きまぐれな日々

12月15日、ついに「改正」教育基本法が安倍内閣のゴリ押しによって成立した。

翌16日の「朝日新聞」は、一面で『改正教育基本法成立 「個」から「公」重視へ 制定後59年 初見直し』という見出しでこれを報じた。記事は、批判的なニュアンスを込めてはいるが、腰の引けた記事だ。そして、このところ社会面に移っていた「いじめられている君へ」という連載記事がなぜか一面に舞い戻り、漫画家・松本零士氏の文章が掲載されている。あたかも法案の成立を祝するかのように。

二面以下をじっくり読むと、今回の「改正」基本法案に批判的な記事が書かれているのだが、一面に松本零士氏の「夢は大きいほどいい 人生を支えてくれる」などという見出しの文章が載っていると、まるで今回「改正」された教育基本法が、子供たちの人生を支えるかのような錯覚に襲われる。悪質な印象操作というしかない紙面になっている。

一方、「毎日新聞」は、二面以下の記事はたいしたことがなく、社説も朝日よりさらに腰が引けているほどだったが、なんといっても一面の記事が出色だった。

061216_毎日_改正教育基本法成立
(画像をクリックすると拡大して表示されます)

ご覧のように、『改正教育基本法が成立 目標に「愛国心」』という見出しで、法案が可決されたことを淡々と報じる記事を載せ、その左横に「改憲へのステップ」という見出しで、「変わる教育の憲法」という特集記事の「上」編を掲載した。
以下引用する。

変わる教育の憲法・上

 「私の目指す『美しい国づくり』において、教育がすべての基本だ」
 安倍晋三首相は13日の衆院特別委員会で、教育基本法改正への意気込みを語った。審議では「規範意識や道徳の重要性も、『美しい人間』として生きるために必要だ」と繰り返し、「美しい国」という政権のスローガンと基本法改正が「密接不可分」と強調した。
 戦後生まれ初の首相は、「戦後レジーム(体制)からの船出」を掲げる。自民党総裁任期は最長で2期6年。この期間内の憲法改正が目標だ。自主憲法制定を唱えた岸信介元首相が祖父。「岸のDNAを受け継ぐ」(塩川正十郎氏の評)首相にとって、GHQ(連合国軍総司令部)主導でつくられた憲法の改正は悲願だ。憲法と一体関係の基本法改正は改憲へのステップにほかならない。
 「総裁選のころから急に教育改革を語り出した」。自民党町村派幹部は、そう証言する。首相の教育論は、愛国心や規範意識など、戦前に重視された日本の価値観の復活が中心だ。英国のサッチャー元首相が行った教育分野の規制緩和と管理強化にも関心を向けている。英国は88年の教育改革法を契機に、「教育困難校」の廃校を勧告する教育水準局を設置。帝国主義時代を否定的に描いた歴史教科書を見直した。
 首相と下村博文官房副長官、山谷えり子首相補佐官の3人は、かつて保守系の議員連盟「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」のメンバーで、従軍慰安婦などの記述を「自虐的」と批判する「新しい歴史教科書をつくる会」と連携。「つくる会」は保守系の運動団体「日本会議」ともつながる。
 サッチャー改革に着目した「日本会議」幹部の橋渡しで、下村、山谷両氏は04年9月、国会議員6人による「英国教育調査団」に参加した。両氏は「サッチャーは教育の英国病を立て直した」と高く評価するが、識者の間では「所得によって受けられる教育の格差が拡大した」(藤田英典国際基督教大教授)との批判も根強い。
 10月、官邸に設置された教育再生会議は保守路線一本やりとはいかず、議論は難航。代わって教育改革の推進エンジンになっているのが、政府の規制改革・民間開放推進会議だ。教員評価の厳格化や学校の管理職の増員など民間企業並みの改革メニューには、経済界の意向がにじむ。
 戦前の価値観と経済効率化の調和。安倍政権は法律改正の歯車を回したが、議論は生煮えで、改革の実感は薄い。
(「毎日新聞」2006年12月16日付1面より)

この記事は、安倍の真の狙いが憲法改定であることをはっきりと指摘し、安倍や山谷えり子首相補佐官(元「ウィークエンダー」レポーター)と「つくる会」や「日本会議」とのかかわりまで書いている。

この記事で面白いのは、最後の方に、官邸に設置された教育再生会議での議論が難航し、代わって政府の規制改革・民間開放推進会議が教育改革の推進エンジンになっている、という指摘だ。
11月16日のエントリ「安倍晋三につながる極右人脈」で、小泉純一郎の支持者には「経済右派」が多く、安倍晋三の支持者には「政治思想上の右派」が多いと指摘したが、この毎日新聞の記事は、小泉シンパの経済右派が、安倍の政治思想的な右派政策偏重を快く思わず、巻き返しに出ていることがうかがわれる。
私自身は、前にも書いたように、「経済右派」の新自由主義政策にも、「政治右派」の国家主義的政策にも、ともに反対である。

あと、皮肉たっぷりで笑えるのは、「総裁選のころから急に教育改革を語り出した」という、自民党町村派幹部の証言だ。安倍の「教育改革」は信念に基づくものなどではなく、祖父・岸信介に対する安倍の無批判な崇拝をネオコンに利用され、彼らに操られて口走っているに過ぎないことを、この証言は暗示している。おそらく、この言葉を発した議員は、安倍をひそかに馬鹿にしているだろうと想像される。

ところで、これを機に毎日新聞におすすめしたいのは、思い切った言論を展開する新聞に変わってほしいということだ。

それでなくても、インターネットの普及が、既存メディアの脅威になっているとも言われる。今のように、各紙がお上の提供する情報を垂れ流すようでは、新聞の影響力はますます低下することだろう。それでなくても経営が安定していないと言われている毎日新聞社は、そのうち存亡の危機に立たされるのではないかという気がする。

かつて毎日新聞は、沖縄返還をめぐる密約事件(通称「西山事件」、1972年)で「知る権利」のキャンペーンを張って政府を追及したことがある。この時、権力側によって、記者と取材源の外務省の女性事務官との下半身スキャンダルに問題をすり替えられてしまい、社のイメージを落とした毎日新聞は部数を大きく落とした。
この時の首相は故佐藤栄作で、岸信介の弟、安倍晋三の大叔父にあたる。安倍といい岸信介といいこの佐藤栄作といい、この一族はこういう卑劣な真似ばかりしてきたのだ。

ここは一つ、毎日新聞には34年前のリベンジの意味も兼ねて、安倍政権の改憲政策に対し、はっきりと「反対」の旗幟を鮮明にした報道をしてもらえないものかと思う。

そうすれば、権力を本気で批判する気があるのかきわめて疑わしい朝日新聞から読者を奪い、元来大衆的な新聞のはずなのに弱者イジメの安倍政権を大々的に応援している読売新聞からも読者を奪って、昔のように「三大紙」に返り咲くことができるのではないかと思うのだ。

座して死を待つより、行動すべき時ではないだろうか。これは、毎日新聞だけではなく、われわれブロガーをはじめ、国民全体についてもいえることだと思う。

(注)この記事中で参照した「毎日新聞」は大阪本社発行「13A版」、「朝日新聞」は大阪本社発行「14版▲」です。
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2006.12.16 23:59 | 教育基本法 | トラックバック(-) | コメント(5) | このエントリーを含むはてなブックマーク

毎日新聞は、基本法か改正される前から、東京新聞などの地方紙とともに、基本法の本質をついた意見や的確な国会情勢分析などで改正を反対する市民の間で評価されていました。権力を監視する、というメディアの役目をだいぶ果たしていたようです。そして、kijitakenさんが今回紹介してくださった記事は、本当にいいですね。メディアの巻き返しの役割を毎日新聞が率先してやり、市民の信頼を得て、ほかの新聞社がこのままではいかん、と右回りを改めてくれるといいんですが、、。

2006.12.17 15:41 URL | 非戦 #tRWV4pAU [ 編集 ]

kijitakenさん、はじめまして、こんにちは。

私もkijitakenさんの素晴らしいご意見、ぜひ毎日新聞さんにご進言差し上げたら、と思います。訴えかけるものがあると思います。

2006.12.18 07:15 URL | シマリス #- [ 編集 ]

kojikitaさん、私はこの法案が通ってしまったことがとても怖くて仕方ないです。
16日の朝、でかでかと新聞の見出しに載った愛国心と防衛省に昇格の文字。
見ていて気分が悪くなりました。
教育勅語を親に無断で園児に暗唱させた幼稚園の話がありましたが、こんな幼稚園とレベルが同じになるだけでなく放置する国になるのかと思うと複雑で暗澹たる気持ちになりました。
この日を忘れたくないです。
それと安倍の言う愛国心って何なのでしょうか?
中身が伴っているとはどうしても思えないです。
身内に冷たい安倍の母親の姿を見れば、安倍が私たちにしようとすることは一目瞭然のような気がします。
親鸞の言葉に、子供は親の姿を見て育つ、そしてそのとおりのことをするという言葉があります。
そうならないことを願っています。

2006.12.18 11:31 URL | 奈央 #EoYtDbj. [ 編集 ]

>親鸞の言葉に、子供は親の姿を見て育つ、そしてそのとおりのことをするという言葉があります。

保育所に預けられた子供たちは、親の姿を見て育つことすらできないのだから、かわいそうを通り越して悲惨だ。

2006.12.18 21:38 URL | 楼主 #- [ 編集 ]

こんにちは。
サッチャーへの過大評価からも、日本の新保守主義者が大嘘つきであることが分かります。
もはや英国ではサッチャリズムは労働党はもちろん保守党ですら批判的に評価しており、もはや保守とすら看做されていません。
ましてサッチャーの教育改悪については、英国全土で文化的な破壊と教育水準の低下、犯罪の増加をもたらした現況として評価は定着しています。
ブレアが党首就任演説「どうしてこんなことになってしまったのだろうか」でサッチャーの教育改悪に痛烈な批判を加えたことは記憶に新しいのですが、日本の新保守主義者/新自由主義者にとってそれはなかったことになっているようですね。
だいたいブレアがサッチャリズムを継承しているなんつうめちゃくちゃを負かりとおしている連中ですから、彼らの教育観がどの程度出鱈目なものなのかだいたい想像がつきます。
一方、ブレアの教育改革はEUの少数言語政策や多文化政策にも合致し、スコットランド、ウェールズの好調ぶりの背景になっています。
イングランド化を強制して文化的にも経済的にも地域社会を破壊したサッチャーを引き合いに教育改革を行うなど英国では国家に唾はくものと看做されるはずです。

2006.12.19 10:19 URL | 元道 #GCA3nAmE [ 編集 ]













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