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きまぐれな日々

昨日、本屋で今月1日発売の雑誌をいくつか立ち読みしたあと、このところ毎月買っている月刊「現代」(11月号)を買った。

腹の皮がよじれるほど心の中で笑ったのは、右翼系論壇誌「正論」および「諸君!」における極右論客たちの周章狼狽(しゅうしょうろうばい)、いや阿鼻叫喚(あびきょうかん)ぶりだった。前首相・安倍晋三の突如の辞任に、中西輝政や櫻井よしこらが荒れ狂っているさまは、本当にいい気味だ。しかもなお心地よかったのは、極右論客の多くが「安倍晋三の政治生命は終わった」と考えていることだ。「9・12」の安倍辞任表明が彼らに与えたダメージの大きさは計り知れない。

そして、「正論」と「諸君!」のもう一つの特徴は、福田康夫首相をさんざんにこき下ろしていることだ。安倍と同じ町村派(旧森派)に属しているのに、福田は安倍と「思想信条が正反対」の政治家なのだそうだ。私は福田は「中道寄りの右派」だと思うのだが、極右から見れば福田は「サヨク」ということになるのだろう。

特に評判が悪いのが、「拉致被害者の家族に冷たい対応をした」ことと、「拉致被害者を北朝鮮に帰そうとした」ことなのだそうだ。だが、前者はともかく、後者は日本政府がそのように北朝鮮政府と約束したことだとされている。いくら相手が国家ぐるみで犯罪行為を犯すやくざな「犯罪国家」であったとしても(実際、北朝鮮政府には犯罪的な性格が強いと私も考えているが)、国と国との約束は守らなければならないのではなかろうか。あの時、「一時帰国」していた拉致被害者を北朝鮮に帰すことに強硬に反対したのが安倍晋三であって、安倍はそれで高い人気を得た。拉致被害者に同情する国民感情はわかるが、それと筋を通す通さないは別の話だ。どうも安倍というのは、思考力が弱く、感情に突き動かされやすい政治家だったように思える。

さて、「正論」と「諸君!」を軽く立ち読みしたあと、月刊「現代」を買ったのだが、今月号の「現代」には気に入らない記事が結構多く掲載されていた。最悪だったのが元テレビ朝日政治部長・末延吉正の "わが友・安倍晋三の「苦悩の350日」"という安倍擁護記事で、改革者・安倍を「抵抗勢力」が潰した、福田康夫擁立で時計の針は「逆回転」を始めたという末延の主張には呆れ返った。何より問題だと思うのは、こんな政治的に偏向した人物がテレビ朝日の「政治部長」を務めていたということだ。この人物は、今もそうなのかは知らないがテレビ朝日の「やじうまプラス」でもコメンテーターをやっていて、与党寄りのコメントばかり口にするので、こいつが出てくる日は「やじプラ」は見なかった(現在は、曜日にかかわらずこの番組自体を見なくなってしまった)。

さて、またまた前振りが異様に長くなってしまったが、私が「現代」を買うのは、立花隆や佐藤優の記事、それに辺見庸の巻頭言「沈思録」が掲載されているからだ。本エントリの冒頭で、「周章狼狽」という四字熟語を用いたが、これも今月号の「沈思録」から借用させていただいたものである。

立花隆が連載している「私の護憲論」は、今月号で第5回になる。立花隆もまた、突然の安倍の辞任にあっけにとられ、その無責任さに怒り狂っている。また、総理大臣が「何もかも放り出してしまって、自分は病気にかこつけて、慶応病院に入院してしま」い、その後人に会おうともしない状態なのに、与謝野官房長官(当時)が臨時首相代理を置こうともしなかったことを、「今回の事態は、この国が国家的危機管理体制がゼロの国であるということをよく示している」と強く批判している(カギカッコ内は立花隆の記事からの引用)。

そして、入院したが最後、沈黙を続けた安倍に対し「はっきりいって100%どころか、200%、300%の政治家落第生である。こういう人にはもう二度と、国家のレジームがどうあるべきかとか、国家の基本ルールである憲法をどう書き改めるべきかといったことを、したり顔で論じたりしてもらいたくない」と、最大級の非難の言葉を投げつけている。

ところで、立花さんのこの連載は、「改憲と戦後レジーム脱却を大々的に叫びはじめた安倍晋三という政治家に、なにか危険なにおいをかぎとり、こういう危険な政治家は、早いうちに退治しておかねばならないと思ってはじめた企画」だそうだ。

「AbEndキャンペーン」もまた、こんな危険な極右政治家を総理大臣にしてよいものかと危機感を持ったブロガーが結集して始めたものだった。それにしても、「退治」とは思い切った言葉を立花さんも使うものだ。

立花さんは、「退治しようと思っていた相手が消えてしまったのだから、ここで今連載をやめてしまうのも一つの選択かと思った」そうだが、「基本的に自民党は憲法改正を、党を作った最初の最初から、党是にかかげている政党である」、「考えてみれば、私が本来対決しようとしていたのも、安倍個人に対してというより、そのような安倍をもてはやし、かついできた政治状況・時代状況全体であったということにあらためて気がついた。その大状況が変らない以上、ここで引きさがるわけにはいかない」と思い直し、連載は今後も続くことになった。私も当分の間月刊「現代」の購入を続けることになるだろう。

ところで、立花隆の護憲論は、南原繁の護憲論がその原点になっていると思う。当ブログの7月9日付エントリ「小沢一郎の覚悟と一人区でのおすすめ投票パターン」でもご紹介したように、南原繁は、60年代に既に、「警察予備隊」や「保安隊」の規模の武力は保ち(つまり、自衛隊の規模は縮小する)、「今後国際警察のごときものが組織され、戦争と同質の国際的暴力行為を抑制する場合」、日本がこれに参加することを是としながらも、憲法九条を守るという立場を明言している。憲法自体は、日本人の手によって作り直されるべきだが、反動的な改憲には絶対反対で、現時点(1960年代の時点)では護憲、という立場だった。

安全保障に関して、南原と同様の主張をしていたのが石橋湛山である。石橋は、1968年に発表した「日本防衛論」の中で、「わが国の独立と安全を守るために、軍備の拡張という国力を消耗するような考えでいったら、国防を全うすることができないばかりでなく、国を滅ぼす」とする一方で、「世界に対しては、国連を強化し、国際警察軍の創設によって世界の平和を守るという世界連邦の思想を大いに宣伝し、みんながそれに向かって足なみをそろえるよう努力する。これ以外に方法はない」と主張している。

民主党の小沢一郎の主張は、南原繁や石橋湛山の延長線上にあると捉えると理解しやすいと思う。私は、小沢の主張は国連至上主義につながりかねず、その国連に対して全幅の信頼は置きづらいと考える。また、武力行使自体にも私は賛成ではない。しかし、小沢の主張が必ずしも唐突に出てきたものではなく、穏健保守の思想に源流を持つ由緒あるものであることを指摘しておきたいと思う。

但し、南原は同時に自衛隊の縮小も主張していた。立花隆にしても小沢一郎にしても自衛隊の縮小という考えがあまりなさそうなのは残念である。自衛隊の戦力は、いまや世界でも有数の規模に達しており、このような国に安倍晋三内閣のような極右政権が現れたことは、世界にとってとても大きな脅威だったと思う。一説によると、安倍には対北朝鮮の戦争を起こそうという策略があったともいう。

こんな政権を1年で終わらせることができたのは良かったが、立花隆が言うように、これで改憲への動きがおさまるわけではない。「復古的改憲」の危機は去っていないのである。だからこそ、改憲を「党是」とする自民党による政治を終わらせるための「自Endキャンペーン」を今後も盛り上げていきたいと思う今日この頃である。


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 こんにちは。
 思えば、私も立花隆氏の「現代」での論に啓発されて、今のブログを始めたのでした。
 そして、立花氏と同様、安倍が退陣したときには、ブログ閉鎖も考えました。
 しかし、「安倍的なもの」は、麻生も含め、自民党自体の基本体質であり、それ自体の芽を摘むことが必要であると思いまして、ブログ継続、自エンド参加を決めました。
 福田は年齢的にも、短期政権でしょう。
 とすれば、次が麻生なら、やはり国家主義、改憲主義は変わらないでしょう。
 麻生に政権が渡る前に自民党を下野させる。その姿勢で戦っていかねばならないでしょう。

2007.10.05 11:04 URL | 眠り猫 #2eH89A.o [ 編集 ]

日本国は、すでに現状で世界第5位?程度の軍備を持つ軍事大国です。憲法9条さえなければ、いつでも戦争に参加できる準備万端の国家です。憲法9条がなければ、コイズミやアベなら、すでにいくつかの戦争に参加していたと考えるのが常識でしょう。日本国民の平和を守っているのは、やはり日本国憲法だと思います。私は、常々護憲派の人は、もっと防衛費、軍事費にも過敏に反応していいのではと思っています。平和を守るために憲法を守るのと同じように、物理的に戦争を選択出来ないように、防衛費縮小、軍事費縮小すべきだと思っています。目の前に、行政からも見離されて、餓死さえする人がいるコイズミ以降の日本で、捏造された危機のもと、数千億円以上の税金を投入して、今後も税金垂れ流しのミサイル防衛システムを拙速に導入したことなど、もっと多くの国民が批判すべきことだと思っています。次期衆議院選挙では、コイズミに象徴される売国政党や売国族議員ではない、税金を国民の生活の安心・安全の為にこそ使う政党や議員を選ぶべきだと思っています。コイズミカイカクの結果、貧困化の危険水域はどんどん私たちの目の前に迫ってきています。

2007.10.05 14:09 URL | scotti #- [ 編集 ]

元テレビ朝日の末延氏は山口県の名家の出身で、親の代より交流があります。
 彼はそのパイプを利用し、テレ朝が自民党と対立し窮地に陥った時に自民党とのパイプになりテレ朝を救ってきました。それで彼は出生したのです。
 優勢選挙の頃まで、彼は報道ステーションのアドバイザーを勤めていました。この番組の報道方針に大きな影響を与えたのは言うまでもありません。
 まあこの人も完全に安倍人脈なので、安倍失脚後は厳しいのではないでしょうか?

2007.10.06 03:31 URL | kechack #1/Y8RI0s [ 編集 ]

眠り猫さん

私は、安倍が急に辞意を表明した時、あたためていた記事が3本くらいあったので、それがパーになってしまいました(そのうち1本はあとで公開しましたけど)。目標が急になくなって呆然としたのは私も同じでしたが、次の目標が福田なり麻生なりの個人ではなく、自民党そのものに向かうというのは、大ジャーナリストも市井のブロガーも同じなのですね。

scottiさん

確かに防衛費の議論は近年マスコミでもあまりなされなくなっていて、ブロガーも無頓着になってきてますね。関心を持っていきたいと思います。

kechackさん

確かに記事中で末延氏自身が、氏の亡父が岸信介に教えを受けたことがあって、氏も子供の頃から岸と面識があり、夏休みに東京から山口にやってくる晋三兄弟の存在も知っていたと書いています。そして、安倍晋三が幹事長になってからの密接な関係を隠そうともしていません。

とんでもない男がキー局、それも一般には反政府的と見られがちなテレビ朝日の政治部長などを務めていたものです。

2007.10.06 10:08 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

戦争を知らない世代が日本を動かすようになり、権力と金につられて将来の日本に禍根を残す判断や行動をしている状況です。
良識あるこのサイトのご意見を(この記事だけか読んでいませんが)応援します。

2007.10.07 12:06 URL | 大江戸 #yjwl.vYI [ 編集 ]

>
いくら相手が国家ぐるみで犯罪行為を犯すやくざな「犯罪国家」であったとしても(実際、北朝鮮政府には犯罪的な性格が強いと私も考えているが)、国と国との約束は守らなければならないのではなかろうか。

「国と国との約束は守らなければならないのではなかろうか」
 この一文だけでブログ主、あんたの正体見切ったね。
 国家は人間の幸福のためにあるんであって、国家のために人間があるんじゃねぇ。

 国家が「拉致しろ、強制収容所で拷問しろ」といったらヘイヘイ従うのが貴様だ。
 
 NOといえるかどうかで、人間の価値が決まるんだよ。
 
 「北朝鮮が拉致し、その上、キチガイじみた厚顔ぶりで理不尽にも(貴様は逆に「筋を通すだって」)返せと言ってきている」
 NOだね。

 黒旗掲げた連中が何故、桜吹雪に接近したか、一部ウヨが何故「スメラミコトアナーキスト」と自称したか、貴様にはわかるまい。


 拉致問題は当に試金石だ。

2007.10.12 06:06 URL | 元IOM同盟 #mn6gys/M [ 編集 ]













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