きまぐれな日々

先日、星影里沙さんのブログ「憧れの風」で、梅原猛さんの新刊の一節を紹介した記事(「思わず立ち止まった」)を目にした時、海外出張を目前に控えていた私は、梅原さんのこの本を、移動の飛行機の中や、現地のホテルで読もうと思い立ち、直ちに買い求めた。本のタイトルは、「神殺しの日本?反時代的密語」である。この本は、前半が、梅原さんが2004年4月から2年間、朝日新聞に連載していた「反時代的密語」を、後半が2001年に日本経済新聞に連載していた「私の履歴書」を、それぞれまとめたものだ。本は、哲学者の著書なので難解な部分もあるが、非常に面白くて、比較的短時間に読み終えた。

神殺しの日本―反時代的密語 神殺しの日本―反時代的密語
梅原 猛 (2006/09)
朝日新聞社
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星影さんは、『「神は二度、殺された」という、梅原さんの一文が衝撃的すぎて』(「思わず立ち止まった」より)、と書かれている。そこで、この本の「神は二度死んだ」という章から、長くなるが引用する。

近代日本においては神殺しは二度にわたって行われた。近代日本が最初にとった宗教政策、廃仏毀釈が一度目の神殺しであった。(中略)
そこで殺されたのは仏ばかりではない。神もまた殺されたのである。外来の仏と土着の神を共存させたのは主として修験道であるが、この修験道が廃仏毀釈によって禁止され、何万人といた修験者が職を失った。この従来の日本を支配した神仏を完全に否定することは、近代日本を作るために必要かくべからざることと思われたからである。福沢諭吉のような啓蒙思想家もこの神々の殺害を手助けしていたことは否定できない。
そして明治政府はこのように伝統的な神仏を全て殺した後にただ一種の神々のみを残し、その神々への強い信仰を強要した。それは天皇という現人神と、アマテラスオオミカミをはじめとする現人神のご祖先に対する信仰であった。(中略)
この現人神への信仰にもとづいて作られたのが、教育勅語という新しい道徳であった。(中略)教育勅語にはかつての仏教や神道の道徳はほとんど含まれず、現人神への信仰のもとに、儒教道徳に近代道徳を加えたものが羅列されたにすぎない。このような道徳のもとに日本は西洋諸国に追いつき、その挙げ句、アメリカ、イギリスという世界の強国に対してあえて戦争を仕掛け、手痛い敗戦を経験した。
この敗戦によって新しい神道も否定された。現人神そのものが、実は自分は神ではなく人間であると宣言されたことによって、この神も死んだ。(中略)
このように考えると、日本は西洋よりもっと徹底的に神仏の殺害を行ったことになる。この神仏の殺害の報いは今徐々に表れているが、以後百年、二百年経つと決定的になるであろう。道徳を失っているのは動機なき殺人を行う青少年のみではない。政治家も官僚も学者も芸術家も宗教心をさらさらもたず、道徳さえほとんど失いかけているのである。政治家や官僚が恥ずべき犯罪を行い、学者も、芸術家も日々荒廃していく世の動きに何らの批判も行わず、唯々諾々とその時代の流れに身を任せているのは道徳の崩壊といわねばなるまい。
最近、そのような道徳の崩壊を憂えて、日本の伝統である教育勅語に帰れという声が高まっている。しかし教育勅語はあの第一の神の殺害の後に作られたもので、伝統精神の上ではなくむしろ伝統の破壊の上に立っている。私は、小泉八雲が口をきわめて礼讃した日本人の精神の美しさを取り戻すには、第一の神の殺害以前の日本人の道徳を取り戻さねばならないと思う。
梅原猛「神殺しの日本?反時代的密語」=朝日新聞社、2006年=より)

まことに刺激的な指摘である。赤字ボールドはむろん筆者によるが、この部分以降で指摘されている、右翼の道徳観へのアンチ・テーゼは特に重要である。右でも左でもない、というより思想的には明らかに保守的である梅原さんが、右翼の思想に反対し、護憲を唱えている意味は大きいと思う。私は今後、この本や、以前読んだ太田光中沢新一著「憲法九条を世界遺産に」(集英社新書、2006年)、高橋哲哉著「靖国問題」(ちくま新書)、それに立花隆さんや辺見庸さんの文章などを適宜引用しながら、安倍晋三政権の思想へのアンチ・テーゼの意味も込めて、憲法や靖国を論じるブログを発信していき、最終的に「党派性を超えた普遍的な反戦・平和思想」といえるところまでに至りたいと考えている。


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梅原さんの本は、確か中学生に授業をした時のものを、そのまま文章におこした「仏教」と「道徳」を読んだことがあります。
実に、面白く、分かりやすかったです。授業を受けた中学生をうらやましく思いました。
「神殺しの日本」はそれに比べて難しいようですが、上の引用部分は、とてもよくわかり、納得のいくものです。
今、ちゃんと発言している文化人は、本当によいことを言いますね。ただ、そういう人の数が少ないのが、残念です。市場原理も影響しているでしょう。悪質な嫌がらせもあるでしょうし。
「美しい国へ」などがベストセラーとなるのは、普段、全然本を読んだことがないような人が読むので、あんな数になるそうです。普段からよく本を読んで社会のことを見ていれば、読んでもだまされないですが、マスコミで洗脳され、本を読んだことがないような人が、ああいう本を読んで、だまされてしまうんでしょうね。

2006.10.04 09:49 URL | 非戦 #- [ 編集 ]

非戦さん
いつもコメントありがとうございます。
この記事のような紹介の仕方をすると、「神殺しの日本」が政治的な主張の強い本だと誤解されそうですが、実はそうではなく、宗教や道徳、それに哲学について論じた部分の方が多いです。
でも、通して読むとやはり面白い本でした。
安倍の「美しい国へ」(「カナダde日本語」の美爾依さんに言わせれば、これは著書ではなく「恥書」=ちしょ、って読むんだと思う=だそうです)は、本屋で手にとってパラパラめくってみただけで、中身がないことがすぐわかったので、全く買う気にもなりませんでした。
かつて、ナベツネ(渡邉恒雄・読売新聞社長)の本は、意見が異なってはいるけれど、よく読んで研究する価値があると思って買ったものですが、安倍の本は違います。無内容のきわみであって、こんな本しか書けないやつが総理大臣をやってるかと思うと、心底ぞっとします。

2006.10.04 12:02 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

はじめまして。お名前だけは他の方のコメント欄でお見かけしておりました。
日本人の宗教的伝統のことはずっとひっかかっていましたが、梅原猛さんのお話はすとんと胸に納まるような感じですね。私も本を探しに行ってこよう。近くに大学があるので、そこの図書館が便利なんです。
余談ですが、「伝統と創造の会」の稲田氏に、この本でも贈呈したい気分です。

2006.10.04 15:12 URL | とむ丸 #- [ 編集 ]

ありがとうございます><
本屋に寄る時間がないのがお恥ずかしい。
まさに、この文章です。
衝撃を受け、全て納得したのが。

今度週末に旅しますので
本屋に寄って手に入れておきたいです。

2006.10.05 02:15 URL | 星影里沙 #- [ 編集 ]

とむ丸さま
はじめまして。コメントどうもありがとうございます。
私は、かねがね国家神道なるものは、明治政府のでっち上げたカルト宗教だ、というのを持論にしていたので、星影里沙さんの「憧れの風」で知った梅原さんの本に飛びついた次第です。
稲田朋美氏の発言については、とむ丸さんのブログを訪問して知りました。とんでもないテロ黙認発言をする輩が、どの面下げて「伝統と創造の会」なんてものを主宰できるんでしょうか。しかも、それに自民党新人議員の半分が参加しているなんて...
やはり「小泉チルドレン」というのは、亡国の輩どもなんでしょうね。

2006.10.05 19:05 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

星影里沙さん、
お礼を言わなければならないのは私の方で、星影さんの記事を読んだからこそ、梅原さんの本を知ることができたわけです。
「オカシイ世の中討論委員会」の方は、しばらく投稿をさぼっていますが、またお邪魔したいと思っています。

2006.10.05 19:14 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]

kojitakenさん、こんばんは。
梅原猛さんって、ユニークですね。家に
『梅原猛の授業:道徳』というのがありますが、やはり似たようなことが書いてあります。
フィールドミュージアム http://www8.ocn.ne.jp/~miyajima/ の金井塚先生(動物の生態学者)が京都大学の植物学者の河野昭一先生と立ち上げた「日本の天然林を救う全国連絡会議」http://www.geocities.co.jp/tennenrin461/
の請願および署名呼びかけ人の名簿
http://www.geocities.co.jp/tennenrin461/seigansho/seiganshohoyobikakenin.htm に梅原 猛の名が連ねてあります。
また、「九条の会オフィシャルサイト」の「九条の会」呼びかけ人名簿 http://www.9-jo.jp/profile.html にもいらしゃいます。

傍目には、右翼に見られているけど、本人のスタンスは左なのでしょうかね?まぁ、右とか左とか、単純思考をすることの方がかえって怖いとは思います。

では、また。

2006.12.20 00:06 URL | cynthia #- [ 編集 ]













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