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きまぐれな日々

5日前の日曜日に放送されたテレビ朝日の「サンデープロジェクト」で、臓器移植法改正案をめぐる討論が、それぞれの案を提案した人たちによって行われた。なかなか良い討論だったと思うのだが、この日の「サンプロ」を指して、日本郵政の社長人事問題、というより鳩山邦夫総務相が更迭された問題から「サンプロ」は逃げた、といきり立つ向きがあった。自民党の内紛をことさらに騒ぎ立てることは、きたる総選挙において自民党の得票を増やすだけではないかと私は思うのだが、いまテレビ番組が政治に絡む問題を取り上げる際にもっとも視聴率が取れるのもこの件らしくて、別にサンプロが取り上げなくたってニュース番組からワイドショーに至るまで日本郵政の社長人事や鳩山邦夫の話題で持ち切りである。そんな中で、「予定を変更して鳩山総務相の辞任問題を討論します」などという馬鹿げたことをやらずに、予定通り臓器移植法案についての討論を放送したサンプロは、この番組にしては珍しく見識を見せたと私は思う。

「きっこのブログ」を見ると、臓器移植法案について、

自民党議員の9割が事前に勉強や議論をせずに採決に臨んでいたことが分かった

と書かれている。4年前の「郵政総選挙」でコイズミに煽られた有権者に選ばれて、「濡れ手に粟」で地位を得たバブル議員(粟ならぬ泡?)の多くは、次の総選挙で落選するわけだから、皆さん椅子取りゲームに必死で臓器移植法案どころではないのだろう。もっともハードルを下げる「脳死を人の死」とするA案が衆議院で採決された時、自民党議員は大部分が賛成の白票を投じたが、麻生太郎首相は反対の青票を投じた。公明党は賛否が割れたが、太田昭宏代表は青票を投じた。民主党も賛否が割れたが、小沢一郎、菅直人、岡田克也ら幹部の多くが白票を投じたのに対し、鳩山由紀夫代表は青票を投じた。社民党は全員が青票を投じ、共産党は「議論が尽くされていない」として採決を棄権した。

ところで、勉強不足の自民党議員を批判する「きっこのブログ」も、死刑制度に関しては過激な厳罰主義の主張をしていることはよく知られている。鳩山邦夫の更迭問題に話を戻すと、鳩山を英雄視する風潮に私が違和感を感じる最大の理由は、鳩山が「ベルトコンベアとは言わないが」などと言いつつ、機械的に死刑を執行できるようにすべきだ、と主張したことにある。これに関して朝日新聞が鳩山を「死に神」呼ばわりし、私はそれを当然だと思ったが、鳩山邦夫は机を叩いて猛然と朝日を非難する記者会見を行い、臓器移植法案のA案に反対票を投じた鳩山由紀夫も、邦夫をかばうコメントを発した。朝日新聞は遺憾の意を表したんだっけ? 私は死神という表現は当を得ており、朝日が謝る必要など何一つないと思った。そんな死神を英雄視する風潮は、私には我慢ならない。ましてや鳩山邦夫は自民党を離党するつもりはない、と明言しており、ふだん民主党を熱狂的に支持している人たちが、鳩山邦夫を英雄視して、まるで福岡6区から立候補予定の民主党・古賀一成議員の選挙妨害をするかのような倒錯ぶりを示すのを見ていると、本当にいやになる。古賀氏は民主党内では、鳩山由紀夫系の「政権交代を実現する会」と菅直人系の「国のかたち研究会」に属しており、鳩山邦夫をことさらに英雄視することは、鳩山由紀夫に弓を引くも同然であることを指摘しておきたい。

死刑問題についていうと、一昨日(17日)の朝日新聞に、辺見庸の「犬と日常と絞首刑」という長文のエッセイが掲載された。これは、ネットでは配信されていないようだ。辺見庸の文章を評論するなどという行為は私にはできないのだが、少しだけ文章を紹介すると、辺見は「罰金刑や自由刑などよりはるかな昔から、おそらくは有史以前の原始共同体の起源とともに、死刑が地球のいたるところですでに法以前の自然の掟として存在していたらしい」と指摘し、「日本や中国や北朝鮮やイランなどの死刑制度」には、そうした「永きにわたる人類史的知恵と根拠がある」のか、それとも「日本や中国や北朝鮮やイランなどの死刑制度は、原始共同体と本質的には大差ない野蛮性をあらわに残すもの」で、「早急になんとしても克服しなければならない」のかと皮肉に問うている(カギ括弧内が辺見庸の文章からの引用)。

辺見は、「あげく、「犯人を極刑に!」という世間の声がマスコミ(とくにテレビ)報道と相乗しつつ勢いをいやまし、考える個人はそれに怖れをなして口をつぐむかちぢこまってしまうのである。ときには凶悪事件被告人の弁護側まで、世間から ”公共敵” 呼ばわりされたりもするのだから、まるで悪しき社会主義なみである」とも書いている。ここで辺見が山口県光市母子殺害事件を念頭に置いていることは明らかであり、この件に関して橋下徹がテレビで弁護団の懲戒請求を煽ったことや、「きっこのブログ」を含むいくつかの反政府系有名ブログも「犯人を極刑に!」と絶叫し、弁護団を非難していたことが思い出される。その橋下徹は、地方分権政策を判断材料に次期衆院選での政党支持を表明すると宣言しているが、昨日(17日)、民主党大阪府連主催のシンポジウムに出席し、終了後、「本気で国の形を変えようとされていると感じた。これで霞が関の現状維持はないだろう」と民主党を評価するコメントを残した。(共同通信報道による。朝日新聞によると、橋下は総選挙での支持政党については「自民、公明からも民主を上回る案が出てくると信じている」と述べ、態度を明確にしなかったとのこと)。自公の人脈と見られている橋下だが、抜け目なく民主党政権成立後に向けての布石も打っている。いま明確に自公支持ないし民主党支持のどちらも打ち出していないのは、それだけ自分を高く売ろうという橋下の計算であり、おそらく総選挙で自公と民主党のいずれが勝とうとも、橋下は国政への影響力を間違いなく強めていくことだろう。そして、それは間違いなく民主党政権を「右」や「新自由主義側」に引っ張る力となる。昨年の大阪府知事選の頃は、まさかここまで橋下が手強いとは思いもしなかった。

結局、臓器移植法案の論議よりも日本郵政の社長人事や鳩山邦夫の更迭をテレビで取り上げろと煽り立てることは、橋下のような極右ポピュリストをますます増長させることにしかつながらないのである。視聴者が西川善文と鳩山邦夫のバトルを楽しむのも、4年前の郵政総選挙における「刺客対抵抗勢力」と同様のバトルを期待しているからであって、要は「コイズミ劇場」の延長戦が見たいのだ。それを煽るようなことをコイズミ・竹中のカイカクを批判する側がやってどうすると言いたい。

むしろ、日本郵政の社長人事や「死神」の更迭問題ばかりにかまけずに、もっと臓器移植法案をめぐる議論にも注目せよと主張するのが、知識人のあるべき姿なのではないだろうか。


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多分数年後には、国内でも臓器売買が流行るんでしょう。法案成立時の小泉の嬉しそうな顔が不気味ですね。

2009.06.19 08:28 URL | やまもと #- [ 編集 ]

kojitakenさん
おはようございます。kojitakenさんのところにきたら、ランキング応援クリックしますが、政治部門2位なんですね。相変わらずすごいです。

わたしは、辺見さんはkojitakenさんの書かれることに、どうして共感や同意をするかというと、2人ともぶれない、そしてタブーに触れることも書かれるです。

つまり書きたいことを書き、言いたいことをきちんと言っておられるからです。辺見さんは、相当の覚悟でやはり引きつる思いもあって書いておられるのかな。この「犬と日常と絞首刑」の記事に関連して、辺見さんには「身辺に気をつけなさい」という忠告があったそうですね。「死刑制度」と「天皇制」とからめたからでしょうか。

まず、タブーがあること自体おかしいです。タブーがある、ということは、それらを国民がおおっぴらに議論することが権力側に都合が悪いからでしょうね。ということは、権力側はタブーを逆に利用したいのです。

きっこさんや橋下みたいにネットやテレビの世界で、影響力が強い人が、そして鳩山みたいな政権与党の政治家が、世論を扇動し誘導して行く姿には恐ろしいものと感じました。また、それに屈した朝日の姿が、いまのメディア全体を象徴しているようで、暗澹たる気持ちになりました。

kojitakenさんのトピとはちょっとずれてすみません。辺見庸さんの名前が出てくると、どうしても辺見さん中心のコメントになってしまいます。

2009.06.19 09:03 URL | 非戦 #tRWV4pAU [ 編集 ]

非戦さん、

コメントどうもありがとうございます。コメントの最初の方にある「辺見さんは」は、もちろん「辺見さんや」のタイプミスだと思いますが、辺見庸さんと並べて書かれるとは汗顔の至りで、穴にでも入りたくなってしまいます(笑)。

このところ辺見庸さんの新刊のペースはすごいですね。今年は『しのびよる破局』を出したばかりだというのに、NHK出版と毎日新聞社から立て続けに本を出されるというのだから。まさに今現在に完全燃焼する生き方ですね。私にはとても真似できないと思い、ただただ畏敬の念を持つだけです。

2009.06.19 09:34 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

先日はわたしの拙い投稿を取り上げていただきありがとうございました。
あのBBSでは、極少数派として出発しましたが、少しずつ同意される方が増えてきたようにも思います。カスパールさんも述べられましたが、kojitaさんも長い目で見ていただけられたらとお願いします。

さて、本日の記事は間然するところなく趣旨を拝借して議論の基にしようと考えます。

最近、反政府系ブログ界隈で「きまぐれな日々」はなぜか名誉ある孤立現象(?)にあるようで。
そのことへの揶揄も受容されているようで。

ネットウヨクが時の政権との熱い一体感で騒いだ時期もありましたが、民主党あるいは小沢鳩山への賛美運動も似たようなものに思えてなりません。
常に政権と一定の距離を置き、冷静に見つめ批判すべきは批判する評価すべきは評価する、ごく普通の主権者の態度と考えますが、次期政権政治勢力との一体化運動に有名ブログがのめりこむのか不思議です。

これからも名誉ある孤立路線を堅持されると思いますが、そのことをスンバラシイと支持するわたしたちが確かに存在します。

煽りましたかね。

2009.06.19 09:44 URL | ukihunetei_tanakaya #- [ 編集 ]

 臓器移植、っというより、脳死を人の死にすることについて一言。
 医者の世界では、脳死=死がほぼ定説です。しかしこれに抵抗してきたのが法学会で、その一番の根拠は、「脳死から生還した例があり、医師の恣意性で死が決まってしまう」という主張でした。
 この法学会の先頭に立っていたのが、故人になりますが、私の大学時代の恩師の一人でした。
 この方は、母親を、介護の末、医療過誤で失って以来、医師に対する不信が強く、その点からも、人の死に対してもっと真剣に考えるべきだ、という立場でした。
 余談ですが、これも故人の手塚治虫氏は、本人も医学博士でありながら、脳死判定に反対で、名作「ブラック・ジャック」の中で、脳死の母親と、脳を外科的に接続することで、まだ生きていることを確認するという、現実にはできませんが、脳死はまだ死ではない、という作品を描いています。

 法学の世界での死は、さまざまな法律問題を引き起こすので、単に臓器移植を年間10から70に増やすためだけに、脳死=死としてしまうことへの懸念を持っているものです。
 また、悪徳医師による臓器売買の懸念もあります。1件当たり数千万円儲かるなら、魂を売る医者も出るかもしれません。
 以上です。

2009.06.19 09:45 URL | 眠り猫 #2eH89A.o [ 編集 ]

ukihunetei_tanakaya さん
>あのBBS・・・
最近のあなたの真摯な姿勢です。
真摯な人は信頼されます。

2009.06.19 12:09 URL | sarah #RLJMvFJw [ 編集 ]

こんばんは。

僕は、まず臓器移植ありきというスタンスに疑問で、臓器ドナーの命を軽く見てしまうかのような風潮は避けなければならないと痛感しています。
札幌医大の和田心臓移植問題から連綿と続く永遠の医療テーマですが、永遠に正答の出ないテーマであることでしょう。

助けられる命を、どう助けるのか。
やっつけ仕事で法案を成立させた議員先生たちの仕事っぷりが不安でたまりません。

2009.06.19 22:37 URL | 謎のカスパール・ハウザー #- [ 編集 ]

私は今までも臓器移植のために死の定義を変えてしまう事には反対して来ましたし、これからも反対を続けます。

全ての細胞が活動を停止した時を以て死とする…それは私に取っては当然のことであり、臓器移植のために死の定義を変えるのは生命の尊厳に対する冒涜だと思います。

目の瞳孔が開いた後も半日以上も前脚で宙を掻く動作を続けていた猫がいました。この猫は瞳孔が開いた段階で既に死んでいたと言うのでしょうか。

まだ身体が温い脳死段階を以て死とするのは誰もが受け入れられる死の定義とは言えません。死の定義は万人が受け入れられるもので無ければならないと思います。

2009.06.20 00:47 URL | ☆諒 #WYLK6y5k [ 編集 ]

どうも最近のミラー殿下の内容は上滑りの扇動的な物に変わってきている いや元々そうだったのに浅薄な小輩が気付かなかった 『・・・・・・真実』も後半は飽きてしまい流し読みに、いつの間にかランキングも1位になったり ちょっと変ですよね。批評だけで具体的な提言がない気がするのは小輩のアルツハイマー兆候でしょうか?
 辺見庸のエッセィは読みましたけどたいした感動は受けませんでした。 昔から売文の徒な感じしか持ってませんでしたから。

2009.06.20 06:52 URL | ricanikanmuri #- [ 編集 ]

ココログからTBが通りませんので、。
下記アップしました。

雑談日記の読者が減ろうが構わないのだが、他者の死を前提とした治療というのは間違っていると思います。
http://soba.txt-nifty.com/zatudan/2009/06/post-d6e6.html

先進国のリーダーを見渡してみてこれくらい軽い人って他にいるのだろうか?前大統領ブッシュだってこんな軽さは想像もできない。
http://soba.txt-nifty.com/zatudan/2009/06/post-bc5b.html

2009.06.20 17:43 URL | SOBA #XPXthLJ6 [ 編集 ]

脳死は人の死か??心臓死が人の死なのに、死の定義を脳死はゆがめる。
 民主党政権は従米、新自由主義色強いので政権取った時点で私は批判する。
 有権者の自民政治にピリオドの思いが、有権者の選択と違う方向に行く。兆候はすでにある。
 古賀が、そのまんま東に総務大臣の話を持ち込んだら、東は慎重に考えるとコメントした。
 東、森田、橋下らタレント知事は落ち目の自民党から、勝ち馬の民主党にエールを送る。浅ましい事だ。
 その手の秋波は官僚達も財界も模様眺めて送るだろう。
 アメリカも従米政治を続ける。アメリカからの自立を口にする小沢切りなら、民主党政権OKのサイン送り、自民党を切り捨てるだろう。
 それに有権者が歯止めかける術はあるのか??

2009.06.22 12:59 URL | ぶじこれきにん #U9m.xr6A [ 編集 ]

日刊ゲンダイを読んでいたら、原田というアナリストが、アメリカがデフォルト(国家債務不履行)を7月末に宣言すると言う事だ。
 これをオバマ政権がアメリカ経済立て直しのために荒療治すれば、アメリカの国債を買っている日本は暴落した紙くずの処理に負われて、想定しない事態に自公政権右往左往してやけくそ解散。
 国民の不信が頂点に達してしまい、検察も小沢事件捜査中断、自民分解惨敗、民主党圧勝になる。
 アメリカ発の大混乱が世界を直撃、日本も巻き込まれる。その日は近づく。
 パックスアメリカーナが終わる。
従米自公も民主も予測不能のシナリオに無い事態に右往左往する。政界、経済界、官界混乱の事態が迫っている。
 マスゴミも予測不能、既存の常識で対処できない事態に苦慮する。

2009.06.22 16:19 URL | ぶじこれきにん #U9m.xr6A [ 編集 ]













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