きまぐれな日々

10月3日のエントリ "コメント特集 ? 新自由主義批判" で、「空き瓶」さんからいただいたコメントをご紹介したが、その中に、
kojitakenさんの言うとおり、新自由主義の責任は中曽根に遡らなければなりません。
そこへの言及を行わないものは、小泉クラスの八百長詐欺師といえる。
という言葉があったことがずっと気になっていた。

というのは、上記エントリでも書いたが、私は、日本において新自由主義政策を最初にとった首相が中曽根康弘であることなど、多くの方にとっては常識だと思っていたのだが、どうやらそうでもなさそうだからだ。

そもそも、新自由主義の開祖は1979年にイギリスの首相になったマーガレット・サッチャーである。そして、1980年の米大統領選挙で勝利したロナルド・レーガンがそれに続いた。それからさらに遅れること2年、1982年に日本の首相に就任した中曽根康弘がサッチャリズム(サッチャー主義)やレーガノミクス(レーガン経済学)に追随した政策を始めた。

私はサッチャーの首相就任時、政治経済に旺盛な興味を持つ高校生だったが、当時からサッチャーの政治が「英国病」といわれて斜陽をかこっていたイギリス経済を立て直したとされる一方、弱者に苛烈な政策によって英国社会の貧富の差を拡大したことは十分認識していた。だから、中曽根が首相になった時、いやなやつが総理大臣になったなあ、これからの日本はどうなるのだろうと心配したものだ。現在、コイズミが極限にまで格差を拡大する政策をとったせいで、コイズミやその後継者だった安倍晋三ばかりが叩かれているが、確かに日本における新自由主義政策を語るには、中曽根康弘にまで遡らなければならない。

また、サッチャーは本当に英国経済を立て直したのだろうか、などという疑問を持っていろいろネットで調べていくうち、神野直彦著 『人間回復の経済学』 (岩波新書、2002年)という本に行き当たったので、これを買い求めた。なお、「神野直彦」を検索語にしてGoogle検索をかけたら、25番目に当ブログの記事が引っかかったので、これには驚いた。どこかで聞いたことがある名前だなあと思いつつも、神野氏の名前を失念していたからだ。

検索で引っかかった記事は下記である。

"首相就任前から「ポスト」を取り沙汰されていた安倍晋三" (2月12日)
http://caprice.blog63.fc2.com/blog-entry-252.html

当ブログの悪い癖で、だらだらと長い取りとめのない記事だが、最後の方で、神野教授(東京大大学院)が毎日新聞と協力して、コイズミ政権下の2002年以降、格差の度合いを示す「ジニ係数」が急上昇していったことを示し、それが同紙に掲載されたことを紹介している。

神野直彦氏は、金子勝氏との共著の多いリベラル系の経済学者なのである。

『人間回復の経済学』は、ケインズ的福祉国家が、社会の成熟化や経済のグローバル化にあって行き詰まった状況を説明しながら、これを打開するために新自由主義政策をとったことは誤りであると批判している。神野教授は、あるべき姿をスウェーデン型の社会民主主義に求め、知識を重視した「知識社会」を作るべきだと主張している。人間は利己心に基づいて行動する「経済人(ホモ・エコノミクス)」である、というのは経済学における理論的仮説に過ぎず、人間は「ホモ・サピエンス(知性人、叡智人)」にほかならない、というのが本を貫く神野教授の主張で、とてもよく納得できるものである。

この中に、新自由主義草創期について触れているので、それを抜粋してご紹介する。

 日本の構造改革を支えている経済政策思想は「新自由主義」と呼ばれる。そうした新自由主義の旗幟を鮮明にした最初の政権こそ、1979年のサッチャー政権である。その後、新自由主義をかかげる政権が、1981年にアメリカでレーガン政権として、1982年に日本で中曽根政権として誕生していくことになる。

(中略)

 第二次大戦後は程度の差こそあれ、労働党も保守党も「ケインズ的福祉国家」をめざしていた。つまり、第二次大戦後のイギリスでは、ケインズ的福祉国家をめざすという点で、国民的合意が成立していた。

 というよりも、第二次大戦後にはアメリカと日本を除く世界の先進諸国が、福祉国家をめざすバツケリズム(政敵同士が同様の政策を支持する=筆者注)の状態にあったということができる。日本も遅れて1973年には、この年を「福祉元年」として福祉国家へのハンドルを切っていこうとする。しかし、皮肉にも同年に生じた石油ショックで、福祉国家を目指す決意も、すぐ動揺していくことになる。

 こうしたバツケリズムとしてのケインズ的福祉国家に対して、サッチャー政権はまっこうから対決していく。サッチャリズムとは、完全雇用、福祉充実、国営化、労働組合との強調を基軸として第二次大戦後のイギリスに浸透していた「イギリスの戦後体制」への挑戦だったのである。

 サッチャリズムは、スタグフレーション(不況下の物価上昇=筆者注)という現象を前に、なすすべもなく立ちすくんでいたケインズ的福祉国家を根底から批判し、民営化、規制緩和、行政改革による「最小限国家 (the minimal State)」を主張する。ケインズ的福祉国家こそインフレーションや生産性の低下を招き、完全雇用さえ維持することすら不可能となっていると批判したのである。

 しかし、サッチャリズムはケインズ経済学に対抗するマネタリストの思想にいろどられ、新しい化粧をほどこしているとはいえ、18世紀後半から19世紀前半にイギリスで一世を風靡した古典派経済学の復活にすぎないといえる。アダム・スミスを始祖とする古典派経済学が、黄泉(よみ)の国からよみがえったのだ。

(神野直彦著 『人間回復の経済学』(岩波新書、2002年)より)


この本では、実際にサッチャーが景気を回復させたのは、新自由主義政策でとられるはずの減税ではなく、その逆の増税によったこと、その際に弱者に苛烈な税制に変えたため、イギリス社会で「格差」が広がったこと、そしてイギリスの労働生産性は向上したものの産出高はサッチャー政権前よりきわだって低下しており(1960?73年には年平均3.1%だったのに、サッチャー政権成立後の1979?95年には年平均0.3%にまで落ちた)、生産性向上は技術革新よりもむしろ経営側の苛烈なリストラのもたらしたものだったことなどを指摘している。

そして、イギリスをとんでもない「格差社会」にしてしまったサッチャーは、政権末期には人頭税(納税能力に関係なく、全ての国民1人につき一定額を課す税金)まで導入し(1990年)、英国民から総スカンを食った(サッチャー退任後の1993年に廃止)。神野教授は「アダム・スミスは、人頭税を最悪の租税として言下に退けている」と指摘しているが、呆れたことに、悪評紛々の末サッチャーが退場してから10年以上も経った2001年に、竹中平蔵は櫻井よしことの対談で、「人頭税ほど公平な税制はない」、「人頭税の理念を盛り込んだ改憲をせよ」などと主張した(下記URL参照)。頭がくらくらしそうな妄言だ。
http://www.yoshiko-sakurai.jp/works/works_voice_0105.html

つまり、竹中平蔵もサッチャー同様、アダム・スミスの教えに背く背教者というワケである。犬にでも食われてしまえ、と私などは思うのだが、そんな竹中が日本の「構造カイカク」の旗を振ったのであり、田原総一朗から朝日・毎日・日経などの翼賛紙に至るまで、マスコミはこぞって竹中をマンセーし、挙句の果てに竹中を参謀とするコイズミに踊らされた国民が、2005年の総選挙で自民党に空前の圧勝をプレゼントしてしまったのである。まったく、これ以上誤った選択はなかった。日本国民は、自分から「格差拡大」への道を選んでしまったのだから。

神野教授の著書には、バブル経済の生成や崩壊が中曽根内閣の新自由主義政策のせいであり、「失われた10年」の原因が「構造改革」にあることや、もともと「小さい政府」だった日本が、「大きい政府」を小さくしたイギリスの政策を真似した結果、大幅な財政赤字を招いてしまい、その理由を「改革が不十分なこと」に求めて、ひたすら財政を縮小させて事態を悪化させてしまったことなども指摘されている。

また、中曽根内閣の新自由主義政策が、「新国家主義」として広がっていたことを指摘し、次のように書いている。


新自由主義が新国家主義と表現されることには違和感があるかもしれない。しかし、市場主義とは国家主義との親和なしには成立しないのである。

 それはサッチャーにしろ、レーガンにしろ、自他ともに許す国家主義者であったことを想起してもらえば、容易に理解できるはずである。市場は国家の暴力による強制力なしには機能しない。国家が暴力によって強制することなしには、神が等しく与えたもうた土地という自然に所有権を設定することはできない。もちろん、所有権が設定されなければ、市場で取引することはできない。

 市場主義は、国家が暴力を行使する組織として純化していることを主張しているにすぎない。つまり、市場主義は暴力的には強い国家を要求する。「経済人」は、暴力的な「政治人」との幸福な結婚なしには、社会を築くことはできないのである。

(神野直彦著 『人間回復の経済学』(岩波新書、2002年)より)


ところが、新保守主義と新自由主義の「幸福な結婚」を目指したはずの安倍晋三政権で起きたことは、ネオコン内部の「経済重視派」と「国家主義重視派」の対立だった。安倍内閣はその矛盾の前に立ちすくみ、崩壊していった。

安倍内閣の悲惨な末路は、新保守主義(ネオコン)と新自由主義(ネオリベ)の両方の「終わり」を暗示するものだ。この両者が同時に倒れたのは、両者がもともと切っても切れない関係にあったからにほかならない。


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前に述べたとおり、新自由主義者にアダム・スミスの名を口にする資格はない。
彼らはアダム・スミスにも背信している。

新自由主義とは「野蛮」に他ならない。

2007.10.14 21:15 URL | ぷー #GCA3nAmE [ 編集 ]

>日本において新自由主義政策を最初にとった首相が中曽根康弘である

この点は、まさにその通り。私もそう考える。
しかし、サッチャーと中曽根ではまったく違う部分がある。サッチャーは英国病の主たる原因を「働かない、汚職にまみれ、硬直化した官僚組織」にあると考え、彼らと対峙した。
中曽根が国鉄を分割民営化した政策などは全部、大蔵官僚の作文そのものであった。
その後の消費税導入(竹下内閣時代)や、消費税率アップ(橋本内閣時代)など、自民党が安定多数を占め、官僚にとって首相が操りやすい人間である時、大蔵省(現在の財務省+金融庁)は彼らの欲求を満たしてきたのだ。

2007.10.15 14:09 URL | 隠居老人 #5nOD/QyU [ 編集 ]

kojitakenさん、お久しぶりです。
神州の泉さんところで気付いたんですけど、
植草さんの事件「明日16日は裁判官の公正性を厳格に注視する!」
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2007/10/16_b33a.html#comment-15930178
ですね。

従米の生贄とされ続けるか? 注目です。

耐震偽装も新たな物件が出てきたようで、

埼玉の建築士が構造計算書偽装=横浜市のマンション-50件調査へ・国交省
10月15日17時1分配信 時事通信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071015-00000074-jij-soci
「藤建事務所」「横浜市の聞き取り調査に偽装を認め」「少なくとも全国約50件の建物に関与」

国会周辺では、守屋前次官のみならず、こ泉氏の喚問なんて話もちらほら。
新[旧も多かったけど]自由主義というなの対米過剰重視[タダの妄信]路線、
本間に、ポテチンできるのか?
亀田一家の話より、興味深いはずなんですけどね・・。

ではでは。

2007.10.15 20:43 URL | 三介 #CRE.7pXc [ 編集 ]

書かなくては…と思いながら、2ヵ月以上放置してしまいました。今日、偶然に高島善哉『アダム・スミス』岩波新書青版を見つけたものですから。

この文の要点は、アダム・スミスが人頭税を言下に退けているか、と言うことにあります。

『人間回復の経済学』46頁では教授はそのように主張されていますが、アダム・スミス『国富論』東大出版会1969では、人頭税を最悪の租税と評している所はなく、言下にそれを退けた箇所も見当たりません。却って、消極的ながら、公平さがあると言う主張さえあります(原書vol.II p351-354)。

そうして面妖なのが、「言下に退けている」と言う文章を「言下に退けている訳ではない」としてもこの小節の意味が通ってしまうことです。寧ろこの様にした方が、続く「しかしながら」と相性がよく、文意として滑らかに感じられます。相性については明らかに個人的な「趣味」に属しますが、そうであれ、出版時の「事故」の可能性を疑ることが出来るように思われます。









2007.12.26 23:49 URL | 田中馬関 #TdIc/noc [ 編集 ]

同感です。
日本における新自由主義者の張本人は中曽根ではなく、鈴木善幸のような感じがします。
中曽根内閣では鈴木内閣で検討された事項が実行されたからです。

最近マスゴミはサッチャリズムを理想としているような印象を感じます。
サッチャリズムの典型の、緊縮財政・規制緩和・クレーム社会を煽っているからです。日本ではサッチャー批判があまりマスゴミで展開されていない印象です。
その代弁者として竹中平蔵の主張を日経・朝日グループなどマスゴミで垂れ流し、橋下をやたらにマンセーしています。辛抱の司会の番組はやたらにネオリベばっかです。

そのうちマスゴミは小池百合子を日本のサッチャーとして持ち上げる気がしてなりません。

2009.06.04 23:12 URL | 元2ちゃんねるの政治板民 #- [ 編集 ]













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内藤大助選手、WBCフライ級王座の初防衛成功おめでとう…しかし、これに対する私の今後の不安材料
 あれから3日経ったので「何を今さら」とツッコまれそうですが(^-^;)。  ひ

2007.10.15 01:00 | 嶋ともうみ☆たしかな野党を応援し続ける勇気を!

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2007.10.16 06:35 | 雑談日記(徒然なるままに、。)

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2008.01.11 16:24 |