どういうわけか「自エンド」界隈では、日本郵政の社長人事をめぐってもうすぐ自滅する自民党の内紛の記事ばかりが目立ち、環境・エネルギー問題は不人気どころか、筋の悪い「地球温暖化陰謀論」なるトンデモを掲げて池田信夫(笑)と共闘しているありさまだが、「大津留公彦のブログ2」が「8%削減を15%と言う方法」と題したエントリで中期目標の件を取り上げている。その冒頭部分を引用する。
8%削減を15%と言う方法があった。
今日発表された政府の環境に関する2020年までの中期目標の数値の基準年がこれまでの1990年から2005年に変更された。
欧州の基準年は1990年だがアメリカは2005年でアメリカに合わせた格好となる。
日本は地球温暖化をどんどん進めている国なので基準年をどんどん後ろにずらせば改善率はどんどん高くなる。
この2005年基準の数値は当初14%と予定されていたが今の20倍にする予定の太陽光発電(前倒しして年内に電力会社の買い取り価格を二倍化する)による削減分で1%上積みし15%とした模様。
(「大津留公彦のブログ2」 2008年6月10日付 「8%削減を15%と言う方法」より)
大津留さんが指摘する通り、この「2005年基準」はアメリカに歩調を合わせたもので、相変わらずの対米従属ぶりだが、対米従属ならまだましで、日本の環境・エネルギー政策はアメリカよりはるかに悪く、報道で知られているように、オバマ大統領はグリーンニューディール政策に熱心だし、それどころか悪名高いブッシュ前大統領でさえ、任期後半には就任当初とはスタンスを変え、環境・エネルギー政策に目を向け始めていた。これに関しては、以前のエントリで紹介したことのある金子勝とアンドリュー・デウィットの共著『環境・エネルギー革命』(アスペクト、2007年)が詳しい。
前記「大津留公彦のブログ2」にも、下記の佐和隆光・立命館大教授のコメントが紹介されている。
20年に人口が90年比33.4%増になるアメリカの中期目標は「1人当たりの温室効果ガス排出量を90年比25%削減することを意味する。人口が横ばいの日本の90年比25%削減の目標と同等だ」
ところが、朝日新聞の報道ぶりはどうだろう。昨夜のテレビでは、民主党の鳩山由紀夫代表と共産党の志位和夫委員長がともに麻生首相が打ち出した中期目標を厳しく批判するコメントを発していたが、それは紙面には掲載されておらず、わずかに2面の下の方に、下記のような記述がある。
今秋までに実施される衆院選で政権交代があれば、日本のスタンスは大きく変わりかねない。民主党は90年比で25%削減を主張しているためだ。党地球温暖化対策本部の福山哲郎事務総長は10日、政府の目標を「国際社会を失望させる。この数字では、温暖化対策と経済成長の両立の政治的意志を国際社会に伝えられない」と厳しく批判した。
(朝日新聞 2009年6月11日付2面より)
共産党や他の野党のコメントは、全く掲載されていない。その一方で、「政策面」と銘打たれた7面には、「家庭にしわ寄せ」という大見出しで、2020年に温室効果ガスを90年比8%減にすると、現在の削減努力を続けるだけのケースと比べて家庭の可処分所得が年間4万3千円減り、逆に光熱費は年間3万6千円増え、実質的な負担増は月当たりで6千円以上になると書かれているが、これは記事にも明記されているように、政府の試算をそのまま紙面に載せたものだ。この面の記事は、経団連の意向に沿ったものに近いが、その中に、
とさりげなく指摘していたりする。実際、太陽光発電のほか、リチウムイオン電池の技術においては日本は世界をリードしており、その技術を適用できる電気自動車に関連する業界には、商機を期待するむきもある。しかし、電力や鉄鋼業界にとっては大きな不利益になるので、これらの業界、労組や経団連、それに彼らと結託した経済産業省が温室ガス削減政策に強硬に抵抗しているのが実情なのである。ただ、今回の中期目標の前提は多くが家庭の負担増で、特に産業界に厳しいわけではない。
この腐れ朝日の報道と比較すると、「日経エコロミー」というサイトを開設している日経のほうがまだましで、当ブログは特に飯田哲也氏のコラム「飯田哲也のエネルギー・フロネシスを求めて」を推薦する。最新の6月1日付「自然エネルギー普及のカギ、「FIT」制度への改善提言」では、当ブログ5月22日付エントリ「エネルギー政策を骨抜きにする経産省と、無策の麻生首相」でも紹介した、週刊「エコノミスト」5月26日号掲載の飯田氏の記事とほぼ同内容のコラムを読むことができる。
最後に、私が最も注目しているのは民主党の政策で、朝日の記事にもあるように、民主党は「温暖化対策と経済成長の両立の政治的意志を国際社会に伝え」るべく、90年比温室ガスの25%削減を主張している。これは、経団連とは真っ向から対立する政策である。政権交代が起きたって、どうせ民主党も自民党同様の、経団連に支配された政治を行うに決まっているとする見方もあるが、本当にそうかどうか、環境・エネルギー政策の進め方は絶好の監視材料になるだろう。世の民主党支持ブログも、もっとこういった点を積極的にアピールすればよいのにと思うが、一部ブログに引っ張られてか、もう国民からは見放されている自民党内の、日本郵政の社長人事をめぐるどうでもよい内紛のことばかり書いている。郵政民営化を「唯一の争点」に誘導されてしまった4年前の「郵政総選挙」において、郵政民営化をめぐる自民党の「カイカク派」と「抵抗勢力」の争い、ことに「刺客作戦」にばかり人々の関心が集まり、民主党以下の野党が関心の埒外に去って、自民党圧勝の選挙結果になったことを彼らは忘れたのだろうか。彼らは、「官僚支配からの脱却」などのお題目は熱心に唱えるが、その具体的な内容は何一つ書かない。官僚支配の悪弊を指摘するための恰好の具体例の一つが環境・エネルギー政策であり、それは上記の飯田哲也氏のコラムを読めばよく理解できるし、理論武装もできることを指摘しておきたい。
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日本と諸外国を同一に考えるのはおかしいでしょう。日本はエネルギー効率世界一です。実にアメリカの2倍、中国の7倍、欧州の1.4倍効率がいいのです。あまり大きな目標を立てると経済に打撃があるとも考えられる一方、新たなビジネスチャンスと見て新規起業で活性化もするでしょうし何とも言えません。ただ、1990年を起点にするべきです。2005年だと京都議定書はなんだったんだ?ということになってしまいます。不参加だったアメリカには2005年の方が好都合なんでしょうが。
2009.06.11 12:20 URL | 資本主義者 #- [ 編集 ]
郵政民営化問題はどうでもいいことではないでしょう。
西川社長を支えているのは、ご存じの通り、奥田や牛尾、丹羽といった経団連の面々です。さらには、ゴールドマンサックス、メリルリンチなど、米国大資本。それらが手兵の小泉や竹中、マスコミを使って無理筋を通そうとしているのです。
CO2削減目標と言っても、それこそ米国が本気で電気自動車普及をすれば、すぐに日米ともに達成できるでしょう。米国が主な消費地のトヨタも、ハイブリッドどころか、電気自動車に今日からすぐシフトです。電気自動車は、ハイブリッドよりはるかにエネルギー効率がいいらしいですよ。
しかしそこに立ちはだかるのは石油利権です。
結局、新技術も大切ですが、それより利権・策略・政治力・軍事力が世界を動かしているのです。そういったドロドロした欲が障害になっているのは郵政問題も、地球温暖化問題も同じだと思いますね。
ちなみに私も、温暖化陰謀論を棄てきれませんが、エネルギー節約や大気汚染削減に役立つなら、CO2削減を追究するのは悪いこととは思いません。ただ、排出権取引には大反対ですが。
2009.06.11 13:17 URL | cube #- [ 編集 ]
日本のエネルギー効率が世界一というのは見せかけです。
確かに、GDP当りのエネルギー消費量や1人あたりのエネルギー消費量は日本は先進国の中では少ないです。しかし、それは家庭と運輸部門でのエネルギー消費が少ないから全体として少ないように見えるのです。
特に太平洋ベルト地帯など人口集中地帯は温暖な地域なので、暖房エネルギー消費が欧州に比べて極端に少ないこと。また狭い地域に人口が密集しているために輸送エネルギーが少なくてすむ。こういった理由で日本のエネルギー効率は比較的高いとされているのです。
他方で、製造業など産業のエネルギー効率(鉱工業生産指数当たりのエネルギー消費量)について、日本は1990年を境に悪化し続けています。つまりこの20年間産業はずっとエネルギー効率が下がっているのです。また、日本は無駄な公共事業が多いため、これにかかるエネルギー消費量も他国に比べると多いといわれています。
2009.06.11 14:24 URL | ちゃこ #PefwKnF. [ 編集 ]
>>cubeさん
大資本はつまりユダヤ金融資本ですね。例えば、アメリカFRBの株式の過半数はユダヤ金融資本が持っています。だから、ドルを刷りまくる政策をする。なぜなら、それによりFRB株主であるユダヤ金融資本が儲かるから。新自由主義を語る上でユダヤ金融資本を語らずは有り得ないですよね。排出権取引、私も反対。これもユダヤ金融資本が絡んでいるのでは?この辺りも貴ブログで取り上げたら面白いと思います。
2009.06.11 14:41 URL | 資本主義者 #- [ 編集 ]
newsingに投稿させていただきました。
ttp://newsing.jp/entry?url=caprice.blog63.fc2.com%2Fblog-entry-926.html
2009.06.11 15:37 URL | ursaemajpris #dDasgHZQ [ 編集 ]
確かに郵政の悶着は与党の失点ですが、注目がそちらに集まり民主は忘れられてるような。
鳩山弟の党内立場が必ずしも良くないとは言え、あの彼が国民から点数を稼いでいるような部分も見られるのは困ったものですし。
話は違いますが時事報道によると、総理は都議選応援の場で自民候補の息子に、
「おまえが跡継ぐのか。世襲頑張れ。親の跡継いで悪いことは何もない」と抜かしたとか。
さすが「国民の最大関心は西松」とか国会で言ってのける御仁ですね、自身の価値観以外は何も眼に入らない。
あれだけ世襲議員が批判されている渦中なのは百も承知のはずが・・・。
まあ、家柄だけで首相に上り詰めた身としては、世襲否定というのは全存在を否定されるようなもんでしょうか。
2009.06.11 21:57 URL | Gl17 #EBUSheBA [ 編集 ]
飯田哲也氏のコラム、拝読しました。
経産省がなぜ、これまで無視してきたFITを突然導入しようとしているのか、その背景がよく理解できました。
経産省の省益、そして財界とのしがらみを最大限考慮したやり方なのでしょう。
自民党政権のままでは、世界との差が広がる一方だと思います。洞爺湖サミットで福田首相は、彼なりに頑張ったのだと思いますが、「サミットに名を残すためなら何でもよかった」程度の意気込みしか感じられませんでした。
そんな付け焼き刃的な取り組みでは、結局飯田氏のコラムにあるように、簡単に枠組みが崩壊してしまうような政策しか打ち出せません。
民主党など野党は、経産省の方針転換をうまく利用して、世界の潮流に少しでも早く追いつけるように努力を続けないといけないのでしょう。
>世の民主党支持ブログも、もっとこういった点を積極的にアピールすればよいのにと思うが、一部ブログに引っ張られてか、もう国民からは見放されている自民党内の、日本郵政の社長人事をめぐるどうでもよい内紛のことばかり書いている。
とおっしゃるkojitakenさんに対して、
>郵政民営化問題はどうでもいいことではないでしょう。
とお書きになっているcubeさんへ。
私は次のように感じました。
郵政民営化の負の側面が露呈した以上、かんぽの宿を大安売りを主導した西川社長が辞めることは当然で議論の余地はありません。西川社長続投に反対を唱えている鳩山総務相は、小泉・竹中カイカク路線からの決別をしたい麻生首相の意向を汲んでいることも当然のことです。
麻生首相は、解散・総選挙を一番「自分に」都合の良いタイミングで行うために、ある次点(たとえば6/29の日本郵政の株主総会)で、
・「西川社長の辞任を求め、鳩山総務相の留任を決定」して内閣支持率アップを図り解散。
あるいは、
・「西川社長の辞任を求め、内閣改造を行い、結果として鳩山総務相をやめさせる形で両者相討ちの形で決着」して、支持率アップと自民党内の小泉シンパの顔を立てる形を取った上で解散。
というようなことを考えているのでしょう。
どちらにしても、郵政民営化の是非をめぐる自民党内の動きに注目を集めさせ、野党のメディア露出を相対的に抑えることで、衆院選勝利を目指しているのだろうから、そんな姑息な戦略に乗せられるのはやめよう、
ということをkojitakenさんはおっしゃっているのではないかと感じました。(的外れでしたら済みません)
私もまったく同感です。
西川社長を辞めさせられなかったら、完全に自民党への逆風が強まります。
もし辞めさせられたとしても、それが当然なのですから、麻生首相のリーダーシップがもてはやされることはあり得ません。(マスコミはやりかねませんが)
ですから私もkojitakenさんと同様、この件は「どうでもよい内紛」と認識しています。
ここまで書いて、たまたま城内実氏のblogを読んでみたら、案の定、この件で麻生首相がいずれ下す結論が世論の支持を得るだろうというような予想を書いていて、笑ってしまいました。
それにしても彼のblogにはまだあの醜悪で唾棄すべきエントリーが削除されずに残してあることがわかりビックリしました。あういうことを書いてblogで公開するような人間についてコメントするのもバカバカしいですが、次期総選挙で当選して欲しくない候補者の筆頭です。
2009.06.12 00:12 URL | sweden1901 #SVqLzQOU [ 編集 ]
よそのブログを話題に出して申し訳ありませんが、
06/11付けの「きっこのブログ」記事(http://app.m-cocolog.jp/t/typecast/81533/76405/58462033)によると、
日本は今回の温室効果ガスの中期目標で『今日の化石賞』の世界第2位をもらったそうですね。
これはドイツで行われた環境非政府組織(NGO)の会合で、地球温暖化対策に消極的な国に与えられる賞で、
1位のロシアは賞決定時点で中期目標を打ち出しておらず、
つまり日本は事実上、中期目標を出した国の中で最悪の数字を叩き出した、実質『地球温暖化対策消極的国家、No.1』と世界に認識されたわけです。
数字を用いたあれこれの説明はよくわかりませんが、
こういう形での日本への世界の評価を出してくれると実にわかりやすく、
政府麻生がいかに地球温暖化対策に消極的かつ財界にリーダーシップを取れない姿勢なのか、
自民党政治が世界の向かう方向性から取り残されていく一方の、鈍い国際感覚しか持ちあわせない「間抜け」であるのか、
私的によく納得できた次第であります。
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