http://caprice.blog63.fc2.com/blog-entry-363.html
きっこさんにリンクを張って紹介していただいた上記の記事には批判もいただいていますが、私としてはそれを承知の上で、議論のきっかけとなってほしいという意図を込めて公開したものです。だから、きっこさんに紹介していただいたことはたいへんありがたいことでした。きっこさんには厚くお礼を申し上げます。
さて、文体を「ですます調」から「である調」に戻して、本論に入りたいと思う。今日は、マスコミでも大きく報じられている、陸上自衛隊が市民を監視していた件を取り上げる。
これは、共産党によって明らかにされたものだが、毎度のことながら共産党の情報収集能力には感服する。私は同党の排他的な体質には、かなりの疑問を持っているが、政府・与党や石原慎太郎都知事らを時に窮地に陥れる調査能力は、民主党や社民党の追随を許さないものがあり、この点については高く評価している。
今回、共産党が入手した陸上自衛隊の内部文書に関するブログ記事は、すでにかなり書かれているので、ここでは朝日新聞と毎日新聞の報道から拾って記録しておくことにする。以下の引用は、記事中から、どのような活動が監視の対象になったかを記述した部分を中心にして抜粋した。なお、この件の読売新聞の扱いは呆れるほど小さく、この新聞の体質をよく表している(笑)。
朝日新聞:
『イラク派遣で陸自、反対市民の情報収集 発言など詳細に』
(2007年06月07日 00時45分)
http://www.asahi.com/national/update/0606/TKY200706060369.html
(前略)
「反自衛隊活動」の項目には駐屯地への反対の申し入れなどを記録。民主党衆院議員(当時)が会合で述べた派遣反対の発言を取り上げ、「イラク派遣を誹謗(ひぼう)する発言」などとしている。また、朝日新聞記者が青森駐屯地正門前で隊員に取材したことにも触れている。
もう一つの「国内勢力の反対動向」は、03年11月から04年2月までのうち6週間分と03年11月、04年1月の「総括」を含む。全国の反対運動の動きをまとめたとみられる。「駐屯地、官舎、米軍施設等に対する反対動向」「市街地等における反対動向」などが表形式で記載され、高校生が中心となって開催された反対集会も含まれる。デモの写真、件数の推移のグラフなどもある。資料で把握されている市街地での運動の数は、共産党の集計では41都道府県で290団体・個人にのぼるという。
そのほか、イラク・サマワ入りしたジャーナリストの行動にも言及。映画監督の山田洋次氏が派遣支持の「黄色いハンカチ運動」を批判した新聞記事について、「市民レベルでの自衛隊応援・支持の動きを、有名人の名声を利用し封じ込めようとする企図があると思われる」と評している。(後略)
6月8日付社説
『情報保全隊―自衛隊は国民を監視するのか』
自衛隊は国民を守るためにあるのか、それとも国民を監視するためにあるのか。そんな疑問すら抱きたくなるような文書の存在が明らかになった。
「イラク自衛隊派遣に対する国内勢力の反対動向」と「情報資料」というタイトルに、それぞれ「情報保全隊」「東北方面情報保全隊長」と印刷されている。文書は全部で166ページに及ぶ。共産党が「自衛隊関係者」から入手したとして発表した。
久間防衛相は文書が本物であるか確認することを拒んだが、この隊がそうした調査をしたことは認めた。文書の形式やその詳細な内容から見て、自衛隊の内部文書である可能性は極めて高い。
(中略)
■「反自衛隊」のレッテル
文書によると、調査をしたのは陸上自衛隊の情報保全隊だ。保全隊は03年にそれまでの「調査隊」を再編・強化してつくられた。陸海空の3自衛隊に置かれ、総員は約900人にのぼる。
情報保全隊の任務は「自衛隊の機密情報の保護と漏洩(ろうえい)の防止」と説明されてきた。ところが、その組織が国民を幅広く調査の対象にしていたのだ。明らかに任務の逸脱である。
防衛庁時代の02年、自衛隊について情報公開を請求した人々のリストをひそかに作り、内部で閲覧していたことが発覚した。官房長を更迭するなど関係者を処分したが、その教訓は無視された。
調査の対象には共産党だけでなく、民主党や社民党も含まれている。野党全体を対象にしていたわけだ。
04年1月に福島県郡山市で行われた自衛隊員OBの新年会で、来賓として招かれた民主党の増子輝彦衆院議員が「自衛隊のイラク派遣は憲法違反であり、派遣に反対」と述べた。保全隊はこれを取り上げ、「反自衛隊」としたうえで、「イラク派遣を誹謗(ひぼう)」と批判している。
(中略)
報道機関を調査の対象にしていたことも見逃せない。
たとえば、岩手県で開かれた報道各社幹部との懇親会での質問内容が、個人名を挙げて掲載されていた。自衛隊が厳しい報道管制を敷いていたイラクでの活動については、「東京新聞現地特派員」の記事や取材予定をチェックしていた。
イラク派遣について自衛隊員や地元の人々の声を伝えた朝日新聞青森県版の取材と報道について、「反自衛隊」と記録していた。「県内も賛否様々」と題して両論を公平に伝えたこの記事が、なぜ反自衛隊なのか。
■文民統制が揺らぐ
自衛隊は国を守る組織だが、それは自由な言論や報道ができる民主主義の国だからこそ真に守るに値する。そうした基本認識がうかがえないのは残念だ。 (後略)
毎日新聞:
『自衛隊監視活動:イラク派遣反対の団体など 共産党が発表』
(2007年6月6日 21時40分、最終更新時間 6月7日 0時24分)
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/seitou/news/20070607k0000m010126000c.html
報道機関については「青森駐屯地から退庁する隊員に取材を実施」などの記載がある。毎日新聞の記事については、04年2月21日の朝刊でイラクに赴く自衛隊員の安全を祈って全国に「黄色いハンカチ運動」が広がり、この動きに映画監督の山田洋次氏が異議を唱えていると報道したことに言及。「批判的な考えを表明している映画監督の回答を掲載」などと記録。登場する団体・個人数は290に上る。【日下部聡、本多健】
◇解説◇ 調査活動、逸脱の疑い
情報保全隊などが作成したとされる文書には集会の参加団体名と代表者名、さらに自衛隊を取材した記者も多くは実名で記載されていた。デモ行進などに参加した人の顔を写した写真もある。
内部の運用基準によると、情報保全隊の調査対象となるのは▽自衛隊に対して秘密を探知しようとする▽基地施設などに対する襲撃、業務に対する妨害▽職員を不法な目的に利用するための行動??の恐れがあるなどの場合だという。防衛省は「自衛隊に関する取材や講演はこの基準を満たしている」との見解だ。メディア関係者は「保全隊にフリーハンドを与えたような解釈だ」と批判する。
特にデモ参加者らの同意がない写真撮影は、問題がある。最高裁は69年、警察が行う撮影が許容される場合について「犯罪が行われ、もしくは行われたのち間がなく、証拠保全の必要性、緊急性があるとき」との判断を示した。個人情報保護問題に詳しい清水勉弁護士は「写真は個人識別性が非常に高い。警察よりも必要性の低い情報保全隊による無断撮影は、肖像権や表現の自由に対する侵害の恐れがある」と指摘する。防衛省には情報保全隊による調査活動の適法性について、国民に対して十分に説明する責任がある。【臺宏士】
このニュースを知って、監視社会もここまできたか、いよいよ『できそこないの「1984年」体制」』になってきたなあ、と感じ、呆然とした。
久間防衛相らの妄言はともかくとして、防衛省幹部からも、「問題意識を持たないまま手当たり次第に市民を監視していたなら問題だ。個人情報やプライバシーに敏感な国民の感覚を無視すれば、戦前の憲兵隊と同じだと誤解されても仕方がない」 (6月7日付四国新聞)という声が聞かれる。
しかし一方で、一般の人たちから、「これのどこが問題なのか」という声が聞こえてくるのも、残念ながら事実だ。このように反論する人たちはまだこの問題に関心があるだけましで、それどころか多くの人は、これが問題であるかどうかすら考えたことがないのではないかと思われる。
つまり、人ごととしてしかとらえられない。そのようにしてファシズムの体制はできていくものなのだろう。そのうち、監視された人たちは社会的に抹殺されてしまうかもしれない。
でも、そうなったら、抹殺されずに残った人たちのうち一定の割合の人たちの中から、次のターゲットが選別されるのだ。自分の番が回ってきてから初めて気づいたって、手遅れなのである。肝心なのは、権力は、自分たちに尻尾を振っている人間だって、平気でスケープゴートにするということだ。このことに気づいている人がどれくらいいるだろうか。
人々の無関心に対抗する有効な手段はなかなかないが、あきらめずに声をあげ続けるしかあるまい。
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自衛隊の市民監視の問題は、防衛相が、問題は無いといっているが、実は大きな問題なのである。防衛相自身が無視されて、不偏不党で国民のために存在するべき自衛隊が、特定の価値観で税金を消費して、市民の身辺調査をしていたということなのだ。文民統制、公務員の不偏不党などの、憲法に準ずる重要な規範への反逆なのだ。
10年近く前、長野の駐屯地の司令官が、部隊への演説で、社民党や共産党を排斥する発言をして、更迭されたことがあった。
しかし、今の時代は、文民統制をないがしろにされた防衛相自身が、自衛隊を擁護している。いずれ、2.26のような事件が起きて、射殺されるのは自分自身なのに。
2007.06.08 07:54 URL | 眠り猫 #2eH89A.o [ 編集 ]
田中康夫と有田を引き合わせたのは恐らく勝谷ではないかと思います。
勝谷は有田とよく飲むらしいですね。
2007.06.08 11:40 URL | どーも #Qi8cNrCA [ 編集 ]
今回、共産党のヒットですね。そして新聞も良く取り上げてくれた方だと思います。でも続報が物足りないです。
私は、この自衛隊の市民監視のニュースを聞いたときのショックは大きく、今でも心臓がドキドキします。
そんなことあたりまえ、今までもやられてきたことだ、という人もいますが、どんな小さな集会にも、自衛隊の情報保全隊の人が一緒に参加して一生懸命メモや録音をしているかと思ったら、参加者全員がほんとうに本音でしゃべってくれるのでしょうか。
あるブログでは、こんな詳細なことは、自衛隊だけでできないから、警察、公安が協力しているに違いないと書いています。私もそう思いますし、普通の市民も協力しているかもしれません。
そういう疑心暗鬼を生み、市民を分断するものです。とても危険ですね。こういうことに危機感を持たないで、政府のやることは間違いないだろう、と考えることじたい、もうこの国は一方向を見ている全体主義に侵された国だというしかないでしょう。
2007.06.08 14:39 URL | 非戦 #tRWV4pAU [ 編集 ]
この記事がとても分かりやすいので転載します。
↓
監視(6月8日)
防衛省幹部の中にさえ「やりすぎだ」「戦前の憲兵隊と同じだと誤解されても仕方がない」とため息をついた人がいたそうだ。自衛隊が市民活動を監視しているという「内部文書」を、暴露した共産党のホームページで見た▼これではため息も出るわけだ。「デパート前に四十人。キャンドル、ハーモニカを持ってイラク派遣反対を訴え」(小樽)。「集会参加は百五十人。『イラクには非戦闘地域はない』と講演」(札幌)。道北の小さな教会が開いた催しまで調べている▼情報保全隊が全国で行ったものらしい。イラクに最初に派遣されたのは旭川の陸自第二師団だから、活発だった道内の運動に関する記述が多い。参加者の顔がわかる写真も撮影されていた▼調査の方法も、単に街頭宣伝をわきで見ていたという次元ではない。集会の中にまで入り込んで、発言を記録した形跡がある。これを組織的、系統的に資料としてまとめていた▼集会を開けば自衛隊から調べにくる。発言すればメモされるらしい。そんな事態が常態化すれば、大きな圧力になるだろう。言論や集会の自由が窒息してしまう。市民団体などが監視と受け止めるのは当然である▼自衛隊は何を守る組織だったのか。国民を、自由や民主主義を守ると宣伝してきたのではなかったか。まさか、イラク派遣に反対する自由など守るに値しない、というわけではあるまい。
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/fourseasons/30944.html 北海道新聞
2007.06.08 14:41 URL | 非戦 #tRWV4pAU [ 編集 ]
やばいです。怖いです。
コイズミ以降の極端な全体主義が極まりつつあります。
気がついた時にはとんでもないことになっていそうです。
この危険な時期に、大新聞やテレビが自己保身に回っている。
護憲平和を唱える一部の文化人が「反日」などと叩かれる。
妻に「今の政府はヤバイよ」と言う話をしたら、「そんなことより身近な生活に追われているから悩む暇はない」と言われました。
身近な生活に追われて、現政権を野放しにしたとしたら・・・。
数年後には全員が後悔する時代が来てしまいます。
筑紫哲也が「ゆでガエル」の話をしていたのを思い出しました。
水中のカエルは徐々に水温が上がっているのに気がつかない。
気づいた時には熱湯の中でゆだって死んでいる・・・。
2007.06.09 02:25 URL | 反戦平和希求者 #- [ 編集 ]
もう「茶色の朝」を迎えた人(でっち上げた逮捕、不当逮捕された人など)がいるのに、まだ日常生活に追われて、今を見ないと、みんなが「茶色の朝」(大月書店)を迎えるようになってしまいます。
2007.06.09 07:16 URL | 非戦 #tRWV4pAU [ 編集 ]
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