麻生太郎内閣が発足した。
これで3年連続の9月下旬の新内閣の発足だ。一昨年、安倍晋三内閣が発足した時、たまたま私は日本にいなかった。当時、海外で書いた何本かの記事を読み直すと、わざと安倍内閣発足と直接関係しない話題を取り上げていた。だが、内心は、この内閣だけは絶対に許さないと、怒りに燃えていた。
昨年の福田内閣発足の時には、新政権を批判するというより、最低最悪だった安倍政権が倒れてほっとしていた。そんな中、「渡辺治氏「新政権、本当の課題」(日経BP)より」と題したエントリで、「新自由主義」と「新保守主義」の狭間で、立ち尽くしてしまったことが安倍の失敗の本質だと指摘した渡辺治氏の論考を紹介した。
それから1年、渡辺氏は「新政権、求められる構造改革と“軍事大国化”」という論考を発表している。
アメリカは、従来同様日本に対して構造改革(新自由主義改革)と軍事大国化を求めてくるだろうが、それに対して、自民党や民主党はどう対応するだろうか、と論じている。本エントリではこの論考を紹介したい。
1995年に日経連の報告書「新時代の日本的経営」が出されて以来、1997年から2006年までの10年間に、なんと500万人の正規雇用が消えて、非正規雇用が増えた。渡辺氏は、「こんなことは世界恐慌や戦争時ならともかく、平時にはあり得ないことです。こうした大規模な手術を小泉政権はやったのです」と指摘している。実際には、橋本政権や小渕政権の頃から進んできた流れを一気に加速させたのがコイズミであって、これこそが「痛みを伴う改革」の正体だった。
国内の世論は、徐々に「カイカク」に対して懐疑的な意見が増え、安全保障政策でも安倍政権時代の急進的な改憲志向の政策は支持されず、憲法改正に対して「反対」の意見が「賛成」を上回るようになった。
民主党の小沢一郎は農家の戸別所得補償(これは「世界」掲載の論文で、渡辺氏も高く評価していた)を言い出したし、麻生太郎も地方重視を唱える。それに対して、小池百合子前防衛大臣らは基本的に総裁選に勝つ気はなかったから、財界や米国の圧力を念頭に置いて「コイズミカイカクの継承」などと言っていた。つまり、コイケは国民にではなく財界やアメリカに媚びを売っていたということだ。
渡辺氏は、総選挙のあとの政局を予想している。当然ながら、与党と民主党のどちらが勝つかで流れは異なる。
自公が勝った場合は、確実に参議院の改変が起きるという。衆院選で政権を確保したら、最初にテロ新法、次に構造改革の手当てのため公約した緊急経済対策を進めなければならず、そうなると財源の問題が出るので、税制改革の必要が生じる。だから、自公が勝った場合は、参議院を改革して民主党を割り、とにかく衆参両院で多数派を作って突破するだろうと渡辺氏は予想するのだ。これは、説得力のある見方で、間違いなく起きる事態だと思う。民主党の応援団ともいえる朝日新聞も、衆院選で民主党が負けたら、対決路線を続けるな、と以前社説で主張していた。
民主党が勝ち、なおかつ過半数を取れない場合は、公明党に手を突っ込むか、それか社民と共産を引っぱってくるかのいずれかになるが、公明に手を突っ込む方が簡単だと渡辺氏は指摘する。公明党自身が、自民と民主の勝ったほうにくっつこうと考えているのだから当然のことだ。
民主党は、経済政策についても、自衛隊の海外派遣の恒久法についても党内で議論していない。そもそも代表選をやらなかったのは、やってしまって議論になると衆院選を戦えないので蓋をするしかなかった、民主党政権になれば、福田康夫政権が抱えた以上の問題を抱える、なぜなら、民主党は去年の参院選で、反構造改革、反大国化の旗を掲げて支持された面があるからだと渡辺氏は言う。
アメリカと財界の要求に応じなければならなかった小沢一郎としては、いつかは旗印を変える必要があり、未遂に終わった昨年の大連立構想にはその狙いがあったのだが、民主党が言うことを聞かなかったので、衆院選まで旗印を変えることはできなかった。これも説得力のある論考だ。
さらに、民主党も麻生太郎も唱える、アメリカや財界が嫌うところの「バラマキ」の話に移り、古い自民党利益誘導政治のバラマキと、福祉国家型のバラマキの違いに注意を喚起する。麻生太郎のバラマキは前者だが、道路や箱物では傷んだ地方の農業や漁業は再生できない。渡辺氏は、福祉国家型の政治は可能だと考えている。
渡辺氏は、地域的な経済圏の必要性を主張している。EUが成功したのは、新自由主義改革を行う以前の福祉国家のセーフティーネットが残っているからだというが、これは多くの論者が指摘していることだ。渡辺氏は、東アジアでの経済圏を構築を提唱している。安全保障の問題や外交、民主主義の問題も地域的な統合の中で解決し、そのためには中国や北朝鮮も市場に組み込むしかないと主張する。
論考で渡辺氏が主張するような舵取りは、もちろん麻生太郎にはできない。過去の実績を見ると、小沢一郎にもどこまでできるかは疑わしいと私は思っているが、少なくとも自民党政権ではお話にならない。アメリカや財界の圧力に対抗するのは、日本国民の世論でなければならない。そして、総選挙で昨年の参院選同様、自民党を完膚なきまでに叩きのめして初めて、財界やアメリカの圧力に対抗することができるのではないかと思う。民主党を中心とした連立政権が成立したら、政権首脳たちには、財界やアメリカの圧力と国民の声の板挟みになって、夜も眠れない思いをしていただこうではないか。そもそも、日本に新自由主義改革を求めているアメリカ自体、金融機関への大がかりな公的資金投入などによって、新自由主義政策を急激に改めつつある。そんな時代に、「コイズミカイカクの継承」だとか「日本経済がよくならないのは、カイカクが進んでいないからだ」などと寝言をほざく政治家たちには、即刻退場していただきたいものである。
最後に、11月2日投票が最有力視される総選挙における投票行動についての私の意見だが、まずは自民党を負かすことが第一で、小選挙区では勝てそうな野党候補に投票する、比例区では好きな政党に投票するというパターンが好ましいと思う。但し、民主党の候補が自民党の候補よりネオコン・ネオリベの程度がひどい場合は、この限りではない。また、比例区では野党票をあまりに民主党に集中させない方が良いと思う。社民党か共産党かということになると、社民党は連立政権に加わる可能性がかなり高いが、共産党は野党として左から連立政権を批判する可能性が高いことが判断材料になる。ずるい書き方だが、私は社民・共産両党の党勢拡大を期待している。しかし、実際には共産党がかなり得票を増やし、社民党の党勢はほとんど変わらないのではないかと予想している。保守の方であれば国民新党を選択するという手もあるだろう。とにかく、自民党を政権から引きずりおろしたあとは、民主党のネオコン化・ネオリベ化を防がなければならず、そこまで念頭に置いた投票行動をしたいものだ。
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これで3年連続の9月下旬の新内閣の発足だ。一昨年、安倍晋三内閣が発足した時、たまたま私は日本にいなかった。当時、海外で書いた何本かの記事を読み直すと、わざと安倍内閣発足と直接関係しない話題を取り上げていた。だが、内心は、この内閣だけは絶対に許さないと、怒りに燃えていた。
昨年の福田内閣発足の時には、新政権を批判するというより、最低最悪だった安倍政権が倒れてほっとしていた。そんな中、「渡辺治氏「新政権、本当の課題」(日経BP)より」と題したエントリで、「新自由主義」と「新保守主義」の狭間で、立ち尽くしてしまったことが安倍の失敗の本質だと指摘した渡辺治氏の論考を紹介した。
それから1年、渡辺氏は「新政権、求められる構造改革と“軍事大国化”」という論考を発表している。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20080919/171080/
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20080922/171276/
アメリカは、従来同様日本に対して構造改革(新自由主義改革)と軍事大国化を求めてくるだろうが、それに対して、自民党や民主党はどう対応するだろうか、と論じている。本エントリではこの論考を紹介したい。
1995年に日経連の報告書「新時代の日本的経営」が出されて以来、1997年から2006年までの10年間に、なんと500万人の正規雇用が消えて、非正規雇用が増えた。渡辺氏は、「こんなことは世界恐慌や戦争時ならともかく、平時にはあり得ないことです。こうした大規模な手術を小泉政権はやったのです」と指摘している。実際には、橋本政権や小渕政権の頃から進んできた流れを一気に加速させたのがコイズミであって、これこそが「痛みを伴う改革」の正体だった。
国内の世論は、徐々に「カイカク」に対して懐疑的な意見が増え、安全保障政策でも安倍政権時代の急進的な改憲志向の政策は支持されず、憲法改正に対して「反対」の意見が「賛成」を上回るようになった。
民主党の小沢一郎は農家の戸別所得補償(これは「世界」掲載の論文で、渡辺氏も高く評価していた)を言い出したし、麻生太郎も地方重視を唱える。それに対して、小池百合子前防衛大臣らは基本的に総裁選に勝つ気はなかったから、財界や米国の圧力を念頭に置いて「コイズミカイカクの継承」などと言っていた。つまり、コイケは国民にではなく財界やアメリカに媚びを売っていたということだ。
渡辺氏は、総選挙のあとの政局を予想している。当然ながら、与党と民主党のどちらが勝つかで流れは異なる。
自公が勝った場合は、確実に参議院の改変が起きるという。衆院選で政権を確保したら、最初にテロ新法、次に構造改革の手当てのため公約した緊急経済対策を進めなければならず、そうなると財源の問題が出るので、税制改革の必要が生じる。だから、自公が勝った場合は、参議院を改革して民主党を割り、とにかく衆参両院で多数派を作って突破するだろうと渡辺氏は予想するのだ。これは、説得力のある見方で、間違いなく起きる事態だと思う。民主党の応援団ともいえる朝日新聞も、衆院選で民主党が負けたら、対決路線を続けるな、と以前社説で主張していた。
民主党が勝ち、なおかつ過半数を取れない場合は、公明党に手を突っ込むか、それか社民と共産を引っぱってくるかのいずれかになるが、公明に手を突っ込む方が簡単だと渡辺氏は指摘する。公明党自身が、自民と民主の勝ったほうにくっつこうと考えているのだから当然のことだ。
民主党は、経済政策についても、自衛隊の海外派遣の恒久法についても党内で議論していない。そもそも代表選をやらなかったのは、やってしまって議論になると衆院選を戦えないので蓋をするしかなかった、民主党政権になれば、福田康夫政権が抱えた以上の問題を抱える、なぜなら、民主党は去年の参院選で、反構造改革、反大国化の旗を掲げて支持された面があるからだと渡辺氏は言う。
アメリカと財界の要求に応じなければならなかった小沢一郎としては、いつかは旗印を変える必要があり、未遂に終わった昨年の大連立構想にはその狙いがあったのだが、民主党が言うことを聞かなかったので、衆院選まで旗印を変えることはできなかった。これも説得力のある論考だ。
さらに、民主党も麻生太郎も唱える、アメリカや財界が嫌うところの「バラマキ」の話に移り、古い自民党利益誘導政治のバラマキと、福祉国家型のバラマキの違いに注意を喚起する。麻生太郎のバラマキは前者だが、道路や箱物では傷んだ地方の農業や漁業は再生できない。渡辺氏は、福祉国家型の政治は可能だと考えている。
渡辺氏は、地域的な経済圏の必要性を主張している。EUが成功したのは、新自由主義改革を行う以前の福祉国家のセーフティーネットが残っているからだというが、これは多くの論者が指摘していることだ。渡辺氏は、東アジアでの経済圏を構築を提唱している。安全保障の問題や外交、民主主義の問題も地域的な統合の中で解決し、そのためには中国や北朝鮮も市場に組み込むしかないと主張する。
論考で渡辺氏が主張するような舵取りは、もちろん麻生太郎にはできない。過去の実績を見ると、小沢一郎にもどこまでできるかは疑わしいと私は思っているが、少なくとも自民党政権ではお話にならない。アメリカや財界の圧力に対抗するのは、日本国民の世論でなければならない。そして、総選挙で昨年の参院選同様、自民党を完膚なきまでに叩きのめして初めて、財界やアメリカの圧力に対抗することができるのではないかと思う。民主党を中心とした連立政権が成立したら、政権首脳たちには、財界やアメリカの圧力と国民の声の板挟みになって、夜も眠れない思いをしていただこうではないか。そもそも、日本に新自由主義改革を求めているアメリカ自体、金融機関への大がかりな公的資金投入などによって、新自由主義政策を急激に改めつつある。そんな時代に、「コイズミカイカクの継承」だとか「日本経済がよくならないのは、カイカクが進んでいないからだ」などと寝言をほざく政治家たちには、即刻退場していただきたいものである。
最後に、11月2日投票が最有力視される総選挙における投票行動についての私の意見だが、まずは自民党を負かすことが第一で、小選挙区では勝てそうな野党候補に投票する、比例区では好きな政党に投票するというパターンが好ましいと思う。但し、民主党の候補が自民党の候補よりネオコン・ネオリベの程度がひどい場合は、この限りではない。また、比例区では野党票をあまりに民主党に集中させない方が良いと思う。社民党か共産党かということになると、社民党は連立政権に加わる可能性がかなり高いが、共産党は野党として左から連立政権を批判する可能性が高いことが判断材料になる。ずるい書き方だが、私は社民・共産両党の党勢拡大を期待している。しかし、実際には共産党がかなり得票を増やし、社民党の党勢はほとんど変わらないのではないかと予想している。保守の方であれば国民新党を選択するという手もあるだろう。とにかく、自民党を政権から引きずりおろしたあとは、民主党のネオコン化・ネオリベ化を防がなければならず、そこまで念頭に置いた投票行動をしたいものだ。
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遅れたコメントでごめんなさい。渡辺治氏の小沢一郎論は、日本においてはほとんど稀有の優れたものと思います。確かに政治はよりマシなものを求めた戦いであって、政権交代による癒着の断ち切りに意義はあるでしょうが、小沢一郎という人の行動を見る限り、勝てば勝つほど彼が従来から信奉してきた自由主義路線への「回帰」を果たすような気がします。アフガン派兵は論外ですが、お互いに行政改革を競うような現状に暗澹とせざるを得ません。渡辺氏は民主が勝った場合。公明党に手を出すといいますが、むしろ党内左派を切って自民党に手を出すのではないでしょうか。参院選後、「総選挙前は自民党とは組まない」と小沢が言っていた(にもかかわらず大連立に走ったのですが)談話が新聞にのっていましたし。
公明党に疑念はありますが、むしろ共産、公明、社民に民主党の一部の良識派あたりの組んだ第三極が出てこないあたりが、左派の弱さであり暗澹とした気分です。
2008.10.02 19:19 URL | としお #VWFaYlLU [ 編集 ]
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