きまぐれな日々

一昨日のエントリで、ノーベル平和賞を受賞した佐藤栄作が、受賞記念演説に盛り込もうとした「5つの核弊保有国が会議を開き、核兵器の使用について論議し、第一使用を放棄する協定を話し合ってはどうか」という提案を、キッシンジャー米国務長官(当時)が拒否したことをご紹介した。

月刊『現代』9月号に掲載された春名幹男・名古屋大学大学院教授の「「偽りの平和主義者」 佐藤栄作」によると、キッシンジャーは佐藤の提案に、下記の理由で反対した。

  • ソ連の兵力は欧州諸国より大幅に優位で、中国も近隣諸国より優位に立つ。核兵器がなければ、ソ連は通常兵力で欧州を圧倒し、中国も同様の結果を得る。
  • われわれが核兵器の第一使用を放棄すれば、日本に多くの危険をもたらす。
  • 均衡のとれた戦略軍事力の削減を交渉しながら、安定を維持するのが米国の政策だ。

典型的な「核抑止論」である。

ところが、そのキッシンジャーが近年、主張を大きく転換した。以下朝日新聞の8月6日付社説から引用する。
http://www.asahi.com/paper/editorial20080806.html

 ■核抑止論者の転向

 今年6月末。英国のハード元外相、ロバートソン前北大西洋条約機構(NATO)事務総長ら4人が「思い切った核軍縮は可能であり、最終目標は核のない世界であるべきだ」との主張を英タイムズ紙に寄せた。「冷戦時代は核が世界の安定に資したが、もはやそうではない」とも指摘した。

 ハード氏らが動いたきっかけは、元米国務長官のキッシンジャー、シュルツ氏ら4人が昨年1月に発表した、「核兵器のない世界を」との提言だ。

 核が拡散していけば、核の存在が米国や世界の安全を脅かす恐れがある。むしろ核を廃絶した方が国益にかなう。そうした計算から米ロの大幅な核軍縮、世界的な核実験禁止、兵器用核物質の生産禁止などを提案した。

 いずれの提案も、かつての核抑止論者が発したものだ。ここ60年余りの国際政治を支配してきた「核による安全」という発想を逆転したのである。

(朝日新聞 2008年8月6日付社説より)


朝日新聞社説はさらに、アメリカの政策転換を求め、次期大統領に期待している。そして「日本発の軍縮競争を」、と求めている。

「広島瀬戸内新聞ニュース」は、広島で行われた原爆死没者慰霊式・平和祈念式を伝えているが、記事中で秋葉忠利広島市長による平和宣言の一部を紹介している。

市長は平和宣言の中で、原爆体験の精神的影響などについて科学的調査を行う。

「核攻撃から市民を守る唯一の手段は核兵器の廃絶」ときっぱり。

そしてに核兵器廃絶をもとめる多数派に「耳を傾ける米国新大統領」が誕生することを期待する、と表明しました。

また、世界の都市に広がる平和への流れを紹介。
日本国憲法を「パラダイム転換の出発点」と指摘し、政府に憲法遵守をもとめました。

(「広島瀬戸内新聞ニュース」 ? 「8月6日ヒロシマ報告(2)」より)


最低最悪の戦争大統領であるジョージ・ブッシュが退任すれば、アメリカの政策は大きく転換されると思うが、特にバラク・オバマが当選すれば、その政策転換は劇的なものとなるだろう。

リベラル・左派も、ひたすらアメリカに反対していればよかったお気楽な時代は過去のものとなる。私が懸念するのは、そんな時に日本に「排外主義」が蔓延することだ。

例の「郵政民営化」の時にコイズミに切り捨てられた平沼赳夫一派や、総理大臣の任期中にアメリカから疎んじられた安倍晋三らは、もともと「反中」「反韓」「反北朝鮮」の性格を持っていたが、これに「反米」が加わって、完全な「排外主義」に転じつつある。当ブログにいただいたコメントによると、安倍晋三は今月初めに発売された右派論壇誌において、反米的主張を展開しているそうだ。

私は、彼らと民主党の野合を警戒している。反自民を標榜するブログの中にも、平沼一派と親和性の強いところが少なからず存在し、厄介なことに、それらのブログの多くは陰謀論や擬似科学に対する親和性も強い。それらは、アインシュタインの相対性理論は間違っていると主張するコンノケンイチを持ち上げるのと同質の議論である。そこに通底するのは、ポピュリズム(大衆迎合主義)だ。

ポピュリズムというと、ただちにコイズミを連想する。そういえばあの「郵政解散」もこの季節だった。そして、この季節にコイズミとともに思い出さなければならないのはナチス・ドイツである。ドイツの降伏自体は1945年5月だが、われわれ日本人にとっては8月こそ戦争を考える月だ。

ネット検索をしていたら、ポピュリズムに関する良いまとめ記事が見つかったので紹介する。
「碧の谷風」というサイトにある、「国民投票とポピュリズムの危険性」という記事だ(下記URL)。
http://www3.coara.or.jp/~ynoge/essayPolitics/populism.htm

以下引用する。

 ポピュリズムの危険性は、その破壊のエネルギーにある。

 たとえば、既存の体制の中に、あるいは富裕層の中に、はたまた、国の外に、明確な「敵のイメージ」を作り出し、人々の憎悪をかき立て、それを自己の拠り所にするのがポピュリズム政治の手法である。

 このような憎悪は、安定した経済、官僚システムの破壊し、激しい民族対立や戦争を生む。ポピュリストが言うように、「xxさえ無くなれば、社会が良くなる」という事は、長期的な目で見れば、ほとんどは真実でない事が多い。

 例えば、今は「水に落ちた犬」として、どれだけ批判しても構わない事になっているヒットラー(ナチスドイツ)について見てみよう。ご存知のように「ユダヤ人さえ居なくなれば社会は良くなる」と、「ユダヤ人」いう明確な敵を設定し、同時に「アーリア民族の優越性」という、自己愛をくすぐる論理で武装。一つのスローガンを、メディアを通して繰り返し浸透させる手法で憎悪を増幅し、その力を背景に一党独裁を確立した。

 その結果、ユダヤ民族、ドイツ自身が被った被害の大きさはご存知の通りである。

 (余談ではあるが、「サダム・フセインさえ居なくなれば」と言ったアメリカの例も、ポピュリズムの一種であると言えるのではないだろうか?)

(「碧の谷風」 ? 「国民投票とポピュリズムの危険性」より)


一部ブログの言説に見られる「ユダヤ陰謀論」や、「水伝騒動」においてさる有名ブロガーが書いた「たんぽぽさえいなくなれば平和になる」というのは、典型的なポピュリズムの言説だということを指摘しておきたい。

では、ポピュリズムにはどう対処すれば良いか。

  1. 分かりやすすぎる説明には警戒を。
    複雑なものを簡単に説明するためには、当然、情報を削っていく必要がある。その仮定で、情報を削る人の恣意が働く。つまり、自分に都合の良い情報は削らずに、都合が悪い情報から削られていくのだ。また、これはメディアについて特に言える事だが、「大衆ウケの良い情報」が残され(誇張され)、そうでない情報は削られていく。
    与えられた情報から、削られたモノがなんなのか、逆に、誇張されたものが何なのかを推測する能力が、今後、より必要になってくると思う。

  2. 穏健派は、発言が許されるうちに発言を。
    ポピュリズム政治が進行し、その末期になると、暴力が社会を支配し中道的な意見を言うものは、それだけで「日和見主義者」「修正主義者」の扱いを受ける。そうならないうちに意志を表明すべきだと思う。

  3. プロパガンダに対する免疫を。
    理性ではなく、感情に訴えかける大衆動員法は、洋の東西を問わず、広くポピュリズム型の社会に認められるものだ。疑おう。
(「碧の谷風」 ? 「国民投票とポピュリズムの危険性」より)


これを読んでいて、一昨年12月24日に「kojitakenの日記」に書いた、「「わかりやすさ」の落とし穴」という記事を思い出した(下記URL)。
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20061224/1166950438

短い記事なので、以下に再掲する。

■ 「わかりやすさ」の落とし穴

昨年の総選挙で自民党が圧勝したあと、マスコミ、特にテレビの政治番組のキャスターは言ったものだ。

「小泉さんの主張はわかりやすかった。それに比べて、民主党の主張は何ですか」

コイズミの郵政民営化法案に関する主張がわかりやすかったとは私は全然思わないが、とにもかくにもキャスターたちはそう主張し続けた。

とにかく、何でもお手軽にわからせろという主張が横行している。そして、報道する側のメディアもそれに迎合する。「コイズミ劇場」を煽る。

「わかりやすさ」には落とし穴がある。要約が的を射ていないと、肝心な部分を切り落とすからだ。そして、よほど当該分野について熟知している人でもない限り、たいていの人は肝心な部分を切り落としてしまう。だから、真に主張をわかってもらおうとするなら、詳しく、熱を込めて語る必要があるのだ。

だが、そんなに顔を真っ赤にして主張してたら、読者が引いてしまうよ、などとしたり顔で言う人たちがいる。

はっきり言って、こういう物の言い方ほど、偽善的で冷笑的なものはない。私のもっとも嫌う態度である。

そんな主張をするのは、真実に迫ろうという努力を最初から放棄している人であって、そんな人の語る言葉から得られるところは何もない、と思う。ましてや、無知を自覚しながら人々を導こうなどとするのは、傲慢以外のなにものでもないだろう。

この偽りに満ちた時代において、一人一人の人間に必要なのは、愚直に真実に迫ろうとする真摯さなのだ。そこには、必ずしも「わかりやすさ」はない。

(「kojitakenの日記」 2006年12月24日)


これを読み返すと、ブログ開設からそんなに経たない頃からずっと同じ主張を繰り返してきたものだなあ、と自分でも呆れる。これを書いた1年後の昨年12月23日にも、当ブログに「ネットに横行する「トンデモ」や「陰謀論」を批判する」と題したエントリ(下記URL)を公開したが、これは現在でも持続的なアクセスをいただいているエントリの一つだ。
http://caprice.blog63.fc2.com/blog-entry-532.html

ブログ言論には特にポピュリズムに流れやすい傾向が顕著なので、ポピュリズムとの闘いは延々と続く。この姿勢はずっと保ち続けなければならないと思う今日この頃である。


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こんにちは、お邪魔いたします。

わかりやすさに問題があるというのには、まったくうなずけません。

小泉氏の場合、わかりやすいことに問題があるのではなく、内容にウソがあることが問題です。
小泉氏が受ける対象は、「IQが低く具体的なことはよくわからないが小泉のキャラクターを支持する層」B層です。彼らに受け入れられるような脚本にもとずいて大衆を騙した結果、彼らに受け入れられ、「わかりやすい」という評価を得たというだけのことですね。

2008.08.08 19:00 URL | フアン #- [ 編集 ]

お邪魔いたします。
以下の週刊朝日の記事を読まれましたか。

ゴア元副大統領と原発利権-温暖化問題、CO2削減は原発推進の口実なのか
原子力発電所、アル・ゴア・不都合な真実、IPCC、GIM/ 週刊朝日(2008/08/15)/頁:22

2008.08.10 21:38 URL | ss #- [ 編集 ]

「IQが低く具体的なことはよくわからないが、小泉氏のキャラクターにどうしようもない嫌悪感を抱いて自民党には投票できない」フアンさんのような人はどうすればいいのでしょうか?

どういう場合でも具体的なことから積み上げていくことは必要ですよね。
ただ郵政選挙の時は、民主党の右往左往も酷かったですし、連合の調査で自民党を勝たせたもっとも大きな要因は、都市部の働く女性だったという結果がでています。経済エリートのような実務の世界ではやっぱり自民党支持が強いですし、「負け組」(いやな言葉だが)と言われている人はやっぱり自民党なんか支持していないんですよ。フアンさんも自分や周囲の人たちを見てみればわかるでしょう。

2008.08.17 22:17 URL | ナダニー #mQop/nM. [ 編集 ]













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