きまぐれな日々

 一昨日(7/26)と昨日(7/27)の朝日新聞に、「女が生きる男が生きる そこにある貧困」という大型特集記事が掲載された。7月9日に始まった不定期連載の第2回とのことだ。一昨日は、3月に横浜で起きた、ベビーシッターに預けた長男が殺された事件から記事が始まった。また昨日は、50代の独身女性が派遣労働で腰が痛くなるような仕事を続けながら「食べていくのに精いっぱい」だという話から記事を始めた。なお、7月9日付の第1回は、昨夜(7/27)放送されたNHKスペシャル『調査報告 STAP細胞 不正の深層』で、その悪質な研究不正が追及された理研の小保方晴子を取り上げていた。これについては、本記事と並行して『kojitakenの日記』に「1月の『STAP細胞記者会見』も笹井芳樹の演出だった」と題した記事を書いた(下記URL)。ただ、「STAP細胞」の件は本記事ではこれ以上触れない。
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20140728/1406475516

 朝日の同じ特集の前回(7/9, 10)の記事は、格差や貧困とは関係ない話だったが、今回は働く女性の格差と貧困が取り上げてられた。格差と貧困といえば、日本では2006年にNHKスペシャル『ワーキングプア』が放送されたことや、翌2007年、北九州市で生活保護受給者が生活保護を打ち切られたあげく、「おにぎり食べたい」と書き残して餓死した事件が起きたことから議論が沸騰した。前記北九州の事件は、同年行われた参院選の2週間ほど前に起き、第1次安倍政権への逆風をさらに強める結果となった。但し、日本で格差と貧困が目立って広がったのは、その前の小泉純一郎政権(2001〜06年)であり、安倍晋三は小泉純一郎の政策を継承したに過ぎなかった。

 日本で新自由主義批判がもっとも強まったのは2008年であって、それが翌年の衆議院選挙における「政権交代」につながったが、民主党政権3代が失敗したあと、安倍晋三が政権に復帰し、大胆な金融緩和とリフレ政策を打ち出したのが効果を現し、大企業で賃上げが行われただけではなく、中小企業での平均賃金も上昇し、町の飲食店などでも時給が上がった。こう書くと、「いや私の賃金は上がっていない」と言う人もいるだろうし、実は私もその1人なのだが、国内平均では確かにそうなっている。私の場合でも、少なくとも「賃下げ」はなくなった。最後に書いた飲食店の時給については、時々張り紙を観察していて、「あれっ、こんなに上がったのか」と思うケースがあった。

 金融緩和とリフレは、経済(学)の「専門家」たちが議論を展開しており、安倍政権の経済政策が始まった当初、私はそういった神学論争には立ち入らないと何度か(当ブログや『kojitakenの日記』)で書いた。そして、それよりも安倍政権の経済政策には「再分配」が欠けており、その問題点はジョセフ・スティグリッツも批判している(2013年6月15日付朝日新聞インタビューなど)と指摘してきた。

 それからずいぶん時間が経過した。大胆な金融緩和とリフレがそれなりの成果をあげたことは認めるべきだと思う。少なくとも「リベラル」や「左翼」がデフレ、富裕層(資産を持てる者)の強い味方にして働く人間の大敵であるところのデフレの脅威を過小評価していた失敗は問われなければなるまい。

 一方で、実質的に再分配を伴わない(公共事業という、再分配の側面はあるがその対象が東京など大都市に本社を持つ土建業に偏った事業は別とする)安倍政権の経済政策が、早くも壁に当たりつつあることを感じるのである。つまり、安倍政権の経済政策の副作用(弊害)が今後表れると予想する。いくら金融緩和をしても、富裕層の投資マネーが回るだけでは人々の暮らしは良くならず、あちこちの分野で生じるバブルの生成と破裂は、それに巻き込まれた人々の人生を破壊する弊害ばかりをもたらすと思うのだ(後述のトマ・ピケティは大胆な金融緩和は中間層に打撃を与えると主張している)。

 日本では政権交代の失敗や、安倍政権の経済政策の一時的成功によって議論が下火になっていた格差と貧困の問題だが、欧米では「資本主義の限界」が深刻にとらえられるようになった。そんなタイミングで現れ、特にアメリカで大きな話題を呼んでいるのが、トマ・ピケティの『21世紀の資本(論)』だ。「(論)」と書いたのは、今年の年末か来年の年初に刊行される邦訳のタイトルが『21世紀の資本』となるからである。明らかにマルクスの歴史的大著をもじった署名であって、マルクスが書いた本の書名も "Das Kapital"、英語では "The Capital" すなわち日本語では『資本』なのだから、ピケティの本 "Le capital au XXIe siècle"(英訳 "Capital in Twenty-First Century")本のタイトルも『21世紀の資本』で良いのだ。但し、ピケティはマルクス主義者ではなく、主流派経済学者である。ピケティはリベラル派であり、2007年のフランス大統領選では社会党のロワイヤル候補に最高経済顧問として仕えた。

 池田信夫(ノビー)はピケティを「マルクス主義者」と呼び(ノビーのブログ記事(「マルクスは正しかった」より)、またぞろピケティ本の訳者・山形浩生氏と何やら小競り合いを演じているようだが、ピケティが(今日の経済学のツールを使って)資本主義には「資本収益率のほうが経済成長率より高い」という傾向が超長期的に成り立ち、これが富を集中化させているとの仮説を打ち出したことを、マルクスが「資本の蓄積が進むと、労働者の(相対的な)窮乏化が進む」としたことにノビーは重ね合わせているものであろう。(デヴィッド・ハーヴェイの理解によれば)マルクスがアダム・スミス、マルサス、リカードといった当時の主流派経済学者の理論を検討し、それを「脱構築」して自らの理論を打ち立てたことを思えば、ピケティがマルクス主義者かどうかということは、私にはどうでも良いことのように思える。

 私は、2008〜09年の世界金融危機であらわになった金融資本主義の暴力性をどう制御し、変革していくかが世界的な課題となっていると現状を把握したい。

 今年6月14日付朝日新聞に掲載されたトマ・ピケティのインタビュー記事で、私が注目した論点がある。以下、ピケティの言葉を引用する。

 政治的には、人々がグローバル化に背をむける危険性があります。国内的に問題を解決する手立てが見つけられないとき、人は非難する対象を外に探すものです。欧州の国でいえば、外国人労働者であったり、欧州連合(EU)やドイツであったり。それだけではなく、不平等が行きすぎれば、社会階層や職業などの間の流動性を小さくしてしまいます。
(2014年6月14日付朝日新聞オピニオン面掲載 トマ・ピケティのインタビュー記事より)


 つまりピケティは、「人々がグローバル化に背をむける」ことを「危険」とみる。そして「国内的に問題を解決する手立てが見つけられないとき、人は非難する対象を外に探す」ことを批判する。

 私は、これがリベラル派の本来あるべき姿ではないかと思うのだ。実はこのところ、「経済左派」という(ポリティカル・コンパスで用いられる)言葉を疑っている。ポリティカル・コンパスで「保守左派」とされる考え方こそ、ファシズムにもっとも近いのではないかと考えているのである。私は以前から「『右』も『左』もない」という言葉を、その言葉を用いる人間ともども批判してきたが、その思いは強まる一方なのだ。

 ピケティは、格差解消を是正する手段として、所得税の累進制強化も挙げているが、それ以上に重要なのが資産への累進課税であり、それを国際的に協調して行っていく必要があると述べている。以下、朝日新聞のインタビュー記事から最後の部分を引用する。

 ――国際的な累進課税ですか。何か夢物語のようです。
 「簡単ではありません。しかし、不可能かといえば不可能ではない。スイスの銀行は顧客の秘密を外に出さない制度を守ってきました。5年前には、これが崩れるとは誰も考えなかったでしょう。それこそ夢物語だった。でも、米国がスイスの銀行に制裁しようとしたら、スイスは突然政策を変更しました」

 ――国際協調はどうしたらできるのでしょうか。G20(主要20カ国・地域首脳会議)で合意するとか?
 「米国とEUの間で、貿易や投資の自由化のための話し合いがこれから進みます。このなかで、租税回避防止策や多国籍企業への課税など、税制の分野で協力できることはあると思います。資産を世界規模で把握することは、金融を規制するうえでも重要です。完璧な世界規模の課税制度をつくるか、さもなくば何もできないか、というオール・オア・ナッシングの進め方ではだめです。その中間に多くのやり方があります。一歩一歩前に進むべきです」

 ――課税の累進性を強めると、比較的富裕な層の経済活動が鈍くなり、結果として経済成長を鈍化させませんか。
 「これは慎重に扱わなければいけない問題です。実利的に考えるべきです。すべては、どのような水準の収入や資産にどのような税率をかけるかに、かかっています。確かに年収20万ドル(2040万円)の人に80%の最高税率が課せられたら、やる気を失ってしまうでしょう。でも、年収100万ドルや500万ドルであれば大丈夫だと思います。資産への課税も同じです。巨額の資産があり、そこから年6~7%の収益を得ている人に1~2%の税金をかけることは大きな問題ではないでしょう」

(2014年6月14日付朝日新聞オピニオン面掲載 トマ・ピケティのインタビュー記事より)


 「非難する対象を外に探す『一国反グローバリズム』」からは、このような考え方は出てこないだろう。

 私のもう一つの予想として、今後、グローバル金融資本主義の猛威がますます強まった時、これまで新自由主義の旗を振ってきた保守政治家が、「反グローバリズム」に転向する、ということがある。この時、リベラル・左派側が「新自由主義批判が広まった」と喜んでいたら馬鹿を見る。気づいたら排外主義を伴った「一国反グローバリズム」に走り、現在安倍晋三が成長戦略として力を入れている軍需産業に生産を傾斜させる総動員体制ができあがるのではないか。

 今でも苦々しく思い出すのは、"bakawashinanakyanaoranai" と銘打ったレイシズムむき出しの暴言を自らのブログに書き散らした現自民党衆院議員(安倍晋三の側近)を、少なからぬ「リベラル」、いやそればかりか某共産党系大物出版人までもがもてはやしたことだった。担ぎ上げられた御輿の名前は城内実という。最近は盟友の稲田朋美ともどもさっぱりの御仁ではあるが、こんな輩を一時的にせよ「リベラル・左派」が担いだ反省は、未だになされていないのである。
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実を言うと、先週土曜に「ソーシャル21」というとこの勉強会に行きまして、鈴木邦男氏や及川健二氏も交えて近年ヨーロッパで躍進著しい「極右」・それもフランスの国民戦線を中心に取り上げて彼是遣り取りしたんですよね。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=615287355250766&set=a.123414917771348.23535.100003085219924&type=1

で、自分が意外にすら思ったのがフランスの国民戦線って「反グローバリズム(反EU・移民制限)」ではあるけどヘイトスピーチにも厳しい態度を取り同性婚までも容認している点だったりするんですよね。ことヘイトスピーチに対しては、国民戦線で創立者的な存在だったジャンマリ=ルペンでさえヘイトと解される言動をした際に、(彼の娘でもある)マリーヌ=ルペン党首が役職停止処分にし父親が娘に釈明文を書かされる破目になってたりするんですよ。しかも及川氏が言うところだと「エリート(エスタブリッシュメント)に対する『民衆(人民)』の『主権』の政党」と自らを定義し、EUを動かすユーロクラット(専門官僚)への反感(「反知性主義」!)を基に支持を伸ばして欧州議会選挙ではフランスで第一党に躍り出た訳です。

現在日本でも国連の社会権規約委員会から勧告が出るほどヘイトスピーチが盛んで、書店の店頭には「日本は凄い」「中国・韓国は××」の類の本が並んで、その手の記事が載ってる雑誌が大売れ。田母神とか稲田・城内実への支持だって結構ありますけど、彼らはヘイトスピーチも目立ってキャラ立ちしてるし時には新自由主義的なことも言ったりしているんで警戒対象として「解り易い」んですよね。ところがリベラル・左派側がリスペクトしてしまう様な、例えば孫崎享や内田樹・小田嶋隆に田中康夫といった「保守左派」・欧州の基準から見れば「極右」に看做される連中だと「反グローバリズム(反TPP)・反新自由主義」と一緒に「国民の生活が第一」「国民に対する『身びいき』」とか矢鱈口にする分だけリベラルも幻惑され易く、ヘイトスピーチを公言しないだけに無警戒なままに例えば在日外国人や難民(更には障碍者・シングルマザーとか"オタク"など「普通の日本人」ではない方々)への差別に手を貸すってこともやり兼ねない危うさがあったりします(今「安倍辞めろー!」と叫んでいる面子の相当部分もそういう可能性が大きいですし)。

毎度毎度の手前味噌ながら最近Togetterで徴兵制をめぐるまとめ http://togetter.com/li/697388 を作ったんですけど、徴兵制の問題と言う以上に自分は武器のハイテク化って方に興味があったんですよね。民生用と違って軍事用は性能第一でしかも機密の問題とかもあって「内需拡大」としては手っ取り早いものだったりするんですよね。ここに孫崎や内田などが主張する様な「反グローバリズム」=「自主路線」とかが絡んだりすると、ブログ主が危惧する様な「軍需産業に生産を傾斜させる総動員体制」ってこともあり得るし、ましてや「自主路線」で周辺諸国全てと対立してヤバい状態だと徴兵制を導入する大義名分になったりもする訳で、その辺りの危機感が左派とかリベラル派とか自認する面々には足りないんじゃないかと自分も危機感を抱いています。

2014.07.28 10:13 URL | 杉山真大 #- [ 編集 ]

どうでもいいですが、池田信夫は何もわかってない阿呆だ。
1.「sYが資本のシェア」だって?それは貯蓄額であって所得中の資本のシェアではない。
2.「労働者の賃金が労働生産性で決まるとすると、労働人口が増えるだけだから賃金が上がる理由はない。賃金が一定だとすると、ΔYは資本家がすべて取るから…所得分配は不平等になるのだ」?馬鹿か。労働者が増えるのだから総賃金は増える。「ΔYは資本家がすべて取る」わけがない。

2014.07.29 00:16 URL | 野次馬 #mQop/nM. [ 編集 ]

>私は、これがリベラル派の本来あるべき姿ではないかと思うのだ。実はこのところ、「経済左派」という(ポリティカル・コンパスで用いられる)言葉を疑っている。ポリティカル・コンパスで「保守左派」とされる考え方こそ、ファシズムにもっとも近いのではないかと考えているのである。

一般的な保守左派であればファシズム化する危険性は低い。

(政界では)亀井静香、平沼赳夫、西村眞悟、及び、高速道路無料化やガソリン税減税に反発して改革クラブを結成した連中の場合、中選挙区制を主張しているし、保守右派の全体主義者に党を追い出されてしまった点もあって、(左派系ブログが下手に叩かなければ)ファシズム化する可能性は低いと思う。

一方、政界以外では大きく民族派と国家社会主義者に別れるが、今の所、鈴木邦夫を始めとする民族派が保守左派の中心を占めている。

しかし、国家社会主義的な保守左派があらわれる可能性もないとは言えないから、その様な保守左派に限っては用心するに越したことはない。

>私は以前から「『右』も『左』もない」という言葉を、その言葉を用いる人間ともども批判してきたが、その思いは強まる一方なのだ。

それは小沢一郎を入れるからでは? あくまでも「『右』も『左』もない」をしたければ、保守左派とリベラル左派だけに留めておき、保守右派(特に小沢一郎)を拒絶する強い意思が求められる。

2014.07.29 23:34 URL | shinoshi #CSJ8FyD2 [ 編集 ]

次世代の党、平沼代表から「新自由主義的な政策には意見を申し上げていきたい」との発言が…

軸足は「政権寄り」? =平沼「次世代」が始動(時事通信)
> 「次世代の党」(平沼赳夫党首)は1日、新役員の選出や各党幹部へのあいさつ回りを行い、本格的に始動した。同党は安倍政権に対し、「是々非々」で臨むと強調するが、政権への協力に重きを置くのか、他の野党との再編を目指すのか、立ち位置はまだ明確でない。
> 「(相手が)与党であっても是は是、非は非で取り組む」。旧日本維新の会の解党を経て、次世代が正式に発足した1日、平沼氏は記者団にこう強調した。一方で、「新自由主義的な政策には意見を申し上げていきたい」とも語り、政府内で検討されている外国人労働者受け入れなどの問題では、反論していく考えを示した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140801-00000119-jij-pol

発言に同意する。

安倍内閣に対しては経済政策で差を付ける。具体的には「脱・新自由主義」。

ウヨサヨ論争はしない方が良い。左から攻めても効果が薄いし、右から攻めても支持されない。

2014.08.01 21:28 URL | shinoshi #CSJ8FyD2 [ 編集 ]













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