じめじめした梅雨の季節として嫌われがちな6月だが、個人的には相性は悪くない。気温が上がって空気が濁る5月は例年体調が良くなく、疲れやすいのだが、6月に入って空気が湿ると元気を取り戻すというのが例年のパターンだった。
加えて、ブログ運営においても6月は思い出深い。というのは、8年前、2006年6月6日に、当時第3次小泉内閣の官房長官を務めていた安倍晋三が、当時まだ生きていた文鮮明を教祖と仰ぐ統一協会の合同結婚式を兼ねた集会に祝電を送ったことがネットで暴かれ、ちょっとした騒ぎになった時、その輪に加わって騒ぎ、以降ブログのテーマを「反安倍晋三」に定めて、第1次安倍内閣の成立前から、安倍晋三の政権投げ出しに至るまで、安倍晋三の批判を続けたのだった。
安倍晋三の政権投げ出しは欣快事だったが、5年後、安倍晋三は総理大臣の座に復帰した。悪夢のような出来事だった。
それから1年半が経過し、今年の6月は季節外れの猛暑でスタートした。狂ったような暑さであり、気候のせいかはたまた歳のせいか、体調は全く芳しくない。今年は5月はまずまず調子が良かったのに、6月に入る直前からおかしくなった。そして内閣支持率が一貫して下げ基調であった第1次安倍内閣と全く違って、第2次安倍内閣の支持率は高止まりしている。
そんな6月に入る直前の5月29日夜、安倍晋三は日本人拉致被害者を再調査することで北朝鮮と合意したと発表した。8年前は北朝鮮との関係が深いとされた故文鮮明の宗教団体への祝電が話題になったが、今年は、12年前に安倍晋三が名を売るきっかけとなった、というより安倍晋三が売名に利用した拉致問題を持ち出してきた。
この「北朝鮮カード」を安倍晋三が切ろうとしていたことは、だいぶ前からの日朝の動きから明らかだったが、ストックホルムでの日朝交渉が難航したと見られていたから、安倍晋三の記者会見はサプライズではあった。その裏には、日朝間で何らかの密約が交わされたのではないかと見る向きも多い。
安倍晋三は、日米間の密約を好んだ岸信介を母方の祖父に持ち、同じく密約を好んだ佐藤栄作を大叔父に持つ。一昨年(2012年)、岸や佐藤を「敢然とアメリカと対峙した自主独立派の政治家」と持ち上げる孫崎享なる人間がその妄論を披露した著書が、小沢一郎を支持する人たちばかりか、広く一般に受け入れられるという痛恨事があった。孫崎享は山本七平賞を受賞したことのある右派の論者だが、どういうわけか小沢一郎を支持する論陣を張り、安倍晋三に対しては批判する立場に立つのだが、現実にやったのは、安倍晋三の母方の祖父や大叔父をほめたたえ、小沢一郎支持者を含む人たちの「目から鱗」を落とさせたことだった。
より正確には孫崎は「小沢信者」らの目に鱗を貼り付けたというか、目眩ましをしたと評するべきであって、その著書『戦後史の正体』のインチキぶりは、最近になってやっとこさ書かれた魚住昭の痛烈な批判「陰謀論という妖怪」に鮮やかに示されているのだが、小沢一郎を擁護する立場に立ち、小沢の支持者たちにも一定の影響力があると見られる魚住氏には、もっと早くこういう仕事をして欲しかった。孫崎があの「トンデモ本」を出したのは一昨年の夏で、「ハーメルンの笛吹き」孫崎の笛に騙された人間がいかに多かったかは、アマゾンのカスタマーレビューを見れば一目瞭然である。孫崎のおかげで、安倍晋三を「A級戦犯の孫」と呼ぶ「小沢信者」は誰もいなくなった。そして、安倍晋三を党総裁に返り咲かせた自民党は、一昨年末の衆院選と昨年の参院選に連続して圧勝したのだった。
さて、「トンデモつながり」と言うべきかどうか、最近私が読んでいるのは、2010年に単行本が出版され、今年2月にちくま文庫に収録された早川タダノリ著『神国ニッポンのトンデモ決戦生活』である。消費税増税直前に買い込んだ本のうちの1冊だが、筑摩書店のサイトから本書の概要を引用する。
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480431318/
この本の内容
「決戦生活」「決戦型ブラウス」「決戦盆踊り」「勝利の特攻生活」「アメリカ人をぶち殺せ」…。凄まじい戦意昂揚キャッチフレーズ群に塗りつぶされていく戦時下の日本を、当時の雑誌やパンフレットをもとにユーモアを交えた文章で楽しく紹介。神がかりプロパガンダと大衆動員によって作り出されたグロテスクな反‐理想郷(ディストピア)がここにある。しかし、これは近未来の日本の姿ではないと言い切れるだろうか?カラー図版多数収録。
この本の目次
1 神々しき靖国の社
2 日本よい国
3 称えよ八紘一宇
4 勝ち抜く決戦生活
5 すべては勝利のために
6 言霊の戦争
現在の北朝鮮と同じような、否、それよりももっとひどい光景は、この日本にもあった。戦争末期の東京や大阪への米軍の大空襲、広島や長崎への米軍の原爆投下、そして悲惨な沖縄戦などは、すべて始めた戦争を終わらせることがなかなかできなかった政府の「棄民政策」ともいえるトンデモ政策によってもたらされた。ちなみに、早々と敗戦を見越した安倍晋三の母方の祖父・岸信介は、いち早く1944年に東条英機を見捨てて内閣から逃げ出して東条内閣を崩壊させ、戦後も戦犯容疑で逮捕されながら、アメリカに利用価値を認められて釈放され、総理大臣に上り詰めたのであった。金正恩と何ら変わりないパッパラパーの3代目・安倍晋三とは全く異なり、岸信介は金正恩の偉大なる祖父・金日成にも優るとも劣らない「猛虎」であった。安倍晋三がその祖父が果たせなかったディストピアの建設を完成させようとしているのが現在の日本ではないか。
このまま日本国民がズルズルと安倍晋三の支持を続けるようなら、『神国ニッポンのトンデモ決戦生活』に紹介された「神がかりプロパガンダと大衆動員によって作り出されたグロテスクな反‐理想郷(ディストピア)」が「近未来の日本」に本当に再現するのではないかと危惧する今日この頃なのである。
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前回コメントさせて頂いた者です。
読ませて頂いて、失礼ながら。
なんか的がずれている?
という印象を受けました。
現首相批判の、同じ日のブログなら、
カレイドスコープさんの方が、的を得てる印象を受けました。
http://kaleido11.blog.fc2.com/blog-entry-2862.html
自分は、孫崎享氏や小沢一郎氏の支持者では、有りません。
2014.06.03 07:12 URL | とある一般人 #- [ 編集 ]
続けて。
自分は、左右論っていう分断論?が嫌いな立場です。
そしてその左の伝統芸?っていう、所謂、言論内ゲバに仕向けたい訳ではありません。
良いものは良いと思うし、その逆も又しかり、と思うのです。
そして、前回コメントした様に、当ブログの事は、全面ではないけれどれも、一定、賛同してはいます。
2014.06.03 21:38 URL | とある一般人 #- [ 編集 ]
シャングリラ会合の帝國メディアによる報道を読むと、阿呆安倍ががんばって中国と雄々しく対峙したという歴史的快挙になっている。ところが当のベトナム国防相は「メディアは面白おかしく煽らず冷静にしてほしい」と演説した。中越はこれまでどおり話し合いで領海問題を解決することになるだろう。阿呆安倍の応援など役に立たないばかりか有害なのだ。そんな世界の常識から耳をふさいで自分たちの世界に浸っているのが神国ニッポンの現状だ。
2014.06.03 22:14 URL | 野次馬 #mQop/nM. [ 編集 ]
なんか苦しいな。特に外政では、これからはこういう想定外の事態が増えていくだろうから、もっと頭柔軟にしないと。いちいち動揺しては、ヘンテコな記事で誤魔化しててもしかたない。
2014.06.05 00:31 URL | よしだ #8kXIh0Eo [ 編集 ]
孫崎と言えば、先月末に沖縄で鳩山元首相と共に「東アジア共同体」(もはやこれも"死語"になりつつある感が)のシンポジウムに出て、この国に民主主義はないだの鳩山はアメリカに追われただの、沖縄県民にとって耳障りの良いことを口にしていたんですよね。4年前に県知事選に出ていた伊波洋一氏まで幻惑されていたんで、Twitterで鳩山には「ポピュリズム的危うさ以上にキナ臭さすら感じるのですが。大日本帝国擁護で何が悪い!と言う孫崎享までが一緒になってるとこからして、これでは(対米追従とは)別の方向で危うさを感じます」 http://twitter.com/mtcedar1972/status/473500657358348289 と忠告申し上げましたよ。
と言うのか今年は沖縄県知事選の年ですが、ここ最近の沖縄の「革新」の混迷ぶりを見ていると自分には危うさしか見えてこないんですよね。何しろ自民党県連幹事長を経て那覇市長になった翁長雄志を推そうって動きが、真実味を帯びているくらいですから。「革新」ばかりか自民党市議団も翁長氏推しで自民党県連も今のところは反対しているそうだけど、ともすれば「革新」の一部を例外とした翼賛体制宜しくな格好で翁長知事実現へ!って流れになりそうな気配だったりするんですよね。
そう言えば、『戦後史の正体』 http://amzn.to/TzwUEG と同じ「戦後再発見」双書には沖縄タイムス記者だった前泊博盛が編者となっている『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』 http://amzn.to/1tX0hjk なる本が出ているんですけど、同書にはフィリピンの例として憲法改正すれば米軍が出ていくという一章が収められているんですよね。「トンデモ神国」を実現しようとしている(?)孫崎の著作と同じシリーズから、日本国憲法が対米追従の元凶であるかの様に言わずもがなながら主張する本が出ているところ、日本よりも沖縄も何処か怪しい方向に向かっている嫌な予感しかしないのですが。
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