きまぐれな日々

 昨年の大阪市長選では、民主党と国民新党が推薦した平松邦夫氏が、自公推薦の現職・関淳一氏を破った。関氏は、市政の「改革」を掲げていた人だった。

 この勢いと、橋下徹擁立の際のすったもんだを考え合わせると、大阪府知事選でも民主党・社民党・国民新党推薦の熊谷貞俊氏に勝機は十分あったはずだ。しかし結果はダブルスコアの惨敗だった。

 熊谷氏出馬表明の直後の時期、最初の段階が勝敗を分けた。熊谷氏の資質を云々する声もあるが、財界とのつながりの忌避をいうなら、梅田章二候補に票が流れるはずだ。実際流れたのだろうが、その影響は微々たるものだった。

 ネットで調べてみると、熊谷氏の 「上から目線」 を批判し、それより 「庶民の目線」 で語る橋下を支持し、投票したという声が結構見られた。

 この「上から目線」というのは、2005年頃から使われ始めた一種の流行語らしく、「ポピュリズム 上から目線」でGoogle検索すると、一番上に当ブログを批判するブログ記事が引っかかって苦笑させられるのだが(注:その後ほかならぬ本エントリなどに抜かれて5位に落ちた)、もとはお笑い芸人がテレビでしきりに使って、それがネットでも広まったもののようだ。ネットには「上から目線」批判に対する反批判も一昨年頃から結構あるようだし、昨日はいくつかの有名ブログでも取り上げられていたようで、ここでくどくどと書くと、またブログの番人から「小型なんとか」だとか言われそうだが、「上から目線」批判というのは、一種の思考停止だということは指摘しておかねばならない。

 上記の当ブログを批判したブログのコメント欄には、ほかならぬブログ管理人が地方を見下すコメントを書いていたりして、それだけで自家撞着していて面白いのだが、まあ余計なことはこれ以上書かないでおこう。

 ポピュリズム批判というのは、日本では保守政権支持の側が野党を批判する際に多用されるようになったと記憶している。そのきっかけは、渡邉恒雄(ナベツネ)の著書 『ポピュリズム批判』 (1999年)ではなかっただろうか。ナベツネがこの本を出したあと、田原総一朗がテレビで野党を批判するのに「ポピュリズム」という言葉を多用するようになった。2000年に東京都知事・石原慎太郎が外形標準課税を言い出した時、朝日新聞はこれを支持し、読売新聞は「大衆迎合」だとしてこれを批判したが、これを取り上げた「サンプロ」で田原が「ポピュリズム」という言葉を絶叫していたと記憶している(外形標準課税は、故美濃部亮吉・元東京都知事が温めていたアイデアを石原がパクったものだった)。それ以来、ポピュリズムとは、一般に「大衆迎合主義」という意味で用いられるようになった。

 当時や現在の野党よりよほど「ポピュリズム」という言葉がピッタリ当てはまる小泉純一郎が総理大臣になると、この言葉はさらに広まったが、石原慎太郎、小泉純一郎、それに橋下徹らは、「大衆に迎合している」というより、「大衆を煽動している」という形容がぴったりくる人たちだ。橋下については、例の光市母子殺害事件の被告弁護団への懲戒請求を煽った件が象徴的だろう。だから、ポピュリズムを「大衆迎合主義」というより「大衆煽動主義」と定義すべきだという意見もあり、私はそれももっともだと思う。

 今回、熊谷氏を「上から目線」と批判して「庶民の目線」でものを語る橋下に投票した大阪府民にとっては、光市事件弁護団の懲戒請求の一件をとっても、「庶民の感覚に合致した言動」に映るのだろうし、ひとたび橋下が優勢だとわかると、みな「バスに乗り遅れるな」とばかりに橋下支持に流れる。これは、2005年の郵政総選挙の時と同じだし、昨年の参院選も、残念ながらこれの裏返しという側面が強かったということを、リベラル・左派系の人間も認めざるを得ないのではなかろうか。

 いずれにしても、「大阪府民は適切な選択をした」とは私は思わない。リベラル・左派系にも、「上から目線」批判を恐れてか、努めて冷静に選挙結果を受け入れようとする意見が見られるが、それはもちろん「大衆煽動主義」ではないけれど、「大衆迎合主義」ではあると思う。民主党の選挙戦略や選挙戦術、それにこれまで自公と相乗りで与党になってきたことからまともに自公と戦う姿勢を見せなかったことへの批判の声もあり、当ブログの昨日のエントリに対しても、もっと民主党を批判せよというコメントもいただいたが、当ブログは民主党批判など前からやっている。選挙結果について民主党など野党を責めるだけにとどめて、有権者に対しては何の批判もするなというのは、自らを「大衆」の立場に置いて、それへの無批判を暗に要求する、厚かましくも不誠実な態度だと思う。

 例の擬似科学批判との絡みでいうと、アインシュタインの相対性理論を理解するより、コンノケンイチが「アインシュタインの相対性理論はデタラメだった」と主張する新書を読む方が、ずっと気楽だし「庶民的」な行ないだ。だが、そういう姿勢からは科学技術は発達しないし、そのような擬似科学を支持する態度が正しいか間違っているかというと、「間違っている」に決まっている。

 社会科学や政治問題は、簡単に割り切れない部分が多いのだが、基本的に私は同様のスタンスで臨むものである。
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一つ間違いだと思う事を書きますと、
ポリュリズムと書くのは間違いだと思います。そう書いても、普通の人には「英語?なんか、かっけー」としか捉えられません。
衆愚化の方が愚かと言う字が入っているだけ
少しマシです。
外人が「変人」と漢字で書かれたTシャツを喜んで着るのと同じです。

2008.01.29 17:44 URL | Lark #8emXYJeA [ 編集 ]

 私も、大阪の選挙で、「衆愚」の言葉を使ったら、上から目線といわれました。
 そのつもりはないのですがね。
 おっしゃる通りで、「上から目線」はいけない、という言い方で、実際に愚かな行動をとりやすい(あおられやすい)人々を批判するのを封じるのは、逆に自分は開明的だと思っている、えせ文化人ではないかと思います。
 事実を直視して、その対策を考える。その上で、大衆の視線に立つことは必要だと思います。

2008.01.30 16:14 URL | 眠り猫 #2eH89A.o [ 編集 ]

私は「衆愚」という言葉を、使用された言説に対する反証の際に使った以外はいままで一度も使ったことがありません。
しかし、「衆愚」(≒ポピュリズム)という言葉に単純過敏に反応し「上から目線」という言葉で毛嫌いする傾向は問題がありますね。
「上から目線」の何が悪いのか?「庶民の目線」とは何なのか?考えるに価する「問題」がありそうです。…時間ができたら少しでも思考し報告します。

2008.01.30 17:36 URL | なごなぐ #hiiZJbic [ 編集 ]

こんばんわ.眠り猫さんの所に書いたコメントとほとんど同じ事を書かせていただきます.
世の中には『俗情を刺激されて』それに煽られる,もしくは乗せられる人は数多く存在します.大衆といっていい数です.
ならばそういう集団を表現する言葉が必要で,それが『衆愚』という言葉になるのだと思います.
そして,私自身は衆愚とは違うのだ,という矜持を持って生きて行こうと思っています.
偉そうにすみませんでした.

2008.01.30 21:37 URL | アルバイシンの丘 #TorSTC.A [ 編集 ]

「上からの目線」といよりは、全然ピントはずれな意見です。

熊谷候補は自分の意見を訴えなかった。それが大きな敗因ではないでしょうか。敗因について、天木直人氏のほうが適切に分析しています。

http://www.amakiblog.com/archives/2008/01/29/

お玉おばさんのコメント欄にも、適切な指摘がいくつかあります。

2008.01.30 23:16 URL | ねこ #mQop/nM. [ 編集 ]

「大阪府に必要なのは大学教授ではなくて破産管財人としての弁護士」

と言う意見に大いに納得。
イデオロギーとかポピュリズムではなくて単なる実務の問題ですね。

2008.01.31 00:03 URL | 蒸発した名無し #- [ 編集 ]

誰が選ばれても、いいじゃないですか。やらせてみればいい、タレント知事なんていわれているけど、すごい才能を発揮して、大阪府を立て直すかもしれない。もちろん、失敗するかもしれません。そしたら、次の選挙で違う人にすればいいだけです。ポピュリズムだとか、大衆を扇動しているとかと言って、大阪府民が自分で考える頭がないようだと言って、大阪府民を馬鹿する人は、私は嫌いです。橋下氏を選んだのは、大阪府民の意思です。これは尊重せねばなりません。橋下氏が選出されたことによる利益も不利益も大阪府民は甘んじて受けるだけです。自分たちで選んだのですから、これをとやかく言う必要なないんじゃないんですか?
リベラル派は、気がつくと、偽善者っぽくなりやすいので、ご注意を。
私は、保守派ですが、圧制者に命をかけてでも、立ち向かうリベラルは尊敬します。日本には少ないようですが。

2008.01.31 02:53 URL | ZAK #phaMMEf2 [ 編集 ]

一般のおじさん、おばさんはイメージで橋下に投票したのでしょうけど、
ネットで書き込みしてる連中は橋下の過去の発言をよく知ってるわけですし、
それでも応援するというのは、橋下の屈折した思想に共感してる連中でしょうし、
ブログや掲示板で橋下を応援してる書き込みを見ると、”橋下の思想に共感してる連中なんだ”と思って即座にキモイと思ってしまいますし、寒気がしてきます。

2008.01.31 21:49 URL | のと #- [ 編集 ]

大阪府知事選の、アンチ橋下のみなさん。
あなた方に述べるならば、こうです。

「ラーメンは身体に悪い、だから食べるな」という運動は、ラーメンを食べる人を減らす可能性がある。
しかし、ラーメンを食べる人が減っても、決して蕎麦を食べる人が増えるわけではない。
「蕎麦はおいしいよ、食べてみてよ」と言わない限り、蕎麦を食べる人は増えないのだ。

2008.02.02 16:11 URL | wakuwaku_44 #- [ 編集 ]













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