ところで、戦争末期に米軍が空襲を行ったのは、いうまでもないが東京大空襲や大阪大空襲だけではない。東京でも、3月10日の大空襲は下町が焼かれたのだが、4月4日には立川市が爆撃され、5月25日には渋谷など東京の山の手が大空襲を受けた。大阪でも、3月14日には港区が空襲を受けたが、6月8日には大阪市北部が大空襲を受けた。
各地にお住まいの皆さまは、ご自分の住んでおられる町が空襲を受けたかどうか調べてみられると良いかもしれない。四国・中国地方では、1945年6月29日に岡山、同7月4日には高松、徳島、高知、7月26日には松山が空襲を受けた。そして、8月6日には広島に原爆が投下されたのである。
何の罪もない市民を無差別虐殺したアメリカの悪逆非道ぶりには呆れて言葉もないが、"東京大空襲 日本は「抗議」、米は「黙殺」" と題された朝日新聞の記事によると、第2次世界大戦の末期、日本は都市部などへ繰り返される爆撃を「国際法違反だ」と米国に抗議していたが、米国は抗議を「黙殺」することを決定したという。約10万人が犠牲となる東京大空襲が始まったのは、その3日後のことだった(下記URL参照)。
http://www.asahi.com/national/update/0310/TKY200803100199.html
この記事によると、日本軍は1938年から中国・重慶などを無差別爆撃、死者は1万人を超えたとされるが、米国もこれを「国際法上の問題」と批判していたという。日本は、自国のやっていた無差別殺人に頬かむりしながらアメリカを非難したのだが、アメリカもそんな日本を非難しながら、同じことを日本に対してやったのだ。双方とも、どうしようもない外道の政治権力だったというほかない。こんな政治権力を持った国民は不幸だ。戦勝国たるアメリカの戦争犯罪に対しても、敗戦国の戦争犯罪同様、厳しくその責任を追及する必要があると当ブログは考える。ルーズベルトやトルーマンは、ヒトラーや東条英機に比すべき戦争犯罪人と評するべきだろう。
だが、日本人がアメリカの戦争犯罪の追及より前になすべきことは、日本人の戦争責任の追及だ。坂口安吾は、戦後いち早く天皇制の問題に切り込んだ作家だったが、その安吾に、「もう軍備はいらない」 (1952年)という文章がある。
東京大空襲のことを思いながら、ネット検索で行き着いたこの文章に感銘を受けた。何箇所か引用する。
今日までの金持というものは、だいたいにねかせた財産をもち、その大小によって金持の番附がつくられるような富の在り方であった。莫大な預金、広大な所有地。そしてそれは泥棒が主として狙う富でもあった。だが、財産とか富貴というものがそれだけだとは限らない。泥棒がどうすることもできないような財産もありうるであろう。
高い工業技術とか優秀な製品というものは、その技能を身につけた人間を盗まぬ限りは盗むわけにはゆかない。そしてそれが特定の少数の人に属するものではなく国民全部に行きたわっている場合には盗みようがない。
美しい芸術を創ったり、うまい食べ物を造ったり、便利な生活を考案したりして、またそれを味うことが行きわたっているような生活自体を誰も盗むことができないだろう。すくなくとも、その国が自ら戦争さえしなければ、それがこわされる筈はあるまい。
(中略)
日本という国も泥棒の心配がいらない身分におちぶれてみて、いろいろのことが分らなければならない道理であったろう。
昔は三大強国と自称し、一等国の中のそのまたAクラスから負けて四等国に落ッこッたと本人は云ってるけれども、その四等国のしかも散々叩きつぶされ焼きはらわれ手足をもがれて丸ハダカになってからやッと七年目にすぎないというのに、もうそろそろ昔の自称一等国時代の生活水準と変りがないじゃないか。足りないものは軍艦や戦車や飛行機だけ。つまり負けるまでは四等国の生活水準を国防するために超Aクラスのダンビラをそろえて磨きあげて目玉をギョロつかせていただけのことではないか。
人に無理強いされた憲法だと云うが、拙者は戦争はいたしません、というのはこの一条に限って全く世界一の憲法さ。戦争はキ印かバカがするものにきまっているのだ。四等国が超Aクラスの軍備をととのえて目の玉だけギョロつかせて威張り返って睨めまわしているのも滑稽だが、四等国が四等国なみの軍備をととのえそれで一人前の体裁がととのったつもりでいるのも同じように滑稽である。日本ばかりではないのだ。軍備をととのえ、敵なる者と一戦を辞せずの考えに憑かれている国という国がみんな滑稽なのさ。彼らはみんなキツネ憑きなのさ。本性はまだ居候の域を卒業しておらず、要するに地球上には本当の一等国も二等国もまだ存在せず、ようやく三等国ぐらいがそれもチラホラ、そんなものだ。大軍備、原子バクダンのたぐいは三好清海入道の鉄の棒に類するもので、それをぶらさげて歩くだけ腹がへるにすぎない。
(中略)
けれども、現在どこかに本当に戦争したがっている総理大臣のような人物がいるとすれば、その存在は不気味というような感情を全く通りこしている存在だ。同類の人間だとは思われない。理性も感情も手がとどかない何かのような気がするだけだ。しかし私はその実在を信じているわけではない。むしろ、そういう誰かは存在しないのじゃないかと考える。それほどのバカやキ印は考えられない気になるからだ。
けれども、日本の再軍備は国際情勢や関係からの避けがたいものだと信じて説をなす人は、こういう奇怪な実力をもった誰かの存在を確信しているのだろうか。そんな考えの人も不気味だね。同じ不気味にしても、完全犯罪狂の殺人鬼よりもそそっかしくてメンミツでないらしいので、ソラ怖しいよ。
(坂口安吾 「もう軍備はいらない」 より)
「もう戦争はコリゴリ」、それが当時の国民の圧倒的な声だったに相違ないが、日本の再軍備はその後進んで行き、現在では自衛を超えて、かつて非難し合いながら戦ったアメリカの軍事戦略に組み入れられるに至った。
そして、坂口安吾が想像もつかなかった、「本当に戦争したがっている」 化け物のような総理大臣は、坂口がこの文章を書いた54年後に現れた。その人物を、立花隆は「魑魅魍魎」と形容している。
http://www.kit.hi-ho.ne.jp/msatou/06-10/061027asyura-tachibana.htm
安倍晋三は1年で首相の座を追われたとはいえ、「安倍的なるもの」は今も健在である。しかも、安倍やその前任者コイズミは、新自由主義政策をとって「格差拡大」を引き起こした。日本国民の安全は、外敵によってではなく、国の為政者によって脅かされた。現在の福田首相も、耳当たりの良い言葉を口にしているが、実行力が伴わず、コイズミや安倍が切った方向へと国は漂流している。
そして、これにストップをかけるために努力すべき野党第一党の民主党も、枝葉にばかりこだわっていて国民の不信感を招き、福田内閣の支持率が下がっているのに、民主党の支持率も下がって逆に自民党の支持率がこのところやや上昇気味だ。小沢一郎体制が求心力を失いつつあるようだが、またぞろ前原誠司が対中強硬姿勢を叫んだり憲法改定を目指す超党派の議連に参加したりしてアピールし始めた。国民が生活の改善と安定を求めているのに、ごく一部の人たちしか求めていない憲法改定にばかり執心して選挙で惨敗したのが安倍晋三だったが、このまま前原の突出がエスカレートするようでは、民主党の党勢も落ちていくだろう。民主党の政治家たちは、なぜ手をこまねいてこれを黙認しているのか。
国民が求めているものと政治とのギャップがますます拡大してきた。こういう時には、強い指導者への渇望が起きやすい。きわめて危ない状態だ。特に「リベラル」を自認する政治家や言論人の奮起が求められる今日この頃だ。
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「昨日、悪魔がここに来た。まだ硫黄のにおいが残っている。」
国連総会における演説の前に、南米ベネズエラのチャベス大統領が言った言葉。
まさにブッシュは、坂口安吾が言う、人間では無いようなもの、と言うしかない存在です。
私が書評をブログに書いた、「反米大陸」における、中南米諸国家に対する、19世紀以降のアメリカの侵略と収奪の歴史は、おぞけをふるうものですが、それでも、アメリカ人にとっては、アメリカの権利と財産を守るための行為だと主張したでしょう。そしてアメリカ国内では、それで通ったでしょう。
しかし、ブッシュはさらに異常でした。
アメリカの利益のためでは無く、自分個人と取り巻きの私利私欲のために戦争を起こしたのですから。
チャベス大統領の言葉は、確かにパフォーマンスでしたでしょう。しかし、南米の民にとって、それは本心から出た言葉と受け止められたと思います。中には、南米の他国の大統領で、「あんなことを言うなんて、悪魔に失礼だ。」と言った人もいます。
天木直人のブログの昨日の記事で、「これでは反米テロは減らないはずだ」、と言うのがあります(http://www.amakiblog.com/archives/2008/03/10/#000759)が、ブッシュが能天気に、早めの退任祝賀パーティーを開き、そこでカウボーイ姿でおどけて見せたのだそうです。
反省無き国家アメリカ。さらに反省無き悪魔以下のなにものかブッシュ。
アメリカの民主主義は時に素晴らしいが時に化けものも選んでしまうのである。
安倍や前原は、三流のブッシュと言うところでしょう。なぜなら、ブッシュは石油会社の役員だったからイラクに石油略奪のための戦争をしかけましたが、安倍や前原は、会社の役員の経験など無く、ただタカ派的行動の結果生じる軍事利権のおこぼれをあさるだけの、腐肉喰らいの悪魔の周りで飛び回っている変な生き物程度の奴らです。
支持している連中の顔が見たい。
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