fc2ブログ

きまぐれな日々

今回からしばらくは、「年末年始に読んだ本」のシリーズを連載したい。

普段、ほぼ毎日ブログを書いていると、ネタをネット検索で調達して適当な記事を書くという誘惑にかられやすい。しかし、ネットに流れる情報を追いかけて記事にまとめるだけでは、往々にしてブログの記事が薄っぺらなものになりがちである。それを避けるためにも、ブログに書きたいことに関係する本を多く読まなければならないと常々思っている。

しかし、いかんせん自由に使える時間には限りがあり、ブログの記事を書くのは結構大変なので、本が読めずにたまっていきがちだ。

年末年始のようなまとまった休みは、読めずにたまった本を一気に読むチャンスだ。特に今年は、安倍晋三を退陣に追い込めるかどうかの大切な年なので、安倍批判のために参考になる本を、気合いを入れて何冊か読んでみた。それを紹介していきたいと思う。

まずは、加藤紘一著『テロルの真犯人』(講談社、2006年)を紹介したい。昨年8月、小泉純一郎の靖国神社参拝を批判していた加藤氏の山形にある実家が、右翼によって放火されるというテロ事件が起きたが、マスコミの反応は鈍く、小泉純一郎首相(当時)や安倍晋三官房長官(同)も事件後しばらくコメントを出さなかった。これは、この国のマスコミも、コイズミやアベシンゾーら最高権力者も、日本における「言論の自由」を守るつもりなどないことを示している。

当ブログが時事問題を扱う時のテーマは3つあって、「言論の自由」「反戦平和」「新自由主義反対」である。安倍晋三は、この3つのテーマ全てにおいて、私と真っ向から対立する敵なので、私は「AbEnd」を掲げて、今年も彼を批判していき、安倍政権の打倒に多少なりとも力になりたいと思う。

安倍政権打倒を掲げる私のブログで、まさか今年最初にとりあげるのが、自民党の政治家の著書になろうとは、過去一度も自民党に投票したことのない私自身が意外なのだが、それだけ加藤が「言論の自由」のシンボルになっていることが理由の一つ。だがそれよりも、加藤の著書『テロルの真犯人』の内容が大変充実していたことが、ここに取り上げようと思った最大の理由だ。

正直言って、自民党の政治家の著書というと、あの恥ずかしい安倍晋三の『美しい国へ』の悪印象があまりに強かったので(笑)、加藤の本も、まさか安倍ほどひどくはないだろうけど、たいして期待はできまいと思って読み始めた。実際、彼自身が受けたテロについて語った最初の部分は、淡々とした書きっぷりで、ま、こんなところかな、などと思っていた。だが、読み進むにつれどんどん引き込まれていった。

加藤紘一が、戦後間もない頃、やはり政治家だった父・精三氏の家に集まった、復員した兵士たちから聞いた戦争体験の話を書いた第三章『戦争の記憶』、外務省に入省して、中国を研究しようと中国課に進んだ加藤の中国論を述べた第四章『私の中国体験』、それに卓抜な東京裁判論・靖国神社論である第六章『「時代の空気」』は特に読み応えがあった。時に自民党政治家であるがゆえの限界を感じる部分ももちろんあるが、加藤紘一の政治家としての器は、安倍晋三などとは比べものにならないことは十分感じられる本だと思う(安倍晋三なんかと比較されたら加藤に怒られるかもしれないが)。

第三章『戦争の記憶』から、いくつか抜粋、引用してみる。

 慰安婦を買ったときの話も聞かされた。慰安所で順番を待っているときの、
「おい、早くしろよ」
「もうちょっと待て」
 といった会話や、
「相手はたいていが朝鮮人だから、言葉は通じないし味気ないもんだった」
 といったことなどを、そばに小学生の私がいるのも構わず、皆、ごく平然と話していた。
 そうした話を聞いていたからこそ、後に「従軍慰安婦などいなかった」と主張する保守陣営の人に対し、堂々と反論することができた。
(加藤紘一 『テロルの真犯人』 70?71ページ)

* * * * *

 どこまでが本当の話かわからないが、
「捕虜をつかまえると、右足と左足を別の二頭の馬に縛りつけて、その二頭を互いに逆方向に向けて放す。するとバーッと血しぶきを上げて、体が真っ二つに裂けるんだ」
 そんなとうてい信じがたい残酷な話もよく聞かされた。
(前掲書 72ページ)

* * * * *

 父(注:故加藤精三代議士)が、一度だけ私に、戦地に行っていたときの話をしてくれたことがある。それは私が大人になってからのことだが、
「人間は、自分の意に添わないことでもやらなければならないときがある。召集されて内モンゴルで中隊長になり、俺も一度だけ戦闘に出て行ったことがある。やはりそういうときは俺だって恐い。でも中隊長なんだから、まず自分が突っ込んでいかなきゃならないという気持ちだった。いずれにしても、戦争は恐いし、やってはいけないことなんだ」
(前掲書 75ページ)

* * * * *

戦争体験を躊躇なく話せる人はまだいい。なかには戦地で犯した殺人や虐待などの罪に生涯苦しみつづける人もいる。(中略)私の後援会の幹部を三十数年務めてくれた幼なじみがいうには、
「うちの親父は四〇?五〇代のころ、夜中になると決まって荒れるんだよ。何かにうなさたように、突然『ウアァー』と叫び出し、家の中にあるものを手当たり次第ぶっ壊すんだ」
 そしてその父親がしらふになると、
「憲兵としてやらざるを得ずにやったことだけど、一日に三人を殺すのは、それはもう大変なことなんだ」
 と話すこともあったという。
(前掲書 77ページ)

外務省入省時に「中国共産党をライフワークにしよう」と考えていた加藤の中国論が書かれている第四章は興味深い。加藤は、香港総領事館で勤務していた二年間の仕事を通じて、社会主義理論の限界を感じるようになる。加藤は、『いま、「左翼」は社会主義思想の総括を求められている。この総括を曖昧なままに逃げてしまっては右翼の攻撃に耐えられないだろう。日本社会、少なくとも政治の場を論争社会にするために、「戦争」総括と「社会主義」総括のふたつが不可欠なのだ』(『テロルの真犯人』 120ページ)と指摘する。

加藤は、「いずれ中国と台湾は一緒になる」というのを持論にしている。以下、加藤の予言を『テロルの真犯人』から引用する。

 中国もいまは共産主義の下に一つの国になっているけれど、十三億の人口を一つの指導原理、一つの政党でコントロールできる時代はもうじき終わる、一人あたりのGNPが五千ドルを超えるような段階になると、豊かさと増大した情報量で中国人も自己主張が強くなり、自由を求めて最終的には社会主義を離脱するであろう。
 そうなると、一つひとつの省が独立自治政府的な自由度を与えられないと、国としてまとまらないのではないか。そのときは台湾も香港もそのなかの一つになり、United Provinces of Greater Chinaという形になるのではないか。
(加藤紘一 『テロルの真犯人』 128ページ)

加藤はこれを、2001年に台湾元総統の李登輝氏と会った時に話したのだそうだが、李登輝氏はこれに同意した上で、「ただね加藤さん、あなたの推測の間違いを一つ指摘しよう。あなたは五千ドルを超えたらといったね。それは違う、三千ドルだ」と言ったという。
中国の一人あたりのGNPは、今1700ドルくらいとのことだ。

さて、『テロルの真犯人』の中で、もっとも読み応えがあるのは、加藤が東京裁判及び靖国神社を論じた第六章『「時代の空気」』である。

加藤は小林よしのりの「ゴーマニズム宣言」批判から論を起こすが、いきなり「ゴー宣」の東京裁判論に、「日本会議」からの影響を指摘する。「日本会議」というのは、日本最大規模の保守主義・民族主義系の政治・言論団体のことで、ひらたくいえば事実上安倍内閣のイデオロギーを決定している右翼団体だ。

従来マスコミは「日本会議」についてほとんど報じなかったが、「改正教育基本法」が成立した翌日の「毎日新聞」が一面の記事で報じたことは、当時のエントリ『毎日新聞の報道?改正教育基本法は「改憲へのステップ」』で紹介した。

加藤は、日本会議の「ゴー宣」への影響を指摘したあと、たたみかけるように、小林ら右翼諸氏が「日本は東京裁判を受け入れていない」と主張しているネタ元を暴いている。以下に引用する。

 小林氏は、日本国は東京裁判の判決を受け入れたのであって、裁判そのものを、受け入れたわけではないという。だからA級戦犯を恩赦することは、連合国に諮る必要はなく、日本が単独で決めることができる、というのである。
 この論理は、日本会議の主張とまったく同じである。そして、安倍首相の著書『美しい国へ』にも、まるで同じ記述がある。じつは日本会議、小林氏、櫻井よしこ氏、そして安倍首相が東京裁判やA級戦犯合祀問題について論じる際、最大の論拠にしているものに、植草学園短期大学元学長の佐藤和夫氏(法学博士)による「日本は東京裁判史観により拘束されない??サンフランシスコ平和条約の正しい解釈」という論文がある。これは1987年、同氏の著書『憲法九条・侵略戦争・東京裁判』改訂版(原書房)への発表が初出で、最近改訂版が出された『世界がさばく東京裁判』(佐藤和夫監修、明成社)にも掲載されている。
(加藤紘一 『テロルの真犯人』 170ページ)

加藤は、こうして小林・櫻井・安倍らの主張のネタ元が佐藤の論文であることを明らかにした上で、佐藤に批判を加えていく。これにはうならされた。ようするに加藤は、安倍のイデオローグ(櫻井よしこもその一人)もろとも、安倍の主張を批判しているのだ。

加藤はさらに靖国神社に論を進める。そして、靖国神社には「官軍」の戦死者は祀るが、「賊軍」の戦死者は祀らない点で、伝統的な神道の思想とは異なることを指摘している。加藤の郷里・山形県鶴岡市は、かつては庄内藩に属し、幕府側について戊辰戦争を戦った「賊軍」なのである。加藤の「反靖国」の思想は、存外こんなところからきているのかもしれない。

加藤はもちろん靖国神社が「慰霊」施設ではなく「顕彰」施設であることもきっちりおさえている。ここらへんは、読んでいて高橋哲哉著「靖国問題」(ちくま新書、2005年)を思い出したくらいだ。自民党の政治家でここまできっちり靖国を批判できる人も少ないだろう。

加藤は「遊就館」を訪れ、ノートに書かれた若者の感想文が「正しい歴史観を欠いている」と批判する一方、ある五十代女性の感想を高く評価していた。以下引用する。

「戦争をせざるを得なかったという言い訳は、どんなに立派な言葉で飾られても間違いである」(50代・女性)
 私もこの意見に賛成したい。その通りであろう、と思う。
(加藤紘一 『テロルの真犯人』 215ページ)

加藤は、巻末に置かれた短い第七章『さまざまなナショナリズム』で、コイズミの用いた「闘うナショナリズム」を利用した政治手法(仮想敵を作り上げて支持率を浮揚させる方法。国内では「抵抗勢力」、国外では「中・韓」が仮想敵にあたる)を極めて厳しく批判している。

加藤は、戦後あまりに人間関係から自由になりすぎた日本人の多くが、なにか帰属するもの、頼るべき価値観を求めている、と日本社会の現状を分析し、『それをナショナリズムで牽引してしまうと、かつての日本が辿ったのと同じように、一気に坂道を転がっていきかねない非常に危険な状態になってしまうのである』(『テロルの真犯人』227ページ)と指摘している。
さて、本のタイトル「テロルの真犯人」とは誰か。その種明かしは、ここではしないでおこう。


PS
私は『テロルの真犯人』を元旦に読んだのだが、翌1月2日の「きっこの日記」に書かれたナショナリズム論が、加藤のそれと相通じるところがあったのが非常に面白かった。


↓ランキング参戦中です。クリックお願いします。
FC2ブログランキング

関連記事
スポンサーサイト



これだけ読んだだけでも、引き込まれてしまう内容だっていうのがよくわかりました。私もいつか読んでみたいです。テロルの真犯人が誰なのかとても気になります。

2007.01.04 10:39 URL | 美爾依 #- [ 編集 ]

いつも楽しく読ませてもらってます。

岸のような卑怯な永久戦犯容疑者を尊敬し、敗戦という現実を戦後61年もたつのに今だに理解できない安倍や日本会議の卑屈で自虐的な考え方を国民に押し付けるなと言いたいですね。

あとブログのタイトルが気持ち悪く感じるので近いうちに変えようと思いました。

2007.01.04 16:41 URL | ◆ 美しい壺日記 ◆ #- [ 編集 ]

加藤さんは、父親や自分の家に来た復員兵士たちからいろいろな戦争の体験談を聞いたのですね。子供なりに思うところがあったのでしょう。それが若者の間違った歴史観や首相の靖国参拝批判につながるんですね。自民党の政治家だから自民党内部のことがよく分かるという意味で反自民でも興味深く読めそうです。是非、読みたいです。

今読んでいる本(「昭和史」半藤一利著)に、「岸信介が、安保条約改定への反対勢力を押さえ込むために、日教組への攻撃を開始し、「勤務評定」や「警職法」を持ち出し、国民は大騒ぎをします。でも,岸は、何があろうと強行突破をおのれの使命としたようです。・・・」などと言うことが書かれてあって、アベ政権と一緒だ!と思いました。kojitakenさんは、岸とアベは同じDNAの持ち主だ、と指摘されて、その類似性について書かれていましたね。それを思い出しながら読みました。

2007.01.04 20:02 URL | 非戦 #tRWV4pAU [ 編集 ]

kojikitaKenさん、あけましておめでとうございます。
今年は、韓国のクリスチャン関係の本を年の始めに読みましたが、戦前、沢山の殉教者が出ていること戦前の日本国の野蛮な行為に目を疑いました。
この話はたぶん永久に日本史の授業では行われないでしょう。
けれどアジアとの理解を深めるためにも真実を理解するためにも行ってほしいと思っています。
国を奪われた人間の悲しみや辛さ、ひもじさ口惜しさそして安重根の本当の姿を知ってほしいと思っています。
安重根は、無教養な人ではありませんでした。
教養のある敬虔なクリスチャンのひとりでした。
そんな人がなぜ暗殺をしたのか?
なぜしなければならなかったのか?
ある方は、日本は神社参拝強要の他、七奪の罪(国王、国土、耕地、国語、姓名、国民、殺人)をしたと言っています。
加藤さんのお父さまが悪夢にうなされた理由は、彼はたぶん様々な罪の意識に苛まれたからかもしれません。
人間として当たり前の感情があったからこそだったのかもしれません。
日本人は後ろめたさや罪悪感をあまり持たず今まで来てしまったように思います。
そのことが、今のような歴史を改変されるような人たちを蔓延させる原因になっているような気がします。
ゴー宣大好きでした。
でも今は読めません。
本当のことが描かれてないから。

2007.01.05 07:44 URL | 奈央 #aydbl9MU [ 編集 ]

朝日新聞 -加藤紘議員宅放火、弁護側「テロ」、検察側「生活苦」
http://www.asahi.com/national/update/0111/TKY200701110386.html

検察もテロリストの一味か(苦笑)

2007.01.11 23:22 URL | ゴンベイ #eBcs6aYE [ 編集 ]

ゴンベイさん、kojitakenさん、

私もこの記事、間違いでないかと何度も読み直しました。
テロ犯を追い詰めるべき検察が、犯人や犯人の弁護団が「テロ」「思想が背景」と言っているのに、「生活苦」なんて、馬鹿な事を言っているんでしょう。これはお笑いが悪夢ですよ。って書きながら、この記事の私の理解が変なのかと、頭が混乱しています。

これどうなっているんでしょう?

2007.01.12 08:28 URL | 非戦 #tRWV4pAU [ 編集 ]













管理者にだけ表示

トラックバックURL↓
http://caprice.blog63.fc2.com/tb.php/216-5c9b3e0b