)で2歳下の妹らと被爆した。翌日、壕を出ると外は地獄のような光景だった。自宅にいた家族は被爆死し、助かった妹もその後に病苦で自殺。30代で子宮、卵巣を切除するなど過酷な体験をしてきた。40歳ごろから語り部活動を始め、原爆症認定長崎訴訟の原告として被爆者全体の支援活動にも取り組む。その体験はもちろん、核兵器廃絶の取り組みを生活の中心に据える生きざまに、強い衝撃を受けた。

(毎日新聞 2009年8月4日付 「記者の目」 より)


こういう記事を読んで、戦争によって人間一人一人にどんな災厄が降りかかるかに思いを致したいものだ。経済関係の報道についてもそうで、「資本主義にバブルの生成と破裂はつきものだ」などとしたり顔に片付ける論評を見ると、私はなんだと思って筆者の思慮の浅さを馬鹿にしたくなってしまう。現実の経済の荒波が、人間一人一人の生活にどんな影響を与えるかを考慮しない論評は無意味である。

ところで、この毎日新聞「記者の目」の戦争シリーズで特に注目したいのは、5日付の東京社会部・滝野隆浩記者が書いた、「墓銘に残す核廃絶のメッセージ」と題した記事だ(下記URL)。
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20090805ddm004070162000c.html

記事のサブタイトルには、「保有論、もう退場願いたい 被爆者の強さを知る」とある。しかし、滝野記者は、核武装についての議論はすべきではないという立場には立たず、それどころか、

 私は核を即時廃止せよという訴えには賛同しない。すぐ近くに核を振りかざそうとする国がある以上、何らかの対処が必要だと思う。米国とは「核の傘」について、軍事技術の専門家を交えて話さなくてはならないし、抑止力として敵地攻撃能力についても検討を始めていい。

と書いている。その上で、下記のように主張している。

数十年にわたって核を研究してきた自衛隊OBはこう断言する。「軍事的にいえば核に行き着く。しかし、国民感情や国際情勢を総合的に考えれば、日本に核保有はありえない」

 毎年数千億円をかけて試作し、秘密裏に地下実験をし、その何倍、何十倍の予算をつぎ込んで大量生産のプラントをつくり、運搬手段を整備し、配備し、防護も考え、必ず出る核廃棄物の処分も検討する??これが核保有の実現化プロセスである。加えて、日米同盟は破棄され、NPT(核拡散防止条約)からも脱退して国際的に孤立することになる。さらに気になっているのは、社会のありようを変える危険性だ。核という「国家最高の機密」の保有を決意した瞬間から、一気に軍事機密の情報管理が始まる。つまり、軍事優先の社会に変わらざるを得ないのだ。

(毎日新聞 2009年8月5日付 「記者の目」 より)


記事が指摘するように、核保有には莫大な金がかかり、もちろん日本の財政にそんな余裕はないし、外交・安全保障の観点からも、日本が核武装したと同時に、日本は国際的に孤立する。国連憲章には「敵国条項」が今も残っており、日本政府の見解によると、日本、ドイツ、イタリア、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、フィンランドがこれに該当するとされている。現在は死文化しているともされる「敵国条項」だが、日本が核武装すると同時に息を吹き返し、日本は世界中から「敵」と見なされることになるだろう。麻生太郎や安倍晋三にとってはそれでも構わないのかもしれないが、大多数の日本人にはそんな事態は受け入れられないだろう。現実論からいえば、憲法9条の改定だって、世界中から日本が警戒心を抱かれる原因となる。つまり、憲法9条を維持する方が、日本にとってよほど現実的な選択肢なのである。

軍拡を語り、憲法改定を目指す者が現実的で、反戦を口にし、現憲法の維持を支持する者が空想的であるなどとするのは、自民党や右翼のプロパガンダに過ぎない。まして核武装論など、とんでもない空理空論に過ぎないことはあまりにも明白である。田母神俊雄の主張など噴飯ものの一語。きたる総選挙によって政権交代が起きる可能性が高いが、民主党には党内の改憲論者に引っ張られて国を誤るようなことがないよう、強く求めたい。


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私事になりますが、16年前、高校の修学旅行で長崎を訪問しました。その時に下平さんの講演を聞く機会に恵まれました。

田母神氏ら核武装論を唱え、それに賛同する人が多いですが、そんなことをしたらどうなるのかわかっているのでしょうか。
おっしゃるとおり国連から「敵国がまた」とみなされ、IAEAから排除勧告を喰らいます。横須賀やキャンプ座間などのアメリカ軍が即座に霞ヶ関・永田町を押さえます。サダム・フセインと同じ運命をたどることになるでしょう。出来たとしても憲法9条を改定して自衛隊を「正式に」軍隊とすることしか出来ないと思います。
それも、「他国の侵略には決して用いない。平和貢献のために行う。徴兵制は禁止する」という条件の下、現状追認です。民主党の右派(改憲論者)をけん制するためにも、社民党は勿論、共産党には頑張ってもらいたいものです。


最後に、警察庁長官の息子、城内実、日本第二の都市の首長、橋下徹に中田宏を更に跋扈させれば日本は1930年代のドイツ・オーストリアを再現することになるでしょう。



2009.08.09 11:14 URL | ゴルゴ十三 #DTxGwd9Y [ 編集 ]

いつもお休みの日曜日なのに長崎原爆忌に寄せた特別更新ですね。広島と比べても年々マスコミの扱いも小さくなるだけに、この心遣いに敬意を表します。

>こういう記事を読んで、戦争によって人間一人一人にどんな災厄が降りかかるかに思いを致したいものだ。経済関係の報道についてもそうで、「資本主義にバブルの生成と破裂はつきものだ」などとしたり顔に片付ける論評を見ると、私はなんだと思って筆者の思慮の浅さを馬鹿にしたくなってしまう。現実の経済の荒波が、人間一人一人の生活にどんな影響を与えるかを考慮しない論評は無意味である。


「大きな目的のために多少の犠牲はやむを得ない」とあっさり言える人は自分は決して「多少の犠牲」には入らないと思っているのでしょうか。
15年戦争で失われた兵士・民間人を含む日本人の犠牲者は300万人以上・アジア諸国の犠牲は2000万人にのぼるとされています。
その数の厖大さを嘆くだけでなく、その「数字」の陰に、ひとりひとりの人間のかけがえのない人生があり、更に彼らにつながる人々の思いがあることを決して忘れてはならないでしょう。

2009.08.09 14:49 URL | ぽむ #mQop/nM. [ 編集 ]

主さんは私から見れば極左で到底認められるものではないはっきり言って大反対だが、コメントされた支持も批判も全て公開するのは高く評価できるその誠実な姿勢をこれからも貫き続けてほしい

2009.08.09 14:52 URL | どーも #syYSEaHs [ 編集 ]


どーもさん、

ほめられているのかけなされているのかよくわかりませんが、コメントありがとうございます。

でも、私はコメントはすべて承認・公開しているわけではなく、捨て台詞を書くだけのような下品なコメントは容赦なく削除しています。先週の城内実ポスター事件の時には、結構削除しましたよ。

ところで、一点だけお聞きしたいことがあります。「どーも」さんって、安倍の統一協会祝電事件の頃によくコメントくださった、同じペンネーム「どーも」さんと同じ方ですか?

2009.08.09 15:03 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

確かに私は主さんの考え方には反対してはおりますが、貶している訳ではありません。ブログは不特定多数の方が見る訳ですから、反対意見の人が出てくるのは当然でしょう。だとしてもきちんと反対意見の人も尊重してこうして載せていらっしゃるのですから、その点ではご立派だと思う訳です。「私は貴方の意見には真っ向から反対する。しかし、貴方の言論の自由を奪う者があれば、命をかけて貴方の言論の自由を守り通してみせる」というフランスの作家ヴォルテールの格言を見事に実現されている様で素晴らしいと思います…確かに誹謗・中傷は無視していいと思いますが、何が正しいのかを吟味するためには正当な反対意見・批判というのはあって然るべきだし、憲法でも言論の自由が保障されているその精神を活かし、反対意見も取り入れた上で真実は何かを追及する姿勢に於いては私と同志だと思えます。主さんのその様な所がいいなぁと思いますよ

あと、主さんの仰ったどーもさんとは私は別人です。

2009.08.09 20:05 URL | どーも #syYSEaHs [ 編集 ]

日本会議系の政治家はともかく、田母神氏の核武装論は「核シェアリング」とのことです。それから、今後世界各国で講演するそうです。

2009.08.09 20:47 URL | ニコ #- [ 編集 ]

田母神氏は米国の核によるシェアを主張しますが、しかし米国中心の現状ではなく、独自防衛路線志向なんですよね。
ホンネのところで米国と独立して自由な防衛体制を持ちたいという意欲が全然隠れてない。
それなのに米国から虎の子を任せて貰えると思える思考が不思議です。

「戦前日本は侵略戦争をやってない」とか、米国の戦後体制に対する露骨な挑戦ですよね。
核武装論だって、核拡散を最大に警戒する米国軍事体制にとっては危険思想でしょう。その独占性をシェアさせろとか全くふざけた話だし。
すぐクビになったので米国は何も言いませんでしたが、そうでなければ安倍元首相みたいにつるし上げを喰らったのでは。

2009.08.09 22:52 URL | Gl17 #EBUSheBA [ 編集 ]

最近の風潮は戦後日本の全否定です。
戦後の日本文化はすべてアメリカに押し付けられたもの。牛乳が体に悪いという説が流れるのも牛乳はアメリカから押し付けられたから拒否するという反応もみられますね。

他にもいくらでもありますが
とにかく日本の伝統と信じるものはなんでも受け入れそれ意外のものの否定。捕鯨は日本文化でもなんでもないが日本文化だと思い込むことで普段鯨なんて食わないのにむきになって捕鯨に賛成するとか。右翼にかぎらずこの発想を持つ日本人は最近はたくさんいるみたいです。

核保有論もこの流れで一部には受けるわけで核保有論者にとっては核を現実に持てるかはもしかしたらどうでもいいのかもしれません。

2009.08.10 01:25 URL | JMaEND #RpRZ5X7E [ 編集 ]

私は憲法改定のところでは、kojitakenさんとはつくづく意見が合わないなあ、と常々思います。

私は憲法を改定し、9条の不戦に当たる部分を具体的現実的に強化したり、
憲法の拡大解釈による軍派遣等を禁ずる条項など、現実に則した戦争禁止の部分を、
もっと憲法に、拡大解釈をさせる余地を与えないほどに、書き込むべきだ、と思っているからです。

もちろん現実現在、好戦派憲法改定論者が幅をきかせていることを考えれば、私の考えのようなことは、改定の部分でだけはアジテーションに利用され、実際の中身では好戦派の好む内容にされてしまうという危険を多分に含んでいますから、私も自分のこういった主張を強く訴えるということをしません。
なのですが、憲法改定論者を語る際考える際、こういう非戦派憲法改定論者もいることも、どこか頭の隅にでも置いておいて、

好戦派の憲法改定への意欲を利用して、逆に9条強化の形での憲法改定を出来ないだろうか?

などという夢想空想する阿呆もいたなあ、ぐらいにおぼえておいてくださると、私はなんだか幸せな気分です。。

2009.08.10 02:18 URL | shimura #XQYq98OQ [ 編集 ]













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