きまぐれな日々

 集団的自衛権行使容認の閣議決定のあと、安倍晋三が直ちに動いたのは、日本政府による北朝鮮への制裁の一部解除だった。以下、朝日新聞と毎日新聞の記事を引用する。

http://www.asahi.com/articles/ASG735H81G73UTFK008.html

拉致問題を優先、対話路線に 北朝鮮への制裁を一部解除
久木良太、松井望美

 安倍晋三首相は3日、日本政府が北朝鮮に独自に科してきた制裁の一部を解除すると発表した。日本政府はこれまで拉致・核・ミサイルの「包括的な解決」を掲げてきたが、安倍政権は事実上、拉致問題優先にかじを切り、圧力から対話に軸足を移した。ただ、北朝鮮の核・ミサイルに懸念を強める米韓との足並みが乱れる恐れもある。

 日本政府は、日本人拉致被害者らを再調査する北朝鮮の特別調査委員会が、金正恩(キムジョンウン)第1書記をトップとする「国防委員会」の幹部を委員長に内定するなど「直轄」の態勢を組んだと判断し、調査の実効性が確保できると結論づけた。

 日本政府の説明では、調査委には、北朝鮮の最高指導機関の国防委員会から全機関を無条件に調査できる特権が与えられ、秘密警察にあたる「国家安全保衛部」も参加。委員長には、正恩氏の側近とされるソ・テハ国防委員会安全担当参事兼国家安全保衛部副部長が就く。首相は3日、記者団に「国家的な決断をできる組織が前面に出る、かつてない態勢ができた」と制裁解除の判断を説明した。

(朝日新聞デジタル 2014年7月4日05時35分)


http://mainichi.jp/select/news/20140705k0000m010084000c.html

北朝鮮制裁解除:拉致問題で決断…「整合性取れぬ」懸念も

 政府は4日の閣議で、北朝鮮に対して日本独自で行っていた制裁の一部解除を決定した。北朝鮮も同日、日本人拉致被害者らの安否に関する再調査を行う特別調査委員会を発足させ調査を開始すると発表した。ただ、制裁は北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射を理由に発動しており、拉致問題に絡めて解除したことには「整合性が取れない」と政府内でも不安視する声が出ている。

 閣議では、全面禁止していた北朝鮮籍船舶の入港について、医薬品や食料品の輸送など人道目的に限り解除を決定。併せて、北朝鮮籍者や当局職員の入国禁止、北朝鮮への日本人の渡航自粛など人的往来の制限▽北朝鮮への10万円超の現金持ち出しの届け出義務と300万円超の送金の報告義務−−の制裁も政令改正などで解除した。

 北朝鮮が重視する貨客船・万景峰号の入港禁止と北朝鮮との輸出入禁止などの制裁は継続する。

 安倍晋三首相は4日午後、拉致被害者家族会の飯塚繁雄代表らと首相官邸で会談し、制裁解除について「(北朝鮮は)今までにない態勢で調査するという約束をした。行動対行動の原則に従って対応していくことを決定した」と述べ、拉致問題を進展させるために決断したと強調した。

 だが、政府が北朝鮮に独自制裁を発動したのは、2006年7月の北朝鮮による弾道ミサイル発射がきっかけだ。その後も核実験の実施やミサイル発射のたびに独自制裁を重ねてきた。

 初の制裁発動を決めた06年当時、官房長官だった首相は「北朝鮮が拉致問題に誠意ある対応がないことも念頭に置いている」と説明しているが、政府筋は「拉致問題を前に進めるためとはいえ、核ミサイルを理由に発動した制裁を拉致問題の進展を理由に解除するのは矛盾している」と指摘。核ミサイル開発問題で、北朝鮮への「圧力」が弱まることに懸念を示した。

 北朝鮮は早ければ8月末にも最初の調査結果を出すとみられ、調査の進展を理由に万景峰号の入港禁止措置など追加の制裁解除を要求する可能性がある。家族会側は4日、首相に「北朝鮮が誠意ある回答を出さない場合は、制裁をより強く復活することは当然だ」と要望。首相は「しっかりとした態勢を作り、調査が進むことを見極めたい。いい結果が出るよう、北朝鮮を促していきたい」と述べた。【福岡静哉、小田中大】

毎日新聞 2014年07月04日 21時23分(最終更新 07月05日 11時21分)


 このニュースに隔世の感を覚えたのは私だけだろうか。

 というのは、安倍晋三が名前を上げ、右翼のヒーローとなったのは、第1次小泉内閣時代の2002年、当時内閣官房副長官として小泉に同行して訪朝した安倍晋三は、対北朝鮮強硬策を主張して、その姿勢が当時内閣官房長官だった福田康夫と対比されたものだからだ。当時の2ちゃんねるを覗いて呆れた記憶があるが、右翼の安倍晋三に対する熱狂ぶりと、福田康夫に対するこき下ろしぶりはすさまじいものだった。

 ついでに書いておくと、小泉訪朝の翌月(2002年10月)、日本のマスコミ(フジテレビ、朝日新聞、毎日新聞)によるキム・ヘギョン(ウンギョン)さんの会見が行われたが、この件に関するフジテレビの報道に、ネトウヨの憤激が爆発した。特に槍玉に挙がったのはフジテレビで当時『報道2001』のスタッフだった小川美那という記者に対する攻撃だった。それを見て、こりゃ人間の所業ではないよなと感じ、ネトウヨに対して開いた口がふさがらなかったのだった。

 その後、小泉政権末期にして第1次安倍内閣発足直前の2006年夏、北朝鮮がミサイルを発射した時にも安倍晋三は強硬姿勢をとった。2番目に引用した毎日新聞記事にある安倍晋三のコメントはその時のものだろう。

 さらに時は流れ、2007年、第1次安倍内閣が安倍晋三の政権投げ出しで終わったことを受けて福田康夫内閣が発足した。この時の福田康夫は、第1次内閣時代に安倍晋三が作った「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が提出した、集団的自衛権行使容認を求める提言を店晒しにしたことにも触れておきたい。要するに、あのまま安倍晋三が政権を投げ出さずに第1次安倍内閣が続いていたら、もっと早く集団的自衛権行使容認が閣議決定されていただろう。当時の民主党代表は小沢一郎であり、当時はまだ「小沢信者」という言葉もほとんど用いられていなかったし、小沢一郎は集団的自衛権行使容認を求める態度を堅持していたから、自公のほか民主党も賛成したであろうことに疑う余地はない。さらに書いておくと、2007年の参院選の民主党マニフェストに「消費税増税」を書き込むことを小沢一郎は検討したが、選挙にプラスにならないと判断したのか、それはやらなかった。しかし、当時の小沢が消費税増税論者であったことは間違いない。

 脱線ついでに、さらに余計なことを書くと、福田康夫も安倍晋三に引き続いて、2008年に政権を投げ出したのだが、この時「福田首相では衆院選に勝てない」ことを理由に「福田降ろし」に加担したのが公明党であった。以上から見るように、小沢一郎だの公明党だのは、昔からろくなことをやってこなかったのである。私が今回の集団的自衛権行使容認の政局で公明党に全く期待しなかった理由の一つが、上記のいきさつである。

 本論に戻ると、福田康夫は首相時代、「拉致問題は私の内閣で解決する」と語り、2008年には北朝鮮との交渉が大きく動き出すかに見えた。当時、極右言論人・櫻井よしこが福田康夫を批判した文章を書いているので、以下紹介する。

http://yoshiko-sakurai.jp/2008/06/28/723

「北朝鮮は追い詰められているのになぜ福田首相は制裁を解除するのか」
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 745

6月13日、福田康夫首相は、「(北朝鮮に拉致問題で)話し合う姿勢が見えた。交渉プロセスの入り口に立ったと考えていい」と語り、日本の北朝鮮政策を転換させ、これまで続けてきた制裁措置の一部を解除することを発表した。

福田首相は、安倍晋三前政権の圧力に力点を置いた「対話と圧力」路線から、対話に力点を置く融和外交に大転換した。首相は「政府の方針は、拉致被害者全員の帰国を目指しているという点で、変わっていない」と述べたが、再調査の結果が出ない段階で制裁解除に動くのは、拙速にすぎないか。

その点で、今回の政策転換のきっかけとなった6月11、12日の日朝実務者協議での交渉の検証が重要である。

日朝実務者協議に出席した斎木昭隆外務省アジア大洋州局長は13日、横田早紀江さんら家族会に同協議の内容を説明した。それによると、“怒鳴り合い”のような協議のすえ、ようやく、北朝鮮側は「拉致は解決ずみ」とは言わなくなり、再調査を約したという。だが、斎木氏が「生存者を返すという意味の再調査でないと受け入れない」と念を押すと、北朝鮮側からは反論もなかった代わりに、回答もなかったという。つまり、再調査の意味は不明だというのが真実であろう。

北朝鮮側には本腰を入れて拉致被害者についての再調査を行ない、それを日本側に報告し、原状復帰を果たすつもりは、おそらくないと見てよいだろう。蓮池薫さんらの証言では、拉致被害者は常に北朝鮮の監視の下にあった。調査などしなくても、北朝鮮側は全員の現状を知っており、日本側に、すぐにでも情報提供ができるのだ。

それをしないのは、情報を出せない理由があるということだ。にもかかわらず、今回、再調査を約束したのは、よど号ハイジャック犯を日本に引き渡すことが主目的だったといえる。

ハイジャック犯の引き渡しは、日本側が長年要求してきた。北朝鮮側はこれに応ずることなく今日まできた。日本との関係のなかでは、北朝鮮は犯人たちを引き渡す必要性などまったく感じていなかったのである。

ところが今回は引き渡すという。理由は米国の政策にある。米国はハイジャック犯を匿っていることを理由の一つとして、北朝鮮をテロ支援国家と指定し、金融制裁を科してきた。その結果、金正日総書記が世界中の金融機関に隠し持っている5,000億円を超えるといわれる資金は凍結されたままだ。韓国側の分析では、金総書記が軍を維持し、政権の生き残りを図るには、年間5億~10億ドルが必要だ。1995年秋に始まった米国の金融制裁と日本の安倍政権以来続く厳しい措置とで、金総書記はかなり追い詰められていると思われる。

核問題でかたちばかりの譲歩をしてみせるのも、日本に、実態不明の拉致問題再調査を約束してみせるのも、そしてその結果、ハイジャック犯を放逐するのも、米国の意向に沿うことでテロ支援国家指定を解いてほしいからだ。

北朝鮮のこのような目論見は容易に見通せる。にもかかわらず、なぜ福田首相は前のめりともいえる拙速に走るのか。その謎を解く鍵の一つが、このひと月ほどのあいだに報じられたいくつかの記事にある。「横田めぐみさん 94年6月後も生存」(5月26日付「毎日新聞」)、「北朝鮮・拉致被害者、数人生存、帰国の用意」(5月27日付「毎日新聞」夕刊)だ。

いずれも一面掲載のこれらの記事は関係者らに当たってみると、事実無根だった。しかし、大新聞が一面に書くとなれば、確かな情報源があるはずだ。おそらくそれは、政府中枢ではないか。つまり、北朝鮮との交渉を進展させるために、真偽とりまぜて情報攪乱をしている人びとがいるということだ。

こうした状況での福田首相の決断はあまりにも危ういものなのである。

(『週刊ダイヤモンド』 2008年6月28日号より)


 櫻井よしこは現在、当時福田康夫を批判したのと同じ理由で安倍晋三を批判しているだろうか。私はそれを確認していないが、もし櫻井よしこが安倍晋三に対しては批判の口を閉ざしているとするなら、ダブル・スタンダードの誹りは免れまい。同じことは、大半の右翼言論人やネトウヨについても同じことがいえる。

 私は何も安倍政権の北朝鮮に対する制裁の一部解除に反対しているのではない。今回の記事で私が何を言いたいかというと、現在安倍晋三がやろうとしていることは、2008年に福田康夫がやろうとしたことの延長に過ぎず、その間6年もの月日が空転していたことであって、その責任こそ問われるべきだということだ。当時、安倍晋三や麻生太郎は福田康夫を批判していた。そして、福田康夫のあと総理大臣になった麻生太郎は、予想通り拉致問題解決にストップをかけてしまった。

 当然、当時福田康夫がつかんでいたことは、安倍晋三もよく知っているはずだし、現在マスメディアが報じているように、安倍晋三は、集団的自衛権行使容認で支持率が若干低下した自らの内閣の人気を再び浮揚させるための「切り札」として拉致問題を捉えていることは疑う余地がない。

 どんなものが飛び出してくるかは、情報を持っていない一般国民にはうかがい知ることはできないから、この件に関しては事態を注視するしかないのだが、一つだけ言いたいのは、この件に関する安倍晋三の過去の悪行に対する批判を、決して怠ってはならないということだ。
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もっとも簡単なのは「よど号」犯人の帰国。もちろん帰ったら転向して集団的自衛権を支持し、南京大虐殺と慰安婦に罵声をあびせるという条件付き。そうしたら有期刑ですむかもよ。ハイジャック犯が重くなる前の事件だし。

2014.07.07 22:12 URL | 野次馬 #mQop/nM. [ 編集 ]

 おもしろい記事、見つけました。

割れた世論調査、集団的自衛権の質問に“枕詞”つけた朝日・毎日、回答に影響?
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140708/stt14070808020003-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140708/stt14070808020003-n2.htm

>一方、朝日と毎日新聞の質問には「これまで政府は憲法上、集団的自衛権を使うことはできないと解釈してきたが」という枕詞(まくらことば)が登場。解釈変更はタブーとの印象を与えかねない。

ん? じゃあ、解釈変更を知らせることがタブーなんですか? っていうか、「という枕詞(まくらことば)が登場」って、、、いったい、何話法話してるんですか???

2014.07.08 22:28 URL | suterakuso #- [ 編集 ]

 追記です。

 産経さんですら、

>これまで政府は憲法上、集団的自衛権を使うことはできないと解釈してきた

と言われると、

>解釈変更はタブーとの印象

を持つということですね。だから、それを言っちゃダメと。

2014.07.08 23:18 URL | suterakuso #- [ 編集 ]

北は孤立から脱するのがよほどうれしいらしい、祝砲・ミサイルが飛び交っている。「韓国大崩壊」を望むのは北だけでないという阿呆安倍のメッセージがきっちり伝わったようだ。

2014.07.09 12:38 URL | 野次馬 #mQop/nM. [ 編集 ]

週刊朝日の最新号に狂信的な日本軍国主義者、日本帝国主義者である安部首相のねらいが掲載されています。
的確な指摘でしょう。
憲法違反の集団的自衛権容認⇒拉致進展させ支持率固め(制裁を一部解除しましたが、拉致進展が見られた段階で、何だかのイチャモンをつけ制裁を復活させるでしょう)⇒自衛隊を国防軍(侵略軍)に⇒財界と二人三脚で軍事ビジネス(死の商人)⇒いつでも戦争できる国に(侵略国家日本)
戦前の悪名高い「富国強兵」「殖産興業」です。

2014.07.10 00:44 URL | 風てん #- [ 編集 ]

これだけ反対の声が上がってるはずなのに、
なんで支持率が落ちないんですかね?
それこそ、安倍内閣を打倒できてもいいはずなのに。

やはり反対側の主張に、欠陥があることが、
知れ渡ってきたからでは?
その欠陥を抱えたままの主張をしたところで、
世間は振り向いてくれないんじゃないかと。

2014.07.11 03:54 URL | #- [ 編集 ]

いい加減、安倍さん=軍国主義者的とか、戦争できる国になるとか、印象論で論ずるのはやめたらどうですか?

隣国の脅威という現実の問題に対して、
今のとこ一番マシな答えを提示してるのが、安倍さんなんです。
だから支持されてるんです。

反対派はそこのところを、全然理解しないで、
印象論で語るから、反対派の支持が広がらないんです。

2014.07.12 14:51 URL | #- [ 編集 ]

馬鹿言っちゃいけないね。安保論から印象を消したら何ものこらない、何も。アメリカを守るヒーローになったつもりの外務省は、ついこの間まで日中友好万々歳だったくせして一夜で変わった。印象論で言えば、冷戦期、恐ろしいソ連は北海道から目と鼻の先にいた、神聖な領土を占拠して。今もいるが。

ところで、徴兵制は憲法違反だからできないと官邸が言っている。ジョークにしかならないが、それが分からないとは本当に恐ろしい人たちだ。

2014.07.13 14:15 URL | 野次馬 #mQop/nM. [ 編集 ]













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