きまぐれな日々

しばらく前に、福永文夫著『大平正芳―「戦後保守」とは何か』(中公新書、2008年)を、麻生太郎首相が読んでいると報じられた。大平正芳は、香川県出身ということもあって、大平について書かれた本は、香川県の本屋では比較的目立つ場所に置かれることが多い。そこで、この本を買って読んでみた。

「保守本流」のイメージとは異なり、大平正芳は「小さな政府」論者だった。私は、30年前の首相在任時に大平が「小さな政府」論を唱えていたことをおぼろげに覚えていたので、サッチャー登場前夜の経済思想に影響されていたのかとずっと思っていたのだが、そうではなく大平の「小さな政府」論はもっと若い頃からのもので、讃岐の農家で苦学して出世した経験からきているもののようだ。それは、大平が「小さな政府」論を当初「安くつく政府」と言っていたことからも伺われる。当時の高度経済成長時代には、既に官僚支配の政治からの脱却が政治の課題になっていた。現在民主党が言っているような「無駄を省く」ことを当時やっていれば、本当なら積極財政が求められる現在のような状況で、サービスの縮小も招きかねない「無駄を省く」議論がなされることはなかった。つまり、60年代から70年代当時であれば、「小さな政府」論にもそれなりの理があったと思われる。だが、大平の盟友だった田中角栄は、もちろん積極財政を実行した人間で、公共事業にも社会保障にも金を使った。1973年を「福祉元年」と定めて、老人医療費の無料化、健保改正による家族給付忌避上げ、厚生年金引き上げなどの施策を実施した。田中角栄には、開発独裁の次の段階は福祉国家への道だというビジョンがあったのだろうと思う。しかし、日本が福祉国家への道を目指し始めたとたん、石油ショックに見舞われ、結局日本が福祉国家になることはなかった。結局、「中負担低福祉」の国になってしまい、貧困層が急激に増えている今でも、政官業癒着構造はそのままである。民主党も、このところ官僚批判をしきりに行うが、財界批判はほとんどしない。そんなことでは、安倍晋三の「公務員制度カイカク」とどこが違うのかと思ってしまう。一昨年の参院選前に安倍の「公務員カイカク」を絶賛し、「小沢一郎は『小沢自治労』だ」と罵っていた評論家の屋山太郎は、現在では渡辺喜美を支持しており、小沢一郎を擁護する側に回っている。これは、民主党の「官僚叩き」が権力にとって(というか財界にとって)無害化していることを意味しないか。菅直人は昔から「政官業癒着構造」を批判していたものだが、いつの間にか民主党の批判から「業」が抜け落ちている気がしなくもない。

話を70年代に戻すと、保革伯仲時、自民党最左派の三木武夫が「保革連立」を模索したことがあったが、1974年の田中角栄退陣の時、椎名悦三郎の裁定によって三木を首相にしたのは、三木派が自民党を離党して、野党との連立政権を作るのを阻止する狙いもあったのだという。この当時から、自民党というのは政権維持を目的としてくっついている政党だったんだなと感心した次第だ。

ところで、首相を歴任した大平正芳、田中角栄、三木武夫、それに福田赳夫も中曽根康弘もみな非世襲の政治家たちだったが、だからといって当時の自民党に世襲議員が少なかったわけではない。1968年産の生産者米価をめぐって、自民党総務会で田村元、田村良平の両総務が、当時政調会長を務めていた大平は大蔵省のエリート官僚出であって、農民の生活など知らないからこんな低い米価が問題になるのだ、大平は辞職せよと批判したことがあった。それに対し大平は、自分は讃岐の貧農の倅であり、家の農業を手伝いながら苦学した。父が自民党の代議士で裕福な家庭に育った両総務に、農業を知らないと言われるのは心外だと反論したという。

だが、当時の自民党は二世議員よりも大平正芳ら実力のある非世襲議員が出世する政党だった。それが変わってきたのは竹下登、宮沢喜一、安倍晋太郎の「ニューリーダー」の頃からである。竹下登の父は、島根県会議員、掛合村長を務めた地方政治家だったから、竹下は「二世議員」には当たらないが、田中角栄や大平正芳のような叩き上げでもない。宮沢喜一の父は、戦時中に鉄道政務次官を務め、敗戦で公職追放された後、復帰して自由党から立候補するも落選した。事実上の二世議員といえる。安倍晋太郎の父は、当ブログでも以前、「安倍のもう一人の祖父は「平和主義者」だった」(2006年7月30日付)で取り上げた安倍寛である。二世議員だが、父は戦争に反対した気骨の政治家だった。安倍晋太郎は生前、「岸信介の娘婿」と呼ばれるのを嫌い、「俺は安倍寛の息子だ」と言っていたという。この三人は、世襲と非世襲の間のグレーゾーンにいた、いずれも実力を持った政治家だったといえる。

問題は、橋本龍太郎以降である。橋本龍太郎、小渕恵三、小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎と、途中に地方政治家の家系に生まれた、一応非世襲の森喜朗を挟んだ世襲政治家の首相たちは、あとになるほど質が落ちてきている印象がある(実際に最低最悪だったのは安倍晋三だと思うが)。私は、前記福永文夫著『大平正芳―「戦後保守」とは何か』に書かれた、大平正芳が田村元、田村良平の両世襲議員の批判に反論したくだりを麻生太郎が読んでどう思ったのか興味があるが、たぶん「親の代から25年も空いて議員になった俺には関係ない話だ」とでも思ったのだろう。

それにしても、仮に今度の総選挙で政権交代が起きても、総理大臣が「吉田茂の孫」から「鳩山一郎の孫」に代わるに過ぎないとは、ちょっと信じられない話だ。気が早いが、来年の民主党代表選では、党員やサポーターの意見を反映させた公明正大なプロセスで、次代の日本を担うリーダーを選んでほしいものだと思う。


PS

そういえばコイズミが世襲批判に反論したらしいね。書くの忘れてた(笑)。ま、コイズミや進次郎の批判は別途やります。


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昨日の「日刊ゲンダイ」にこんな記事がありました。

「藤井裕久最高顧問は別格として、財務省出身の(民主党)国会議員は衆院に6人いる。調べてみると、鳩山氏支持は北神圭朗議員(比例近畿)だけ。残り5議員のうち、平岡秀夫(山口2区)、大串博志(比例九州)の両議員は岡田氏の推薦人に名を連ね、田村謙治議員(比例東海)も「明確」な岡田支持だった。
 残る古川元久議員(愛知2区)、和田隆志議員(比例中国)は態度を明らかにしていないが、古川氏は前原元代表や仙石由人氏らがいる凌雲会のメンバー。和田氏はブログで「カネの力で動く政治がこれ以上続いてはならない」とヤンワリ小沢路線を否定していた。…」

 平岡氏はもう一つ、菅直人、江田五月氏など旧社民連系グループなので、自由投票といいつつ、菅氏の本音を察して岡田支持にいったと思いますが、こういった財務省の繋がりもあるかもしれませんよ。

2009.05.20 11:29 URL | cube #- [ 編集 ]

kojitakenさま

 お願いがあります。
 おっしゃることは、その範囲においてごもっともだと思います。
 しかし、すでに総選挙まで3カ月を数える時期。
 今の時点では、以前お話ししていてのと同様に、民主党の分断を図るようなご意見は、あえて封印してくださらないでしょうか?
 確かに、植草ブログの狂信者のように、愚か者も多いのは実情です。小沢留任を強固に主張し、反対する者をかくれ自民と誹謗して恥じなかった、カナダDE日本語などのような愚か者もいます。
 しかし、今は、盲目的信者も、覚醒した民主主義者も含めて、とりあえず政権交代を目指すべきではないでしょうか?
 鳩山批判は、政権交代後でも良いでしょう。
 実際、私は、3年続けて自分のブログ「猫の教室」を閉鎖したのは、政権交代後の民主党への批判のフリーハンドを留保するためです。
 しかし、まずは政権交代。
 それが最終的答えではなく、新たな始まりにすぎないのはわかっていますが、今は、民主党党内批判を押さえていただくようにお願いします。
 民主党べったりの狂信者たちは、民主党が軍事面での改憲を言い出した時どうするのか見ものです。
 今は、小異を捨てて大同に付く姿勢をお願いいたします。

2009.05.20 11:49 URL | 眠り猫 #2eH89A.o [ 編集 ]

眠り猫さん、

このエントリの論旨は鳩山由紀夫批判ではありません。世襲政治の悪弊を批判するものです。世襲政治家について触れるエントリで、鳩山由紀夫をスルーするのではフェアな議論にはならないでしょう。

当然、次の総選挙では世襲制限の是非は大きな争点のひとつにしなければなりません。鳩山由紀夫は、父親とは異なる選挙区から出ているので、条件はクリアしているのでしょう?

あとは、たとえ党代表が「鳩山一郎の孫」であっても、世襲制限が説得力を持つように民主党が有権者に(自助努力で)訴えていかなければなりません。そこまでブログがフォローする必要はないと思います。

2009.05.20 12:16 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

 消費税問題に関係して野党だから官僚が隠している内実が分からないからそれが分かった上で対応するべきだという議論は正論だろう。だがだとしたら民主党が掲げてきた様々な財源を伴う政策は何なのだろうか。現時点で隠しているからいくらあるか分からないのならばそれを当てにしている政策は何なのだろうか。論理矛盾ではないだろうか。現時点では分からない、確約できない財源で政策を行うというのが誠実な対応だろうか。いくら隠しているか分からないから分かった時点で考えるとか、もしくはこのような政策をやりたいが財源は分からないから分かった時点でその範囲内で行うというのならばわかる。ところが小沢と当時の民主党はこれらの政策はできる、財源もあると言明しているのだ。
 財源があると言明している以上確たる裏づけがなくてはならない。にもかかわらず隠しているから政権をとってから考えればいいというのではとても誠実な対応とは言えない。

2009.05.20 12:50 URL | 政権交代を望むものとして #- [ 編集 ]

>民主党べったりの狂信者たちは、民主党が軍事面での改憲を言い出した時どうするのか見ものです。

眠り猫さんは護憲派と認識しています。
そんなネガティブな楽しみを期待するより改憲を言い出させない・言い出しても実行させないためにはどうしたらいいかを考えましょうよ。
小選挙区ではよほどの極右でなければとにかく民主党候補に投票するのは仕方ないにしても、比例区では護憲政党に入れる事で民主党の改憲路線に楔を打ち込んでおくというのが護憲派の常識でしょう。前のエントリーで管理人さんは鳩山氏がタカ派的な側面を持った政治家であることから目をそらしてはならないと述べていますが、そういう情報を知らせることでどう投票するのが各人にとってベストかを考えさせることになるのです。
そもそも、政権交代は手段であって目的ではありません。

“誰と戦うかは簡単にわかる。何のために戦うかをよく考えろ”
アイルランド独立戦争を描いた映画「麦の穂をゆらす風」(2006年イギリス映画 監督ケン・ローチ)より

2009.05.20 13:27 URL | ぽむ #mQop/nM. [ 編集 ]

世襲問題は親の責任でしょう。
もちろん、選ぶ国民の責任が一番重いのはいうまでもありません。
「政治家としての資質があるか?」「政治家として立候補するだけの資格を備えているか(学歴・経歴・人格)?」といった事は、世襲させる側が最もよく知っているはずでしょう。「「親バカ」の論理」を国権の最高機関に持ち込む発想が狂っている。その狂った発想の結果が最近のバカ内閣(安倍・福田・阿呆)でしょう。世襲そのものがわるいのではなく、世襲させる側が「親バカ」の発想を持ち込み、それを有権者が認めている現状が問題なのではないでしょうか。

2009.06.01 20:13 URL | あほの坂田 #qW4ig26k [ 編集 ]

党首討論の全文はこちらで読めます!
ぜひ1度全部の発言に目を通してみてください!

2009.06.20 06:35 URL | 日本大好き #- [ 編集 ]













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