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きまぐれな日々

7月23日付7月25日付および7月26日付のエントリに引き続き、金子勝とアンドリュー・デウィットの共著 『環境エネルギー革命』(アスペクト、2007年)の紹介記事の最終回。

本書第6章の「エネルギー産業革命へ」は、この本の中でも特に読者の皆さまにご紹介したいと思った部分だ。

著者はまず、安倍晋三政権(当時)の政策を、「周回遅れの新自由主義」として厳しく批判する。その冒頭部分を以下に引用する。

 再生可能エネルギーへ向かう世界の流れは急だ。それは地球温暖化をはじめ、化石燃料依存のさまざまな負の外部性を抑えていくと同時に、長い期間をかけてエネルギー転換に伴う投資や需要、そして雇用を創出していく面を持っている。それゆえに、この動きを「エネルギー環境革命」と呼ぶ。

 この国の長期停滞状況を打ち破るには、ある種のイノベーションが必要なことは、安倍政権ならずとも容易に想像できるはずだ。ところが、安倍政権の政策はひたすら法人税を中心とする減税政策によって企業の成長を促す一方、ひたすら「小さな政府」を目指して社会保障や教育を含む歳出削減政策を走るしかないという。市場に任せれば、新機軸の産業が生まれるというわけだ。

 しかし、この分野は市場任せでは目標を達成できない。公正な新しい経済(ニューエコノミー)を築く国家の主なツールは、税金、支出、そして規制である。ところが、政権交代がほとんどない日本では、長年にわたって公的部門が利益政治による腐敗に深く侵されているために、民営化や規制緩和で問題が解決できるような新自由主義的言説が横行している。

(金子勝、アンドリュー・デウィット著 『環境エネルギー革命』 (アスペクト、2007年) p.202-203)


わが国は、いまだにコイズミ?安倍の確信犯的新自由主義政治が総括されておらず、そのために現福田政権もコイズミ?安倍の政策を基本的に踏襲している。一方野党第一党の民主党も、無駄をなくすことしか言わず、昨年の参院選の公約で掲げた「国民の生活が第一」というスローガンが色あせている。

著者らは、税制の改正が必要だと主張している。それには、地方分権化に伴う国から地方への税源移譲や、法人税減税・金持ち減税の見直しも必要だが、新エネルギー政策のために新しい税金の創設が必要だと主張している。

主にヨーロッパで、交通渋滞や大気汚染を制御に対する税金が、「賢い税金」と呼ばれて評価されている。これによって、負の外部性を緩和し、正の外部性を刺激することを目的としている。

渋滞税は、以前からシンガポールで導入されていたが、2003年にロンドンが導入し、渋滞の緩和に成功した。ニューヨークでも導入が検討されているが、市民の反対が強いようだ。どんな税金でも最初は抵抗が強いのは当然だろう。ロンドンでも最初は反対が多かった。著者は、「こうした政策の導入にはリーダーシップが問われる。次の選挙のあとを見据え、政治的なリスクを負い、より公正で効率的な未来へと国を導いていく意思のある政治家がなせることなのだ」と書いている。

環境税は、スウェーデン、オランダ、ドイツ、イギリスなどでは既に導入されており、これらの国はいずれも温室効果ガス排出量削減を実現しているが、日本では経団連の反対が強い。政党では、社民党が環境税(炭素税)の増税を公約している。「ポラリス?ある日本共産党支部のブログ」によると、共産党も導入を検討するとしているようだが、社民党ほど積極的ではないように見える。いずれにしても、社共両党が前向きであることからもわかるように、環境税は福祉国家指向、社会民主主義指向の税制といえると思う。課税には何でもかんでも反対lというのは、26日のエントリでも述べたように、サッチャーの好んだ新自由主義的な行き方だ(注)。

アメリカは、中央(ブッシュ政権)はどうしようもないが、地方で低炭素化への動きが活発だ。カリフォルニア州知事のシュワルツェネッガーのほか、「全米でもっとも左寄りの都市」といわれるサンフランシスコは特に環境問題に積極的で、欧州諸国のデンマーク、アイルランドやフランスの環境大臣がサンフランシスコを視察に訪れるほどだ。こんな状況なのに、日本のネット左翼が馬鹿げた「地球温暖化陰謀論」を声高に叫ぶさまを見ていると、非常に強い危機感を抱く。いいかげんに「反知性(反知識人主義)」的な姿勢から脱却できないものか。

ところで、環境問題への取り組みは、負の外部性と闘おうとする欲求だけではなく、地域経済の発展という目的も存在する。新たな雇用が創出されれば、貧困対策にもなるではないか。当ブログの読者の間でも、環境エネルギー問題は関心は高いとはいえず、このテーマを取り上げるとブログへのアクセス数ががくっと下がるが、どんなに不人気でも力を入れて論じなければならないテーマだと私は考えている。

現在、再生可能エネルギー技術で世界をリードしているのはヨーロッパである。ドイツやデンマーク、スウェーデンなどの評判はよくきかれるところだ。日本政府は、遅まきながら「福田ビジョン」なる提言を打ち出し、その行動計画をメディアが報じているが、「福田ビジョン」には相変わらず原子力のPRばかり書いてあるようで、日本政府は政策を大きく転換するつもりはないと見るしかない。
http://www.news.janjan.jp/government/0806/0805318404/1.php

このままでは、日本は世界の流れからどんどん取り残されていき、たそがれの後進国になってしまうだろう。

書いているうち熱くなって本の紹介からずいぶん離れてしまった。元に戻すと、終章「長期停滞を脱する道」で、著者はあらためて新自由主義を批判し、都市政策、教育政策そして新エネルギー政策の分野における、中長期的視野に立った政府の戦略的行動が求められると主張している。そのためには、「小さな政府」ではダメだというわけだ。

そして著者は、サッチャーの影響を受けた「教育カイカク」にかまける安倍晋三を強く批判しているが、さいわい安倍政権は倒れ、後任の福田首相は馬鹿げた国家主義指向の「教育カイカク」にはいたって冷淡だ。ところが、この問題に執念を燃やす平沼赳夫は、自公政権の終わりを見越して民主党にラブコールを送っているし、反自公を掲げるブロガーの中には積極的に平沼一派を応援する人たちさえいる。この人たちには、また日本を逆コースに進ませるつもりなのかと言いたい。

著者は、「われわれが目指さなければいけないのは、新しい産業と社会のあり方の転換である。そして、それは「長い革命」の始まりを意味するのだ」という文章で、本を締めくくっている。私自身、これまで環境・エネルギー問題への関心が高かったとはいえず、汗顔の至りなのだが、今後もこの問題について学びながら、折に触れ駄文を公開していきたいと考えている。

(注) 但し、現在消費税増税を自民党や経団連が狙い、朝日・読売・日経新聞が後押しして民主党にも消費税増税に踏み切れと圧力をかけているが、これには当ブログも反対だ。これだけ格差が拡大し、貧困に面する国民が急増している現段階で消費税増税なんかをやったら、それこそ国民生活が破壊されてしまう。


(この項おわり)


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kojitaken様、こんにちは。私は、今回の取り組みかたは、とても意味があったと思います。私が読みこなせていないので、個別の言及は避けますが、一つ一つの案件、事例が、事実なのかどうなのかと見ていくことが、事実で無いことをはっきりさせ、私の場合でいえば、漠然とした不安感を解消することにつながると思うのです。(もっともすべてのことがクリアになるわけでは無いので、事実解明をきっかけとした非難合戦になってしまわないよう注意が必要だと思います。)私の場合、リチャードコシミズ氏の言の中で、一番不安感をかき立てたのは、自民、民主、社民、共産など既成政党のコアな人脈はつながっていて、政治は芝居のようなものと表現している部分でした。私は、各党の党首クラスのかたがたと面識はありませんので確認のしようがありません。また仮に面識があったとしても、とても質問などできる内容ではありません。しかし事実がわからないことについては、漠然とした不安が続くことになります。「オルタナテイブ通信」に、『政治家に買収されているのが「ごく普通」のマスコミ」』というエントリがあります(7/22)。報道の世界を知らない私などからすれば、同じく不安をかき立てられます。「あのブログに書いてあること、あの人が言っていることはすべて信用できない。」という完全は割り切りは、私にはできそうもありません。でも、ある事例が事実に照らして間違いだ、とかウソだいうのは理解できると思います。

2008.07.27 12:54 URL | 散策 #TY.N/4k. [ 編集 ]













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