きまぐれな日々

これは、断じて私怨による犯行などではない。

今回の伊藤一長(いとう・いっちょう)長崎市長へのテロのニュースに接した時、30歳前後以上の人であれば誰しも、1990年1月に起きた本島等長崎市長(当時)に対する銃撃事件を想起したはずだ。

その本島さんは、もともとは自民党の県連幹部も務めた保守政治家であり、昭和天皇の戦争責任に言及する以前には、他の多くの政治家たちと同様、右翼や暴力団とのつき合いもあったとされている。しかし、長崎市長という立場や、クリスチャンとしての自らの信念が、あの13文字、「天皇に戦争責任はあると思う」を言わせたのだと思う。この一言が、当時60代後半の本島さんの人生を変えた。本島さんは、連日の右翼の街宣による激しい攻撃を受けても、自らの言葉を撤回することはなかった。そして、右翼の攻勢が弱まったかに見えた頃、凶弾を受けたのだ。

伊藤一長さんもまた元はといえば、「敵」の立場に回ってしまった本島さんを倒すために、自民党が擁立した政治家だった。しかし、長崎市長の職責は、そんな保守政治家にも「非核」や「平和」を訴えさせるようなものなのだろうと思う。
5年前に「戦術核の保有」はおろか「使用」まで憲法上問題ないとほざいた現首相・安倍晋三と伊藤さんでは、そのスタンスはかけ離れているどころか、真っ向から対立していると言っても過言ではあるまい。

既に多くの方が指摘されているように、犯人が犯行の動機を私怨によるものということを示そうとするかのような文書をテレビ朝日に送りつけたりしているのは、いかにもわざとらしい。今回の事件は、5年前にやはりテロに倒れた石井紘基さん(民主党代議士)のケースも連想させる。多くの方と同様、私も「私怨による犯行」というのは偽装だと直感した。犯人自身に私怨があったにしても、背後で犯人を操った者たちがいる。証拠を示すことなどもちろんできないが、この直感に間違いはない、そう書けと私の内心が命じているので、そのままここにそう書き記す。

これは、言論の自由に対する重大な挑戦なのだ。

安倍晋三は、予想通り事件の翌日、伊藤さんが死亡したあとになってようやく、「選挙期間中の凶行は民主主義への挑戦で断じて許すわけにはいかない」とコメントした。しかし、今回は新聞報道でも事故当日の安倍発言が批判されている。たとえば、共同通信の配信と思われる「四国新聞」の記事は、
『首相は日ごろ、口ぐせのように「自由、民主主義、基本的人権」 「日本人の生命と財産を守る」 と語っているが、重大事件を前にして、的確なタイミングでメッセージを発することはできなかった』 と指摘している。

記事はさらに以下のように続く。

 批判に対して首相は同日(18日)夜、記者団に 「まずは真相を究明することが私は正しいと思う」 と不快感を示し、「こういうことでお互い非難するのはやめた方がいい」 と強調した。
 首相は事件発生から約1時間後の17日午後8時50分ごろ内閣記者の要請を受けてコメントを発表。その後、事件の詳しい状況や市長が重篤であることなどが判明したのを受け、記者会側はさらに追加コメントを求めたが、首相側は対応しなかった。

(四国新聞 2007年4月19日付紙面より)

ナント、重大事件に対する「権力の頂点にいる者」のコメントとしてはあまりにお寒い内容に不満を感じた記者団が、わざわざ安倍に追加コメントを求めた、つまり挽回のチャンスを与えてやったのに、安倍はみすみすその機を逃した上、翌日になって逆切れしたのである。

安倍の頭が悪いことは重々承知のつもりだったが、ここまでひどいとは、開いた口がふさがらない。

四国新聞には、作家の保阪正康氏へのインタビューも出ている。かなり長いその記事の末尾の部分を引用して、今日の記事の結びとしたい。


 今後、憲法や防衛問題など、国論を二分するような政治課題が出てくることが予想される。その際に、テロ行為が国論の動向に影響を与えることも考えられる。
 安倍晋三首相はよく、「戦後レジーム」を口にするが、それは本来は、戦前のファシズムの負の遺産を清算し、それを教訓にして過去を克服するものでなくてはならないはずだ。
 しかし、首相が主張しているのは 「戦前レジーム」 への回帰のように聞こえる。それでは、戦前の暴力を総括し、乗り越えることはできないのではないか。
 事件の背景には、テロを許す時代の風潮が少しずつ広がっている気がしてならない。昭和前期という時代は、テロと戦争がない時はないというプロセスだった。そして、それは、ある日突然そうなったわけではない。暴力が積み重ねられ、言論が封殺された。テロなどの一つ一つの渦がそのうちに一つの大きな歴史の流れをつくっていった。
 いま、私たちに必要なのは、一つ一つの渦をよく注意して観察することだと思う。

(四国新聞 2007年4月19日付掲載の「保阪正康氏インタビュー」より)


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