その1994年の10月8日に、中日との最終戦に勝った巨人が優勝した。視聴率は、関東で48.8%、名古屋では54%を記録した。かつては、多くの国民がプロ野球に熱中していた。歴代の視聴率記録を見ると、王貞治の本塁打の記録がかかった試合やダーティーといわれた巨人の江川卓が初登板した試合、セ・リーグの中日と巨人の優勝争い(1982年)やパ・リーグで近鉄が勝てば優勝という最終戦で引き分けて優勝を逃した「10・19」の試合(1988年)、それに関西では1985年に阪神が21年ぶりの優勝を決めた試合などがリストに上がっている。1988年の「10・19」は、神奈川の川崎球場で行われた試合を大阪の朝日放送が中継し、試合は夜10時を超えて続き、「ニュースステーション」の枠で放送された。あの頃、プロ野球の優勝争いは国民的な関心事だったが、ドラマを見たい視聴者からは、プロ野球中継の放送時間が延長されてドラマの録画に支障が生じると不評を買ってもいた。
14年前と同じ、同率首位の直接対決となった昨夜の巨人?阪神戦は、巨人が勝って残り3試合でマジック「2」を点灯させた。私も見ていたが、14年前や「メークドラマ」の12年前のように怒りが煮えたぎる(私はアンチ巨人なので)こともなく、自分でも意外だった。そもそも、プロ野球の生中継を見るのは今年3試合目くらいだ。番組の延長も、かつてと違って15分しかなく、そのまま結果を調べようとする気も起きず、疲れが出て寝てしまった。深夜目が覚めてまずやったことは、NYダウ値動きの確認だったから、関心事の優先順位も昔とは様変わりしてしまった。巨人?阪神戦の結果はそのあと確認した。
私がプロ野球に興味を持つようになった頃は、長嶋茂雄は現役だったが、既に衰えていたので、熱烈な長嶋ファンの気持ちは私にはわからない。だが、王貞治は全盛期だった。王は、阪神ファンやアンチ巨人ファンからも尊敬されていた選手で、1977年にハンク・アーロンの本塁打記録を破った時は、同級生の阪神ファンも近鉄ファンも王を応援していた(この年は巨人が独走していたせいもある)。その後、王が巨人の監督になった時は、「巨人は常勝を宿命づけられている」などと言って、眉間にしわを寄せては采配ミスを繰り返したので、アンチ巨人ファンに喜ばれ、マスコミや巨人ファンは王をクソミソにけなしていたが、長嶋が巨人の監督に復帰し、王がダイエーの監督になってからしばらくは、マスコミは王のことは何も言わなくなり、「10・8の決戦(前述の1994年の巨人と中日の同率首位最終戦直接対決)は国民的行事だ」とか、「メークドラマ」(1996年の巨人の逆転優勝)など、長嶋巨人のことばかり大騒ぎしていた。
そもそも、アンチ巨人史観に基づいて日本プロ野球史を記述すると、1992年のシーズンオフにおける長嶋茂雄の巨人監督復帰は、読売新聞の渡邉恒雄(ナベツネ)が「読売一球団支配」の野望を達成するための「禁断の一手」だった。当時からそう論評されていたし、事実その通りになった。ナベツネは、サッカー界をも支配しようとしたが、そちらでは逆に排斥される結果になった。
ナベツネは、1978年の「江川事件」にも深くかかわっていたことが、当時の読売新聞記者によって証言されているが(確か数ヶ月前の「世界」に出ていたと思う)、ナベツネによって読売新聞の社史はねじ曲げられているとのことだ。そのナベツネが、読売新聞の社長に就任したあと、故務台光雄会長の死後1年半経って、プロ野球界支配に乗り出したのだが、その時に打った最初の一手が長嶋茂雄監督の復帰であり、ナベツネはさらにフリーエージェント(FA)制と逆指名制を導入した。私はこれを、プロ野球界の「新自由主義的改革」と位置づけている。前者のFA制は、プロ野球選手会も要望していたことだが、読売の利益にもかなっていた。これ以降、金のある球団でなければ優勝は難しい時代になった。90年代初め頃のセ・リーグは広島とヤクルトが強かったが、ナベツネによるカイカク以後、巨人と中日が強くなった。広島は勝てなくなったが、ヤクルトの野村監督は、「弱者の戦略」で巨人に対抗した。さらに読売は、ライバル球団・阪神にも目をつけ、1997年頃からNHKなども引き入れて、阪神をアピールするプロジェクトも始まった。日本テレビが東京ドームの巨人戦を放送している時間帯に、NHK-BSが毎晩のように甲子園球場の阪神戦を放送するようになった。
しかし、どんなにFAと逆指名で戦力を膨れ上がらせても、長嶋巨人はなかなか勝てなかった。94年も96年も、戦力的には巨人が飛びぬけていたが、94年は後半戦、96年は前半戦にチーム力を活かせず勝てなかっただけの話だ。それが「最終戦決戦」や「メークドラマ」になったもので、(巨人にとっての)結果オーライに過ぎない。巨人人気の最後の花が、2000年の「ON対決」だったが、日本シリーズの最初の試合で長嶋は継投に失敗し、観戦に来ていたナベツネを激怒させた。しかし、3戦目以降の4試合は、監督采配不要の圧勝続きで、ついにナベツネの描いたシナリオ通り、「ON対決」をNが制したのだ。だが、この頃既にプロ野球中継の視聴率低下が話題となっており、特にシドニー五輪期間中には巨人戦の視聴率が大きく落ち込んだ。
2002年に星野仙一が阪神の監督に就任して以来、セ・リーグは「巨人・阪神・中日」の金満3球団とそれ以外の3球団の格差が広がった。2003年の阪神優勝で、関西は大きく盛り上がったが、2004年からまたプロ野球人気はジリ貧になった。さらに、ナベツネは、パ・リーグを巻き込んで球界再編を仕掛けたが、これが決定的にプロ野球の人気を下げた。ついにゴールデンタイムからの巨人戦中継の撤退が始まり、今では巨人戦は相手球団主催のゲームは全国中継されない。甲子園球場の阪神?巨人戦も、関西ローカル番組になってしまっていて、地方局は中継しない(首都圏はどうだか知らないが、たぶん放送していないと思う。そうでなければ地方局が番組のネットを受けられないからだ)。東京ドームで行われる巨人のホームゲームも、日本テレビ系の中継はあったりなかったりだし、デーゲーム中継は地方局はネットせず、関東ローカルになっているはずだ。私も、先にも書いたように今年のプロ野球中継は3試合ほどを見ただけだ。
これは、プロ野球という娯楽が、かつてのプロレスや大相撲同様、国民的関心事ではなくなり、歴史的役割を終えただけのことともいえる。そもそも、野球はアメリカのスポーツであり、投手の負担が他のポジションの選手に比べて飛びぬけて重く、バランスの良い競技とはいえない。そして、アメリカは占領政策において、アメリカ的文化を日本に浸透させるために野球を利用した面は確かにある。日本プロ野球の父といわれる正力松太郎がCIAのエージェントだったことは、公開された機密文書によって明らかにされている。そして、いまや長年に及んだアメリカの覇権が崩れ去ろうとしている時代だ。そんなことが頭に浮かぶと、かつてのようにプロ野球に熱中する気持ちにはなれないのである。
ただ、昨日の巨人?阪神戦は、阪神が勝った方が日本経済にとっては良かった。いまや、巨人より阪神の方が人気が高く、阪神が優勝すると関西に経済効果が生まれるからだ。もっとも、阪神が2位に終わっても、クライマックス・シリーズ(CS)の第1ステージで阪神が中日を破れば、再び巨人との決戦だ。
だが、そうなっても今度は中継を見る気にはならないだろう。リーグ優勝のチームに1勝のアドバンテージがついた上、そのチームのホームゲームだけで最大6試合も行われるシステムは、バランスが悪すぎてちっとも面白くない。それでも、試合間隔が開いてゲーム勘を取り戻せない首位チームが、第1ステージで弾みをつけた挑戦者に敗れることはしばしばあるし、昨年の巨人はまさにその実例だったが、「地の利と1勝分のアドバンテージ」対「ゲーム勘と勝ち上がった勢い」の対決というのも、どこかピントがずれているように思える。
仮に、CSの第1ステージで阪神がリーグ戦でカモにした中日に敗れるようなことがあったら、制度自体への批判が高まり、プロ野球再編の第二幕が始まるような気もする。いや、CSが順当な結果に終わっても再編は起こりそうだ。セ・リーグでは川上(中日)や上原(巨人)のFA宣言によるMLB移籍が予想されているし、ダルビッシュ有(日本ハム)や「マー君」田中(楽天)など、パ・リーグの方が集客能力のある選手が多い。本拠地も、首都圏に3球団が集中するセ・リーグより、北海道、東北、九州に人気球団を持つパ・リーグの方がよく地方に分散している。これをナベツネが見逃すはずがない。
もっとも、今はプロ野球よりも政界再編の方にナベツネがご執心なのは間違いないから、すぐにはプロ野球再編は動き出さない可能性が高い。総選挙のあと、民意に反した政界再編が行われる可能性はかなり高いと私は覚悟しているが、それが終わったら、ナベツネは再び球界再編に手をつけるのではないかと私は予想している。
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野球で思い出しましたが、数年前、ゴミズミとブチュが、にやけながらキャッチボールをやっている映像や画像がマズイメデイアを賑わせていました。
米大リーグブームを仕掛けることによって日米安保条約をより強固なものにしようとしたたくらみの一環ですね。
その当時日本側でその担い手の役割を引き受け持ったのは悪名高いエビが率いていたN○Kっていうことか。
2008.10.09 10:18 URL | #& #sSHoJftA [ 編集 ]
FA制度と逆指名制度の導入が、プロ野球の新自由主義的改革とは言い得て妙ですね。この制度をフルに活用して、読売ジャイアンツが、他チームの主力プレイヤーをカネで獲得していったのはよく知られているところです。
しかし皮肉なもので、日本のプロ野球界も、ベースボール発祥の地であるアメリカのメイジャーリーグにへと、プレイヤーが流出しています。痛快(?)だったのは、ジャイアンツの当時の4番打者だった松井秀喜がニューヨーク・ヤンキースに移籍したことです。分からないのは、日本のプロ野球から出て行った松井の活躍を、読売新聞、スポーツ報知、日本テレビが何の抵抗もなく伝えていることです。
今や日本のプロ野球界はアメリカのメイジャーリーグのマイナーリーグと化したと言ってもいいように思います。頑迷な日本プロ野球機構やマスメディアにとっては、この指摘は禁句なんでしょうね。
しかし、現在のマスメディアのメイジヤャ-リーグ報道のあり方には、大いに疑問があります。もういい加減に「日本人」を強調することは止めるべきです。
ところで、日本プロ野球機構と、読売ジャイアンツとの関係は、国際連合とアメリカ合衆国政府との関係に似ていますね。
2008.10.09 13:08 URL | ポンポ・ナイナイ #- [ 編集 ]
読売グループは、松井秀喜を引き止められないと悟るや、一転してMLBを商売に利用する道を選びましたね。2004年のヤンキース対デビルレイズや、今年のレッドソックス対アスレチックスの開幕戦が東京ドームで行われましたが、いずれも読売新聞社の主催です。
2008.10.10 23:30 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]
本来は、万年Bクラスでありながら人気球団であった阪神が、巨人のむやみやたらな補強に待ったをかけなきゃいけなかったんだと思います。たとえば完全ウェーバー制のような戦力均衡を図る制度の導入を、弱いチームの苦しさを存分に知っていた阪神こそが、あの球界再編の時期に中心になって進めればよかった。しかし実際はそうではなくて、巨人と同じように補強合戦を繰り広げ、マネーゲームに参戦してしまっている。巨人と同じように資金力のない弱いチームを踏みつける側にまわってしまった。その行き着く先が今年のペナントレースだったと思います。
2008.10.11 09:55 URL | れおな #- [ 編集 ]
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