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きまぐれな日々

かつて、「東京に三代住むと白痴になる」と放言して批判を浴びたのは、香川県西部の農家に生まれた保守本流の元総理大臣、大平正芳(1910-1980)である。当ブログはこの言葉を、一昨年の参院選直前に、当時総理大臣だった安倍晋三を批判したエントリ「能力なき安倍晋三は政権を去れ」(2007年7月10日付)で引用した。

安倍は参院選で「歴史的惨敗」を喫しながら政権に固執したが、結局体調を崩したこともあって一昨年9月に政権を投げ出した。だが、その後も福田康夫、麻生太郎と総理大臣の息子や孫が政権の座についた。野党第一党の民主党も、先月「鳩山一郎の孫」である鳩山由紀夫が代表に返り咲いた。

その鳩山由紀夫の弟・鳩山邦夫は、総選挙での劣勢を伝えられていたため、「かんぽの宿」売却問題や日本郵政の社長人事問題を利用して、徹底的な売名パフォーマンスを繰り広げた。首相の麻生太郎は、盟友だった鳩山邦夫の処分決定が遅れて指導力のなさを露呈し、大きく支持率を下げた。そうなると、いよいよ鳩山由紀夫が総選挙勝利後総理大臣に就任する公算が大きいかと思われた。

しかし、その鳩山由紀夫がとんでもない失言をやらかしてしまった。毎日新聞が報じている。
http://mainichi.jp/select/today/news/20090617k0000m010105000c.html

鳩山代表:「連立解消」発言に社民、国民新が反発

2009年6月16日 21時26分 更新:6月16日 23時6分

 民主党の鳩山由紀夫代表がFMラジオ番組で、政権交代後の話として、来年の参院選後に社民、国民新両党との連立政権を解消し、単独政権を目指す姿勢を示した発言に16日、両党が反発した。国民新党は同日予定していた次期衆院選の民主党候補予定者約60人への推薦発表を見送った。

 鳩山氏の発言は連立について「参院選で民主党が単独過半数を取れば消えていくと思う」というもの。

 社民党の日森文尋国対委員長は野党国対委員長会談で「(社民党は)さしみのつまじゃない。党首が言うべき発言ではない」と山岡賢次民主党国対委員長に抗議した。

 国民新党の亀井静香代表代行は鳩山氏ら民主党幹部などとの会談で「1年後の離婚を前提に結婚するわけがない」と推薦見送りを通告した。

 鳩山氏は16日の記者会見で「言葉足らずの中で誤解を与えた。本意を理解していただくべく努力する」と語った。【田中成之】


鳩山由紀夫は、麻生太郎内閣の支持率急落を伝える報道に舞い上がって、つい軽口を叩いてしまったとしか思えない。政権交代を狙う党首とは信じられないほどの軽さである。いくら、「担ぐみこしは軽くてパーがいい」という小沢一郎の勝手な都合で選ばれた党首とはいえ、この軽率さでは、民主党は勝てる選挙も勝てなくなってしまうし、それより何より、ともすれば新自由主義への回帰を見せがちな民主党のブレーキ役を国民新党と社民党に期待している私としては絶対に見逃せない発言だ。ただちに民主党候補予定者の推薦見送りを民主党に通告した国民新党の亀井静香はさすがだと思うが、社民党の反応はいまいち鈍い。ここですかさず民主党が持ち出そうとしている衆議院の比例区定数削減問題を蒸し返して、今回の鳩山発言の撤回と合わせて、この2件で民主党が誠意を見せない限り連立は組まないと強硬な姿勢で臨むべきである。

それにしても、安倍晋三だけではなく、麻生太郎、鳩山邦夫、鳩山由紀夫ら「総理大臣の孫」たちはなぜかくも揃いも揃ってわがままで、かつ発言が軽いのだろうか。やはり讃岐の農家で苦労した大平正芳の言葉は正しかったのではないかとつい思ってしまう。

ところで、あまり民主党や鳩山由紀夫の悪口ばかりではなんなので、私が鳩山由紀夫に唯一期待していることを挙げておこう。それは、彼が工学部出身(東大工学部計数工学科)であることだ。同じ東大でも、弟の鳩山邦夫は法学部出身で、だから政界入りも邦夫の方がずっと早かったし、そのせいか腐敗ぶりも邦夫の方がひどい(笑)。実は鳩山由紀夫が理系であることなどすっかり忘れていたのだが、先日の温室ガス削減中間目標で、麻生太郎首相が1990年比8%削減を打ち出した時、90年比25%削減を公約に掲げる民主党の鳩山代表は、「技術立国日本がそんな低い目標で良いのか」とこれを批判したのだ。その口調から、ああ、そういえばこの人は工学部出身だったなと思い出した次第だ。私はこれを、NHKかテレビ朝日のどちらか忘れたが、テレビのニュース番組で見た。ニュースでは、それに続いて共産党の志位和夫委員長もこの中間目標を批判していたが、面白いことに志位氏もまた東大工学部(物理工学科)卒である。両党の大物ではほかに、民主党の菅直人代表代行が東工大理学部、共産党の不破哲三前委員長が東大理学部をそれぞれ卒業している。

政党の性格からいうと、大まかに言って民主党はやせ細った中間層を再建することを狙っており、2006年に小沢一郎が打ち出した「国民の生活が第一」というスローガンも、その観点でとらえる必要があろうかと思う。小沢一郎が方向転換する以前の民主党は、コイズミ自民党と「カイカクを競う」新自由主義的方向性をとってきたが、格差が拡大して中間層がやせ細ってしまい、カイカク競争に敗れて郵政総選挙で惨敗を喫した民主党にとっては、「国民生活第一」を掲げるほか党再建への道がなかったというのが本当のところだろう。だが、政治は結果がすべてだから、方便による方向転換であってもかまわないのである。もちろん、今でもカイカク競争を指向する政治家は民主党には結構いる。鳩山由紀夫はどうかというと、彼はそんなに強い政治的信念は持っていないと思う。ただ一つだけ期待するのが、彼の工学部的感覚である。

一方の共産党は、いうまでもなく弱者のための政党である。民主党対共産党の対立の構図は、私にはかつての自民党対社会党の対立の構図を思い出させる。自民党は、社会党の主張を取り入れた修正資本主義の政策をとることによって、長く政権の座を守ったし、国民にもある程度の福利厚生がもたらされた。その自民党は中曽根康弘内閣(1982?87年)以降、徐々に国民政党としての性格を薄めて、財界や富裕層だけのための新自由主義政党に変質していき、一気にそれに純化しようとしたのが小泉純一郎内閣(2001?06年)だった。その結果、格差社会が出現し、政官業癒着構造による政治の腐敗が悪化した。だから自民党はもう歴史的役割を終えた政党として退場してもらうしかないのである。今自民党にいる一部の者たち、たとえば中川秀直らが新自由主義政党を、安倍晋三らが極右政党をそれぞれ結成して(平沼一派は後者に合流)、細々と右側の野党として生き延びてもらえばよい。そして、保守政党である民主党を左から厳しくチェックする役割は、主に共産党に果たしてもらわなければならない(社民党と国民新党は、連立政権内で民主党がネオリベに回帰するのを阻む役割である)。そのためには、民主党が進めようとしている比例区定数削減は、なんとしても阻止しなければならない。

その一方で、グリーンニューディールに関しては、ともに工学部出身者を党首にいただく民主党と共産党は手を組めるのではないかと思うのである。ここでいうグリーンニューディールの肝は、原子力発電ではなく、自然エネルギー(再生可能エネルギー)である(注)。ここに技術立国・日本の活路を見出そうとする選択肢は、もっと真剣に論じられるべきだろう。ここでも自民党は論外であり、自民党が今国会に提出を予定している「低炭素社会づくり推進基本法案」(仮称)の党内手続きの過程で自動車業界の要望を受け入れ、原案にあった自動車に温室効果ガス排出基準を設ける文言を全面削除したことを、「しんぶん赤旗」が報じている。

マスコミ界で面白いのは、読売新聞と産経新聞が自民党や経団連の意に沿って、温室ガス削減に積極的な目標を打ち出すことにいたって否定的であるのに対し、日本経済新聞が毎日新聞と並んでもっとも積極的なことだ。朝日新聞と東京新聞はその中間だが、日経・毎日寄りである。この分析は、毎日新聞の「社説ウォッチング」による。この日経の論調について、さる保守系の有名ブログは、「日経にも経済がわかっていない記者がいる」と冷淡に切り捨てていたが、果たしてそうだろうか。技術立国とうたわれた日本の競争力を確保するには、この分野への注力が不可欠なのではないだろうか。何より、アメリカがその方向へと舵を切っている。自民党や経団連、読売・産経両紙などは、今支配層にとって楽な選択肢を安易に選んでいるだけのように、私には思われる。それに対して日経は、必ずしも「エコ」の時流に乗ろうとしているにとどまらず、この分野での技術革新が、今後の財界にも利益をもたらすと展望しているのではないか。つまり、経団連は財界の今しか見ていないのに対し、日経は財界の未来を見ているというわけだ。経団連のえらいさんより日経の記者の方が若いことにも注意したい。そして、読売はジジイのナベツネが社論を仕切っているので、未来など見据えるはずもないし、産経は何でもかんでも自民党に尻尾を振るだけの「媚権」の新聞に過ぎない。

残念なのは左右の「地球温暖化陰謀論」(右は池田信夫)にすっかり汚染されてしまったネット言論であって、日曜日にTBSで寺島実郎や金子勝が真剣に語る言葉と比較する時、その貧困さは目を覆うばかりである。いつも書くように、ネットだけ見ていたのでは本当のことはわからないと思う次第である。

(注) 既に北欧では70年代に原発に関する国民的議論がなされ、80年代には原発志向から脱却して自然エネルギーへの注力に舵を切った。


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確かにおっしゃる通りですね。

理系であることはかなり大きいと思います。こういう鳩山由紀夫率いる民主党だからこそ、国民新党・社民党はきちんとアシスト・フォローし、場合によっては厳しく批判・苦言を呈することをしてもらいたいものです。

そして共産党は健全なよき野党として一定の勢力を維持して欲しいです。自民党は右派・保守派に特化して新自由主義、極右政党として生き延びればよいと言うのも私と一緒ですね。

2009.06.17 07:50 URL | ゴルゴ十三 #DTxGwd9Y [ 編集 ]

せっちー
「まったく鳩はのぼせると思ったら案の定やってくれた。
一発肘鉄食らわすのは当然だ!
みずほもグズグズしてるから尻を叩いてやらないと・・・ってやったらセクハラだなw
理系でいうと広島市長の秋葉君も東大の理系だったな。
って過去に理系政治家を賛美していたのが毎日の岩見爺だったのはアレだがw」

2009.06.17 09:37 URL | 観潮楼 #- [ 編集 ]

観潮楼さん、いつも気のきいたコメントをありがとうございます。にやにやしながら拝読いたしております。

岩見隆夫と気が合ってしまったのは確かにアレですが(私は知りませんでした :-p)、中国の要人は軒並み理系出身者で占められているという有名な話もありますね。

2009.06.17 10:24 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

未来の政権の組み合わせの理想像としては共産党がチェックし、平沼や安部などの極右が細々といる程度に抑えられれば理想的だ。 だが現実には右の勢力はかなり強固なのではないだろうか。細々どころかかなりの割合いるのではないかと危惧する。つまりここ十数年でリベラル的な人が考える中間より現実には中間のラインがかなり右になってしまったのではないかと危惧している。私の個人的な感覚ではいまや数的な問題では安部や平沼は極右ではなく単なる右に分類されるようになってしまったように思える。
 日本の政治の右傾化はかなり深刻だ。何とかしてそれに歯止めをかけたいが厳しい状態だ。欧州などでも失業者が増えるとその支持が共産党や社民ではなく極右に流れることが良くある。ただ日本では安部などの極右が新自由主義の絡まっていたところでは助かった感がある。問題は保護主義的であり弱者にばら撒く極右が出てきた場合その勢力はかなりのものになるように思える。海外の例を見ても今共産党に流れている格差の支持はそうした極右に流れるのではないかと思う。

2009.06.17 10:31 URL | 政権交代を望むものとして #- [ 編集 ]

「政権交代を望むものとして」さん、コメントどうもありがとうございます。

> だが現実には右の勢力はかなり強固なのではないだろうか。細々どころかかなりの割合いるのではないかと危惧する。

この危惧は、実は私も持っています。しかし、一昨年の参院選は、恐れていたほど彼らが広い支持を得ていないことを示したと思います。ただ、その要因として、ご指摘のように、

> 安倍などの極右が新自由主義に絡まっていた

ことに助けられた面が大きいですね。

> 問題は保護主義的であり弱者にばら撒く極右が出てきた場合その勢力はかなりのものになるように思える。

というのは、私ももっとも危惧するところであって、現に平沼の一番弟子である城内実にはそういう方向性があります。そして、城内の支持者たちは、城内を「左」から新自由主義に反対している勢力と接近させようと骨を折っています。これは、ナチスの台頭と同じパターンであって、だから私はどんなに嫌われようがしつこく城内実を批判し続けています。残念なことに、ネットで反自公を標榜する人たちの司令塔的存在である某氏のブログや、1日のアクセス数が2万件を超える、元「リベラル」系だった掲示板は、城内実にたいへん親和的です。

2009.06.17 10:43 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

私は民主党政権になったら、監視すべきだろう。①改憲派が多い。②党首が世襲議員だから。③民主党のドン小沢も岡田も消費税アップ、自衛隊派兵賛成派である。④民主党自体が新自由主義政党で、労働者派遣法賛成である。
 最も民主党政権になれば自民党議員も保守政党作り、連立組み、大政翼賛会的政権が出来るか???どっちにしても日本の政治は岐路人たたされている。
 千葉市長になった民主党候補もHPを見ると臨時雇用(官製ワーキングプア)を増やすというし・・・・民主党政権になれば派遣労働の人はしわ寄せが行く。

2009.06.17 21:05 URL | ぶじこれきにん #U9m.xr6A [ 編集 ]

右傾化はマスコミの責任でもありますね。
マスコミ自身が嫌われていることを
すっかり忘れて、論理的な政府批判が
出来なければ、単純に反発して「右」に
なってしまいます。

「真に恐れるべきは有能な敵ではなく、
無能な味方である」とはナポレオンの
言葉ですが、マスコミの的外れな政府批判
を見るたびにそう思います。

2009.06.17 22:42 URL | orsted #HQKNLblM [ 編集 ]

鳩山由紀夫氏の
「参院選で民主党が単独過半数を取れば消えていくと思う」
との発言は、鳩山氏自身の慢心から来たものでしょう。
民主党議員の多くも、「本音」では同じことを思っていると思います。

ソースが産経新聞なので眉唾かもしれませんが、岡田副代表(当時)も2月にこう言っています。
「来年の参院選で単独過半数をとれば、そこから本格的な民主党政治が始まる」
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/090302/stt0903020008000-n2.htm

まともなリーダーであれば、部下の慢心を察知してそれを諌めるものです。
加えて、今回の発言は連立相手と見込んでいる社民党と国民新党を愚弄するものですから、両党から大反発を受けて当然です。

鳩山氏はそれを受けて、早速釈明
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20090617AT3S1602716062009.html
しているようですが、今後もこの手の軽率な発言は少なからず飛び出してくる気がします。

「理系」について。
理系出身である鳩山氏に私が求めたいのは、
「日本を技術立国と位置付けるのであれば、今後も技術立国であるための必要条件、すなわち、優秀な技術者を養成していくために、『理数系離れ』が叫ばれて久しい教育現場に問題はあるのかないのか。問題があるとするならば、どのように変えていけばよいのか」を示して欲しい、ということです。

東大出身であることをことさら持ち上げるつもりはありませんが、鳩山氏の同級生には技術畑に進んで、まさに「技術立国日本」を支えている人もいることでしょう。そのような人材をコンスタントに輩出していくためにはどうすればよいか。
簡単に答えの出る問題ではありませんが、かといって放置すれば日本の先行きが暗くなることは間違いありません。
鳩山氏なりのビジョンを示すことができれば、かなりのアピールになると思います。

2009.06.18 01:10 URL | sweden1901 #SVqLzQOU [ 編集 ]













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