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きまぐれな日々

もう既に多くの人が指摘していることではあるが、成立早々各方面から批判を浴びた安倍晋三内閣が、電撃的中国・韓国訪問の最中に行われた、北朝鮮の「核実験」のおかげで、大いに追い風に乗ったようだ。

立花隆さんが、『安倍外交 "神話"の試金石 北朝鮮の「核」と「拉致」』立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」第86回)で指摘しているように、安倍晋三首相は、アジア外交でポイントを獲得した形で、政権の前途を占う最初の試金石とされていた来週末投票の衆議院補欠選挙の情勢は、当初予想されていた接戦ではなく、自民党の圧勝になる可能性が出てきた。

もちろん、ここまでの展開で安倍の最大のサポーターとなったのは、金正日北朝鮮である。

月刊「現代」10月号掲載の記事で、安倍晋三に宣戦布告した立花氏は、国会での論戦で惨めな姿をさらした安倍が、外交舞台では堂々たる立ち居振る舞いをしたことについて分析し、一定の評価を与えている。安倍晋三が、亡父・安倍晋太郎の外相時代、長く晋太郎氏の秘書を務めていたことや、小泉政権の中枢に居続けた経験がものをいっていると指摘している。敵の獲得ポイントでも冷静に評価しているのは、さすがは立花さんといえるかもしれない。

もちろん、立花さんは安倍が戦後民主主義を破壊しようとしていることを批判しているわけだから、「総理大臣との資質には疑問」としているが、具体的な安倍批判については、次回以降に書かれるようで、今回はパスしている。そして代わりに、安倍の最大のセールスポイントである「拉致問題」が、逆に安倍のアキレス腱になる可能性を指摘している(この議論については、立花さんのコラムを直接参照されたい)。

立花さんも触れているように、民主党の森ゆうこ議員が、国会で「週刊現代」10月21日号の記事「安倍晋三拉致問題を食いものにしている」という記事を持ち出して安倍に質問したのに対し、安倍が怒り狂って審議が中断したのだが、ここでは、この「週刊現代」の記事についてちょっと詳しく書いてみたい。

この記事のタイトルを見た時、私はただちに「カナダde日本語」の7月1日の記事 「安倍は総裁選のためにめぐみさんや北朝鮮まで利用している」を連想した。ちょっと脱線するが、これは、AbEndキャンペーンの提唱者・美爾依さんの記事の中でも特に印象に残ったもので、こういう記事を多くの人に読んでもらおうと、AbEndキャンペーン普及工作にいっそう力を入れるきっかけになった、思い出深い記事だ(注:当時私は、上記趣旨のコメントをこの記事に寄せましたが、ネット右翼の気に障った記事でもあるようで、嫌がらせのコメントもついています)。

さて、以下に安倍を激怒させた「週刊現代」の記事を紹介することにしよう。
記事は、フリーの在日韓国人ノンフィクション作家の柳在順(ユ・ジエスン)さんと「週刊現代」取材班によって書かれたもので、その冒頭で、「金正日に一番近い外国人」といわれる中国朝鮮族の大物実業家・崔秀鎮(チェ・スジン)氏の言葉を紹介している。

安倍晋三という政治家には、大変失望しています。北朝鮮問題について、虚心坦懐に私と話したことと、その後の言動は正反対と言ってもよい。首相に就任して以降は、拉致担当大臣(塩崎恭久官房長官が兼任)や拉致担当首相補佐官(中山恭子氏)のポストを設置したり、自ら本部長になって拉致問題対策本部を立ち上げたりしています。『北朝鮮の核実験は断じて容認できない』と国会で怒りを表してもいます。しかし実際は、単に政治的パフォーマンスとして拉致問題及び北朝鮮問題を利用しているにすぎないのです。
(崔秀鎮氏の発言=「週刊現代」2006年10月21日号「安倍晋三拉致問題を食いものにしている」より)

この記事の中で、崔氏は、2003年に安倍官房副長官(当時)から極秘に依頼されたという北朝鮮との秘密交渉を暴露している。崔氏によると、同年8月、崔氏と安倍が持った会合で、安倍は、前年(2002年)9月の日朝首脳会談で、5人の拉致被害者を一時帰国させたあと、また北朝鮮に戻すという北朝鮮との合意を守らず、金正日総書記の体面を潰してしまったことを、崔氏に詫びたという。

安倍は続いて本題に入り、5人の拉致被害者の家族8人を無事帰国させるため力を貸してほしいと、崔氏に依願したそうだ。以下「週刊現代」から引用する。

安倍氏は、8人を連れて帰るために自分が訪朝したいようでした。そこで私は、金総書記の謝罪の意味について、もう一度念を押しました。
金正日総書記が謝罪したということは、生存している拉致被害者、及び家族は全員帰国させる決定を下したということです。だから、8人の帰国に関してはご安心ください。しかし8人を帰国させた時点で、これ以上生存している拉致被害者はいないのだから、北朝鮮と国交を正常化させるというお考えでよろしいですね」
それに対して安倍氏の回答は明快でした。
「それは8人の家族さえ帰国させれば、北朝鮮としてやるべきことは、やることはすべてやったということでしょう」
安倍氏は、「そんなこと当然だ」という口調で語ったのでした。だから私は、後に安倍氏が「北朝鮮政府が死亡したとした横田めぐみさんらの拉致被害者は生存している」「返還しないなら経済制裁を科す」などと主張しているのを聞いて驚いてしまったのです。
(崔秀鎮氏の発言=「週刊現代」2006年10月21日号「安倍晋三拉致問題を食いものにしている」より)

さらに安倍は、北朝鮮との国交正常化後、日本が北朝鮮のインフラ整備を進めていくビジョンを饒舌に語ったという。そして、核問題や経済制裁については、下記のようなやりとりがあったと、崔氏は語る。

私は安倍氏に、核問題が国交正常化の障害になるのではないかとの懸念をぶつけました。すると安倍氏は、次のように答えました。
「核問題は、6ヵ国協議で議論することであって、日朝交渉とは関係ないし、アメリカの顔色を窺う必要もありません。それに小泉首相はブッシュ大統領から絶大な信頼を得ているので、小泉首相が北朝鮮と国交正常化を果たすと言えば、ブッシュ大統領は受け入れます」
(中略)
私はさらに、今後日本が北朝鮮に経済制裁を科すことはないのかとも確認しました。それについても安倍氏は、
「アメリカが北朝鮮に経済制裁を科しても、日本は同意しません」
と明確に答えました。
(崔秀鎮氏の発言=「週刊現代」2006年10月21日号「安倍晋三拉致問題を食いものにしている」より)

安倍は、終止北朝鮮に対して友好的な発言に終止し、最後に「どうか私の良き友達になってください」と崔氏に頭を下げたという。
そして別れ際に、崔氏は、話を持ち込む北朝鮮の幹部に宛てて一筆書いてほしいと安倍に頼み、それに対して安倍側は次のような手紙を渡した。この手紙は、なんとその写真が「週刊現代」に載っている。原文は漢字交じりのハングルで、ハムニダ薫さんの出番かと一瞬思ったが、「週刊現代」に日本語訳が出ていた。以下引用する。

○○先生(週刊現代編集部注:崔氏が指定した人物名が書かれていた)

 前略 挨拶は後回しいたします。今般、崔秀鎮氏が来日し、お会いしました。多角的に多くの建設的な話を交わしました。今後の相互の意見交換について、崔氏に伝達しましたので、よろしくご検討のほど、お願い申し上げます。 草々

日本政府内閣官房副長官 安倍晋三 拝上
2003年8月18日

安倍晋三官房副長官(当時)が崔秀鎮氏に託した手紙=「週刊現代」2006年10月21日号「安倍晋三は拉致問題を食いものにしている」より)

手紙の写真だけではなく、安倍が崔氏と握手している写真も、「週刊現代」の記事を飾っている。

安倍の依頼を受けた崔氏は、北朝鮮側と相談したが、北朝鮮は安倍を交渉の窓口には選ばず、翌2004年5月の小泉再訪朝をきっかけに、拉致被害者家族の8人が日本に帰国した。

崔氏は次のように述べている。

いまにして思えば、安倍氏を相手にしなかった北朝鮮側の判断は正しかったと言えます。安倍氏の目的は、東アジアの冷戦を終結させることではなく、拉致問題を食いものにして、首相の座に上り詰めることだったからです。そしていままた、北朝鮮問題を利用して内閣支持率を上げようとしている。安倍首相は本当に、空虚な政治家です。
(崔秀鎮氏の発言=「週刊現代」2006年10月21日号「安倍晋三は拉致問題を食いものにしている」より)

その通り、としか言いようがない。
立花隆さんも指摘しているように、この記事にはガセネタとは思えないものがある。安倍が崔氏と握手している写真と、安倍が崔氏に託した手紙の写真は、特に衝撃的だ。
立花さんは次のように書く。

これらの報道が本当なら、安倍首相は二枚舌外交によって、北朝鮮を騙しに騙してきたことになる。
(中略)
安倍首相が音頭を取った拉致問題強硬外交が、金正日の『狂気』に火を点けてしまったという可能性も考えられるわけで、ここまでくると、安倍が本当のところ、北朝鮮側との裏交渉で、どのようなやり取りをしてきたのか、言を左右にして逃げてばかりいないで、明らかにする責務が生じているといえるのではないか。
立花隆 『安倍外交 "神話"の試金石 北朝鮮の「核」と「拉致」』=立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」第86回より)

安倍は、この件に関しても答えずに逃げるつもりなのだろうか。


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いつも私の記事を紹介していただいて、ありがとうございます。Kojitakenさんが引用されている週刊現代の崔秀鎮(チェ・スジン)氏の発言を読んで、安倍が北朝鮮の拉致問題や核実験を利用しているのという確信が一層強くなりました。

そういえば、めぐみさんのDNA検査についても、再調査すると言ったまままだ何もやっていませんね。あきれた2枚舌ですね(笑)。

2006.10.14 09:44 URL | 美爾依 #- [ 編集 ]

詳細な記事、非常に参考になりました。この記事通りであれば安部氏は政治家としても人間としても最低です。今回の北朝鮮の核実験は北朝鮮が安倍氏を応援?するためか、等と考えていましたが、これが本当ならその線はないですね。(いずれにせよ安部氏はよろしくないことだけは確かですが)

2006.10.14 09:56 URL | ブタオ #- [ 編集 ]

衝撃的な記事の内容で驚きましたが、安倍ならやりかねないことだな、と思います。
拉致問題を盛んに6者会議にのせたい、と政府が言っていたとき、たしか、核問題は日本政府にとっては、付属の小さな問題のように言っていましたよね。それなのに、今回は、世界中で一番強固な制裁案を出しているのが、日本というではありませんか?
安倍は、日本を滅ぼす首相だ、とはっきりしました。こんな首相に信任なんて、与えたつもりはない。北朝鮮をだまし、北朝鮮を利用したとなれば、北朝鮮でなくとも、怒るでしょう。公正で、正常な外交など、安倍に期待できなません。小泉にひき続き、アジア外交を壊している安倍のせいで、これから国民はどれだけの犠牲をしいられるのでしょう。
その犠牲の中味を想像すると、ぞっとしますよ。

2006.10.14 10:36 URL | 非戦 #- [ 編集 ]

美爾依さん
コメントありがとうございました。
めぐみさんに関する美爾依さんの記事は、折にふれてPRし続けたいと思っています。でも、7月よりは読者数が増えているとはいえ、私のブログはまだまだ力不足ですね。

2006.10.15 17:44 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

ブタオさん
コメントありがとうございました。また、星影里沙さんのMLではお手数をおかけしました。
「週刊現代」の記事をもとに質問した森議員に、自民党と公明党は懲罰動議を出すことを検討しているそうですが、この記事を、「ガセネタとは思えない」として安倍の説明責任を問うている立花隆さんに対しては、安倍はどういう態度をとるんでしょうね。「知の巨人」との対決は避けるんでしょうか?
なお、ブタオさんのブログに、弊ブログからリンクを張らせていただききました。

2006.10.15 17:49 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

非戦さん
いつもコメントありがとうございます。
ブレーンが安倍を操縦してなんとか格好をつけているのが現状なんだと思いますが、安倍晋三という男自体は、本当にどうしようもない空虚な人間だと思います。
こんなのを総理大臣に据え続けていくことは、国辱以外のなにものでもないと思いますね。

2006.10.15 17:52 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

参考にさせていただきました。ありがとうございますm(__)m

立花さんも書いてましたけど、ホント安倍の国会答弁ヒドいですよね・・・
70%とか言われている支持率が信じられない。

2006.10.16 20:32 URL | ないとう@なんで屋 #- [ 編集 ]

 kojitakenさん はじめまして
 
 この現代の記事が事実だとすると安倍氏はなかなかしたたかな策士ですね。確か金正日が拉致を認めたのも安倍氏が日本側控え室で盗聴されてるのを見越して、拉致を認めないようなら平壌宣言に署名しないで帰りましょう、と小泉首相(当時)に進言した結果だとか。

 日本の政治家(国)にとっての究極の使命は国民の生命・自由の保護なので拉致被害者とその家族の奪還は最優先の譲れない課題。北朝鮮に残された家族を想うと先に帰国した5名の方々は夜も眠れない日々だったことでしょう。安倍氏は政治家の使命をよく果たされました。

 この崔秀鎮氏は利用されたことになり気の毒にも思いますが、民主国家にとっての国民は交渉によって諦める余地など全く無いものだということを知らなかったのが悲劇でした。

 それにしても現在も帰国を果たせない残りの拉致被害者の方々の安否が気遣われます。ご家族もご高齢のようですし、一刻も早い帰国を祈りたいですね。

2006.10.17 01:15 URL | しょう #Uh60rX9Y [ 編集 ]

ないとう@なんで屋さん
コメントとTBありがとうございます。記事は拝見しました。
安倍の国会答弁は、とても総理大臣とは思えませんね。
内閣支持率70%というのは、マスコミの捏造でしょう(笑)。

2006.10.17 21:21 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

しょうさん、はじめまして。

記事が事実と仮定して、それでも安倍を評価されるとは驚きました。普通の安倍支持者だったら、こんなヨタ記事を取り上げて、と怒るところでしょうから(笑)。
自国の都合だけで外交ができるんだったら、相手をだますこともありでしょうけど、相手にだって論理も感情もあることを忘れてはいけません。相手も自分と同じ人間だと認めることが、外交はもちろんのこと、一般的な対人関係の第一歩でしょう。
もし「週刊現代」の記事の内容が事実なら、立花隆さんも指摘しているように、追いつめられた狂気の政権を暴発に至らしめた大失態だったと言わざるを得ないと思います。

2006.10.17 21:32 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

kojitakenさん とってもお久しぶりです。
早速、明日週間現代買いに行ってきます。安倍氏(というより自民党)が北朝鮮問題を政治的に利用しているというのは私も同感です。
しかし、最近、プレイボーイやら週刊現代やらちょっと買いづらい雑誌ばかり買う羽目になってます。

2006.10.18 01:47 URL | DANZO #- [ 編集 ]

DANZOさん
コメントありがとうございます。最近、「らんきーブログ」でDANZOさんが紹介されていたので、ごあいさつに伺おうと思っていたところでした。
私の家にも安倍の記事が掲載された週刊誌がたまってしまって、どう処置しようかと思っています。最近は安倍批判の記事を載せる雑誌が多くて、もう全部は揃えられなくなってきています。
週刊現代の最新号の記事には、またまたスキャンダラスなタイトルがついているようですが、まだ読んでいません(笑)。

2006.10.18 21:52 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

はじめまして。
記事中にブログ名を入れました<(_ _)>

TBさせていただきましたが不快の点がありましたら削除に応じます。

よろしくお願いいたします。

2006.10.20 17:06 URL | ニケ #CqhyQCTQ [ 編集 ]

ニケさん
コメント、TBありがとうございます。
ニケさんのブログにもお邪魔して挨拶させていただきましたが、不快どころかとても面白い記事だと思いました。
今後ともよろしくお願いします。

2006.10.23 23:49 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

信濃のあぶくまさんから,ここに辿り着きました。

国会中継は,できるだけ見るようにしていますが,森 ゆうこさんの日は見れませんでした。森 ゆうこ さんが懲罰動議にかけられている理由が知りたくて,このブログに辿り着きました。

詳しく載っていて概要が分りました。
ありがとうございます。

2006.10.26 14:48 URL | 神永 れい子 #- [ 編集 ]

神永 れい子さん
はじめまして。コメントどうもありがとうございます。
この「週刊現代」の記事は、週刊誌の記事とはいっても、安倍首相と崔氏が握手している写真や書簡の写真が出ていて、懲罰動議どころか安倍の方に説明責任があると思います。
予想通り、安倍は立花さんの記事に答えるつもりもなさそうですし、首相としての適格性に疑問を感じます。

2006.10.27 22:23 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]













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