きまぐれな日々

昨年の今日、12月16日に、NHKテレビで「ワーキングプアIII?解決への道?」が放送された。このエントリを書くに当たって、「ワーキングプアIII」を検索語にしたGoogle検索をかけると、当ブログのエントリが上位で引っかかる。あれは本当に素晴らしい番組だった。

それから1年。私は、昨夜(12月15日)に放送された同じNHKの「セーフティーネット・クライシスII」を私は見ることができなかった。しかし、見た人が書いたネット情報によると、番組には湯浅誠が出ていたものの体制側の出演者が多く、新自由主義の「コイズミカイカク」の旗を振った、あの自民党の「年金問題の切り札」・大村秀章が長広舌を揮うなどして視聴者を苛立たせていたのだそうだ。大村が出演していたのでは見なくても良かったかな、少なくとも昨年の「ワーキングプアIII」のような名番組ではなかったのだろうな、と思う。これも、安倍晋三の息のかかったNHK経営委員長・古森重隆がNHK会長の首をすげ替えた影響なのだろうか。

「ワーキングプアIII?解決への道」の内容をまとめた同名の本がポプラ社から出ている。この本のページをめくると、番組の映像がまざまざと脳裏に甦るが、最初の章で日本よりひどい「非正規大国」になった韓国の労働条件の悲惨さが紹介され、次の章ではサブプライムローン問題の陰が差し始めながら、繁栄の最後の残照を受けていたアメリカにおいて、中産階級からワーキングプアへと没落したエンジニアの実例が描き出されている。そして、今やアメリカでは同様の人たちが大量に生み出されつつあり、その影響は日本でも大規模なリストラとなって現れている。

ところで、昨日のエントリで触れた「YKKK」の件は、ネットでは評判が悪いし、一般国民にも「古い人たちがまたうごめき始めた」という印象を持つ人が多いのだろうと思う。事実、この4人の背後には、森喜朗や渡邉恒雄(ナベツネ)の動きが見え隠れする。

民主党が現在表立って組もうとしている連立のパートナーは社民党と国民新党なのだが、この両党は「経済左派」というところだけが共通しており(民主党はむしろ新自由主義的色合いが結構濃い)、片や憲法9条命の護憲政党、片や議員の大半が「日本会議」に所属していて「国籍法改正」にも反対に回った右派民族主義政党と好対照である。この両党が民主党と組むこと自体、私が常々疑義を呈している「左右共闘」ではないか、と思われる方も多いだろう。

だが、政治家や政党は何もポリティカル・コンパスの政治軸・経済軸の二次元平面に投影された座標でのみ測られるべきではない。たとえば亀井静香は、死刑廃止論者で超党派の議連(左翼系の議員が多い)の会長を務めたり、1994年に日航のアルバイトスチュワーデス採用に反対して、今日の非正規社員の問題意識を先取りしたりしていた。そんな亀井だから、次期政権をより「反新自由主義的」なものにしようと、「YKKK」を仕掛けるのだろうと思う。

もちろん、この「YKKK」は同床異夢であるのも事実で、確かに菅直人は依然として二大政党の枠組にこだわっているし(それにも関わらず、14日の「サンプロ」で大連立容認のようにもとれる口ぶりも感じられて、正直危惧を抱いたが)、加藤紘一や山崎拓には逡巡があり、番組では表に出てこなかった森喜朗やナベツネには、与謝野馨ら「財政再建派」も入れて新自由主義勢力のみを排除する「大連立」を露骨に企図しているものと思われる。

だが、麻生太郎首相が解散を先送りしたあとに支持率を大きく落としてしまったために、大連立の現実性は薄らいでいるのである。麻生は、自民党の内部調査で総選挙敗北必至という結果が出たために、ひるんで解散を先送りしたのだが、その後の失政や失言続きで、自民党の票は間違いなくさらに減った。現時点で総選挙を行った場合、民主党の獲得議席数は230議席を超えて過半数に迫るといわれている。

こんな状態で勝手に渡辺喜美に出て行かれたら、それこそ自民党は完全に崩壊すると危機感を強めているから、彼らは渡辺の脱党を食い止めようとするし、民主党は民主党で、現時点で自民党に接近しては損だとわかっているから、せいぜい枝野幸男が渡辺喜美にリップサービスするくらいしかできない。渡辺の場合は、まだ同じ選挙区に民主党候補の擁立が決まっていないから、フラフラと民主党に接近したりするのだが(この点では渡辺と全く立場の異なる無所属の平沼赳夫や城内実も同様である)、渡辺以外の議員は、たいてい同じ選挙区に民主党候補がいるから、9か月以内に選挙を控えている今となっては身動きがとれない。

渡辺喜美とも平沼一派とも立場が違い、自民党に居残っても先のない加藤紘一や、同じく自民党にいても総選挙で惨敗必至といわれている山崎拓、動いて損はしない政治家というとそれくらいのものかもしれない。だから、既に民主・社民両党と組んでいる国民新党の亀井静香が2人を口説いたのだろう。

しかし、これが加藤紘一と山崎拓の2人だけではなく、ナベツネの盟友・中曽根康弘系の与謝野馨をはじめとして自民党の「反カイカク」派が大挙して「YKKK」と組もうなどという動きになると同時に、この集団は国民の支持を失い、マスコミが持ち上げる渡辺喜美やそのバックにいる中川秀直、小池百合子らが一気に息を吹き返す。現在、政治家にとって最大の関心事は次の総選挙だから、特に自民党議員で当選の見込める人たちは、自らの地位を危うくする行動はとれない。このままでは敗北必至の「コイズミチルドレン」たちもいるが、選挙区に民主党候補がいるから民主党の新自由主義者も彼らを受け入れることができない。「あのコイズミチルドレンと組むのか」と非難されて、選挙情勢を悪くするだけだからだ。だから、結局大部分の議員は動くに動けず、自民党は分裂することもできない。これには、選挙制度が小選挙区制中心になっている影響が大きい。

加藤と山崎が30人くらい引き連れて脱党することが期待されていたのに期待はずれだった、などという論評も見受けられるが、そんなことは最初から不可能だった。森喜朗やナベツネが希望する展開になるためには、もう少し自民党の支持率が上がらなければならないが、もうそのような状態にはならないだろう。自民党も「大連立」の仕掛人も、機を逸してしまったのである。

だから、自民党の政治家たちの大部分は党を割って出ようにも出られず、麻生太郎は解散したくてもできないが、格差社会下で始まった不況に国民の怒りや政治不信は頂点に達し、何らかの形で解散総選挙が行われることになるのだろうか。

いえることは、次の総選挙を勝ち抜いた政治家だけがそれ以降の政治を動かすという当たり前のことだけなのだが、選挙を前にした「大連立」を含む合従連衡がどういう影響をもたらすかについて押さえておいた方が良いだろう。

12月8日の朝日新聞に、東大との共同調査結果が出ていて、自民、民主、公明の3党の立候補予定者に、連立を組むとしたらどの党かと聞いている。これによると、自民党候補予定者が「連立を組むべき」と考えている党は、公明党100%、国民新党74%、民主党52%、社民党13%、共産党1%となっているが、民主党候補予定者が「連立を組むべき」と考えているのは、国民新党99%、社民党97%、公明党30%、共産党24%、自民党13%となっている。これは、党の方針および支持者の傾向、それに何より立候補予定者の意向を反映した数字である。民主党の立候補予定者たちが、わざわざ選挙に不利になる選挙前の「大連立」など選択するはずがなく、現状はもはや大連立を組むのは不可能な状況だ。

だから次の総選挙後、亀井静香に言わせれば小沢一郎が政権運営を投げ出した瞬間に政界再編が始まるという観測には説得力がある。それに参加する資格があるのは、総選挙を勝ち抜いた政治家に限られることはいうまでもない。

そして、どういう政治家が国民の人気を得るかだが、これについては悲観的な見方しかできない。「YKKKこそ時代遅れだ」という、ネットなどの多くにも見られる意見を持っている人たちが支持するのは、コイズミや石原慎太郎、橋下徹、東国原英夫などの「劇場政治家」たちであり、渡辺喜美も彼らを意識したパフォーマンスをしようとしたのだが、そこは二世議員の悲しさでコイズミらのようには立ち回ることができず、周りからは押さえられ、そろそろ国民(テレビの視聴者)にも渡辺の見えすいたパフォーマンスの底が割れて見え始めた。ちょっと前の舛添要一など、テレビの宣伝で虚像が作られた小物のパフォーマーが出てくるが、いずれも長続きしない。

私はここで、華々しい人気はなくとも、アメリカのオバマ新政権やアジア諸国と適度な距離感覚を持ちながら、新自由主義者たちにズタズタにされた日本の社会や経済を、内需拡大・積極財政を主眼とした政策によって立て直す必要があると考えており、山崎拓はともかくとして、菅直人、亀井静香、加藤紘一といった人たちが政権の中枢を占めるのは決して悪いことではないと考えるのだ。特に、亀井静香には、その民族主義的主張には賛成できないが、もっとも急進的な積極財政による経済の立て直しが期待でき、仮に再生可能エネルギーの開発推進などに力を入れる方向性を示せば、政治思想では水と油の社民党ともうまくやっていけるのではないかと思う(現状でも、国民新党と社民党が新自由主義に傾斜しがちな民主党への歯止めになっている)。少なくとも、渡辺喜美に代表されるような軽薄なパフォーマーが力を持つよりはずっとましだろう。そして、政権が実績を挙げることによって、橋下徹や東国原英夫が国政に進出してきて日本の政治を完全に破壊するのを防止する必要があると思う。かつて国民がコイズミに熱狂し始めた頃は、まだ国民生活に余裕があった。だが「背に腹は代えられない」状態になれば、ポピュリズム政治への熱狂どころの話ではなくなるはずだ。まだ国力があるうちに、堅実な政策を行う力を持つ者たちが、政権を運営すべきだと思う。

すべては過剰な輸出依存体質のためにおかしくなって、国民生活が豊かにならないどころかアメリカ発金融危機の直撃を食らってしまった日本経済の建て直しからだ。民主党の掲げた「国民の生活が第一」というスローガンがどこまで実現できるかに、来年生まれるであろう新政権の命運はかかっている。


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亀井静香を評価するのはいかがなものかと思われ。

2008.12.17 05:46 URL | カマヤン #VEJkdggc [ 編集 ]













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