きまぐれな日々

リーマン・ショック以来、急激な円高が起きて日本の輸出産業は大きなダメージを受けた。しかし、よく知られているように、ドルは円以外の通貨に対してはむしろレートを上げている。ユーロはもっと下げているし、それよりさらに下げているのがポンドだ。
http://quote.yahoo.co.jp/m3?u

『株式日記と経済展望』は、1月21日のエントリで「金融立国の末路、アイスランドの次はイギリスが国家破綻か?」と書いているし、田中宇が書いた「イギリスの崩壊」はネットで注目され、400件以上の「はてなブックマーク」がついた。後者は、「9.11陰謀論」や「地球温暖化陰謀論」を信奉している田中宇の書いたものだから、読み物としては面白いけれども話半分にしておいて、信用し過ぎない方が良いと思う。

しかし、『株式日記と経済展望』からリンクを張られている伊藤洋一の「価格競争を超越した強さ」は、説得力のある記事だ。右派系雑誌の『Voice』に載った記事だし、著者の伊藤洋一は郵政解散・総選挙の時にコイズミ応援の旗を振った悪印象があまりにも強いが、この記事では「金融立国」が崩壊したとはっきり書いており、この期に及んでまだ日本は「金融立国」を目指せなどと主張する新自由主義者たちと一線を画した形だ。

詳しくは、伊藤氏の記事をご参照いただきたいが、国家破綻の状態にあるアイスランドに続いてイギリスも怪しく、アメリカもそれに続くが、これらの国々はいずれも「金融立国」であり、製造業が衰退していたと指摘している。

私は、イギリスやアメリカのとった新自由主義の政策は製造業と相性が悪く、製造業を衰退させてきたと考えている。2007年10月14日付エントリ「新自由主義の時代の「終わり」を暗示する安倍内閣の崩壊」でも紹介したように、神野直彦は、『人間回復の経済学』(岩波新書、2002年)で、サッチャーの政策によってイギリスの労働生産性は向上したものの、産出高はサッチャー政権前よりきわだって低下しており(1960?73年には年平均3.1%だったのに、サッチャー政権成立後の1979?95年には年平均0.3%にまで落ちた)、生産性向上は技術革新よりもむしろ経営側の苛烈なリストラのもたらしたものだったことを指摘している。

サッチャー政権成立前に書かれた森嶋道夫の『イギリスと日本』(岩波新書、1977年)などを読んでいると、イギリスはサッチャー以前から優秀な人材が産業界に行きたがらない社会だったらしく、イギリスにおける製造業の衰退の源は、実は産業革命期に遡るのではないかと最近では考えているが、それはともかく、イギリスが製造業の弱い国であることだけは間違いない。伊藤洋一の、

今回の金融危機が明らかにしたのは、人々が生活するうえでどうしても必要とするモノをつくる製造業をもたない国が置かれた惨状なのだ。

という指摘には、説得力がある。

ただ、日本の工業製品の品質については、伊藤洋一は楽観的に過ぎると思う。私の意見では、日本の工業製品の品質がもっとも高かったのは1990年代前半であり、以後は新自由主義の波に洗われ、品質を犠牲にした過度のコスト削減や未完成の技術の見切り発車などによって、かつてほどの品質を誇っているかきわめて疑わしいと考えている。もちろん、他国と比較するとまだまだメリットはあるので、政府も財界もこれ以上間違った方向に進まないでほしいものだ。

とはいえ、伊藤洋一の記事を締めくくる下記の主張には賛成である。

日本の進むべき道ははっきりしている。「金融だけでメシが食える」と安易に考えた国々は呻吟している。金融はあくまで実物経済の流れを補完しているだけの存在である。それが前面に出てくるような、過去に例のないような脚光を浴びる時代は間違っていたことは明らかである。

対して、人間が必要として、それを使うことに楽しみを感じる製品は最後までなくならない。それを日本がきっちりと、長期的に「あの国のものは信頼できる」というレベルでつくりつづけることが、日本が、そして日本の企業が選ぶべき道だと筆者は考える。

(伊藤洋一 「価格競争を超越した強さ」より)


郵政総選挙でコイズミ自民党への投票を煽った論者からもこういう雑誌記事が出てきた。流れはもうすっかり変わった。


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 本論とは離れますが。
 英米では、教育格差が昔から激しく、教育レベルの段階で、「研究者、エンジニア」と「単純工」に選別されてしまうようです。
 その結果、現場を知らないエンジニアと、作っている物の意味を知らない単純工、という図式になり、かつての日本のように、エンジニアが率先して現場に立ち、熟練工が精密機械をしのぐという国が、良い製品を作ったと言われています。
 しかし、機械的な「カンバン方式」などの画一的なコスト削減優先。さらに非正規雇用により、技能の蓄積ができない単純工という図式に今はなってしまい、日本の製造業の強さは、昔ほどではなさそうです。
 しかし、イギリスのシティ、アメリカのウォールストリートなど、金融立国の象徴は、今や地に落ち、と言って製造業は空洞化した英米は、基軸通貨としての力を急激に落としていくでしょう。
 ユーロ経済圏が立ち直ることができるか?中国の元は基軸通貨たりえるのか?それとも、現物経済になってしまうのか?
 英米の衰退は確実としてもその先が読めない状況ですね。

2009.01.27 07:48 URL | 眠り猫 #2eH89A.o [ 編集 ]

 古今東西、目先の利にとらわれてしまうのが人間の性だとすれば、所得税の累進再強化、相続税の再強化、低所得者への再分配が政府の最大の、ある意味最も難しい役割だと思います。
 それから教育予算を厚くし、学級崩壊のような問題を徹底的に根絶することも必要でしょう。
 内需を基礎とした技術立国を堅持する政治家を選ぶのが日本人の永遠の課題でしょうね。
 
 

2009.01.27 12:15 URL | cube #- [ 編集 ]

kojitakenさん、皆さん、こんばんは

人の上前を跳ねて暮らす人や、ギャンブルで生計を立てる人が多くなれば、国が滅ぶのは目に見えています。
金融で、国が富むと考えたのは、砂上の楼閣だったと思います。
やはり、人は汗して働く、無から有を生み出すことであって、ものやお金を右から左に移すだけでは経済は発展しないのは自明の理です。

ものづくりやことづくりなど、他者が幸せと感じることに従事することが当人の幸せです。
幸せ、やりがいの再生産、循環です。
他者(地球を含む)に役立つものづくりやことづくりは永遠の飯の種です。
ギャンブルや強欲は自己の破綻と他者の悲惨を招きます。

新自由主義は破綻しました。
日本政府阿呆政権は、それを明確に自覚していません。
日本の政治は、いつまで立っても、アメリカの金魚の糞でしかありません。

2009.01.27 18:45 URL | 愛てんぐ #PARia3Ic [ 編集 ]













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