きまぐれな日々

当ブログの一昨日(11月11日)付エントリ「田母神俊雄「論文」事件は文民統制以前の問題だ」において私は、田母神俊雄のアパ懸賞論文の一件は「文民統制」以前に、田母神が稚拙な陰謀史観に基づく妄想に満ちた歴史観を開陳したことが問題だ、1978年に「超法規発言」で物議をかもした栗栖弘臣は、そんな馬鹿な発言はしておらず、今回の件は「文民統制」以前の問題だと主張した。

これに対し、「こころ」さんから下記のようなコメントをいただいた。
http://caprice.blog63.fc2.com/blog-entry-780.html#comment4419

どうなんでしょう。まさに「文民統制以前」の問題なのでは?文民統制のもとにあって、公務員はもとより軍人ともなればその思想信条にも統制がかかるという考え方はありうると思いますが、こうして思想信条に強い枠をはめるやり方は、一たび間違うとまったく危険な方向に行きかねない議論ではないでしょうか。なによりいかなる思想をもっていようとも客観的に法律の範囲を逸脱しないような、文民による統制が必要ということだと思います。

栗栖発言は当時の法律に存在しない有事の概念のもと自衛隊を独自に動かすことを宣言したという点でまさに文民統制そのものに触れ、はるかに重大な気がしますけど。珍妙な歴史観を雑誌に発表する程度ならまだましでしょう。(後略)

(「こころ」さんのコメントより)


私はこの意見には反対だ。田母神発言の問題は、陰謀史観に基づくトンデモな歴史認識に市民権を獲得させようとした極右の試みであって、毎日新聞記事も、纐纈厚(こうけつ あつし)・山口大教授の見解を引きながら

これまで波紋を呼んだ制服組幹部の発言というのは、法制上の問題点に関してのものがほとんどで、歴史認識を直截(ちょくせつ)的に論じたのは今回が初めて

と書いている。この纐纈厚や毎日新聞記者・遠藤拓の危機感を私は共有する。

「こころ」さんは、しばしば当ブログにコメントを頂く方だが、自民党内の「旧保守」の支持者とお見受けする。私は民主党を中心とする野党が仮に「共闘」するとしたらその相手は「旧保守」であって、中川秀直らの新自由主義者のグループや、「HANAの会」(麻生太郎、中川昭一、安倍晋三、それに無所属の平沼赳夫)などの国家主義者のグループではないと考えているので、その点では「こころ」さんと意見が一致するが、「こころ」さんは自民党支持者らしく右寄りの歴史認識の浸透に対して甘いところがあるのではないかと考える。

なお、「こころ」さんへの注文だが、当ブログにコメントする際に毎回毎回HNを変えるのは止めていただきたい。前回は確か「にだりんこ」だったし、その前には「舐島」というHNだった。私にはどのコメントがあなたによるものかがわかるが、ブログの読者にはわからない。せめてHNを統一して、フェアな議論をお願いしたい。

なお、前記毎日新聞の記事には、纐纈厚のほか、石破茂と秦郁彦の、いずれも田母神論文に否定的な見解が掲載されている。このうち左派は纐纈厚だけで、石破茂は自民党の「カイカク系」の(世襲)政治家だし、秦郁彦は『諸君!』を主な舞台にする歴史家で、「つくる会」のメンバーにして、従軍慰安婦問題を教科書から削除せよと主張するゴリゴリの右派である。その秦郁彦までもが、11日付の朝日新聞(ウェブでは読めないようだ)と上記毎日新聞で田母神論文を徹底的に批判しているのだ。

参院で行われた田母神の参考人招致について、秦は上記毎日新聞記事で、

 マンガ的な低レベルのやりとりで不快でした。肝心の国防について、『これでは国を守れないから困る』といった注文が出ているわけでもない。戦争を巡るコミンテルン陰謀説は、徳川埋蔵金があるとかないとかいったレベルの話です。懸賞論文で最優秀賞を取ったのが不思議でならない。

とコメントしている。また、11日付朝日新聞記事では秦は、「日本はルーズベルトの罠にはまり真珠湾攻撃を決行した」とする田母神の主張を、

 これも、バージョンを変えて繰り返し出てくる「ルーズベルト陰謀説」の一種だ。ルーズベルト大統領は日本側の第一撃を誘うため真珠湾攻撃を事前に察知していたのに現地軍に知らせなかった、という筋書きのものが多い。こうした話はミステリー小節のたぐいで、学問的には全く相手にされていない。

とあっさり退けている。コミンテルン陰謀説についても、最近産経新聞が躍起になって広めようとしている「張作霖爆殺コミンテルン陰謀説」を、

「極めて有力になってきている」などと田母神論文は書くが、歴史学の世界では、問題にされていない説だ。張作霖爆殺事件が関東軍の仕業であることは、首謀者の河本大作はじめ関係者が犯行を認めた。このため田中義一内閣が倒れ、「昭和天皇独白録」でも、「事件の首謀者は河本大作大佐である」と断定されている。他にもコミンテルン謀略説が論文に出てくるが、根拠となる確かな裏付け資料があいまいで、実証性に乏しい俗論に過ぎない。

とコテンパンに批判している。

当ブログは、昨年12月23日付エントリ「ネットに横行する「トンデモ」や「陰謀論」を批判する」を公開して以来、一貫して陰謀論批判を行ってきているが、陰謀論の最悪の例が今回の田母神「論文」だといえるだろう。秦郁彦の例に見られるように、右派であってもまともな言論人であれば、田母神俊雄の陰謀論など一顧だにしない。

リベラル・左派のブログの間でも、今年1月から8か月間も続いたに始まって今も続いている「水からの伝言」騒動があり、今試しに検索語「水伝」でGoogle検索をかけると、「他のキーワード」として、「たんぽぽ 水伝」「らんきー 水伝」が現れたのを見て吹き出してしまった。論争の端緒となった2つのブログ名の一部が、「水伝」と組み合わせた検索語としてよく検索されている、それくらい一部では有名になった論争だが、当ブログも「たんぽぽ」側に立って論陣を張ったので他人事ではない。

当初擬似科学批判の問題からスタートした論戦だが、泥沼化していくうちに、「逝きし世の面影」なるトンデモ陰謀論ブログが参戦し、勝手な思い込みに基づいて、「らんきー」側のブログを「極左」、「たんぽぽ」側のブログを「解同」(部落解放同盟)と決めつけるぶっ飛んだエントリを公開したことがあった。実は、「逝きし世の面影」こそ「極左」と評するにふさわしいブログであり、「らんきー」側のブログは「極左」ではないし、「たんぽぽ」側のブログも「解同」などではない。

その「逝きし世の面影」が、またしても「陰謀論が嫌いな人の心理」なるトンデモエントリを上げてきて、

陰謀論という言葉は 昔はほとんど使っていなかった。

今まではユダヤ陰謀論なんていう風に、極々限定的に笑い話や居酒屋談義で使われるぐらいで政治論議で『陰謀論』なんてあやしげた言葉は普通のマトモな大人は使いません。

今のように頻繁に使われだしたのはごく最近の風潮です。しかもネット空間だけの現象でしょう。

今でも対面した討論なら『懐疑論』なら使えるが『陰謀論』なんて言葉は恥ずかしくて使えません。

などと主張しているが、朝日新聞や毎日新聞という大手マスコミに載った秦郁彦の言説がもののみごとな反例になっており、「逝きし世の面影」管理人(旧HN・布引洋)の主張は簡単に否定されてしまうのである。田母神俊雄や布引洋の妄論は、「陰謀論」がいかにダメかを示す絶好の例になっている。

ちょっと脱線しすぎたが、田母神俊雄の「論文」の話に戻る。毎日新聞の記事でもっとも注目すべきは、やはり纐纈厚の指摘である。以下引用する。

それだけに、纐纈さんの危機感はぬぐえない。

 「論文後段は、いつまでも米国の従属軍的な立場でなく、自律的な立場を取り戻さねばという趣旨で書かれています。戦前の日本を縛った『アジア・モンロー主義』とも重なる。アジアで日本が単独覇権を握るため、米英に依存せず、自前の軍装備や資源供給地を確保しなければならないという考え方で、政財界にも広がり戦争への道を切り開く一因となった。今の制服組にもそうした欲求があるのかもと思うとぞっとします」

 田母神論文には秘められた狙いがある、とも言う。

 「国会でもメディアでも、彼はとにかく自説を説きたいんですよ。批判も多いが、共感もあると踏んでいる。いずれ自衛隊内外から『よくやった』との反応もあるでしょう。推測の域を出ないが、これは彼の単独プレーでは片付けられない気がしますね」

(毎日新聞 2008年11月12日 東京夕刊より)


私には、「田母神論文に秘められた狙い」は、昨今台頭してきている民族派系反米右翼の主張と響き合うものがあるように思う。反米右翼の人たちの名前を挙げると、政治家では平沼赳夫、西村真悟、城内実、橋下徹ら。文化人では関岡英之、佐藤優、西部邁ら。そして、芸能関係その他では勝谷誠彦や小林よしのりら、といったところだろう。従来、親米右翼の代表格だった安倍晋三も、本音では反米右翼だろうし、実際、最近の右派論壇誌において、安倍はその反米右翼としての本性を現し始めている。

彼らのうち、佐藤優に代表されるように、リベラル・左派にもアピールするものを持っている人たちが、辺見庸の表現を借りれば、「革新づらをして」左側にも支持を広げる。これこそが、日本が再び戦争への道を歩み始める時ではないか。そして、それはもう始まっている。

前記毎日新聞の記事は、

 田母神論文の書かれた2008年を、後世の歴史家はどう位置づけるだろう。今のこの国に“いつか来た道”の再現を拒む力は残っているか。問いは田母神氏ではなく、私たちに突きつけられている。

と結ばれている。少し前なら私にさえ「陳腐な左翼的表現」と思えた「いつか来た道」という言葉に、いまやリアリティを感じるようになった。もはや、「鵺(ぬえ)のような全体主義」という曖昧な表現の段階から「国家社会主義」へと一歩を踏み出しつつある。そんな危機感を覚える今日この頃である。


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kojitakenさん、
にだりんこは私のブログにも来て糞尿を垂れ流していきましたよ。一発コメントのネトウヨです。

http://takashichan.seesaa.net/article/105833288.html#comment

2008.11.13 20:23 URL | たかし #N2hj/.HY [ 編集 ]

田母神のせいで、他の右派論客が相対的にまともに見えるという、田母神効果がありそうなのが不吉ですよね。
ネタニヤフに比べるとシャロンのほうがまだマシでしょ、みたいな。。。
佐藤正久のオフィシャルページに国防部会紛糾の模様が書かれてました。
http://east.tegelog.jp/?blogid=24?catid=164&itemid=1934
「最も紛糾したのは、11月9日付の毎日新聞に掲載された五百旗頭真・防衛大学校校長の論文だった」そうです。
田母神擁護の議員が想像以上に多いようで、ほんとうに怖くなってきました。誰がどのような発言をしていたか、知りたいです。

2008.11.13 20:31 URL | nessko #aIcUnOeo [ 編集 ]

>今年1月から8か月間も騒動が続いた「水からの伝言」騒動があり、

まだやってますよ。
(kojitakenさんのところでは、終わっていると思うけど。)
10月はひとつの山場でした。

>「他のキーワード」として、「たんぽぽ 水伝」と「らんきー 水伝」が
>現れたのを見て吹き出してしまった。

見てみましたよ、しばし恥ずかしいです。(苦笑)
「他のキーワード」は、どのくらい多いと出てくるのか、わからないけれど、
「水伝」に関心のあるネットユーザのかなりの数が、
「騒動」を知っている、ということになりますね。(苦笑)

2008.11.14 06:31 URL | たんぽぽ #ZiqE0vWU [ 編集 ]

>「逝きし世の面影」

「陰謀論」と言われると、「レッテル貼りだ」と騒ぐ人もそうなんでしょうけど、
「陰謀論批判」の人たちは、概念を表わすことばを使わせないという、
「ことば狩り」に出ている感じですね。

田母神氏の「コミンテルン陰謀論」を、「逝きし世の面影」氏は、
どう思っているのか、意見を聞いてみたいです。

2008.11.14 06:33 URL | たんぽぽ #ZiqE0vWU [ 編集 ]

たんぽぽさん、

「水伝騒動」はまだやってるとのことですので、本文を訂正しておきました。

2008.11.14 07:45 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

おお、なおしてくださって、ありがとうです。

そこまでしていただけるとは、思ってなかったので、
かえってお手数をおかけしちゃった感じです。

2008.11.14 20:36 URL | たんぽぽ #ZiqE0vWU [ 編集 ]

民族派反米右翼にはやや融和的であり、同感だと思う意見も結構あります。佐藤優は週刊金曜日の連載を持ち続けています。協調する所は協調し、対立する所はきっちり批判する。そういったバランス感覚が必要でしょう。

一方で、国家社会主義に繋がることには十分警戒しなければならないのも事実。橋下徹
の言動を見ていると「80年前のバイエルン、特にミュンヘン・ニュルンベルクで大暴れのちょび髭男」を思い浮かべます。

2008.11.15 08:17 URL | ゴルゴ十三 #DTxGwd9Y [ 編集 ]













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