だが、私は3年前と今年は違うと思う。3年前は、コイズミが誰も想像し得ない大博打を打って、それがまんまと当たった。しかし、今年は自民党の狙いがあまりに見え透いていて、意外感が全くないのである。
私も、今の状況に既視感を覚えるが、3年前ではなく5年前の2003年を思い出している。この年は、森内閣当時の2000年6月の総選挙から3年を経過し、解散ムードが徐々に高まってきて、夏頃には「11月9日総選挙」が囁かれるようになっていた。面白いことに、5年前は今年と暦が同じなのだ(3月1日以降。今年はうるう年なので、1月と2月は暦が1日ずれている)。
この年は、総選挙に向けた民主党と自由党の合流があり、このタイミングに自民党は総裁選に続くコイズミ再改造内閣の発足をぶつけた。この時の自民党の切り札は、コクミンテキニンキが高いとされていた安倍晋三の幹事長抜擢であり、自民党は「安倍幹事長効果」で支持率の浮揚と総選挙の勝利を狙った。
この内閣改造は、コイズミ内閣の支持率を急上昇させた。朝日新聞調査では49%から59%に、毎日新聞調査では54%から65%に、日経新聞調査では45%から実に65%に、それぞれ大幅な支持率の伸びを見せた(下記URLを参照した)。
http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/sijiriotu.htm
この年は、自民党総裁選が9月8日告示、20日投開票。コイズミに対し、積極財政派が三分裂したこともあって、選挙はコイズミの圧勝(今年は、山本一太と棚橋泰文が撤退してもなおカイカク派が三分裂しており、ちょうど逆のケース)。コイズミ再改造内閣は9月22日発足だった。ここで安倍晋三を自民党幹事長に起用し、内閣支持率も大幅にアップさせた。コイズミ内閣発足後、大きく値を下げていた株価も、この年4月を底に、上昇に転じていた。森内閣よりはるかに人気の高いコイズミ内閣で、自民党は議席を大幅に増やすはずだった。
しかし、自民党はこの年11月9日の総選挙で、議席を減らしてしまったのである。獲得議席数は自民党237議席、民主党177議席。出口調査では、民主党が自民党に迫る議席を獲得する見込みと報じられ、緊張が走ったが、いざ開票してみると、自民党が意外と粘り、議席減を小幅にとどめたのだった。
この年、これだけ自民党がメディア対策を行いながら総選挙に敗れたことは、実はこの頃既に、「カイカク」という名の新自由主義政策に国民が疑問を抱くようになったことを意味すると私は考えている。翌2004年の参院選でも、獲得議席数は民主党50議席、自民党49議席で、前年の衆院選に続いて自民党は敗北し、役立たずであることが明らかになった安倍晋三は、幹事長の職を解かれたのである。
コイズミがこの状況を打開するには、切り札を切るしかなかった。それが2005年の郵政解散・総選挙であり、この時の指導者の狂気が国民を惑わせてしまい、とんでもない国難を招いてしまったと私は考えている。
実際の時代の流れは、03年衆院選と04年参院選の延長線上、すなわち自民党の党勢の漸減にある。昨年の参院選は、国民生活の困窮を無視してひたすら改憲指向のイデオロギー政治を行った安倍内閣の非常識な政策のせいで、その延長線上よりさらに自民党の議席が下回る劇的な結果になった。あれは極端な例としても、自民党は、公明票の上積みがあってももはや政権を維持するに十分な議席は獲得できないほど支持を失っていると考えるべきである。
なぜそうなってしまったかというと、コイズミ?安倍が推進した新自由主義政策が、中産階級を破壊してしまい、自民党は従来のような国民政党から、富裕層のために政策を行う階級政党に変質してしまったからだ。そのため、日本の社会では貧富の差が著しく拡大した。今年の自民党総裁選では経済政策が争点になっているが、経済政策で一番マシなのは積極財政派の麻生太郎であり、他は再分配を否定する人たちなので論外である。しかし、麻生の政策も結局大企業に傾斜した再分配なので全然財政出動の効果が上がらない。「バラマキ」がダメなのではなくて「バラマキ方」に問題があるのだ。財政出動自体に「バラマキ」とレッテルを張る昨今の風潮はおかしい。新自由主義の思想に毒されすぎている。
さて、そんな自民党に対抗すべき野党・民主党の政策だが、昨日小沢一郎が発表した「新しい政権の基本政策案」は、無難に項目を列挙しただけという印象だ。これでも、自民党は「バラマキ」と批判するのだろうが、私は逆に「国民の生活が第一」という割には物足りない印象を受けた。
最後の「国連の平和活動に積極的に参加する」というのは、昨年秋に言い出した「ISAFへの自衛隊参加」の含みを残しているのではないかとか、選挙制度のことは何も書いていないけれど、衆議院の比例代表の部分を削減して小選挙区の比率を増やすという小沢一郎の持論は取り下げていないのではないかとか、再生可能エネルギーの利用推進は、そっけない書き方だが本当にやる気があるのか、などと疑念は尽きないが、当ブログとしてはまた総選挙になったら「戦略的投票行動」を主張せざるを得ないのがじれったいところだ。当ブログは、せめて比例代表部分を大事にしたいと考えている。総選挙では、自公だけは勝たせてはならないが、民主党が変な方向に暴走しないためにブレーキをかける勢力(左なら社民・共産、右なら国民新党)を伸ばすことも必要だ。ただし、極右は論外である(ガス抜きに2議席程度を確保するくらいは諦めざるを得なさそうだが)。
これから約2か月後に予想される衆議院選挙まで、また疲れる政治の季節が延々と続くが、まずは富裕層のためだけの政治と化してしまった状態から原状を回復するための選挙だと私は考えている。いわば、日本社会が再びスタートラインに立つための選挙だ。
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この時は都市住民を中にまだ新自由主義への期待が強かったですね。この時は自民党と民主党が改革争いをしていましたね。鳩山氏の「小泉改革を後押しする」という言葉が記憶に残っています。
私の記憶では、小泉政権を支持する人がかなり民主党に投票していたという分析があったと思います。小泉総理そのものは支持できるが、選挙区の自民党の候補者が守旧派で魅力がないので、だったら民主党へいうような感じです。だから内閣支持率が高いのに自民党は勝てなかった
2008.09.09 11:34 URL | kechack #1/Y8RI0s [ 編集 ]
私は、75歳以上の人をいじめる「後期高齢者医療制度」に対して、郵政解散+政報癒着によって作られたものだと考えています。
私のブログへのリンクを貼ります。
メディアと自民党 “仲良く”ボウリング(「しんぶん赤旗」日刊紙2008年8月25日2面)
http://shima55-spirits-jcp.way-nifty.com/blog/2008/08/post_0a1c.html
~党名で社名で「共産」名乗っても“ええやん!”~
~たしかな野党 支え続けて 上げ潮めざす!~
2008.09.10 01:10 URL | 嶋重ともうみ #9PBfX8nM [ 編集 ]
与謝野は海江田に総選挙で勝てると踏んで総裁選出馬を決めたのでしょう。泡沫候補の石原をテレビが大々的に報道するのには全く笑ってしまう。テレビ朝日が石原を応援するのは、もちろん石原軍団がらみでしょう。実際、石原軍団は、テレ朝のドラマに出ずっぱり。マスコミが叩けば(新東京銀行の問題さえ報道しない)、石原一家など政界から追放できるのにしない。そういえば、TBSのアナウンサー(男性)がかつての記者仲間として「頑張ってください」といっていましたよ。石原の長男坊と小池をテレビで見るだけでテレビを消すのが日課です。それにしても、民主党はもちろん、野党に対する報道のなさは異常ですね。
2008.09.10 11:58 URL | 負け組みの矜持 #- [ 編集 ]
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