きまぐれな日々

昨日のエントリに続いて、『世界』 7月号に掲載された渡辺治氏(一橋大教授)による「新自由主義構造改革と改憲のゆくえ?ポスト安倍政権の動向」と題した論文の後半を紹介する。

安倍辞任を受けて成立した福田康夫政権は、構造改革(新自由主義政策)の手直しをする必要に迫られたが、財界や構造改革遂行の圧力がそれを許さなかった。また、後期高齢者医療制度などは、小泉時代に強行採決で決定された制度であって、いまさら変えられなかった。それで、構造改革の痛みの手当てをしようとしているのだが、その財源として福田政権が考えているのが消費税率の引き上げだ。

渡辺氏は、竹中平蔵や中川秀直が唱える「上げ潮派」を急進改革路線、与謝野馨らが唱える「消費税増税派」を漸進改革路線派と位置づけている。これはよく納得できる議論なのだが、先日、当ブログがこの両派を「新自由主義陣営の路線論争に過ぎない」と主張した時、コメント欄で両者の食い違いは大きいとして、上げ潮派に肩入れされている方がおられた。てっきり、過激な新自由主義者かと思いきや、その方が「社民主義者」を自称されていると知って驚いたものだ。マスコミ報道に騙された典型例といえると思う。

福田政権は、いうまでもなく漸進改革派に傾いており、先日は福田首相自身が消費税率引き上げを言い出した。

改憲戦略でも、福田政権は立て直しを図り、安倍政権の性急な改憲路線によってひびの入った民主党との協調路線を再建しようとした。民主党の方も、保守政党としての制約があり、テロ特措法延長反対に対し、アメリカから猛烈な圧力がかかった。それに対して小沢一郎が持ち出したのが、『世界』2007年11月号に寄稿した「今こそ国際安全保障の原則確立を」という論文だった。これは、海外派兵恒久法のような法律を作って、国連のお墨付きがあれば自衛隊の海外派兵を容認するとするもので、発表当時大騒ぎになったことは記憶に新しい。この件は、昨年11月の福田康夫と小沢一郎の大連立協議でも議題になった。

さらに福田政権は、「九条の会」の右派版ともいうべき、改憲の国民運動を起こそうとしている。これには野党も巻き込もうとしており、新憲法制定議員同盟の新任顧問に、民主党の鳩山由紀夫と国民新党の亀井静香を加えた。

参院選の惨敗によって新自由主義改革と軍事大国化路線にブレーキがかかった自民党政権だが、戦略の成否の鍵を握るのが民主党だ。渡辺氏の記述を以下に引用する。

 民主党は、98年以降明らかに保守二大政党制の一角を占める保守第二政党としての性格を強めてきた。ところが、2007年の参院選時には、民主党は明らかに保守政党の枠を踏み破って福祉国家的性格の濃厚な方針を提示し、構造改革や改憲に批判的な大衆の支持を獲得した。転換の直接の契機は小沢の選挙戦略であるが、その中身がかかるものになった背景には、改憲をめぐる運動の昂揚と構造改革の社会的結果の劇的顕在化があったことは明らかである。

(『世界』 2008年7月号掲載 渡辺治「新自由主義構造改革と改憲のゆくえ ポスト安倍政権の動向」より)


渡辺氏はさらに、民主党内には(左右)両極が存在するから、党がもとのように保守政党の枠に収まるか、保守政党からの逸脱を続けるかは、世論と運動の大きさに左右されると思われる、としている。

当面の課題として渡辺氏が挙げるのが、後期高齢者医療制度についての対案、自民党が突いてくる財源問題への対処と海外派兵恒久法である。

ここで民主党の帰趨は決まるし、昨年の参院選の結果を受けた現在を、改憲、新自由主義転換の分岐点にすることができるかどうかは、海外派兵恒久法や後期高齢者医療制度を葬り去ることができるかどうかにかかっている、という指摘で論文は結ばれている。

よく当ブログが民主党について書くと、あんな政党は自民党と同じで軍拡路線を目指す新自由主義政党だ、というコメントをいただく。だが、民主党は昨年の参院選で、福祉国家的政治を目指し、軍事大国化には反対する方向性を持った公約をした。その公約があったから、有権者は民主党に投票したのである。

いかに民主党内部に多数の軍拡論者や新自由主義者がいようが、昨夏の公約を民主党が果たすよう、国民が民主党に促し続けるしかない。経済政策で180度方向転換するような、よく言えば柔軟、悪く言えば無節操な政党だから、国民の声が民主党を動かすことは十分可能なはずだ。そう思ってブログを書いている今日この頃である。


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 私もそう思います。
 既存護憲政党が支持を失ったのは、時代に対する柔軟性を失っているからです。
 民主党を批判する者は、それによる自民党を利する行為を知らずにやっているか確信犯です。
 もし本当に、自民党の悪政を倒したいなら、それができる勢力である民主党を、国民の声と一票で、変えていくのです。
 昨年の参院選の時、「反戦な家づくり」の明月さんが、候補者にアンケートを取り、護憲か改憲かを問いました。私はその結果を参考に、改憲志向の者には投票しませんでした。そのように、ただ、評論しているのではなく、ブログやリアルの活動を通じて、自分たちの意見を政党に実現させていくのです。
 政党を育てるのも主権者たる国民です。
 単に民主党批判をしているのは、無責任です。

2008.06.23 12:21 URL | 眠り猫 #2eH89A.o [ 編集 ]

>渡辺氏は、竹中平蔵や中川秀直が唱える「上げ潮派」を急進改革路線、与謝野馨らが唱える「消費税増税派」を漸進改革路線派と位置づけている。<

>これはよく納得できる議論なのだが、先日、当ブログがこの両派を「新自由主義陣営の路線論争に過ぎない」と主張した時、コメント欄で両者の食い違いは大きいとして、上げ潮派に肩入れされている方がおられた。てっきり、過激な新自由主義者かと思いきや、その方が「社民主義者」を自称されていると知って驚いたものだ。マスコミ報道に騙された典型例といえると思う。<

人を勝手に騙された典型と侮辱するとは失礼な人ですね。ご自分の認識が絶対に正しいとお考えなのでしょうか。

一つ質問です。小泉以前の自民党政治は大筋社民主義政策をとっていたという認識なのでしょうか?ご教示願いたい。

2008.06.23 18:26 URL | 牛に曳かれて #TY.N/4k. [ 編集 ]

 私はこちらと、「世界の片隅でニュースを読む」をよく参考にさせていただいているのですが、「世界の~」の民主党批判は容赦ないですね。それからベンジャミン・フルフォードといった陰謀論者にも容赦ない。
 もちろん、政治ブログはどこか既成党派のシンパであることを表明する場所ではないのだから、あれもこれもと舌鋒鋭く批判しても構わないわけですが、あのブログのようにどちらかと言えば、日本共産党に近いかな、という結論も、何やら無力感を禁じえません。
 日共にいつまでも狭い伝統と組織にあぐらをかいている象牙の塔のような、独善的印象を感じているのは私だけではないでしょう。
 やはり、少なくとも只今は、民主党・国民新党・社民党・新党日本の大グループをどれだけ叱咤激励するかに、日本の未来はかかっているのではないでしょうか。

2008.06.23 20:03 URL | cube #- [ 編集 ]

牛に曳かれてさん、

コメントどうもありがとうございます。

> 人を勝手に騙された典型と侮辱するとは失礼な人ですね。ご自分の認識が絶対に正しいとお考えなのでしょうか。

口が悪いもので、どうもすみません。ですけど、社民主義を標榜する人にはマスメディアに騙されてほしくないという思いを込めて書きました。

私は、自分の認識が「絶対に」正しいなどとは思いませんが、「たぶん正しいだろう」と思っています。説得力のある反論をしていただければ、認識を改めるにやぶさかではありませんので、反論をお待ちしています。
(但し、コメント欄を議論の場にするつもりはありません。あなたのブログで反論していただければと思います)

> 小泉以前の自民党政治は大筋社民主義政策をとっていたという認識なのでしょうか?

いいえ。
保守政権は、池田内閣以降鈴木内閣まで、おおむね修正資本主義をとりました。
中曽根内閣で新自由主義の最初の試みが行われましたが、徹底されませんでした。しかし、中曽根民活路線はバブルを生んでしまいました。

以後の政権では、再び修正資本主義路線に戻りましたが、政権交代のあった細川内閣が新自由主義政策をとり、それに対する修正資本主義及び社会民主主義の巻き返しとして位置づけられるのが自社さの村山内閣です。しかし、この頃からグローバリズムの圧力が強まり、橋本、小渕と徐々に新自由主義色を強めて行き、これといって特徴のなかった森内閣のあと、過激な新自由主義をとる小泉内閣が現れたというのが私の認識です。

だから、コイズミで突然新自由主義に切り替わったわけではなく、80年代以降の自民党政権において、徐々に新自由主義化が進行していったと考えています。

2008.06.23 20:44 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

cubeさん、

コメントどうもありがとうございます。
「世界の片隅でニュースを読む」の記事は下記ですね。
http://sekakata.exblog.jp/7238602/

教えていただいてありがとうございます。この記事は未読でした。

この記事はおおむね正論だと思います。弊ブログは小沢一郎を妄信してもいませんし、「小さな政府」指向の批判もしています。

しかし、共産党中心の政権などいつになったら実現できるかわからないし、現に政権政党である自民党(アメリカからの圧力も強い)より、参院選で福祉国家的政策と軍事大国化反対を打ち出した民主党の方がまだ動かしやすい、とは言わぬまでも辛抱強く働きかければいずれ動くかもしれないと思います。

民主党は、平沼赳夫の秋波に色よい反応を示すなど、ちょっと油断してるといつとんでもない方向に走るかわからない政党ですが、それでも自民党よりはなんぼかマシだと思うし、この困った政党をいかに社民党・国民新党・新党日本がまともな方向に向かわせるか、そして国民がどれだけそれを後押しできるかに、日本の未来がかかっていると思います。

2008.06.23 21:18 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

相変わらず、上から口調の傲慢なブログですね。口調は変わっていないものの、かつて小沢さんと小沢さんを辞めさせなかった民主党を非難していたあの短絡思考は、少しは変わったのでしょうか。

2008.06.24 12:29 URL | arataku00 #- [ 編集 ]

「既存護憲政党が支持を失ったのは」
民主は新興護憲政党ではなく改憲政党です。
http://www.dpj.or.jp/news/files/SG0065.pdf
「現行憲法に足らざる点があれば補い、改めるべき点があれば改める」とも言っているのだから、紛れもなく改憲政党です。
「本当に、自民党の悪政を倒したいなら、それができる勢力である民主党を」
自民党の悪政のほとんどは民主も賛成しています。大連立に乗りかかったのも、新自由主義の同志なればこそ。
「自民党を利する行為」
自民も民主も新自由主義の仲間です。

2008.06.24 19:09 URL | Black Joker #- [ 編集 ]

既存政党で、自分の考え方にピッタシカンカン!などというのはありえませんよね。
だったら、より近い、もしくはより近い方向へ動かせる様な政党に肩入れするのも当たり前と思います。
そして自民党が霞ヶ関と財界の神輿に乗る政党で、アメリカの忠実な僕であるなら尚更です。
それにしても小泉以後、日本は随分と変わりましたよ。
特に社会を支える基盤である教育・福祉・医療の3つに顕著です。
例えば福祉では、小渕政権時までは増やす方向であった療養型ベッドを逆に大幅に削減し、そのしわ寄せを老人保健施設に負わせようとしている。ただでさえ不足気味の施設と人員が、とても対応できないように追い込まれても、とにかくこの分野(医療)へのコストを減らそうとする。これは財界からの要望なのだろうね。財界は企業負担を減らそうとやっきですから。そして崩壊した医療。もはや東京でも救急患者のたらい回しは当たり前ですからね。先日知り合いのご家族が心筋梗塞となり、救急車で病院へ向かおうとしたのですが、自宅から出発するだけに30分以上かかりましたと。受け入れる病院がなくて救急車が動けなかった!のですよ。そして教育。国立大学は独立法人化され、いまや役人の天下り場と化していますよ。予算の多くを天下り役人の報酬として食われている実態など誰も知らないですからね。でもって私立のレベルなど推して知るべしですから。企業も日本では大学への投資など、海外と比べたら比較にならない低レベルです。正直これでは日本は現在も未来も恐ろしく暗いですね。例のアメリカによる年次改革要望書の最終年は2011年でしたっけ。でも実際は来年で終了で、あとは財務処理みたいなものです。したがって日本は年内に政権交代でもしない限りは、アメリカのいいなりで終わりでしょう。タイムアウトです。小沢代表が焦る気持ちも良くわかりますわ。

2008.06.25 02:57 URL | 風太 #seTEoywg [ 編集 ]













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