参院選における自民党惨敗の余韻がさめやらぬまま8月に入ったが、数日前から、妙な胸のうずきを覚えるようになった。
いったいなぜだろうと考えているうちに、あ、そうか、「郵政解散」がこの時期だったからだと思い当たった。
一昨年の今日、8月8日に、郵政民営化法案が参議院で否決されるや、小泉純一郎首相(当時)は衆議院を解散した。この時、私は「これは 『自爆テロ解散』 だな」と思った。その直前、もし衆議院で法案が否決されたらコイズミは即座に解散するつもりだった、可決されたのでコイズミは残念そうにしていた、という報道を週刊誌で読み、まさかそんな敗北必至のことをやるかなあ、などと思っていた。しかし、参議院での法案否決で衆議院を解散するという意味不明の行動をコイズミはとった。
この時、亀井静香、野田聖子ら自民党内の法案反対派(コイズミに言わせれば「抵抗勢力」)は沸き立ち、民主党の岡田代表はガッツポーズをとった。彼らも勝利を確信したのだろう。
しかし、コイズミはこの解散・総選挙に命を懸けていた。特に秘策中の秘策が「刺客作戦」だった。まさか自民党を追われるとまで思わなかった亀井、野田や平沼赳夫はあわてふためいた。今でも覚えているが、政治番組に出演した亀井や平沼は、自民党に未練たっぷりの態度で、コイズミとの全面対決に腰が引けていた。野田聖子の選挙区である岐阜一区への刺客候補の決定は、他の「抵抗勢力」たちの選挙区より遅れ、野田は愚かにも「私にだけは刺客を送り込まないのではないか」と期待していたようだ。だが結果は、佐藤ゆかりという、もっとも話題性の大きな刺客を送り込まれ、野田は狂態を演じた。一連の経緯は、野田の政治家としてのイメージを大きく落とし、これはいまだに回復できていない。
これらは逐一テレビで報じられ、視聴者に強烈な印象を与えた。それはまるで桃太郎の鬼退治を思わせるもので、「コイズミ=善玉、抵抗勢力=悪玉」という図式ができあがった。自民党内の争いに衆目が集まった結果、民主党などの野党は関心の埒外となった。こうして、解散後わずかの間に選挙の帰趨は決まってしまった。インターネットの掲示板でもコイズミ支持は圧倒的で、いかにこちらが「B層」の資料(雑誌記事 や 広告代理店作成の証拠文書)を示して、コイズミ?竹中一派が大衆を蔑視していると主張しても、「私たちコイズミ支持者は馬鹿だというのか」式の感情的な反発を食うだけに終わったことは、5日のエントリ 「ポピュリズムを打破するには」 でも触れた。コイズミの作戦は、みごと図に当たった。
この「郵政総選挙」でコイズミを支持したのは、「コイズミカイカク」によってもっとも不利益を蒙る層だったことは、当時から指摘されていた。これをわかりやすく解説した例として、佐藤優が魚住昭を相手に語った『ナショナリズムという迷宮』(朝日新聞社、2006年)が挙げられる。
この本については、当ブログの1月13日付エントリで紹介しているが、郵政総選挙に関連する部分を以下に再録する。
ここで指摘されている独裁権力による統治の手法を「ボナパルティズム」と呼ぶのだそうだ。
この件を考察する時どうしても避けられないと私が考えているのが、例の 「B層」 論である。私は、「B層」についての議論はもっと真面目になされなければならないと思っている。しかし、「B層」を検索語にしてGoogle検索をかけた時に出てくるのは、オナジミのブログばかりで(弊ブログも2ページ目=11?20番目=に出てきます)、「B層」に関する議論が一種忌避されたような様相を呈していることがうかがわれる。
その中でもっとも最近、「B層」をとりあげたのが、「たんぽぽのなみだ?運営日誌」の記事だが、ここのコメント欄でたんぽぽさんが以下のように書いている。
私もたんぽぽさんの意見に賛成である。
さて、「郵政解散」から2年が経過し、両極端の結果になった二度の国政選挙を経て、自民党の両院総会では中谷元、小坂憲次、石破茂各議員が、安倍晋三首相の面前で、安倍の退陣を求めた。「桃太郎の鬼退治」は、攻守ところを変えて、「姫の虎退治」となって、桃太郎伝説の地・岡山で虎(片山虎之助)は姫(姫井由美子)に討ち取られた。
そして、国民新党、民主党、社民党の三党が「郵政民営化見直し法案」の共同提出を検討していると報じられている。
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20070807AT3S0602206082007.html
今朝(8月8日)のNHKニュースが報じるところによると、民主党内にはこの「見直し法案」への異論も強いという。民主党内にはコイズミ以上に過激な新自由主義者がいる、とはよく指摘されるところだから、驚くには当たるまい。参院選前に、民主党候補者の憲法問題に対するスタンスが問われたが、民主党議員の経済政策のスタンスも同様に問われるべきだろう。もちろん、自民党議員についても同じだ。
現在は、民主党も自民党も種々雑多な主張を持つ議員の寄せ集めになっている。これは、近い将来、政策の近い者同士が集まった政党に再編成されるべきだと思う。
これも佐藤優の指摘だが、政界は、新自由主義勢力、旧来保守勢力、社会民主主義勢力に三分されるべきだと佐藤は主張している。そして、佐藤は旧来保守と社民勢力の連立政権を期待いているのだが、私もそれに同感である。かつて新自由主義の旗手だった小沢一郎も、いまやそれを目指しているように見える。
↓ランキング参戦中です。クリックお願いします。

いったいなぜだろうと考えているうちに、あ、そうか、「郵政解散」がこの時期だったからだと思い当たった。
一昨年の今日、8月8日に、郵政民営化法案が参議院で否決されるや、小泉純一郎首相(当時)は衆議院を解散した。この時、私は「これは 『自爆テロ解散』 だな」と思った。その直前、もし衆議院で法案が否決されたらコイズミは即座に解散するつもりだった、可決されたのでコイズミは残念そうにしていた、という報道を週刊誌で読み、まさかそんな敗北必至のことをやるかなあ、などと思っていた。しかし、参議院での法案否決で衆議院を解散するという意味不明の行動をコイズミはとった。
この時、亀井静香、野田聖子ら自民党内の法案反対派(コイズミに言わせれば「抵抗勢力」)は沸き立ち、民主党の岡田代表はガッツポーズをとった。彼らも勝利を確信したのだろう。
しかし、コイズミはこの解散・総選挙に命を懸けていた。特に秘策中の秘策が「刺客作戦」だった。まさか自民党を追われるとまで思わなかった亀井、野田や平沼赳夫はあわてふためいた。今でも覚えているが、政治番組に出演した亀井や平沼は、自民党に未練たっぷりの態度で、コイズミとの全面対決に腰が引けていた。野田聖子の選挙区である岐阜一区への刺客候補の決定は、他の「抵抗勢力」たちの選挙区より遅れ、野田は愚かにも「私にだけは刺客を送り込まないのではないか」と期待していたようだ。だが結果は、佐藤ゆかりという、もっとも話題性の大きな刺客を送り込まれ、野田は狂態を演じた。一連の経緯は、野田の政治家としてのイメージを大きく落とし、これはいまだに回復できていない。
これらは逐一テレビで報じられ、視聴者に強烈な印象を与えた。それはまるで桃太郎の鬼退治を思わせるもので、「コイズミ=善玉、抵抗勢力=悪玉」という図式ができあがった。自民党内の争いに衆目が集まった結果、民主党などの野党は関心の埒外となった。こうして、解散後わずかの間に選挙の帰趨は決まってしまった。インターネットの掲示板でもコイズミ支持は圧倒的で、いかにこちらが「B層」の資料(雑誌記事 や 広告代理店作成の証拠文書)を示して、コイズミ?竹中一派が大衆を蔑視していると主張しても、「私たちコイズミ支持者は馬鹿だというのか」式の感情的な反発を食うだけに終わったことは、5日のエントリ 「ポピュリズムを打破するには」 でも触れた。コイズミの作戦は、みごと図に当たった。
この「郵政総選挙」でコイズミを支持したのは、「コイズミカイカク」によってもっとも不利益を蒙る層だったことは、当時から指摘されていた。これをわかりやすく解説した例として、佐藤優が魚住昭を相手に語った『ナショナリズムという迷宮』(朝日新聞社、2006年)が挙げられる。
![]() | ナショナリズムという迷宮―ラスプーチンかく語りき 佐藤 優、魚住 昭 他 (2006/12) 朝日新聞社 この商品の詳細を見る |
この本については、当ブログの1月13日付エントリで紹介しているが、郵政総選挙に関連する部分を以下に再録する。
『ブリュメール十八日』でマルクスはこう指摘しています。要約すると、ナポレオンはかつて自分たち農民に利益をもたらしてくれた。そこにルイ・ボナパルトというナポレオンの甥と称する男が現れた。彼も叔父と同じように、再び自分たち農民に何か"おいしいもの"をもたらしてくれるのではないかという「伝説」が生まれた。その結果、選挙でルイ・ボナパルトに投票し、権力を与えてしまったと。今回の選挙におけるニートやフリーターの投票行動にも、それと同じような回路が働いたのではないでしょうか。「改革を止めるな」というシングルメッセージを発し続けた小泉首相に何かを見てしまったんでしょうね。
(佐藤優・魚住昭 『ナショナリズムという迷宮 ラスプーチンかく語りき』=朝日新聞社、2006年=第5章より)
ここで指摘されている独裁権力による統治の手法を「ボナパルティズム」と呼ぶのだそうだ。
この件を考察する時どうしても避けられないと私が考えているのが、例の 「B層」 論である。私は、「B層」についての議論はもっと真面目になされなければならないと思っている。しかし、「B層」を検索語にしてGoogle検索をかけた時に出てくるのは、オナジミのブログばかりで(弊ブログも2ページ目=11?20番目=に出てきます)、「B層」に関する議論が一種忌避されたような様相を呈していることがうかがわれる。
その中でもっとも最近、「B層」をとりあげたのが、「たんぽぽのなみだ?運営日誌」の記事だが、ここのコメント欄でたんぽぽさんが以下のように書いている。
ついでながら、このエントリ、いつになくアクセス多かったですよ。
みなさん、とっても興味がおありなのねと、あらためて思ったけれど。
「B層」についての議論を、あまり見かけないのは、
良心的な人には、愚民思想的なので使いにくく、
批判の手が鈍るというのも、あるのかもしれないです。
(「2ちゃんねる」のような、遠慮のないところで
さかんに使われるのも、やはり差別的ニュアンスだからでしょう...)
コイズミ改革の信者でしたら、コイズミ批判になることですから、
やはり言わないでしょうし...
この「大衆操作」(と言えば、愚民思想的でない?)は、
本当なら、避けて通ってはならないことなんだと思いますが。
たとえば、ナチスがなにをしでかしたとか調べれば、
それなりの研究成果は、出てくるだろうとは思うけれど...
郵政選挙にからめて、議論する人がいないのは、
かなり困ったことで、異様なことでもあると思います。
(「たんぽぽのなみだ?運営日誌」?『「B層」とは?』 のコメント欄より)
私もたんぽぽさんの意見に賛成である。
さて、「郵政解散」から2年が経過し、両極端の結果になった二度の国政選挙を経て、自民党の両院総会では中谷元、小坂憲次、石破茂各議員が、安倍晋三首相の面前で、安倍の退陣を求めた。「桃太郎の鬼退治」は、攻守ところを変えて、「姫の虎退治」となって、桃太郎伝説の地・岡山で虎(片山虎之助)は姫(姫井由美子)に討ち取られた。
そして、国民新党、民主党、社民党の三党が「郵政民営化見直し法案」の共同提出を検討していると報じられている。
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20070807AT3S0602206082007.html
民主・社民・国民新、郵政民営化見直し法案の共同提出検討
民主、社民、国民新の野党三党幹事長が6日、都内で会談し、秋の臨時国会で「郵政民営化見直し法案」と最低賃金引き上げに関する法案の3党での共同提出を検討することで一致した。近く3党の政策責任者による会議を開いて協議し、詳細を詰めることも確認した。
郵政民営化見直し法案は郵政三事業の一体経営を堅持する内容で、国民新党が提出を検討していた。3党は最低賃金について参院選の政権公約で引き上げを主張していた。
民主党の鳩山由紀夫幹事長は会談後、記者団に「3党で協力できる部分を法案として(提出し)、国民の期待に応える」と強調。社民党の又市征治幹事長も「互いによいものを出し合って、共同で法案を作ることがあってもよい」と述べた。
(NIKKEI NET 2007年8月7日 7時02分)
今朝(8月8日)のNHKニュースが報じるところによると、民主党内にはこの「見直し法案」への異論も強いという。民主党内にはコイズミ以上に過激な新自由主義者がいる、とはよく指摘されるところだから、驚くには当たるまい。参院選前に、民主党候補者の憲法問題に対するスタンスが問われたが、民主党議員の経済政策のスタンスも同様に問われるべきだろう。もちろん、自民党議員についても同じだ。
現在は、民主党も自民党も種々雑多な主張を持つ議員の寄せ集めになっている。これは、近い将来、政策の近い者同士が集まった政党に再編成されるべきだと思う。
これも佐藤優の指摘だが、政界は、新自由主義勢力、旧来保守勢力、社会民主主義勢力に三分されるべきだと佐藤は主張している。そして、佐藤は旧来保守と社民勢力の連立政権を期待いているのだが、私もそれに同感である。かつて新自由主義の旗手だった小沢一郎も、いまやそれを目指しているように見える。
↓ランキング参戦中です。クリックお願いします。

- 関連記事
-
- すっかり下品になった自民党の物言い (2007/10/16)
- 「郵政解散」からまる2年 (2007/08/08)
- 反ポピュリズム宣言 (2007/01/29)
スポンサーサイト
またまた、わたしのウェブログのご紹介、ありがとうです。
このポピュリズムの問題は、いつかちゃんと考えて
書かなきゃと思っています。
2007.08.09 00:21 URL | たんぽぽ #ZiqE0vWU [ 編集 ]
最後の結論部分、3つの勢力に再編されるべきと言う点には賛成ですね。
私は社会民主主義支持者ですが、かつての吉田茂、池田勇人のように、国家の行く末や、国民生活を、自分の私利私欲とは別に考えていた保守本流の姿勢にも共感があります。
それに対して、小渕以降、コイズミでもっとも顕在化した新自由主義論者の行動は、大企業優先で、それらの企業と癒着した、都市派の利権主義者(金融族、工業族、厚生族)が推し進めているものです。
ですから、社会民主主義者と保守本流の連立政権は、バランスの意味でも良いと思います。既存の護憲勢力は、社民主義に参加するべきでしょうが、共産党の唯我独尊振りでは、その可能性は少ないでしょうね。
トラックバックURL↓
http://caprice.blog63.fc2.com/tb.php/422-d6c1cd3c