また、私自身は好ましくない制度だと考えているが、「非拘束名簿式」が採用されている以上は、この方式の特質を活かした選挙活動をするのは当然であるとも思う。ただ、この方式には、金の力に恵まれている権力側に人気取りを許す危険が大きいことは、忘れてはならないと思う。
さとうさんは、衆議院の選挙制度にも問題があると主張されている。実は私も同じ意見で、昨日の記事でそこまで書きたかったのだが、冗長になるのを恐れたのと、早く記事をアップしたかったので、見切り発車してしまった次第だ(笑)。
現在の小選挙区比例代表並立制は、政権交代が起きやすい制度でも民意を反映しやすい制度でもなんでもなく、過半数の支持も得ていない第一党が圧倒的な議席を獲得できる方式であることは、一昨年の「郵政総選挙」で示された通りだ。
憲法改定は昔からの自民党の悲願で、鳩山一郎の「ハトマンダー」(1956年)や田中角栄の「カクマンダー」(1973年)など、何度か小選挙区制を導入しようとした(Wikipedia 『小選挙区制』 参照)のは、憲法を改定したいがためだったが、野党のほか、マスメディアや世論の反発に会って実現しなかった。
ところが、「カクマンダー」阻止に貢献した朝日新聞などのマスメディアは、93年の「政治改革」局面では「改革派」の支持する小選挙区比例代表並立制支持に舵を切ってしまった。この時の「改革派」の代表的存在が小沢一郎で、選挙制度改革に強硬に反対していたのが小泉純一郎だった。05年の総選挙で、小沢の所属する民主党がコイズミ率いる自民党に選挙制度をいいように利用されて惨敗したのは、歴史の皮肉だ。
なお私は、さとうさんの挙げられている3つの方式(中選挙区制、都道府県別比例代表制、小選挙区比例代表併用制)のうち、ドイツ式の小選挙区比例代表併用制にもっとも惹かれるが、これは昔、単純小選挙区制、小選挙区比例代表並立制と小選挙区比例代表併用制の3つの方式の比較を政治経済の授業で習ったか、何かの本を読んで知って、いい方法じゃん、と気に入った思い出があるからという、結構いい加減な理由に基づいている(笑)。
さて、昨日の記事では2001年参院選に立候補した大仁田厚(自民)、大橋巨泉(民主)、田島陽子(社民)の3候補を例に引いた。
たまたま、今日(6月26日)の「四国新聞」に、01年参院選における3候補の得票数が出ていた。
大仁田厚(自民) 当選 460,421票
大橋巨泉(民主) 当選 412,087票
田島陽子(社民) 当選 509,567票
これに対し、04年参院選では、タレント候補の得票は下記のようになっている。
荻原健司(自民) 当選 194,854票
神取 忍(自民) 落選 123,521票
嘉納昌吉(民主) 当選 178,815票
神取(かんどり)忍って何者か私は思い出せず、ネット検索して女子プロレスラーであることを知った。選挙では落選したが、昨年、竹中平蔵の議員辞職に伴い、繰り上げ当選となった、れっきとした「センセー」である。自民党では、やはりというか、売国派閥・町村派(旧森派)に属している。
01年と04年でタレント候補の得票数がかくも違ったのは、もちろん候補者自身のインパクトの差もあるだろうが、「構造改革」の是非が争点(?)となった01年の選挙より、年金問題が争点になった04年の方が、より争点が有権者にとって切実であり、04年の選挙ではタレント候補に投票する気が起きにくかったせいではないだろうか。
そう考えると、今年の選挙では、年金の給付が受けられないかもしれないという、さらに切実な問題があるので、タレント候補の得票はさらに減るのではないかと思う。自民党からの参院選立候補を半年近くも前に 「きっこの日記」 に予想されていた、「ヤンキー先生」こと義家弘介なんて、特に得票の期待できない候補だろう。
これほど政府・自民党が不人気だと、今回は非拘束名簿式比例代表制の欠点は現れにくいかもしれない。だが、与党への逆風はおそらく一時的な現象で、参院選が終わって安倍がめでたく 『the End!』 になったとしても、政界再編劇が始まったら、また状況は変わる。1989年や1998年の参院選での自民党大敗も、結局政治を変えることにはつながらなかった。ブログ言論も、参院選のあとが大事だろうと思う。おそらく、状況の変化に応じてタイムリーに声を上げていく必要が出てくるだろう。
衆議院選挙で自民党を倒すまでは、全く気が抜けない。
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- 関連記事
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- 参院選民主党候補の憲法問題に対する認識 (2007/07/08)
- 「タレント候補」の集票力の低下 (2007/06/26)
- 非拘束名簿式比例代表制への疑問 (2007/06/25)
参院の存在意義について、疑問が呈されることが多かったですが、今回のように、安倍政権選択選挙的役割や、憲法護持のための、両院の三分の二と言う、高いハードルの意味で参院は存在感を示しています。
ご説の通り、タレント候補者の存在意義は薄れてきています。ましてや義家ごときでは、集票すらままなら無いでしょう。
私は、参院選後、安倍退陣を巡って小規模な政界再編があり、麻生が登板するものの、反米右派の麻生が、米国との関係をどうするか、新自由主義と古典的自民党利権政治の間で、何も出来ないでいるうちに、衆院解散に追い込まれ、水ぶくれのコイズミチルドレンが大量に落選し、自民党敗北で麻生も退陣、人材難の自民党は影響力を失い、ジリ貧になると読んでいます。ただ、そこで政権交代が民主党によってなるか、民主党は自民党と連合して翼賛政治になるかが、分かれ目だと思っています。
私達は、参院選後も自民批判を続けると共に、民主党への監視の目を光らせる必要があると思います。
2007.06.27 11:56 URL | 眠り猫 #2eH89A.o [ 編集 ]
タレントがその認知度を利用して政治に加わるのは道義的にいかがなものかと。
善い思想と信念を持ってる人もいますが、
基本的に「演出」に特化した層の人間ですからね。
相互リンクのお願いです。
ニュースについてもちょろちょろ書いてます。
http://lufeng29.blog108.fc2.com/
2007.06.27 21:30 URL | けーちん #mQop/nM. [ 編集 ]
こんばんは。
このところ、毎日、きまぐれな日々を拝読させていただいておる者です。貴重なご意見、的確な情報分析と発信をいつもありがとうございます。こちらのようなブログに出会うと、情報化社会の恩恵をひしひしと感じます。
>衆議院選挙で自民党を倒すまでは、全く気が抜けない。
その通りだと思います。そして、眠り猫さんのおっしゃるとおり、憲法護持のためには、参議院は大きな存在意義があります。ぜひとも自民党を倒さなくてはなりません。
それにしても、こんな大事なときにわけの分からんタレント候補がぞろぞろと出てくると、本当に頭に来てしまいますが・・・
政治家は聖職ではありませんから、タレント議員の立候補自体は非難しても仕方がないと私は捉えています。政府は竹中の分析レポートに従って、「偏差値の低い支持層」獲得対策ために、それなりの看板を立てようするわけでしょうし。それを選ぶのも民主主義というものですからね。ハァ~。
教育レベル知的レベル云々を言い出すと、ルソーじゃないけれども、結局は選民思想につながってしまいますしね。
で、仕方がないので、気が滅入りますが、タレント議員のよいところを考えてみました。
やつらも人気商売ですから、権力に擦り寄るよりも、とりあえず人気が落ちるのを恐れます。で、オオニタのように大衆受けを狙って一般人の判断ないし良心に従おうとすることがちょっとだけ期待できる。くらいかなと。だけかなと。だけだなと。
これくらいしかないなあ。
しかし、今回の候補者では、義家なんぞのように権力に擦り寄ることを目的とした聖職者面した中途半端な「有名人」の方が、私にはけったくそ悪いし、当選した場合にも厄介だと思います。
私にとしては、当選して欲しくない筆頭ですね。kojitakenさんの分析通りに得票することなく、落選して欲しいですね~~~
ぜひとも!!!AbEndを!!!
がんばりましょう!!!
2007.06.28 00:01 URL | ossann #XN01D24I [ 編集 ]
kojitakenさん
もしかしたら、コメントははじめてかもしれません。
非拘束式名簿では、票の「横流し」が問題である、とのご意見ですね。
1人区でタレント候補(超人気候補)が勝っても、本人だけが当選するが、比例区選挙の場合、泡沫候補の当選に寄与してしまう、と。
ただ、こうした現象は、拘束式名簿にタレント候補が含まれる場合と比べ、いかほどの差があるものでしょうか。
有権者が候補者を選択できるメリットのほうが勝るような気がします。
ドイツ下院の小選挙区比例代表併用制ですが、いわゆる超過議席を認めているために、小選挙区制の弊害を排除できていないという欠点があります。また、無所属候補に不利である、という比例代表制の欠点もそのままです。
私は、無所属候補に配慮した比例代表制として、中選挙区比例代表併用制を提案しています。ご批評いただければ幸いです。
小選挙区制の廃止へ向けて
http://kaze.fm/wordpress/?p=215
中選挙区比例代表併用制を提案する
http://kaze.fm/wordpress/?p=164
2008.06.13 16:14 URL | OHTA #HuBhO90w [ 編集 ]
小選挙区比例代表併用制は、小選挙区制に比べればはるかに民意を反映しますが、無所属候補に不利な比例代表制の性格などはそのままです。
また、あまり知られていないようですが、小選挙区比例代表併用制でも、小選挙区では大政党に有利です。
同制度の問題点を指摘する記事を書きました。ご参照ください。
小選挙区比例代表併用制の問題点
http://kaze.fm/wordpress/?p=220
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