きまぐれな日々

今日は、前々から取り上げたいと思っていた「心でっかち」の話を紹介する。

「心でっかち」という言葉を私が知ったのは、昨年10月3日の朝日新聞に掲載された根本清樹編集委員の記事「政態拝見 『心でっかち』 教育再生への一つの視点」である。

以下引用する。

 頭でっかちならぬ、「心でっかち」という言葉をご存じだろうか。
 たとえば、いじめが学校で横行する。それは、彼らの心の荒廃のせいだと一刀両断にする。
 いじめや犯罪をなくすには、彼ら一人ひとりに心を入れ替えさせさえすればいい。
 心が、すべて。こういう思考の傾きを、心でっかちという。戦争中の「精神主義」に、その極端な形がある。
 政治の世界で、道徳教育や愛国心教育の必要性を唱える声が一層大きくなりそうな折から、気になる言葉である。
 この言葉をつくったのは、北海道大学の山岸俊男教授(社会心理学)だ。

(中略)

 山岸教授が語る。「心の問題はもちろんあるが、考えるべきことは他にもあるということを知ってほしい」
 たとえば、日本人は集団主義的で、米国人は個人主義的だという「常識」がある。確かに、日本には「会社人間」が多い。そして「出る杭は打たれる」。
 山岸教授の実験は、この常識が間違っていることを示した。人工的な環境の実験室でひとがどう行動するかを比較すると、米国人の方が集団に協力的で、日本人の方が一匹オオカミ的に行動する傾向が強かった。
 つまり、日本人は集団志向な「心の性質」をもともと持っているわけではない。相互監視、規制、しがらみや圧力といった「社会の仕組み」に促されて、そう行動しているにすぎない。監視も圧力もない実験室の環境が、そのことを明るみに出す。

(「朝日新聞」 2006年10月3日付記事 「政態拝見」(根本清樹記者)より)


日本人は「個」が確立されていないという批判はよく聞く。私はこれにずっと疑問を抱いてきた。

私の好きな芸術家に、今年没後25年を迎えるカナダのピアニスト、グレン・グールド (1932-1982) がいるが、彼は、人付き合いをあまり好まず、孤独に沈潜し、1964年にはコンサートを開くのも止めてしまって、以後録音活動に専念した人だ。そのグールドは夏目漱石の「草枕」をたいそう好んだのだが、そんな彼のCDが世界で一番売れるのが日本なのだそうだ。

徹底的に自己と向き合い、奥深く孤独に沈潜していくうちに、普遍的ななにものかに行き着く、それがグールドのピアノの魅力だと私は思っているが、そういう境地をもっともよく理解するのが日本人なのである。

だから、私たち日本人は、権力者に都合の良い「道徳教育」や「愛国心教育」を押しつけられるのは、欧米人以上に好まない民族なのだと思う。

根本記者の記事に戻る。根本さんは、いじめ問題についても同じことがいえ、『ひとの行動は、ほかのひとたちがどう行動するかに大きく依存している』と指摘する。

以下の文章を再び引用する。

 「教育再生」を掲げる安倍首相は、子どもの「モラルの低下」を憂い、「規範意識を身につける」教育を重視するという。
 山岸教授は懐疑的である。
 「一人一人に『心を入れ替えなさい』と要求する発想には、ひとは完全に独立して自分の行動を決めているという前提がある。それは根本的な聞違い」
 ひとは周りに左右される。その行動がまた周りに影響する。ひとの心というミクロ構造と、社会というマクロ構造は互いに連動し、循環している。
 いじめで言えば、思いやりを持てと説教しても問題は解決しない。いじめはよくないと思っている子は、実は少なくない。その認識を教室のみんなで共有することが、決定的に大事だ。
 心と社会が連動するメカニズムをいい方向に向けていくこと。「それこそが政治であり、政策だ」と山岸教授は言う。
 警察は手を抜かずにことに当たる。そんな基本的な信頼が、住民を地域の秩序を守る自発的行動に向かわせる。その結果、すべて警察にお任せの監視社会化が、かえって避けられるという好循環を生む。

(「朝日新聞」 2006年10月3日付記事 「政態拝見」(根本清樹記者)より)


警察関係の情報を公開すると治安が低下するとほざいている男がどこかにいるが、見かけだけ勇ましいそういう人物の口車に乗って、自己を強者と同一化して陶酔する道を選ぶか、本当に市民が自発的に秩序を守る道を選ぶかが、今、日本人に問われているのだと思う。


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グールドといえば、ピアノはヤマハ、レコード会社はコロムビア(のちのソニー)ですね。

2007.03.23 01:36 URL | tn #- [ 編集 ]













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