http://mainichi.jp/select/today/news/20081111k0000m010078000c.html
リンクを張った毎日新聞の記事によると、
とのことだ。野党側は、田母神氏の在職当時の歴史観などを改めて問い、政治家が自衛隊を統制する文民統制(シビリアンコントロール)の観点から政府を追及する構えだ
今回の田母神の一件でよく引き合いに出されるのは、1978年に統合幕僚会議議長だった栗栖弘臣が「週刊ポスト」誌上で行った「超法規発言」だ。同誌のインタビューで栗栖は、「現行の自衛隊法には穴があり、奇襲侵略を受けた場合、首相の防衛出動命令が出るまで動けない。第一線部隊指揮官が超法規的行動に出ることはあり得る」と発言した。栗栖のこの発言が、文民統制(シビリアン・コントロール)の観点から不適切であるとして、防衛庁長官・金丸信(当時)に事実上解任されたのだが、福田赳夫首相(当時)は閣議で有事立法・有事法制の研究促進と民間防衛体制の検討を防衛庁に指示し、これがたいへんな議論を巻き起こした。当時高校生だった私にとっては非常に印象に強く残った一件で、「福田赳夫イコールタカ派」を印象づけたし、この頃から強まった日本の右傾化が、その後の30年の流れを決定づけたと私は考えている。だから、昨年から1年間政権を担った福田康夫前首相が、前任者・安倍晋三の極右路線を修正してアジア重視の外交に舵を切ろうとしたのを見て、親子で方向性が逆だなと思ったものだ。だが、絶対位置で見れば、福田康夫より父の福田赳夫の方がずっとリベラルであって、30年前には周囲と比較して福田赳夫は「右」、昨年から今年にかけては周囲と比較して福田康夫は「左」だったのだが、その「周囲」が30年前と比較して今はあまりにも右に偏っているということだ。
今回の田母神の一件を栗栖弘臣の「超法規発言」と比較するのは、私には抵抗がある。栗栖の時には文民統制が問題になったが、今回はもちろん文民統制の問題もあるけれど、それ以前の問題が噴出してきているように思えるからだ。
それ以前の問題というのは、今朝(11月11日)の朝日新聞2面で秦郁彦と保阪正康にも批判されている、幼稚な陰謀論を取り入れた田母神の妄想に満ちた歴史観のことで、あんな馬鹿なことは栗栖弘臣はもちろん言わなかった。だから、田母神俊雄を栗栖弘臣と比較するのは、栗栖に失礼だと私は思う。
さらに問題なのは、毎日新聞も指摘しているように、田母神が自説の「正しさ」を盾に、任命権者である防衛相の辞職要請を拒んだことだ。以下毎日新聞から引用する。
田母神(たもがみ)俊雄前空幕長(60)は10月31日に航空幕僚監部付に更迭され、併せて辞表の提出を求められたにもかかわらず、拒否し続けた。「辞めたら間違いを認めることになる」が理由だった。
浜田靖一防衛相や増田好平防衛事務次官らと押し問答が続く最中、田母神氏は「私の考えは理解されている」として唐突に元首相2人の名前を挙げた。
増田氏は、元首相らの支援があるかのような田母神氏の姿勢に身構えた。発言を伝え聞いた自衛隊首脳は「武人のすることじゃない」と激怒したという。ただ、政界との関係が焦点化しないよう、やりとりは封印された。
関係者によると、田母神氏が口にした一人は森喜朗元首相だという。森氏の地元、空自小松基地(石川県)に勤務したことで接点はあった。空自幹部は「森さんは歴代の小松基地幹部と親交がある。田母神さんの空幕長就任時にも森さんから祝い酒が届いた」と話す。
森氏は12月の懸賞論文授賞式に招待されていたが、今回の騒ぎでキャンセルした。森氏は、近隣諸国の植民地支配と侵略を謝罪した「村山談話」(95年)の取りまとめに自民党幹事長としてかかわった。
森氏周辺は「田母神氏との思想的なつながりはまったくない」と強調しており、田母神氏は自己の主張を正当化するために元首相の名前を利用し、抵抗したとみられる。
(毎日新聞 2008年11月9日 東京朝刊より)
この記事には田母神が名前を挙げたもう一人の元首相の名前が書かれていない。だが、11月10日の「きっこの日記」には、安倍晋三であると書かれている。アクセス数の多いきっこさんのところにはいろいろ情報が寄せられるようだから、おそらく間違いないだろうと思う。何度も書くが、アパの会長・元谷外志雄は安倍の非公式後援会「安晋会」の副会長であり、田母神はその元谷と十年来の深いつきあいがあった。
森喜朗と安倍晋三は、ともに幼稚な極右思想を持っている点で共通している。森は、首相在任中の2000年5月15日、神道政治連盟国会議員懇談会においてが行った挨拶で、「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知していただく、そのために我々(=神政連関係議員)が頑張ってきた」という発言をした。また、安倍は森以上にエキセントリックな極右政治家で、首相在任中、国民生活が困窮の度を深めているにもかかわらず、憲法改定しか頭にないとしか思えないイデオロギー政治に邁進し、教育基本法を改定して「真正保守」たちの評価を得たものの大多数の国民からは総スカンを食らい、昨年の参院選で歴史的な惨敗を喫して退陣に追い込まれた。教育といえば、麻生太郎内閣が発足したばかりの頃、中山成彬が暴言を連発して辞任に追い込まれたが、中山の日教組批判は、森や安倍の持論とそっくり同じである。
以上のことを考慮すると、田母神が「私の思想は森元首相や安倍元首相と同じもので、この2人の元首相からも支持されている」と発言したことも、さもありなんと思えるのである。つまり、森喜朗と安倍晋三も、元首相でありながら政府見解を否定する思想を持っているということだ。
一方、自民党の政治家の中でも、石破茂あたりは戦争中の日本を「遅れてきた侵略国家」と見ており、アパの懸賞論文で審査委員長を務めた渡部昇一に雑誌「WiLL」6月号で「石破防衛大臣の国賊行為を叱る」と批判されたとのことである。
当たり前のことを言ったに過ぎないこの石破のブログ記事には、田母神を支持するネット右翼の反論だとか石破をやたら持ち上げるお追従のコメントが多数ついていて、めまいがしてくるが、石破はイージス艦衝突事件の際に危機管理能力のなさをさらけ出した無能な世襲議員であることだけは思い出しておきたい。当ブログも2月29日付エントリ「危機管理能力ゼロの石破茂、福田康夫、それに自民党」で石破を批判した。
しかし、歴史観だけから言えば石破はまともで、田母神や森喜朗、安倍晋三らには問題がある。民主党をはじめとする野党は、文民統制の観点から質問をする予定とのことだが、それ以前に田母神のような人物がなぜ航空幕僚長にまで登りつめることができたのか、そこには極右思想を持ち、自ら政府見解を否定する元首相たちの影響力があったのではないか、そちらの方が重要だと思う。統制される側より統制する側の方がより深刻な問題を抱えているのである。
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どうなんでしょう。まさに「文民統制以前」の問題なのでは?文民統制のもとにあって、公務員はもとより軍人ともなればその思想信条にも統制がかかるという考え方はありうると思いますが、こうして思想信条に強い枠をはめるやり方は、一たび間違うとまったく危険な方向に行きかねない議論ではないでしょうか。なによりいかなる思想をもっていようとも客観的に法律の範囲を逸脱しないような、文民による統制が必要ということだと思います。
栗栖発言は当時の法律に存在しない有事の概念のもと自衛隊を独自に動かすことを宣言したという点でまさに文民統制そのものに触れ、はるかに重大な気がしますけど。珍妙な歴史観を雑誌に発表する程度ならまだましでしょう。
わりあいリベラルな立場からも、今回の定年退職という処分は妥当で野党のやりかたに疑問を持たれている方が多いのが私は救いな気がします。(下記ブログやそのリンク先)
http://kurokawashigeru.air-nifty.com/blog/2008/11/115-1aa8.html
それに政治家の取り上げ方もちょっとどうでしょう。私に言わせれば安倍は明らかに確信的な極右タカ派で平沼石原もこの系譜ですが、森は文教関係については色々あるのでしょうが、大方リップサービスの類であって、復古的ナショナリスト・極右とは言い難いのでは?
尊皇家を自認する小沢一郎や麻生などは森と安倍の中間に見えますが、石破は前原とほぼ重なるでしょう(彼らは安保重視でも復古主義的な発言はしない)。ここらへんをどの党にいるかということを超えてきっちり見ていかないと、いつのまにか間違った方向にいったなんてことになりかねません。私は将来必ず靖国/天皇問題が出てくると思っているのですが、麻生小沢がともに「(分祀/特殊法人化などの処置の上で)天皇参拝」派だということに不気味な物を感じる。逆に岡田・福田・加藤といった人はまったくこういう点では穏健で「良識派」だと思います。
2008.11.11 20:07 URL | こころ #- [ 編集 ]
いましたね。栗栖弘臣。外国人みたいな姓でしたので、よく覚えています。もう30年位前のことでした。
田母神は、しきりに「自衛隊内の言論の自由」を言っていましたが、彼のような軍のトップに立つ人物が「自由」を唱える時、胡散臭さを感じざるを得ません。最高の「自由」とは、国家権力が市民を弾圧する「自由」ではないでしょうか。
つまりは、彼はかつての東條英機と同様、軍(自衛隊)という組織を通してしか、世界を見ることが出来なかったのですね。
彼が辞任に追い込まれたのは、「文民統制に触れる」とか「政府見解と異なる歴史観」が原因ではなく、論文中の日米開戦に触れた部分のせいではないでしょうか?アメリカ政府の怒りを買う内容でしたから、先手を打って辞任させたと見るべきでしょう。
2008.11.11 21:11 URL | ポンポ・ナイナイ #- [ 編集 ]
田母神さんが空幕長になれたこと、元首相たちの影響力だったらまだいいな、と思います。いえ、よくはないんですが。
でも、あんな田母神さんでもほかよりまだましだったからっていう理由かもしれないんです。
自衛官の知的水準は外部の想像より低いんです。
2008.11.11 21:45 URL | まえかけ #- [ 編集 ]
http://www8.atwiki.jp/mainichi-matome/
情報です。
2008.11.12 08:02 URL | 初心者 #- [ 編集 ]
まともな歴史研究でも政府公式見解でも講和条約でもはっきりと否定されているトンチンカンな妄想を、職務として隊員に教育したら、もはや言論の自由を逸脱した職権濫用ですね。歴史を偽造して教育する自由などもありませんし。
言論の自由を弾圧していた大日本帝国に憧れていて、自分も同じように言論の自由を弾圧したくてたまらない基地外ファシストが、何をほざいているのやら。馬鹿ウヨなら馬鹿ウヨらしく「日本国憲法の言論の自由なんて、そんなの関係ねぇー」と言えばいいのに。
「こうして思想信条に強い枠をはめるやり方は、一たび間違うとまったく危険な方向に行きかねない議論ではないでしょうか。」
「今回の定年退職という処分は妥当」
いや、そもそも戦後ドイツが作った反ナチス法に相当するものが日本にはないのが、おかしいというか危険な方向の元凶でしょう。ドイツ軍のトップが「第二次大戦は枢軸国の自衛戦争だった」「ユダヤ人虐殺はなかった」などともし言ったら、今回の日本の騒ぎどころではない大変なことになるし、定年退職なんかで済む訳ないのに。
2008.11.12 19:08 URL | Black Joker #RtNpiJ3M [ 編集 ]
小学校の頃ほんとうにとんでもない生徒がいた。
ファシストを地でいくというか、好戦的(書けない...略)で侮辱発言ばかり(養護学級の子をものすごい差別用語で罵倒してそれを学校中にひろめたりとか)しており、先生すら手のつけ様がないほどのマフィアぶりをすでに小学生にして発揮していた。
時は流れ、社会人になった頃、仕事の関係でその父親と出会った。まあ教育関係の仕事というか長年校長先生で生計をたててたことを知った。
校長の息子があの様子とは恐れ入った。
その父親曰く、うちのどうしようもないガキはいま自衛隊におる。そういうところしか務まらんだろう。
ということだった。
自衛隊とはまあ、そうところだ。
2008.11.13 01:24 URL | 昔の話 #3/2tU3w2 [ 編集 ]
トラックバックありがとうございます。
毎日jpの今日の論点にも採り上げられたのですがたった1日で削除されてしまいました。
それ程、おかしなことを書いたつもりはないので物凄い不可解です。
問い合わせたところ、システム上のエラーだったことが判明しホッとしました。
一時は外部からの圧力かと思ってしまいました。
2008.11.18 00:20 URL | シャルル #6ts//Qs. [ 編集 ]
このコメントは管理者の承認待ちです
2014.01.08 12:43 | # [ 編集 ]
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