きまぐれな日々

話題の映画 『靖国 YASUKUNI』 (李纓=リ・イン=監督作品)を見てきた。本エントリと明日(5月20日)公開予定のエントリの2回に分けて、この映画の感想を書く。

「靖国」チラシ
(↑クリックすると画像が拡大します)

この映画については、既にいろいろなメディアで映画評を読むことができる。上映を予定していたいくつかの映画館が右翼の圧力を恐れて上映を取り止め、その背後に稲田朋美や有村治子ら国会議員の圧力が取りざたされて話題となった映画だ。憲法第21条に規定された「表現の自由」とも絡めて論じられたこの騒動によって、この映画は一躍脚光を浴びることになり、憲法記念日の5月3日に一般公開された時には、マスコミでも大きく報じられた。

メディアなどに出ている映画評は、評者たちに「話題先行の映画」という先入観があるせいか、必ずしも芳しいものではない。朝日新聞社の論壇誌「論座」にこの映画の特集が出ていたが、そこにもまともな映画評は掲載されていなかった(結局この号の購入を見送ったほど失望させられた)。

映画を見る時は、先入観などに惑わされてはならない。私は、この映画は超一級のドキュメンタリーとはいえないまでも、一級の作品だと思う。右翼が騒ぐようなプロパガンダ映画では全くなく、見る人に考えさせる映画だ。右派にも左派にも受け入れられる懐の深さを持った作品というべきだろう。

私は、靖国神社に対して否定的な人間なので、そのようなバイアスのかかった感想文であることをあらかじめおことわりしておく。同じ映画でも、人によって違った見方をするのは当たり前のことだ。

(以下ネタバレを含みます。ご覧になりたくなりたくない方は、ここで読むのを止めて下さい。ご覧になる方は More ... へどうぞ)
映画の冒頭に、高知市在住の刀匠、刈谷直治(かりや・なおじ)さん(90)が出演するが、刀匠は靖国神社をめぐるさまざまな場面をはさみながら映画全編に登場する。映画を見終わってだいぶ経ってから、ムソルグスキーの「展覧会の絵」みたいな構成だな、と思い当たった。もともとはピアノ独奏のために書かれ、モーリス・ラヴェルによる管弦楽への編曲やエマーソン・レイク&パーマーによるロックへの編曲、さらには冨田勲のシンセサイザーへの編曲などで有名になった組曲「展覧会の絵」の冒頭には、「プロムナード」という曲があって、これが展示された絵の印象によって気分を変えながら再三再四現れ、音楽が進んでいくのだが、それを思わせる構成を持つ映画だ。

靖国をめぐる場面は、最初は右翼の騒がしい怒鳴り声がやたら目立って、表面的にはまるで右翼の宣伝映画かと見紛うばかりだが、私はそうは受け取らなかった。

靖国神社は、世間一般で誤解されているような戦没者を慰霊する施設ではなく、お国のために戦死した「英霊」を「顕彰」する施設だ。それをはっきり指摘したのが高橋哲哉の 『靖国問題』 (ちくま新書、2005年)であり、私は一昨年に 「カナダde日本語」 の記事でこの本を知ったのだが、目からウロコが落ちるとはこのことだった。そして、映画の初めの方で映し出される右翼の狂騒は戦没者の慰霊には似つかわしくないが、英霊の顕彰、つまりの戦争の賛美にはふさわしいことが納得できるのだ。

映画に、コイズミが「靖国参拝は『心の問題』だからそれを外国の政府が介入して止めさせようとするのは理解できない」と啖呵を切る場面が出てくるが、靖国神社が戦争を賛美する施設であることを右翼の狂騒を通じて改めて見せつけられたあとでは、コイズミの言葉は空虚に響くばかりだ。

4月6日のテレビ朝日「サンデープロジェクト」の放送でも映し出された、星条旗を持ってコイズミ支持を訴えるアメリカ人が結局つまみ出される場面でも、映像は最初このアメリカ人を歓迎する人たちがいたことをとらえていた。「鬼畜米英」のはずなのになぜ? と思ったものだ。一方、コイズミの靖国反対を訴える若者が叩き出される場面では、彼は「中国に帰れ、中国に!」と執拗な罵声を浴びせ続けられており、これは、米国人乱入のシーンでの参拝客の躊躇(ちゅうちょ)と好対照をなしていた。

(以下 "『靖国 YASUKUNI』 映画評(下)" に続く)


[参考資料]

高橋哲哉著 『靖国問題』 (ちくま新書、2005年)

靖国問題靖国問題
(2005/04)
高橋 哲哉

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ムソルグスキー作曲 『展覧会の絵』

エフゲニー・キーシンのピアノ独奏による「プロムナード」、「小人(グノーム)」及び「古城」。「小人」と「古城」の間に、冒頭の「プロムナード」が再現する。


エマーソン・レイク&パーマー版による「プロムナード」及び「小人(グノーム)」


モーリス・ラヴェル編曲の管弦楽版による「バーバ・ヤーガ」及び終曲「キエフの大門」 (6分01秒あたりで「プロムナード」の旋律が現れることに注意)



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靖国神社は、管理人さんが御指摘の通り 『英霊』を鎮魂する施設と言えます。
戦没者全体を追悼する施設ではないような気がします。
宗教施設である以上、遺族の視点に立って、靖国神社に合祀を求めるケースと神道を信じていない場合には分祀(合祀を取り止める)をする柔軟性を持たせなければならないと思います。
靖国神社にしても、
伊勢神宮にしても、 天皇制や神道を信じる人々の精神的支柱となっていることは重く受け止めなければならないと考えます。(リベラル派も)
(宗教施設である以上)A級戦犯が合祀されるべきなのかは、政治的・外交的理由よりも遺族の感情を優先する方が いいのかもしれません。

2008.05.19 17:55 URL | 葉隠 #CRmGiUQU [ 編集 ]

靖国神社、及びその盲信者達は戦争で日常生活を破壊された上に殺された人々に気を配ることはありません。その証拠に米軍の原爆投下を含む空爆で殺された一般の方々(大多数が「同胞」である日本人)は誰一人英霊として靖国神社に祀られていないのです。そんな「特殊な」神社を参拝する理由に戦没者慰霊を使うのは単なるごまかしに過ぎません。祀られてすらいない数多くの一般の方々を最初からいなかったものとみなしている点ではいじめと同じです。

2008.05.30 00:38 URL | 邪神の使者 #LlwsPlqM [ 編集 ]













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