でも、どうにもいただけなかったのが男子サッカーと野球の惨敗である。プロの選手たちを集めたチームが、なぜか「反町ジャパン」「星野ジャパン」といった監督の名前で呼ばれ、過去の五輪でも例を見ない惨敗を喫した。
もはや五輪にアマチュアリズムを持ち出すのはナンセンスであることは承知しているが、このサッカーと野球のていたらくは、見る者をしらけさせた。
特にいただけなかったのは両方の監督である。サッカーの反町康治は、ナイジェリア戦の前に、「座して死ぬくらいなら、飛び込んで死のう」と、まるで特攻隊のようなことを言ったり、既に予選敗退の決まったあとのオランダ戦の前には、「オランダはうまいから前からボールを取りに行かなくていい」と言って選手たちから批判を浴びるありさまだった。
プロ野球の監督時代から、鉄拳制裁で知られてきた星野仙一の場合、球界から干されるのが怖い選手たちは星野を表立って批判はしていない。しかし、五輪の試合における星野の采配ミスのひどさといったらなかった。一人で3敗を喫した岩瀬仁紀や、考えられないような失策を連発したG・G・佐藤など、明らかに調子の悪い選手にこだわって何度も起用し、そのたびに岩瀬は打たれ、佐藤は失策を演じた。そもそも星野は、中日や阪神の監督を務めていた頃から短期決戦に弱く、調子の悪い選手の起用にこだわるクセもあった。当然、星野が日本シリーズを制したことは一度もない。最初に日本シリーズの采配を揮った1988年の西武対中日のシリーズでは、第1戦に先発して打たれた小野投手を、1勝3敗と追い込まれた第5戦で再び先発させて打たれ、最後に日本シリーズの采配を揮った2003年のダイエー対阪神の日本シリーズでも、第2戦に先発して乱打された伊良部投手(先日暴行事件で逮捕された)を、3勝2敗と王手をかけた第6戦に再び先発させて打たれた。特に後者は、監督自らがシリーズの流れを変えた大チョンボで、当時阪神ファンは星野の采配に怒り狂っていたものだが、中日や阪神の監督時代の日本シリーズでやったと同じ采配ミスを、五輪でもやらかすのだから、どこまでも懲りない男だ。
星野は、主力選手と仲が悪いことでも知られる。中日時代の同僚の四番打者・谷沢健一を使いたくなかったので、監督就任時に引退させたという話もあったし、その時にロッテとの大トレードで獲得した落合博満とは、最初から最後まで合わなかった。落合が星野と同じ中日を率いて、星野をはるかに上回る成績を残していることはいうまでもない。
たまたまネット検索していたら、谷沢健一がブログで五輪の野球日本チームを論評している記事を見つけたのでご紹介する。これが、ワサビが効いていて実に面白いのである。
『谷沢健一のニューアマチュアリズム』 より
「遠い五輪野球の金メダル(その1)」
(2008年8月24日)
http://blog.goo.ne.jp/yazawa_2005/e/6f57b1119492305b85a6b57d53c63472
「遠い五輪野球の金メダル(その2)」
(2008年8月24日)
http://blog.goo.ne.jp/yazawa_2005/e/a40761db5f8a6a31f972f4796c3677ae
これらのエントリから何箇所か引用、紹介する。
韓国、キューバ、米国にしても同じ強い緊張現象が起きていた。兵役免除のかかっている(軍役の知らない私たちにはピンと来ない)韓国、帰国後の経済的処遇に天地の差が生じる(貧富差を知らない私たちにはピンと来ない)キューバ、メジャー昇格やドラフトのかかっている(私たちにも少しはわかる)米国は、緊張の質が異なる。一人一人が明日から人生が変わるのである。結果として、かかっているものの重さの順がメダルの順位になった。
一方、日本にかかっているのは初の金メダルという名誉である。その名誉は、自分が金メダルチームの一員になるというワン・オブ・ゼムの名誉にすぎない。人生が変わるとしたら、星野監督であり、金メダル獲得によって、WBC代表監督就任が確実になり、長嶋ジャパン(五輪)と王ジャパン(WBC)両方の後継者としての地位が確立する。この温度差は大きい。
(「遠い五輪野球の金メダル(その1)」より)
アマチュアの五輪経験者たちが口を揃えて言うのは、「アマの試合はもちろんだが、とくに国際試合では、審判にクレームをつけるのは下の下だ。プロの感覚で審判に文句を言ったら、試合後の審判たちのミーティングで槍玉に挙げられるだろう」ということだ。韓国もそれを知っていたろうが、最終試合で堪忍袋の緒を切ってしまった。
日本は、監督自らがずいぶん早く緒を切ってしまい、危うく退場になりかけた。審判に不信感を与えたことも敗因の一つだろう。
(「遠い五輪野球の金メダル(その2)」より)
それにしても、監督にすべてを負わせすぎではないか。○○ジャパンなどと表現される事態がおかしいのである。最高の権限をもつ組織のトップと、現場で総指揮を執るチームのトップとの間に、それなりの緊張感がなければ、必ず偏向と堕落が生じる。当人にそのつもりがまったくなくても生じるのは、歴史が教えている。
(同上)
2000年のシドニー五輪までは、野球の五輪代表チームが監督の名前を冠して呼ばれることはなかった。プロの選手は参加していたが、全球団が五輪に協力的だったわけではなく、シドニー五輪の時には巨人と阪神は選手を出さなかった。巨人は、1997年から1999年まで3年連続でリーグ優勝を逸していて、五輪なんかに協力してやれるか、という姿勢が露骨だった。シドニー五輪では日本は4位に終わったが、長嶋巨人は優勝し、そのニュースは女子マラソンの高橋尚子選手の優勝と同日だったので影が薄かったが、巨人と癒着している東京のスポーツ紙は強引に巨人優勝を一面トップに持ってきたことは以前に当ブログで書いた通りである。
ところが、長嶋茂雄が巨人の監督を辞めると、長嶋が五輪の監督に就任することになり、「長嶋ジャパン」なる名称が生まれた。巨人(や阪神)も、一転して五輪に協力するようになったが、なんて勝手なんだとあきれ返ったのを覚えている。
結局長嶋は、五輪直前の2004年に病に倒れ、代わりに中畑清が采配をとったが、銅メダルに終わった。この時も、背番号「3」のユニフォームをベンチに飾るなどして長嶋を偶像視していたから、こいつらいったい誰のためにプレーしているんだ、としらけてしまい、オーストラリア代表として出場した阪神のジェフ・ウィリアムスが二度にわたって日本打線を抑えて日本を破った時には、思わず拍手喝采してしまった(笑)。
そんな私だから、「星野ジャパン」なる呼称にはまたかと思ったし、短期決戦における星野の弱さも知っていたから、どうせ負けるだろうとは思っていたが、あまりに星野らしい負け方にあっけにとられてしまった。世間では岩瀬やG・G・佐藤ばかり責められているが、誰にだって調子の悪い時はある。そんな時は監督が起用を避けるべきだ。星野は、やはり不調だったダルビッシュ有は、最初打たれた後はあまり重用しなくなったが、岩瀬を使い続けたのは、かつて采配をとっていた中日の選手だからではないか、と勘繰りたくなるほどの偏重ぶりだった。
でもまあ、これで来年のWBCにおける星野監督の目はなくなっただろうし、球界における星野の地位もガタ落ちだろう。もっとも、星野の場合、自民党が目をつける可能性が高い。星野はもともと右翼的な人間で、読売新聞のナベツネとも親しいから、政界入りして自民党の集票マシーンと化すことは警戒しなければならないかもしれない。
それにしても、長嶋だの星野だのと、選手のプレーそっちのけで監督ばかりが脚光を浴びる風潮は本当にどうにかしてほしい。この点では、プロ野球界はかつてと比べて現在はひどく劣化している。かつては、阪急ブレーブスの西本幸雄、上田利治両監督のように、選手としての実績は乏しくとも、指導者としての才能を見出されて若くして監督として登用されて成功した例が多かった。ところが、いつの頃からか現役時代の名プレーヤーでなければ監督になれないようになった。私は、これも1975年の長嶋監督以来ではないかと考えているのだが(上田利治が阪急の監督として指揮をとったのは1973年からだった)、プロ野球界は指導者を育てるシステムさえ放棄して、現役時代のスタープレーヤーばかりを監督に据えるようになった。これは、その方が、その監督の現役時代からのファンが球場に足を運び、観客動員数が増えるからだ。チーム作りより目先の利益にこだわったのだ。
最後に、谷沢健一のブログの結びの部分を引用、紹介する。このブログを読んで、谷沢という男は、卓越した批評眼を持った人物だと感心した次第だ。
8月15日の朝日新聞で、作家の重松清氏が書いている。「星野ジャパンには、もちろんメダルを期待したい。でも、それ以上に「野球の魅力を世界の子どもたちに伝える」という大きな使命があるんじゃないか。(中略)グラウンドを見てごらん。野球っていうスポーツ、面白いだろう?」
日本の子どもたち、世界の子どもたちに野球の面白さ・楽しさを伝えることを怠っている限りは、再び五輪で野球を見ることはないだろう。そして、ついに野球は世界スポーツにはならないだろう。21世紀の野球人(責任ある立場の野球人)を名乗る資格のあるのは、それを知っている者ではないだろうか。
(「遠い五輪野球の金メダル(その2)」より)
今のままだったら、もう五輪で野球なんか見られなくたってかまわない、そう思わせる五輪の日本野球チームの敗退だった。
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星野さんの政界進出はほんとうにあるかもしれませんね。その際はやはり自民党から、次の参院選の全国区から出るんじゃないでしょうか。
逆にプロ野球の組合活動をしていた古田さんを民主党が担ぎ出す、なんて噂も聞いたことがあります。
何にせよタレント議員はもうよしてほしいですね…こういうとこは共産党を見習ってほしいものですが…
2008.08.25 15:07 URL | MT-TM #T/SfmGl6 [ 編集 ]
よく読ませていただいています。
さて、記事のはじめに記述された「反町ジャパン」の貴殿の評についてですが、この代表チームの戦績が「見る者をしらけさせた」のはそのとおりだろうと思います。けれども、実際の試合を観ていればわかりますが、けっして「惨敗」などではありませんでしたし(拮抗した緊張感のある試合だった)、相手チームとの実質的な力量差を考えれば予想をこえた試合の質を備えていました。勝てなければ「しらけ」るのは自然かもしれませんが、そもそも「見る者」はサッカーに関心がなく、結果でしか楽しめないということではありませんか? ちなみに、プロリーグを備えてはいますがサッカーにおいて日本はまぎれもなく後進国です。野球ではまぎれもない先進国ですが。
反町氏の発言「座して死ぬくらいなら、飛び込んで死のう」の類いの発言はヨーロッパ出身のコーチでもするでしょう。反町氏は日本人であるから自国史を鑑みより高い倫理規範をもつべきなのかもしれませんが、強国と対峙するピッチ上に90分間放り出される選手たちに投げかけることばとして不適切とは思われません。
「オランダはうまいから前からボールを取りに行かなくていい」という発言にかんしては戦術的に採りうるもので合理的なものです。ボールを奪いにいけば技巧的にうわまわる相手にかわされ、空けてしまったスペースを使われ結果後手後手にまわらざるをえず、酷暑の中体力も奪われる。指折りの強国に対して特攻隊のように攻めるには、90分はあまりに長すぎるでしょう。
長くなってしまったようです。失礼しました。
2008.08.25 17:10 URL | alban #4tTq0fxs [ 編集 ]
唯一の収穫は星野の化けの皮がはがれたことでは。
それにしても同時期に明大の主力投手だった星野と、
早大で主力打者だった谷沢との落差は大きい。
2008.08.25 19:27 URL | 観潮楼 #- [ 編集 ]
>座して死を待つよりは…
この言葉は、真珠湾攻撃前にラジオなどで標語のようにさかんに口にされていたようです。
問題は、ゲーム前にこの言葉を監督から聞かされたときの選手達の心理です。試合に対する集中力、闘争心、判断力などにいささかでも与するものがあったかといえば、むしろいらだたせたり、ゲンナリさせただけではないのでしょうか。
指導者に要求される選手の精神状態に対する考慮を欠き、きびしい言い方をすれば、自分の切羽詰まった心境をこらえ性もなく選手に押しつけただけではないかという気もします。
以前どこかの独裁国家の選手達が国際試合にでてきて見事に勝ったことがありました。それはもし負けるようなことがあると国に帰れない、帰ったら処罰が待っている。そのために選手達の目の色が変わっていたのだと言われました。それが本当だったかどうかは分かりませんが、かりに事実だったとしても、その勝ちの背後には実際に「座して死を待つよりは…」というような条件があらかじめ存在したわけで、今回の場合とは違います。
またそのとき勝った選手たちがはたしてスポーツの実感を味わっていたかどうかもおおいに疑問です。戦争でもしているような気分だったかも知れません。
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閉幕した北京五輪を振り返る+中国で起きた問題と日本共産党とを区別する
自分の勤務する会社(事業所)の名前にはあまり文句を言わないのに、なぜ「共産党」
2008.08.29 22:09 | 嶋重ともうみ☆たしかな野党 支え続けて 上げ潮めざす!