きまぐれな日々

「このところ、変な判決ばかりだ」。

そんな書き出しで記事を書こうと思っていたところに、『カナダde日本語』の新着記事のタイトル「このところ納得できない判決が多過ぎないか?」を見てぎょっとした。

同ブログが取り上げていた、「納得できない判決」のうちの一件は、予想通り、石原慎太郎の「ババァ発言」をめぐる女性たちの訴訟が棄却された判決だった。

この恥ずべき石原発言については、すでに学者の発言を石原が勝手にねじ曲げたものであるという裁判所の判断が下されている。これは、当ブログの記事「石原慎太郎批判(その5)?石原慎太郎の「人権意識」」でも紹介した。

今回、東京地裁の裁判長は、女性たちの訴えを退けた根拠として、「知事の職務としての発言で、知事個人は責任を負わない」としているが、裁判長が何を言いたいのか、どうしても私には理解できない。果たして、これが日本語と言えるだろうか?

まあ、しかしながら、この判決への違和感は、誰しも抱くところだ。もちろんこの判決への違和感については、私のブログの記事にするつもりだったが、私にはもう一件、どうしても書きたい判決があった。
そして、まさか『カナダde日本語』もあの判決のことをブログに取り上げたのかと一瞬思ったが、そうではなかった。

      *  *  *

ことは35年前にさかのぼる。1972年の沖縄返還をめぐる日米交渉での密約を暴いた毎日新聞の記者がいた。名を西山太吉という。

西山記者は、1971年の沖縄返還協定で米国側が支払うはずの軍用地復元補償費400万ドルについて、日本側による肩代わりを示唆する記事を報道した。

この件が事件に発展したのは、翌1972年3月27日、衆議院予算委員会で、社会党の横路孝弘・楢崎弥之助両議員が、この密約の存在を記した外務省極秘電信を暴露し、これが西山記者から手渡されたものであることがわかって、4月4日に西山記者と外務省の女性事務次官が逮捕されたことによる。

当時、毎日新聞は国民の「知る権利」を主張して、取材活動は正当だったとして政府批判のキャンペーンを展開した。しかし出版社系週刊誌が、このスクープは、西山記者が「女性事務官をホテルに誘ってひそかに情を通じ、これを利用して」得たものだとして、大々的に西山記者及び毎日新聞を批判する大キャンペーンを張り、問題が巧みにすり替えられてしまった。

特に、『週刊新潮』は、その頃自殺したノーベル賞作家・川端康成(1972年4月16日自殺)の「美しい日本の私」にひっかけて「機密漏洩事件 ―美しい日本の美しくない日本人」という、何かを連想させる実にいやらしいタイトルの記事を掲載して売り上げを伸ばし、逆に毎日新聞は大きく部数を落とし、経営危機を招いてしまったのである。

現在では、この「問題のすり替え」を最初にたくらんだのは、当時東京地検検事だった佐藤道夫という男だということがわかっている。そして、この佐藤という男は、現在、なんと民主党の参議院議員を務めている。こんな男を公認して国会議員にしてしまうあたりのセンスのなさが、民主党の人気が伸び悩む原因の一つになっていると私は思っている。

西山記者は国家公務員法違反で起訴され、一審では無罪判決だったが、高裁で逆転有罪判決となり、上告も棄却されて判決が確定した。

しかし、2000年?2002年に、「密約」を示す米公文書が明らかになった。これを受けて西山元記者は、2005年4月にこの件の再審を請求した。そして2006年2月には、協定当時の外務省アメリカ局長だった吉野文六氏が「密約」を認めた。このスクープとなった吉野氏へのインタビューを行ったのは、『北海道新聞』(2006年2月8日付)だった。

この件についての詳細は、たとえば下記『日刊ベリタ』の記事などをご参照いただきたい。
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200604010932026

ところが、当事者だった吉野氏が密約を認めた今になっても、日本政府は密約の存在を否定し続けている。「見え透いた嘘」という以外の形容が思い浮かばない。

この件については、昨年12月10日、テレビ朝日の「ザ・スクープSPECIAL」でも紹介された。とむ丸さんのブログ 『とむ丸の夢』の記事(「西山事件 植草さん」)はこの番組を紹介したものだ。

この記事には私もコメントを寄せた。それを以下に紹介する。

あずーるさんに「だっくくろっくさん」と言われてしまったkojitakenです。
先般は弊ブログにコメントいただき、どうもありがとうございました。
私もこの番組を見ました。報道のあった当時、私は小学生で、政治や社会に関することに興味を持ち始めた頃でした。たまたま私の家では毎日新聞を購読していたので、連日大見出しで繰り広げられた「知る権利」キャンペーンの記事を理解できないながらも懸命に読み、それがジャーナリズムに興味を持つきっかけになりました。
この件はまごうかたなき権力による言論封殺でした。そんなことは小学生だった私にも理解できたことなのですが、なぜか週刊誌が下半身スキャンダルにすり替えてしまい、毎日新聞のキャンペーンも尻すぼみに終わってしまったことが、子供心に不思議に思えました。
結局、子供の直感の方が正しかったことが、ここ数年に明らかになってきました。非核三原則が実際には守られていないのは、ずっと前から公然の秘密でしたが、それも誰の目にも明らかな状態になりました。
それにしても、この期に及んで密約を認めていない日本政府とは何なんでしょうか。動かぬ証拠が山ほどありながら、それでもシラを切る政権に、半数近くの国民が支持している(メディアの捏造かもしれないけど)この国に、愛想が尽きそうです。

(『とむ丸の夢』 の記事 「西山事件 植草さん」 への筆者のコメント)


さる3月27日、西山元記者の再審請求が棄却された。奇しくも、35年前に社会党議員が国会で沖縄返還をめぐる密約を追及した同じ日だった。

この件を毎日新聞が報じている。
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20070328k0000m040073000c.html

以下引用する。

沖縄密約事件:西山元記者の請求棄却 東京地裁

 沖縄返還(72年)を巡る日米交渉での密約を示す文書を入手して71年に報道し、国家公務員法違反で有罪判決が確定した元毎日新聞記者、西山太吉さん(75)が「密約を否定した検察官の起訴や政府高官の発言などで名誉を傷つけられた」として、国に対し3300万円の賠償などを求めた訴訟で、東京地裁は27日、請求を棄却した。加藤謙一裁判長は判決で密約の有無などには一切言及せず「除斥期間(権利の存続期間、20年)を過ぎて賠償請求権は消滅した」と述べた。西山さんは控訴の意向を明らかにした。

 西山さん側は00?02年に見つかった米国公文書などを基に「密約は、国家公務員法で保護されない『違法な秘密』に当たるから、秘密漏えいをそそのかしたとの有罪判決は誤り。検察官が今も(無罪を求めて)再審請求しないのは違法」とも主張したが、判決は「原告自身も請求は可能で、検察官が義務を負うとは言えない」と退けた。【高倉友彰】

 ◇沖縄密約事件 71年の沖縄返還協定で米国側が支払うはずの軍用地復元補償費400万ドルについて、日本側による肩代わりを示唆する記事を西山元記者が同年に報道。外務省の女性職員をそそのかして極秘電信文を入手したとして2人は国家公務員法違反で起訴され、有罪が確定した。00?02年に「密約」を示す米公文書が明らかになり、06年2月には協定当時の外務省アメリカ局長が「密約」を認めたが、日本政府は否定し続けている。

毎日新聞 2007年3月27日 21時04分 (最終更新時間 3月28日 4時20分)


この判決で実に不思議なのは、『加藤謙一裁判長は判決で密約の有無などには一切言及せず「除斥期間(権利の存続期間、20年)を過ぎて賠償請求権は消滅した」と述べた』ことだ。
つまり、この裁判長は、当事者だった吉野文六氏が認めた「密約」について何も言及しなかったのだ。
要するに、裁判所は、いまや明らかになった外務省と政府ぐるみの偽証隠蔽という国家犯罪と向き合わず、逃げたのである。

75歳になった西山元記者は、判決後の会見で「行政の完全な手先だ」と判決を厳しく批判した。
毎日新聞のサイトに掲載されている西山さんの写真の、鋭い眼光が印象的だ。

西山元記者は、毎日新聞在職中には読売新聞の渡邉恒雄・現会長(ナベツネ)とも親しく、かつ「ナベツネ以上の敏腕記者」「将来の毎日新聞社長」との呼び声が高かった。西山さんの裁判には、ナベツネが証人として法廷に立ったこともあるという。

今は、西山さんのような気骨のある新聞記者がほとんどいなくなってしまった、そう思えてならない。


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私は、沖縄密約のテレビ番組を見たときの怒りを今回の判決を聞いて思い出しました。

kojitakenさんと同じく「とむ丸の夢」に私が書いたコメントを転載させてくださいね。判決を聞いた後もこの気持ちは変わりません。

>今回の米軍再編。本当に密約はないのでしょうか。米側は密約などない、と否定していますが、私は絶対あると思います。現に沖縄の負担軽減という言い方自体、うそですからね。
ここまで、当事者が密約を認めているのに、政府がシラをきるなどとは、恥を知らない国家ですね。あきれ果てる、と何回言えばいいでしょう。

そして、新たな怒りが司法にも向きます。密約の中身に言及せよ!政府のうそに加担するなと。

西山記者がジャーナリズム界から追放された後、新聞がいっぺんにおとなしくなってしまったような印象を受けました。
日本がますます対米追従に向かった分岐点のような気さえします。あそこでマスコミ、国民が正しい判断をして西山記者を守れたらと思いました。
あのときも、検察を使って国家権力が記者やマスコミに圧力を変えて、国のうそを隠蔽したのですからね。

2007.03.29 22:17 URL | 非戦 #tRWV4pAU [ 編集 ]

取り上げていただき、ありがとうございます。

で、このごろ冗談半分に思うこと。
もしかしたら、当時のこの「情」とかなんとかで毎日新聞に殺到したという女性たちの抗議は組織的なものだったのかな、もしかしたら組織敵に行われたものもあったのでは? ということです。

今回の都知事選でも、女性たちが石原支持をする声が大きいとか。

こんな風に女性が利用されるというのは、同じ女性としてもの凄く不愉快です。

2007.03.30 10:24 URL | とむ丸 #rZtJR6xo [ 編集 ]

 はじめまして、私は先月の中旬にシンポジウム(『沖縄密約問題が今、問いかけるもの』)に参加したのですが、残念ながら私の時間の都合上、途中で退席することになったので後半に限っては分かりませんが、私の感じたことは、西山さんの声を荒げるほどの悲痛な断末魔の叫びでした。特に最も印象に残っているのが、「俺は裁判の結果はすでに見えている」といった発言でした。(おそらく判事の「従軍慰安婦」の件をふまえた上での発言だと思います。)



このシンポジウムのゲストには現在起訴休職中である、佐藤優氏(『国家の罠』参考文献)も出演し、前半は佐藤氏単独による講演といった形で進行していたのですが、尤も現在起訴休職中であるので、主張にどれだけ信憑性があるのかは、甚だ疑問ではありますが、どちらも共に国家の内通に関しては、学生のような私よりも遙に通暁なさっている点などを考慮してみても、やはり説得力があり、聞き応えのある内容でした。
結局個人と国家の関係というのは、ツワモノの論理で動いていくもんだなと改めて感じました。もう少し日本が、「長いものに巻かれろ」といった悪しき社会風土、悪の権化社会といった変に保守的なものばかり踏襲し続ける」姿勢から脱却してほしいと思います。上の者にも主張するべきところは主張して、悪い点は潔く認めないとトンチンカンな末路をたどるのは自明の理でしょう。ホリエモン判決同様、今回の判決内容の論点も良くわかりませんから。

2007.04.01 13:12 URL | こうちゃん #cOHhWKHY [ 編集 ]













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