今回の総裁選は、経済政策が論点となるとマスコミは報じている。大雑把に言って、自民党内の経済政策は、麻生太郎ら積極財政論者、谷垣禎一ら増税論者(別名緊縮財政派、財政再建派など)、中川秀直ら過激な新自由主義者(俗称「上げ潮派」)の三派に分かれる。経済政策ではいちばんマシなのが麻生らで、後二者は強弱の違う新自由主義の流れだ。
「バラマキ」との蔑称を持つ財政出動だが、実はそれ自体再分配政策だ。だが、麻生や公明党の政策では、『広島瀬戸内新聞ニュース』の言い回しを借りれば、「大手企業が儲かる景気対策」+「公明党支持者をなだめる程度の飴」の組み合わせ程度の景気対策ということになる。つまり、せっかくの再分配政策なのに、それが大手企業などに還元されてしまうから全然効果が出ないのだ。
増税派や過激な新自由主義者は、そもそも再分配などしないと宣言しているわけだから論外である。彼らは、格差を拡大し、貧困層を増やす国賊どもだと言っても過言ではない。
懸念されるのは、朝日新聞が「バラマキ」批判キャンペーンをやって、コイズミカイカクの再来を露骨に待望していることだ。今朝の紙面を見ても、5面で「漂う政策」と題した連載を開始し、「財政規律 がけっぷち」、「バラマキの要求噴出」などの見出しが躍っている。これでは朝日新聞は、最悪の新自由主義新聞だと断じざるを得ない。政局のニュースが続いているので、このところ「毎日新聞叩きに反対するキャンペーン」が滞ってしまっているが、朝日の読者は、広告が少なくて薄いとはいえ、毎日新聞に切り替えた方がまだましなのではないかと思う。とにかく、このところの朝日新聞の論調はひど過ぎる。
その新自由主義勢力の最大の希望の星はというと、小池百合子なのだろうが、現在国民の間では新自由主義的な考え方はひどく不人気だ。それに何より、麻生ら旧保守に近い勢力(実際には麻生は新自由主義的側面と新保守的主義側面を持っているため旧保守とは言い難いが)と中川秀、小池ら新自由主義勢力がぶつかり合うと、自民党分裂の可能性が高まる。自民党は、もともと政権の維持だけを目的に寄り合っている集団だから、分裂につながる策動は抑え込まれるのではないか。ニュースでは石原伸晃の名前も挙がっていたが、ネオリベはせいぜいこの石原程度の小物を立てて、増税論者の谷垣禎一あたりも加えて、もちろん本命は麻生太郎で、マスコミ受けする「白熱した議論」をショーアップして見せる。総裁選が麻生太郎の圧勝に終わったあとは、「挙党内閣」を成立させ、それが国民に好感をもって迎え入れられたところで、間を置かずに解散総選挙を行う。それが自民党主流派の描くシナリオではないかと思う。
ところで、本エントリの後半ではひとつグラフをお見せしよう。実は、70年代以降の総選挙で自民党が勝ったといえる総選挙は1980年、1986年、それに記憶に新しい2005年の3回だけなのだが、それらはいずれもその前の総選挙からの経過年数が短かった。昨日のエントリの記事を書いていてそれに気づいた私は、70年代以降に行われた衆議院選挙について、前回総選挙からの経過日数と自民党獲得議席の増減をグラフにしてみた(議席数の増減は、石川真澄著 『戦後政治史 新版』(岩波新書、2004年)に拠った)。その結果、予想通り、前回総選挙からの経過日数が長ければ長いほど、自民党の獲得議席が減る傾向にあることがわかった。

前回総選挙から3年以上経つのに自民党が議席を目立って増やした唯一のケースが1996年総選挙だが、この時はその前までの中選挙区制から小選挙区比例代表並立制に選挙制度が変わった恩恵を自民党が受けたものだ。小選挙区制の恩恵を自民党が最大限に受けたのは、いうまでもなく前回、2005年の「郵政総選挙」だった。小沢一郎が深くかかわった90年代前半の「政治改革」の最大の誤りがこの選挙制度改悪である。朝日新聞の故石川真澄記者(前述『戦後政治史』の著者)は、このカイカクに強く反対したが、それを機に石川記者は朝日新聞の主流から外れていった印象を、私は持っている。
その石川記者は、選挙のデータを解析して、「亥年現象」(参院選と統一地方選が重なる12年に1度の亥年には、参院選の投票率が下がって自民党が敗れる)などの興味深い仮説を立てることで知られた人だった(但し、「亥年現象」の仮説は、昨年の参院選の投票率が高かったことで破られた)。
その石川氏に倣って、というにはあまりにお粗末ではあるが、当ブログも「前回総選挙からの経過年数が長くなるほど、自民党の獲得議席は減る」という仮説を立てたい。時間が経過して、任期満了に近づけば近づくほど、「解散カード」の威力が薄まるからという単純な理由だ。
現在は前回総選挙から約3年。選挙が1年先送りされると、自民党の議席はざっと20議席減るものと思われる。自民党が、臨時国会冒頭での解散をたくらんでいる理由もわかろうというものだ。
昨日、「報道ステーション」で星浩・朝日新聞編集委員が語っていたところによると、総選挙はもっとも早くて10月26日になるそうだ。
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中川さんは、元筑波大の宍戸先生の勉強会に出席していて、
1、純債務はGDPに相応なこと(財政危機ではないこと)
2、財政出動を通してGDPを引き上げられること(所謂「上げ潮」)
3、累積債務は日銀引き受けで処理できること
4、国債ではなく政府通貨の増刷で財源を確保できること
・・・などを学んでいます。
(中川さんだけではない。自民・民主、主だった政治家は同じく学んでいる)
ところが中川さんは、このうち1と2だけを採用し、3と4を無視して財政危機をあおり、消費税増税をはかろうとしているのですから、かなりずるい人だと思います。
もしかすると中川さん個人は既に新自由主義から転向しているのかも知れません。
そして、この先、何食わぬ顔で新自由主義の弊害を批判者を気取るつもりなのかも知れません。
2008.09.03 13:10 URL | ぶ #GCA3nAmE [ 編集 ]
今回はそのグラフに合致しない点を付け加えたいところですが…
ただ麻生内閣誕生によるご祝儀+一時的な減税などによる幻惑+麻生氏個人の人気、これらが合わさって自民党がそれほど後退しないのではないかと不安になっています。そこまで騙される人ばかりでないと思いたいところですが。
個人的には自民党は過半数を割るものの、自公連立としては過半数をぎりぎり維持してしまうのではないかと予想しています。少し悲観的に過ぎるでしょうか…?
2008.09.03 17:28 URL | はるべると #yfmYpZfY [ 編集 ]
与謝野氏らの財政再建派を新自由主義に分類してしまうのはどうかと思いますよ? 人間えてして自分の主張と異なるグループを同一視しがちですが、そもそも増税を主張する新自由主など存在しないと思います。
マスコミはとにかく税制出動派がきらいですね。実はマスコミに一番好感を持たれているのは、財政再建派です。上げ潮派はその次ですね。もっとも自民党内は財政出動の声一色ですし、公明党の支援を考えると財政出動派が総裁になるしか選択股がありません。
マスコミは財政出動路線へ靡く現状に楔を打ちたくて仕方ないのです。自民党総裁選にその流れを期待して、暫くは好意的な報道をするでしょうが、最終的には麻生=税制出動路線を批判し出すでしょう。
マスコミが経済政策政策をめぐる路線に関心を寄せているのに、あいかわらずブロガーは右翼左翼の話をしていて笑えますね。麻生に真正保守政治をして欲しいとか、笑いえますね。
2008.09.03 19:24 URL | kechack #1/Y8RI0s [ 編集 ]
民主党が政権を獲得するには、いくつか高いハードルがありますね…
(1)獲得議席を最低ほぼ倍増させなければならない。
(2)離党予備軍を抑えつける強力な動機が必要。
(3)野党間の政策協議をまとめなければならない。
以上の要素を考えると、民主党政権は非常に脆弱な基盤になる可能性が高いと思います。
与野党が拮抗がする議席差なら、強力な組織票がある社民党 や共産党の存在感が高まると思います。
民主党が中道左派路線を考えるなら、共産党を政権構想から排除するのは得策ではありません。
小沢代表が志位委員長に頭を下げることができるかで、政権の安定度が決まるような気がします。
公明党との協議は論外です。政権基盤はますます弱くなります。
2008.09.04 02:01 URL | 葉隠 #CRmGiUQU [ 編集 ]
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