ところで、新自由主義の時代は終わったといえそうだが、コイズミ的な劇場政治の時代は全然終わっていないらしい。昨今の橋下徹に対する異様な支持の高さを見ていて、ことの重大さに勘の鈍い私もようやく気づいた。うかつにも、あんなやつを支持するのは、かつて横山ノックを二度選んだ大阪府民くらいのものだろうと見くびっていたのだが、なんのなんの、今の橋下は大阪でなくてもどこに行っても支持を集めそうだ。そういえば、宮崎県民も東国原英夫を支持している。閉塞状況の中、「強い指導力」を持って、「既成の権威」と戦うヒーローを、多くの人たちは欲している。その正体がどんな化け物であっても。
私学助成金削減めぐり橋下が大阪府の私立高校生たちと意見交換会を開き、橋下が「日本は自己責任が原則、あなたたちは自分で私立高校を選んだんでしょう」とほざいた醜悪なニュースは、FNNのサイトで動画を見ることができるが、腹の底からこみ上げる激しい怒りを抑えるのに苦しむほどひどいものだ。ところが、ネットを見回してみると、あれほどめちゃくちゃな橋下の言い分を支持するブログがたくさん見つかって、ひどい頭痛がした。それも、それらブログの著者は、何も大阪府民に限らないようなのだ。まるで「橋下バブル」だ、私はそう思った。アメリカでITバブルが弾けたあと住宅バブルが生成したように、「コイズミバブル」が弾けたら「橋下バブル」が生成したかのようだ。
とりわけ私が愕然としたのは、直接意見交換会の件に触れたものではないが、「Chikirinの日記」という、初めて知るブログに掲載された「橋下知事を叩くということ」というエントリで、「橋下を叩くマスコミ」対「橋下を支持するネット言論」というありもしない構図を勝手に仮定して、団塊世代前後の既得権を代表する前者を後者がぶっ壊す絵を描いている。
まさに、「自民党をぶっ壊す」と叫んだコイズミに対する熱狂をなぞるような、ステレオタイプそのものの主張なのだが、この劣悪極まりないエントリについた300件以上の「はてなブックマーク」のコメントの多くがエントリを支持するもので、「これはひどい」というタグが、私が見た時にはわずか5件しかついていなかったことには腰を抜かすほど驚いた。あんなにミエミエの橋下のアジテーションに簡単に乗ってしまうブログ主や、橋下やブログ主に簡単になびく多くの読者。ポピュリズムを克服するための道のりは果てしなく長い、そう思わされた。だいいち、ブログ主が主張するような「経験の浅さ」を論拠にして橋下を叩いている人間などどこにもいないし、そもそも、数少ないまともな「はてブコメント」が指摘しているように、「橋下氏を持ち上げたのは、関西ローカルの地上波テレビと言うマスコミの力」であって、「世代論からすると、知事の支持者ってネットよりもテレビを信頼するオバさんオジさん層」が橋下を熱狂的に支持しているのである。現に、昨夜放送された久米宏と八木亜希子(懐かしい!)がやっているTBS系の番組は、初めて見たのだが大阪・毎日放送が制作しているらしく、橋下に対する論評は橋下寄りの甘いもので、綾戸智恵なるオバハンに「周りで橋下を批判している人はいない」としゃべらせていた。既得権益につながったマスコミが改革者・橋下を叩く構図などどこにも見られなかったのである。この番組一つをとってみても、Chikirinなる人物のエントリがあさっての方向を向いた的外れな妄論であることがよくわかるだろう。
でも昨日は、失望させられる一方ではなく、橋下の本質を鋭く突いたエントリも見つけた。「kom’s log」の10月27日付エントリ「ボクタチの闘争」である。
この人間が考えているのは競争だ。しかもその頭にあるのは、自分を競争という闘争の場から一歩引いて競争とはなにか、競争はこの場面においてあるべきか、といった思想ではない。本人がたとえば目の前にいる高校生と競争しているのである。あらゆる場面においてこの人間には勝つかまけるか、しかない。
(「kom’s log」 2008年10月27日 「ボクタチの闘争」より)
この指摘には感嘆した。Chikirin氏の「橋下知事を叩くということ」との落差の大きさに目が眩む。
さらに読み進むと、
という指摘に続いて、「文革2008」という、個人的に懐かしいタグの話が出てきた。さらに、辺見庸が先週土曜日(10月25日)に大阪で行われた講演会で、国家社会主義の再来に警鐘を鳴らしたことを紹介した当ブログ10月27日付エントリにリンクが張られているのを見つけて、おおっ、と思ってしまった。というのは、辺見さんの講演会を聴いたあと、それを紹介した文章を書きながら、全体主義につながるものとして、「左のほうの水伝騒動」における「共感派」のことを思い出していたからである。「共感」を重んじる優しそうな彼らが、騒動の初期において異分子を排除しようとした行動を、私は忘れていない。万人の万人に対する闘争=平等原理は跋扈している
エントリは、
と結ばれる。これは、辺見庸が講演会で言っていた、「同じ人間だろ」といわれたら断固否定せよ。「わかるだろ」としなだれかかられたら拒否せよ。あるいは「ボクらはみんな闘っている」といわれたら却下せよ。ただ、わたしは違う、と。
という言葉とみごとに対応する。人民、大衆、市民という括り方を止めた方が良い。一人になれ。離脱せよ。
読んでいてこれほど感嘆させられるエントリは、滅多にあるものではない。下記にもう一度リンク先を示すので、読者の方々には、是非リンク先に飛んで全文をお読みいただきたいと強く希望する。
http://d.hatena.ne.jp/kmiura/20081027#p1
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まったく大阪府にとんでもない知事が現れたものですね。「強いリーダーシップ」と書けば聞こえはいいが、反対者を有無を言わさず権力で踏みにじる強権府政です。
だけど、もっと深刻に考えなければならないのは、彼を多くの大阪府民、さらには日本国民が極めて熱狂的に支持しているということです。これは決して、大阪府の強権府政を、ただ単純に支持しているのではなく、橋下徹がトップだから支持しているのです。ご指摘のように、閉塞感の漂う時代には、人々は「強力な指導力を持った」リーダーを待望するのですね。「ファシズムは民衆の支持がなければ成立しない。」とはよく聞く言葉ですが、さながら現在の大阪府政を言っているようです。
コイズミ政権の時は、彼の大きな肖像写真が、永田町の自民党本部のビルに掛かっていました。あの風景をテレビで見て、おぞましさに寒気がしました。思わずピョンヤン市内の映像を思い出しました(笑)。大阪府庁に橋下徹の肖像写真が掲げられる日が、果たして来るのでしょうか?
さらに、私は恐れていることがあるのです。「そんはアホな!」と笑わないで下さい!それはもしも将来、まだ自民党政権が存続していたら、大阪府での「実績」を認められて、彼が国政にデビューするのではないかということです。今のままの「人気」が維持されると、首相の座に押される可能性も無きにしもあらずだと考えます。
彼が例の口調で、朝鮮民主主義人民共和国やキム・ジョンイル総書記を攻撃すれば、民衆は熱狂し、拍手喝采するのではないかと憂慮します。そのような状況は、「ネオファシズム」とでも言えるものでしょう。
そんな事態は考えたくもありません。
2008.10.30 22:15 URL | ポンポ・ナイナイ #- [ 編集 ]
ポンポさん
当然橋下知事は国政を視野に入れていると思います。
>それはもしも将来、まだ自民党政権が存続していたら
ただこういう仮定は無意味でしょう。数年後の政党の枠組みや色合いなんて今とはまるで違ったものになっているでしょうから、どこが政権をとっていようと「実績」を上げた橋下が国政で引っ張りだこになる可能性は高いと思います。知事や主要自治体の若手首長はみんな国政に帰りたいと思っているでしょうしね。
2008.10.31 03:35 URL | 毎日枚 #- [ 編集 ]
毎日枚様
私のコメントに対してのコメント、ありがとうございました。
確かに今から数年後の政党の合従連衡なんかわかりません。しかしあくまで、「今」の時点から推測した将来の見通しについて述べてみたのです。彼は自民党の推薦で知事に当選したので、将来の国政入りは自民党からなな?と、ごく単純に思っただけです。
しかしもう一つの「今」では、彼は民主党の政策に共感を示しているとも聞いていますので、自民党を見限って民主党に属することになるかも知れません。
国政に出ると、コイズミの再来になるような、そんな予感を感じています。コイズミによく似た空気が彼にはあります。(誉めているのではありません!念の為。)
2008.10.31 07:20 URL | ポンポ・ナイナイ #- [ 編集 ]
この記事はあなたの感情的な橋下氏への嫌悪感のみで、橋下氏への論理的な批判が見当たらないのは気のせいか?
あなたからしてみれば自己責任、競争原理といったことばは弱者を見捨てる鬼畜のような言葉に過ぎないかもしれないが、ただそれが気にいらないだけで橋下氏を批判しているのはどうなのか。もしあなたが右寄りの思想が気に入らないのなら、それは橋下氏を批判するのではなくその思想自体に建設的な批判をしてもらいたい。
ちなみに勘違いしないでほしいが私は左寄りの思想を持っている。ただあなたの記事の書き方が気に入らないので言わせてもらった。
2008.11.23 18:50 URL | 大学生 #mQop/nM. [ 編集 ]
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橋下知事が高校生を論破?
橋下知事が私学助成金削減に反対する高校生を論破しました。 ということだが、やっぱ
2008.10.30 22:42 | くろつやむしの休日