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きまぐれな日々

一昨日のエントリで取り上げた、森達也さんと森巣博さんの対談本『ご臨終メディア?質問しないマスコミと一人で考えない日本人』(集英社新書、2005年)の中で、もっとも印象に残った。森巣博さんの言葉を以下に再掲する。

 曖昧なものは曖昧なまま、その答えを自分で考え出そうとしない。曖昧なものに、無理してわかったフリをする必要はない。曖昧なものとして、そのまま放っておいていいんです。簡単な解答を与えてはいけない。
 そもそも世界とは、異質なものが混じり合って成立している。それゆえ世界は優しいし豊かなのですね。それに対して一元的な理解をしてはいけない。異質なものは、わからなければわからないでいい。
 だけど、それを怖がるな。
 みんなが一緒の世界のほうが、ずっと怖いのです。異質なものを混ぜて一緒にやる。これが本来の意味での多元主義の立場です。異物はわからないからといって、排除してしまったら終わり。そこで思考は止まります。わからないものはわからないまま、置いておいて、一緒に考えればいい。

(森達也・森巣博 『ご臨終メディア?質問しないマスコミと一人で考えない日本人』=集英社新書、2005年=より)

私は、以前からずっとコイズミの「ワンフレーズ・ポリティクス」とそれを支持する人たち、それを後押しするマスコミにずっと違和感を持っていたのだが、その理由を森巣さんは実に的確に説明してくれている。

つまりそれは、単純化によって、差異が切り捨てられることへの抵抗感だったのだ。異質なものの混合物に対して、「一元的な理解をしていてはいけない。わからなければわからないでいい」という森巣さんの言葉に、わが意を得たり、の思いだった。みんなが一緒の方がずっと怖い。然り。排除してしまったら終わり、そこで思考は止まる、然り。

あの選挙で「郵政民営化是か非か」という、コイズミによる争点のシングル・イシュー化に日本国民はまんまとはまった。選挙の前日、私にはとんでもない思い出がある。当時私は、疲労の蓄積がピークに達していたが、その日は飲み会だった。私は、翌日の総選挙に不吉な予感を抱きながら、痛飲していた。話が選挙のことに及んだ時、大学でその方面を教えている私より若い先生までもが「郵政民営化は絶対必要ですからねえ」と口にした時、私は絶望感に襲われた。

結局その日は泥酔してしまい、路上で数時間寝てしまった。帰宅した時には、空はもうずいぶん明るくなっていた。

翌日、二日酔いのだるい体調のまま投票所に行ったが、私の票は死に票となった。開票速報は、もう見る気もしなかった...

それ以来、ワンフレーズ・ポリティクスを私は一段と嫌うようになった。下手な単純化や「わかりやすさ」を一段と嫌うようになった。異質なものが混じり合って多様であるからこそ世界は優しいし美しい。森巣さんは実に良いことを言うではないか。

昔、よく「左右両翼の独裁に反対する」という言い方をした。「右」はナチスや大日本帝国のファシズム、「左」はプロレタリア独裁の共産主義がイメージされていた。

だが、いま私は思う。その時言っていた「右」も「左」も同じ独裁志向ではないか。今ではこう言うべきだろう。「独裁にもポピュリズムにも反対する」と。独裁が異端を排除する全体主義であることは言うに及ばないが、ポピュリズムによる問題の単純化、わかりやすさへの志向もまた、異質なものを切り捨てる全体主義の一種であると私は思う。

わかりやすく説明してくれ、などと求めてはいけない。それは、自分の頭で考えることを放棄する、怠惰で卑怯な態度だ。全体主義は、そこにつけ込んでくる。


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こんばんわ!
シッカリと読ませて頂いてます。
アベエンドになってなって欲しいのですが、アベシの後釜がコイズミだったら、またゾ~ッとするし・・・・・

早く政権交代成らないものかと・・・

では、また・・・・・

2007.01.09 20:27 URL | とらちゃん #- [ 編集 ]

>ポピュリズムによる問題の単純化、わかりやすさへの志向もまた、異質なものを切り捨てる全体主義の一種であると私は思う。

私もそう思います。コイズミ政権がまさにそれでした。
私も、大谷昭宏や古館が「郵政民営化はしなくてはいけないんですよ」とTVで言ったのを聞いて、絶望感に襲われたのを思い出しました。理由もさして言わず、その話題の最後に締めくくるように言っていました。まさにワンフレーズです。聞くほうも、その一言で思考停止になり、他の人が何を言おうと、その段階で投票する党と人を決めた人が多かったのではないでしょうか。その道の専門家までそう言ったのであれば、kojitakenさんが泥酔してしまったのもわかります。

>わかりやすく説明してくれ、などと求めてはいけない。それは、自分の頭で考えることを放棄する、怠惰で卑怯な態度だ。全体主義は、そこにつけ込んでくる。

私は、このことをしっかりかみしめたいと思います。


2007.01.09 21:49 URL | 非戦 #tRWV4pAU [ 編集 ]

そう、政治は所詮暴力であり、民主主義とは暴力に抗う事に唯一無二の真髄があるのだと、そう私も信じてます。

民の手にある政治は暴力を民に振るわない。
そう願う事、そうさせる事に我々の存在意義がある。

私は常からそう思っていますよ。

迂遠であろうと王道を行く為に、私は無条件の平和友好も、無条件の憎悪と闘争も全て否定する。
とりわけ、屈従は論外だと思っておりますよ。

まあ、結局私もプロレタリアート独裁に反対しているだけで、そんな国が隣にあり、日本を常に狙っている事に憂慮しているだけで、結局中道なのだなと・・・。
思う事しばしですね。

今の日本は資本家独裁に向かいつつある。
それは阻止しなければ。
それは選民、賎民の民主主義であり、小さく儚い民を虐げて、金持ちの民が主としてのさばろうとする、独裁主義なのだとね。

結局、人が戦う為の武器とは、汚されない心なのだなと。
最近とみに私は思います。

2007.01.09 22:35 URL | 三輪耀山 #X.Av9vec [ 編集 ]

う~ん、ほんとにいつもkojitakenさんはいいことおっしゃいますね。激しくうなづいております。

ニュースで見たのですが、京都のある田舎にある高専の郵便局のATMが取り壊されました。学生たちはただ、呆然とそれを見ていました。
交通の便もない学校の寮に住む彼らは、今後、遠くの郵便局まで、歩いてお金をおろしに行かなければならなくなりました。雪が降ったときは大変です。こんなことは序章でしょう・・・

小泉さんの性格のように非道で冷たい政治になってしまいましたね。

もう少し多くの人が、もしこんなことが起こりえるかもしれないという想像力があったなら、ここまで自民に票を与えなくてもすんだのに。

2007.01.09 22:43 URL | 花美月 #jN/NqR4g [ 編集 ]

私たちが小泉マジックにはまったのは、ナチスドイツのヒトラーにはまったドイツ国民と同じ共通したものがあったからではないでしょうか?
人は単純明快を好み、また優越感をくすぐられるような心地よい言葉や考えに目を奪われると、苦言がある多様的な考えは軽視されるか無視されることになります。
そしてその心地よいひとつの考え方に執着するようになります。
それしか考えなくなるといえばよいでしょうか?
多様性がなくなるということは、知らないうちに自然におこります。
そして、ものごとを様々な角度で見られなくなります。
そしてひとつのことにとらわれ窮屈になります。
日本はそんな国に今なろうとしています。
心地よい言葉ほど害意がある、警戒をと思います。
これが、私がゴー宣や小泉政権から得た教訓です。
本当に心地よい言葉を彼らは使いましたから。
気をつけたいと思います。

2007.01.10 09:15 URL | 奈央 #JGXCdZNk [ 編集 ]

こんにちは。単純化は本当に怖いのですが、一度、分かり易さという低きに流れた人々の思考を、また上流に引き戻す事は至難の業です。そのためにかなりの代償を払わなくてはならない場合もありそうで、それが怖いです。

2007.01.10 14:20 URL | メロディ #- [ 編集 ]

「こんにちは、ひとみです」郵政民営化では、怖い思いをしました。あの選挙の時、駅前で、一人でプラカードを持って立っていたのですが(小泉さんと反対の立場で)、突然、高校生が数人で私を取り囲んだのです。そして、口々に「郵政民営化」を叫ぶのです。普段は、しらーっとしている高校生が、です。その時、マスコミの怖さのようなものを感じ、一人ひとり、知らせていくしかないな、と痛切に感じました。足を悪くしてからは、何とかしたい、とブログにも挑戦している次第です。上手くブログに書けませんので、他の方のいいのがあったらリンクさせてもらっています。娘に頼んでね。娘がホームページの管理をしていますので。今、入院中なので、携帯からです。今後ともよろしくお願いしますね。

2007.01.10 15:01 URL | ひとみ #- [ 編集 ]

ひとみさん、入院中だったのでしたね。それを感じさせない書きっぷりなので、驚いています。

一人でプラカードを持ってご自分の考えを表明しておられたなんて、本当に感心します。
私は,2人以上でしかやらないから。
高校生がそんなことを言ったのですか。きっとTVの影響ではないでしょうか。「郵政民営化反対」という人は、あの時、変人か悪者扱いで、メディアが「郵政民営化」一色でしたものね。

あの再現は、こりごりです。でも、マスコミは反省していないから、どうなるか心配です。そうならないように、みんなで頑張っているんだと思っています。

ひとみさん、早く退院できますように!

2007.01.10 18:40 URL | 非戦 #tRWV4pAU [ 編集 ]

こんな形でコメント欄を使わせていただいてごめんなさい。
駅前、本当は、たくさんで立ちたかったのですが、集合時間に誰も来なかった、というだけです。一人で立つ、というのは、怖い、というより、たくさんの方が目立ちますからね。
でも、なかなか一緒に立ってくれる人を増やしきらないんです。でも、何とかしなければ、という思いだけはあるんです。
アメリカがイラクに攻撃を仕掛ける前か直後か忘れましたが、米国のすることが許せなくて毎朝駅前に立ったんです。何十日立ったでしょうかねー。あるとき、「一人で立ってどうするね。自己満足やろも」と言われて、立つのを止めたのです。
仲間を拡げきらない無力さを感じ、それでも拡げなければ、という思いは、最近の情勢をみると、痛切に感じます。特に、ベッドの上だと、焦りも、ね。口では「骨休め」などと言ってはいますが。

2007.01.11 06:31 URL | ひとみ #- [ 編集 ]

はじめまして。

ポピュリズムの恐ろしさは、言葉の含む多様な側面のただ一面だけを強調し、それを餌に国民を誘導することにあるのだと思います。たとえば、小泉さんの「改革」という言葉にしても、安倍さんの「美しい国」にしても、本来曖昧で、様々な意味があり、いかようにも捉えられるはずのものであるはずなのですが、言いようのない閉塞感に包まれた国民には、心地よく響くその言葉に含まれる意味を考える余裕がない。おまけに、言葉の一面を派手に強調することで、右派にも左派にも媚を売ることができるため、両派を分断することもできる。為政者側はそれを見越しているのでしょう。

本当に大切なのは、どう改革し、どう美しいか、だと思うのです。ところが、その理由が曖昧なまま、納得させられた気になっている。

ちなみに僕は森巣博氏の奥様であるテッサ・モーリス=スズキ氏の書物を読んで、森巣氏の仰る多元主義について学んだのですが、本当に、わが意を得たり、の思いでした。

2007.01.20 00:57 URL | vannsonn #- [ 編集 ]

vannsonnさん、
はじめまして。コメントどうもありがとうございます。
コイズミの分断作戦は、見事にはまっていました。
2002年頃、コイズミの右派的外交姿勢は朝日新聞に批判されたものの、産経や読売に支持されていました(毎日新聞は腰が定まらなかった)。
一方、コイズミ、というより竹中の新自由主義的経済政策を一番熱心に支持していたのは、朝日新聞、次いで毎日新聞でした。朝日は、あさはかにもコイズミのとなえる「カイカク」という言葉に惑わされていたのだと思います。私はいつもこれにイライラし、嫌な予感がしていました。
当時、マスコミはコイズミにいいように分断されていたと思います。その後、ナベツネが極度の軍国主義化と新自由主義に歯止めを掛けようとして朝日新聞に接近しましたが、接近するなら2002年にやるべきだった。その頃にやっていれば、コイズミは打倒できたかもしれないのにと悔やまれます。

2007.01.20 08:13 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]













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