きまぐれな日々

 前回の記事の公開後、ヨルダン軍のパイロット、ムアーズ・カサースベ中尉を「イスラム国」(IS)が惨殺した映像を公開した。その残虐さは度を超えている。ISは有志連合の空爆に対抗しているだけだと言う向きもあるが、同意できない。有志連合の空爆もISの蛮行もともに強く非難すべきだと私は思う。ISの蛮行は全く許されるものではない。

 カサースベ中尉の殺害は、1月3日に既に行われていたとヨルダンは発表したが、中尉を焼き殺した残忍な映像をISが公開したのは、ヨルダン国王の訪米のタイミングを狙ったものであった。

 これで思い出されるのは、湯川遥菜、後藤健二両氏の身代金を要求するビデオをISが公開したのは、安倍晋三が中東を歴訪している最中であって、しかも安倍晋三はイスラエルでダビデの星を象った同国国旗を背にしてテロリストたちを非難するメッセージを発する羽目に追い込まれた。そういうタイミングになるようISが狙ったとしか解釈できない。

 安倍晋三の中東歴訪の直前、保守派の論客である青山繁晴が「安倍総理はネタニヤフと仲の良いところを見せつけるな」とラジオで言っていたが、まさに「ネタニヤフと仲良くしている」ところを狙った理由は、アラブ諸国に「日本はイスラエルの仲間なんだぞ」とアピールする狙いがあったと見なければならない。人質を抱えている時に、保守派の論客の助言を振り切って、わざわざ「アメリカさえも手を焼く右傾した政権」のボス・ネタニヤフに会いに行った安倍晋三と外務省の失態というほかない。

 安倍晋三に人質を救出する気など最初からなく、殺されたら殺されたで報復を宣言して「テロとの戦い」に突き進もうと思っていたことは明らかだが、自らの中東歴訪のさなかに人質の身代金要求の動画が公開されたのは安倍晋三にとって誤算だったに違いない。

 安倍晋三は、湯川・後藤両氏が「イスラム国」に拘束されていることは当然知っていた。しかるに安倍晋三は国会で、「残念ながら、われわれは、20日以前の段階では『イスラム国』という特定もできなかった」と述べ(NHKニュースより)、朝日新聞も抜け抜けと「政府が早期に2人の拘束を把握する一方、『イスラム国』の犯行だと断定できなかったこともわかった」と書いた。

 これに関して、昨日(8日)放送されたTBS『サンデーモーニング』でコメンテーターの岸井成格は、「日本人人質映像が公開されるまで、政府が『イスラム国』と特定できなかった」とという安倍晋三の答弁について「あり得ない」と断言した。当然だ。

 もっとも、NHKニュースを見ると、上記の発言に先立って安倍は「日本人2人が人質となっており、『イスラム国』かどうかは定かではなかったが、それも排除されないという分析はしていた」と言っているから、いざとなったら「『イスラム国』の仕業だろうと考えていたが、断定はできなかったのだ」と言い訳できるように、「特定」という言葉を用いて答弁したことがわかる。こんなものは単なる言葉のあやであって、実際には安倍晋三も外務省も『イスラム国』の犯行であることは昨年10月末には知っていたのである。

 この日本人人質事件について、外務省は人質拘束に関する情報を逐一官邸に官邸に報告していたことが知られている。ただ、真偽のほどは確かではないが、ISが人質の動画をネットにアップする前には、外務省内でも「自己責任論」が強く、人質解放にはさして熱心に動いていなかったともいわれている。一方で、故後藤健二氏は日本政府のエージェントだったとする陰謀論を唱える者もいるが、私は信じていない。陰謀論を唱えるのは自由だが、その挙証責任は言い出しっぺにあると指摘しておく。言いっ放しのままなら、それは現在ではすっかり下火になった「9.11陰謀論」と同レベルでしかなく、早晩誰からも相手にされなくなるに違いない。

 私はただ、「20日以前には『イスラム国』のしわざだったとは特定できなかった」と言い、それに関連する書類を「特定秘密」にしておけば逃げ切れると高をくくり、その一方でテロリストに「罪を償わせる」と発言して "revenge" と英訳された安倍晋三という人間にますます我慢できなくなっただけである。なお安倍晋三が発した「罪を償わさせる」という表現は、ATOKで仮名漢字変換を行おうとすると「《さ入れ表現》」と表示されることからもわかるように、明らかに日本語の標準的な文法から外れているが、かつてブッシュ(ドラ息子の方)が発する英語の文法が間違いだらけだと指摘されたことが思い出される。

 そのブッシュから安倍晋三は「政権を批判する者はテロリストを支援する者だ」という論法を借用していると指摘されている。かつてヨーロッパの最高指導者には教養人が多く、日本でも大平正芳や宮澤喜一と話すと哲学的な話になると、これはナベツネ(渡邉恒雄)が回顧録で語っていたことだ。ナベツネはそれに対し、岸信介と話しても哲学の話にはならないので、この人は本当の教養人ではないと思った、などと言っていたのだが、岸信介は哲学には興味が薄くとも政治経済の古典は読み込んでいた(そのあげくに岸が傾倒したのが、国家社会主義者にして「2.26事件」実行犯たちの理論的支柱・北一輝だったが)。安倍晋三にはそれすらなく、暇を見ては「2ちゃんねる」だのそれをまとめた「保守速報」だのを見ては悦に入っている程度の人間だ。その知性は、ブッシュにも劣るかもしれない。

 この男が政権を維持する期間が長引けば長引くほど、日本国民が受けるダメージは日々大きくなり、そこから回復する道は険しくなる一方だと思うのだが、そうは思わない人間が約半分いるのがこの国の現状らしい。しかし、「この国は滅びる」などと言って匙を投げる趣味は私にはない。

 たとえどれほど力のない「蟷螂の斧」であろうとも、安倍晋三とその政権の打倒を目指すのみである。
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匙を投げる手合いが、わざわざコメントを書くものか(笑)?また、こんなに現状を把握し、蟷螂の斧としっかり認識している人が諦めるわけもない。
このままなら、確実に滅びると申したまで。今後とも、冷徹な分析に期待しています。
少しでも異論が出たら排除するのが茶飯事なブログ類で、あまり見かけぬ見識(よい意味で)なので評価しているほど。

2015.02.09 15:50 URL | 社民リベラリスト #ePfhgX1o [ 編集 ]

山本弘氏はヘイトスピーチや差別や歴史修正主義などに反対していて賛同できる面も多いのですが、右にも左にも寄らないというスタンスが強すぎて、いわゆるDD論にはまってしまう傾向があります。

後藤さんたちのことはどうでもいいんじゃないの、この人たち
http://hirorin.otaden.jp/e413121.html

中盤以降は大いに同意できるのですが、冒頭がどうもいけませんね。政府に落ち度があればそれは批判されてしかるべきなのに、それをも否定するとは。
政府批判をする時に「基本的にはテロリストが悪いのだが」なんて自明のことをわざわざ言葉にして言わなくちゃいけないことですか? 警察に落ち度があって被害者が殺されたり、犯人に逃げられたりした時に、「基本的には犯罪者が悪いのだが」なんて前置きしますか?

日本のマスコミがだらしないのでロイター通信の報道を参考にすると、安倍政権の落ち度は明らかであり、これは批判されても仕方ない。こんなことでマスコミは萎縮してはいけません。
堂々と「この際、テロリスト云々は関係ない。安倍政権の危機管理能力を問う!」とぶち上げればいいんです。

2015.02.13 01:09 URL | 飛び入りの凡人 #mQop/nM. [ 編集 ]













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