ブログはお休みのはずだった昨日(4日)、急遽「ある新自由主義者の死 ? 永田寿康が自殺」というエントリを公開し、これが今年最初の「はてブ」(はてなブックマーク)5件以上をいただいた上、1年4か月ぶり、昨年は一度もなかったアクセス数7千件超を記録したため、何か1日早い正月休み明けのような気分だ。永田寿康も、何も三が日に自殺しなくてもよさそうなものだが、彼の死に、新自由主義の世の中に勝者などいないのだと改めて思う。
さて、年明け最初の平日の今日は、読者の皆さまを拍子抜けさせてしまうかもしれないが、岩波新書から昨年5月に刊行された、大泰司紀之・本間浩昭著『カラー版 知床・北方四島』を紹介したいと思う。
大泰司紀之(おおたいし・のりゆき)氏は北海道大学名誉教授で現在、同大学総合博物館資料部研究員。また、本間浩昭氏は毎日新聞記者。旧石器発掘捏造事件の端緒を入手し、毎日新聞に大スクープをもたらした敏腕ジャーナリストである。
私はかつて首都圏に在住していた頃、よく夏休みの旅行で北海道を訪れた。特に利尻島・礼文島を含む道北と、知床に代表される道東に魅せられた。そして、北方四島にはいかなる自然があるのだろうとよく思ったものだ。しかし、ひとたび四島が日本に返還されるや、乱開発で自然はめちゃくちゃになってしまうだろうな、そうなるくらいならまだ返還されないほうがマシかもしれないなとも思っていたのである。既に乱開発されてしまった北海道と違って、四島には豊富な自然が残されていることはよく知られている。
ところが、この本を読み始めてすぐ、当時から変わらなかった私の考えはすっかり時代遅れになってしまっていることを知った。冷戦終了後のロシアの急激な資本主義化によって、北方四島の自然は今や急激に脅かされつつあるのだ。
特に慄然としたのは、北方四島で行われているウニやカニなどの密漁だ。ソ連崩壊後の90年代から、北方四島で密漁により獲れたウニやカニが日本に輸入され、日本では海産物の値段が下がって喜ばれていたというが、密漁によって生態系が乱され、海域でウニやカニが激減した。上記のように、ラッコの写真がこの本の表紙を飾っているが、ウニやカニはラッコのにとって重要な食料なのに、ほとんど捕り尽くされてしまっているのが現状だ。さらに追い討ちをかけるように、2007年、ロシアの中央政府からの巨額の予算投入に支えられた「クリル諸島(日本名:千島列島)社会経済発展計画」が始まった。資金は当面、空港や港湾などの整備、道路網整備、地熱発電所建設などに向けられるそうだ。さらに、外国企業の誘致やリゾート開発も狙っているらしい。
著者らは、かつて高度成長期に開発のために自然を犠牲にしてしまった日本(本州)の失敗を北方四島で繰り返してはならないと危機感を抱く。そして、貴重な北方四島の生態系を保全するために、世界遺産「知床」を、北方四島及びその北隣のウルップ島(ロシア領)にまで広げることを提唱する。北方四島は、その帰属をめぐって日本とロシアの間で対立関係があるので、日本の領土である知床と、ロシア領のウルップ島(日本共産党によると全千島の日本への返還を求めるべきとのことだが、それは措いておく)をともに含めることで、両者の妥協点を見出そうとするやり方だ。
これは、なかなかナイスアイデアだと思ったのだが、なかなか実現は難しいようだ。日露平和条約の締結後は、四島を日露混住の地として、日本人にもロシア人にも動物たちにもプラスになるような方法も模索されている。
開発と自然保護。この両立は本当に難しい。新自由主義の社会が破綻して、次にどんな社会を目指すべきかという議論において、70年代の高度成長期をよみがえらせよという主張をする人もいるが、当時都会地区(関西)で育った私が生まれて最初に関心を持った、というよりも持たざるを得なかったのは公害問題だった。神崎川の悪臭は、この世のものとは思われないほどひどいものだったからだ。当時、水俣病、第二水俣病、四日市ぜんそく、イタイイタイ病の「四大公害病」をはじめとする公害は、深刻な問題になっていた。今、現代の「ニューディール政策」として、再生可能エネルギー(自然エネルギー)が注目されているのは、過去の反省の上に立っている。だが、再生可能エネルギーといえど、自然破壊と無縁というわけにはいかない。悩ましい話だが、可能な限り両立を目指して努力するしかあるまい。
なお、この本は、「カラー版」と銘打たれているように、本のおよそ半分は写真が占めており、表紙のラッコのほか、クジラ、アザラシ、シャチ、ヒグマ、シマフクロウ、エトピリカなど、動物の写真が満載されている。これらの写真だけでも見る価値のある本だと思う。
↓ランキング参戦中です。クリックお願いします。

さて、年明け最初の平日の今日は、読者の皆さまを拍子抜けさせてしまうかもしれないが、岩波新書から昨年5月に刊行された、大泰司紀之・本間浩昭著『カラー版 知床・北方四島』を紹介したいと思う。
![]() | 知床・北方四島―流氷が育む自然遺産 カラー版 (岩波新書) (2008/05) 大泰司 紀之本間 浩昭 商品詳細を見る |
大泰司紀之(おおたいし・のりゆき)氏は北海道大学名誉教授で現在、同大学総合博物館資料部研究員。また、本間浩昭氏は毎日新聞記者。旧石器発掘捏造事件の端緒を入手し、毎日新聞に大スクープをもたらした敏腕ジャーナリストである。
私はかつて首都圏に在住していた頃、よく夏休みの旅行で北海道を訪れた。特に利尻島・礼文島を含む道北と、知床に代表される道東に魅せられた。そして、北方四島にはいかなる自然があるのだろうとよく思ったものだ。しかし、ひとたび四島が日本に返還されるや、乱開発で自然はめちゃくちゃになってしまうだろうな、そうなるくらいならまだ返還されないほうがマシかもしれないなとも思っていたのである。既に乱開発されてしまった北海道と違って、四島には豊富な自然が残されていることはよく知られている。
ところが、この本を読み始めてすぐ、当時から変わらなかった私の考えはすっかり時代遅れになってしまっていることを知った。冷戦終了後のロシアの急激な資本主義化によって、北方四島の自然は今や急激に脅かされつつあるのだ。
特に慄然としたのは、北方四島で行われているウニやカニなどの密漁だ。ソ連崩壊後の90年代から、北方四島で密漁により獲れたウニやカニが日本に輸入され、日本では海産物の値段が下がって喜ばれていたというが、密漁によって生態系が乱され、海域でウニやカニが激減した。上記のように、ラッコの写真がこの本の表紙を飾っているが、ウニやカニはラッコのにとって重要な食料なのに、ほとんど捕り尽くされてしまっているのが現状だ。さらに追い討ちをかけるように、2007年、ロシアの中央政府からの巨額の予算投入に支えられた「クリル諸島(日本名:千島列島)社会経済発展計画」が始まった。資金は当面、空港や港湾などの整備、道路網整備、地熱発電所建設などに向けられるそうだ。さらに、外国企業の誘致やリゾート開発も狙っているらしい。
著者らは、かつて高度成長期に開発のために自然を犠牲にしてしまった日本(本州)の失敗を北方四島で繰り返してはならないと危機感を抱く。そして、貴重な北方四島の生態系を保全するために、世界遺産「知床」を、北方四島及びその北隣のウルップ島(ロシア領)にまで広げることを提唱する。北方四島は、その帰属をめぐって日本とロシアの間で対立関係があるので、日本の領土である知床と、ロシア領のウルップ島(日本共産党によると全千島の日本への返還を求めるべきとのことだが、それは措いておく)をともに含めることで、両者の妥協点を見出そうとするやり方だ。
これは、なかなかナイスアイデアだと思ったのだが、なかなか実現は難しいようだ。日露平和条約の締結後は、四島を日露混住の地として、日本人にもロシア人にも動物たちにもプラスになるような方法も模索されている。
開発と自然保護。この両立は本当に難しい。新自由主義の社会が破綻して、次にどんな社会を目指すべきかという議論において、70年代の高度成長期をよみがえらせよという主張をする人もいるが、当時都会地区(関西)で育った私が生まれて最初に関心を持った、というよりも持たざるを得なかったのは公害問題だった。神崎川の悪臭は、この世のものとは思われないほどひどいものだったからだ。当時、水俣病、第二水俣病、四日市ぜんそく、イタイイタイ病の「四大公害病」をはじめとする公害は、深刻な問題になっていた。今、現代の「ニューディール政策」として、再生可能エネルギー(自然エネルギー)が注目されているのは、過去の反省の上に立っている。だが、再生可能エネルギーといえど、自然破壊と無縁というわけにはいかない。悩ましい話だが、可能な限り両立を目指して努力するしかあるまい。
なお、この本は、「カラー版」と銘打たれているように、本のおよそ半分は写真が占めており、表紙のラッコのほか、クジラ、アザラシ、シャチ、ヒグマ、シマフクロウ、エトピリカなど、動物の写真が満載されている。これらの写真だけでも見る価値のある本だと思う。
↓ランキング参戦中です。クリックお願いします。

- 関連記事
-
- 1995年〜「新時代の日本的経営」と内橋克人『共生の大地』 (2009/01/19)
- 大泰司紀之・本間浩昭著『カラー版 知床・北方四島』を読む (2009/01/05)
- 「新自由主義」への批判と対照的な「佐藤優現象」への無批判 (2008/12/22)
スポンサーサイト
トラックバックURL↓
http://caprice.blog63.fc2.com/tb.php/817-76103def
日本の自然と愛国者たち
国を愛する事はいいことだ。 日本には素晴らしいものがいっぱいある。 本来の日本の
2009.01.05 23:37 | くろつやむしの休日