きまぐれな日々

都会地区に住んでいた子供の頃、どうして総理大臣は地方出身者ばかりで、東京や大阪からは出てこないのだろうかと思っていた。よく、「一票の格差」が問題とされた。一票は、都会では軽く、田舎では重い。この格差が縮まれば、自民党の議席は減り、野党の議席が増えるはずだった。選挙制度は、中選挙区制より比例代表制の方が良いとされ、田中角栄が持ち出した小選挙区比例代表並立制導入を図った公職選挙法改正案(通称「カクマンダー」)は、野党の審議拒否と朝日新聞などマスコミの猛反対にあって、田中は同法案の国会への提出を断念した。

その田中の野望は、20年後に小沢一郎によって実現されたわけで、現在の自民党と民主党の対立構造は、三十余年前の福田赳夫と田中角栄の対立をそっくり引き継いでいるといえる。田中角栄は、積極財政路線をとり、全国にカネをばら撒いて道路網を作ったが、これは都会と地方の格差を縮小する効果があった。田中の地元・新潟県や、竹下登の地元・島根県など、自民党の有力政治家のお膝元では特に道路が立派であるとはよく言われることで、行き過ぎが問題になっているが、田中内閣当時には意味のある事業だった。

また田中は、総理大臣就任の翌年である1973年(昭和48年)を「福祉元年」と名づけて福祉に予算を振り向けていった。たとえば、現在では当たり前になった点字ブロックは、私のごく小さな頃にはなかった。これが急激に増えていったのは田中角栄のおかげであり、現在では日本は点字ブロック大国といわれるまでになった。

ただ、田中がスタートさせた福祉国家への道は、早々に挫折することになる。「福祉元年」の1973年は、第一次石油ショックの年でもあった。すさまじいインフレが起き、田中内閣の支持率は大幅に下がった。「大きな政府」指向の田中内閣の政策は、財政赤字を招いたが、これを厳しく批判して緊縮財政を唱えたのが福田赳夫だった。田中内閣内部から造反を起こしたのは福田赳夫と三木武夫であり、田中内閣が立花隆らの「金権批判」によって倒れたあと、三木武夫が後継総理大臣になったから、田中はロッキード事件で逮捕されたようなものだった。ロッキード事件では、中曽根康弘にも黒い噂が流れたが、三木は田中派・大平派連合軍と福田派の両方を敵に回しながら中曽根派との協力関係で辛うじて政権運営をしていたせいか、中曽根は「灰色高官」にさえならずに済んだ(もちろん、本当に潔白だったのかもしれない)。

結局三木は「解散カード」を反主流派連合に封じ込められて任期満了選挙に追い込まれ、これに大敗して政権を退いた。あとを受けた福田赳夫は、緊縮財政路線をとって物価の上昇を抑えたが、不況を招いてしまい、故石川真澄の『戦後政治史 新版』(岩波新書、2004年)を参照してみても、「福田内閣の業績としては、得意の経済より、日中平和友好条約の締結をあげるのが普通である」と書かれている。日中平和友好条約締結(1978年)は、いうまでもなく田中角栄が1972年に日中国交回復を成し遂げたからこそできた業績であった。1978年のトウ()小平来日直後に自民党の総裁選予備選が行われ、これに大平正芳が圧勝して総理大臣が交代したが、そのせいもあって、いつの間にか私はトウ小平の来日は大平内閣当時の出来事かと勘違いしてしまっていたくらいだ。福田赳夫内閣時代の印象というと、1978年夏に相次いだ「有事立法」の議論だとか福田首相の靖国神社公式参拝などの「タカ派」的な悪印象ばかりが強い。福田康夫は、コイズミがこじらせた中国との関係を改善したり、靖国神社不参拝を早々と公言して、例年夏に話題になる靖国問題を下火にさせたが、父親との共通点と相違点がそれぞれあって面白い。ただ、福田康夫内閣の政策と福田赳夫内閣の政策を比較すると、前者の方がずっと右寄り(新自由主義寄り)であって、それは福田康夫がコイズミの政策を継承せざるを得なかったところからきている。

何が言いたいかわからないだらだらした文章になってしまっているが、ここで言いたいことは、田中角栄が始めようとした福祉国家への道は、石油ショックと新自由主義の台頭、それに福田赳夫らによって阻まれてしまったということだ。余談だが、世界最初の新自由主義政権とされるチリのピノチェト政権は、1973年9月11日に、アメリカが後押ししてアジェンダ政権をクーデターで転覆させたことによって発足した。2001年のテロといい、2005年の日本の郵政総選挙といい、9・11とはやたらと不吉な日である。

日本のセーフティーネットを支えていたのは、民間企業や農協など公共団体による福利厚生だったが、コイズミが、というより徐々に自民党政権が進めていってコイズミが一気に加速させた新自由主義政策がそれを破壊してしまったために、福祉国家への道が早々と阻まれたために低福祉国家にとどまっていた日本において、ヨーロッパの比ではない急激な格差・貧困問題が生じたのである。

9月1日付エントリで、8月31日に行われた「反?貧困全国2008キャラバン 高松集会」に、民主・社民・共産の野党3党の政治家は、2人の民主党国会議員(小川淳也衆院議員と植松恵美子参院議員)を含めて出席したが、自民党の政治家は3人の国会議員が祝電を送ってきただけだったと書いた。実は、自民党議員からの祝電が司会者に読み上げられると、会場がざわめいたのである。それは、いかなる意味を持つざわめきだったのだろうか。集会は、決して左派にだけ開かれたものではなく、講演会の演者・湯浅誠氏の著書『反貧困―「すべり台社会」からの脱出』(岩波新書、2008年)では、政府の社会保障削減政策を批判した自民党の尾辻秀久衆院議員が好意的に取り上げられたりしている(その一方で、舛添要一は皮肉を込めて描かれている)。しかし、香川県選出の自民党の世襲議員たち(衆議院の香川県の選挙区は3つあるが、すべて自民党の世襲政治家が選出されている)は会場に姿を現さなかった。私は、それでなくとも自民党には批判的だが、この3候補はすべて当選するに値しない人たちだと改めて思った。

それにしても、自民党総裁選に出馬の意思を表明している政治家たち、あれはいったい何だ。小池百合子、石原伸晃、与謝野馨。みな東京選挙区選出議員ではないか。麻生太郎、山本一太、石破茂、棚橋泰文。みな世襲政治家ではないか。石原伸晃にいたっては、東京選挙区選出にして世襲議員、しかも父親はあの石原慎太郎と、およそマイナスの要素ばかりを寄せ集めたような政治家だ。

こんな総裁選に、地方はすっかりしらけきっている(「kojitakenの日記」に、福島日日新聞と北海道新聞のコラムを紹介したので、興味があればご参照いただきたい)。読売新聞の報道によると、自民党は臨時国会序盤の各党代表質問が終わったタイミングでの解散を狙っているようで(いわゆる「臨時国会冒頭の解散」)、投票日は、朝日新聞の星浩が最短と言っていた10月26日よりは2週間遅い11月9日となりそうだという。そうなれば、5年前、コイズミが安倍晋三を幹事長に据えて必勝を期しながら敗れた総選挙と同日になるが、あの時の選挙では自民党が都市部で意外としぶとく粘ったために議席数減を政権にダメージを受けない程度に食い止め(翌2004年の参院選も同様の結果)、それが2005年の「郵政総選挙」における自民党の大勝につながった。

今度の総選挙は、昨年の参院選に続いて、地方から自民党に逆襲する番だ。参議院と違って、衆議院では自民党の各政治家の地盤が強いので、東北や中国・四国・九州などの地方では自民党有利と見る向きもある。特に四国はほとんどの選挙区を自民党が制するという予想もどこかで見たことがある。だが、本当にそうなるだろうか。

またも政局のことばかり延々と書き連ねたエントリになってしまったが、とにかく次の選挙で、世襲議員や新自由主義者の相当数に落選してもらわなければ、日本の再生は実現できない。

三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘の「三角大福中」は功罪相半ばする政治家たちだったが、いずれも地方で育ち、大志を抱いて政治の世界に飛び込んだ人たちだった。せめてそういう人たちが政治を担わない限り、1年で政権を放り出すような総理大臣が二代も続く醜態はなくならない。

民主党にしても、いずれは小沢一郎の呪縛を脱して、世襲政治家ではない次代の政治家が党を担うようにならなければならないと思うが、まずは自民党の世襲政治家や新自由主義者を一掃するところから始めなければならない。


#この記事は、「トラックバックピープル・自民党」 にトラックバックしています。ここにTBされている他の自民党関係の記事も、どうかご覧下さい。

↓ランキング参戦中です。クリックお願いします。
FC2ブログランキング

関連記事
スポンサーサイト

【自民党県連支部は開店休業状態】

>東北や中国・四国・九州などの地方では自民党有利と見る向きもある。

うちの選挙区では、自民党支部の職員の方が事務所経費のごまかしをして玉徳さんの足をひっぱって以来、自民党支部に人が出入りをしているのをほとんど見なくなりました。

かつて自民党をささえていた建設業界が政党支持無し。公務員は民主党小沢一郎で決まり。町内会の商店主は共産党なので、自民党に投票するのは大手の製造業が中心でしょう。でも、製造業の労働者層が果たして自民党に投票するか疑問です。正規にやとわれた従業員なら会社あっての自分と考えるかもしれませんが、派遣ですから。民主に投票すれば穏健な方で、案外共産党が大躍進と言うことになるかも知れません。

2008.09.06 09:21 URL | sonic #GCA3nAmE [ 編集 ]

いつもの反知性派ラジオ「アザーサイドジャーナル」です。
懐かしい名前が書かれてましたので一筆。三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘の5名の内大・福・中は元官僚なのはご存知の通りです。やはり党人が力を持つべきなのでしょうか?中曽根氏はこれもご存知の「内友会」の(今も)会長のはずですが鈴木元都知事をはじめ旧内務省OBで長らくほとんどの都府県知事を輩出し地方自治を牛耳ってきました。これら「内友会」が地方分権を遅らせる元凶となりそれは今も続いています。

新自由主義者はどの程度をもってそう言うのかカテゴライズはお任せするとして、少なくとも世襲議員・官僚出身者は排除するのは先ず以って妥当と言えましょう。しかしながらそれを当てはめれば自民党議員はほぼいなくなります。(笑

出来レースの「総裁選」は巨大なCMとして放送され、小生の如き反知性派はまんまと自民に投票する事になると思われます。お説のように地方にあってはさほどの議席減は望めないでしょう。共産党も一万人の党員増の様子ですから党勢拡大はしているものの地方では詰まるところ自民党の応援団と化すはずです。

過去、安倍政権は自滅で(自エンド)しましたが、橋下知事あるいは石原都知事のように左派系の希望が今回も今一歩のところで打ち砕かれる悪い予感がしています。ただし今回は公明党がフルパワーを出す体制には無いようです。支持母体を30年以上ウォッチして来た小生にはそう見えます。次期政権がかろうじて維持できた場合には公明党は法務大臣を要求するかも知れません。矢野元委員長の訴訟指揮をしなければならないからです。こいつは是非にも阻止したいものです。

ブログ主さんの目から見る。B層・反知性派人士が今回もカギを握って、否ずっとそうでしたが、彼ら(小生も含めて)は候補者を微細にカテゴライズして投票行動を決める能力に欠けていますし、それに見合う数の候補もいないのが現状なので下手をすれば、、橋下・石原のような地すべり的結果が起こらない保証もありません。

小生は善悪を超えて「政権交代の癖」を日本社会にもたらす事が重要だと考えています。平沼氏には当面「金」が無く今次選挙のテーマに沿うような、思想的展開は無理です。ご懸念の無いように・・・(笑

2008.09.06 15:30 URL | 秀太郎 #- [ 編集 ]

次の衆院選は先の参院選みたいになるんじゃないかな。
マスメディア上で話題を作って世間の空気を誘導してと自民党がもし考えてるのなら、自民党はもうだめだと思う。もしそういう空気で事が動くなら、次は確実に空気に復讐される。
それくらい自民党に対して地方の空気は冷たくなってるし、これまで自民党にしか投票してこなかったような人の中から先の参院選で民主党に入れた人が出ている。自民党以外に投票した経験を持つ人が増加してるんですよ。
総裁選を舞台に政策について語ってくれるのなら、それはいいことだと思います。でも、次の選挙に勝つために総裁選やって見せてるという風に受けとられるとマイナスになるのではないでしょうか。

2008.09.07 00:30 URL | nessko #aIcUnOeo [ 編集 ]

 日本人というのは、確かに流されやすい民族ですが、二番煎じ、同じネタは嫌う。去年の総裁選の結果が福田総理となれば、さすがに同じパーフォーマスは通らないでしょう。
 さらに、「ドラマティックに盛り上げよ」という竹中司令の指示通りに、山本やら棚橋やら、ある程度の政治通しか知らない議員までしゃしゃり出てきて、本当の権力闘争ではない三文芝居は、論理に疎くともドラマと精神性には敏いわが民族には逆効果にしかならないんじゃないでしょうか。あまりにも白々しい。
 万一自公が過半数を制しても、政治家として地に足のついていないのは与党側の方、後で切り崩されるのは自民党側と見ます。

2008.09.07 07:19 URL | cube #- [ 編集 ]

解散総選挙は秋に実現しそうですか。
それならば自民党は大敗するでしょうね。
友人でゼネコンにいる奴の話だと、これから年内は、準大手から中小に至るまで、多くのゼネコンとデベロッパーが倒産しそうなのだとか。
おかげで彼は現在他社の倒産の火の粉をかぶらない為の情報収集に大変だそうです。
そんな現状では、選挙で自民の手足になり動くのは、借りてきた猫ならぬ学会さんくらいでしょう(それもないな)。
冷静に考えてみても、農業関係も企業関係も、自民党の為に真摯に動くなどあるわけがないですよ。
それに気が付かないから総裁選挙で馬鹿騒ぎを繰り返し、国民を白けさせているのでしょう。
選挙出馬に声を上げている面々を見ても、二世三世の世襲議員と都会出身者ばかり、何も現実が見えていないアホばかりです。

2008.09.07 16:01 URL | 風太 #seTEoywg [ 編集 ]

>sonicさん
岩手3区支部は増田総務相に出馬依頼して
あっさり断られたようですね。
今春、ドライブで3区内を通過したら、
自民候補のポスターが意外に多かったので
「今度はやる気?」と思いました。
しかし「アイツじゃ勝てないから増田!」では、
戦う態勢を立て直すのは難しいですね。

2008.09.08 18:57 URL | 観潮楼 #- [ 編集 ]













管理者にだけ表示

トラックバックURL↓
http://caprice.blog63.fc2.com/tb.php/728-d4e4857c