きまぐれな日々

12月6日に特定秘密保護法が成立した。

総理大臣が安倍晋三である以上、国会の会期末に強行採決で成立させることは最初から見えていた。安倍晋三は極めて悪質な独裁者であり、どんなに理を尽くして反対論を盛り上げたところで折れる人間ではない。ある報道で、祖父の岸信介(A級戦犯容疑者でもある)が1960年の日米安保条約改定で見せた行動を手本とする安倍晋三の強い執念が、これほどまでにも反対論が多かった法律を成立させたと言った人がいた。その通りだろう。

報道では、かつての第1次安倍内閣ではやけに安倍晋三を庇い立てる姿勢に強い不信を持っていた毎日新聞元主筆の岸井成格が、テレビで批判の先陣に立っていたのが目立った。岸井は、安倍晋三の父・安倍晋太郎の担当記者で、晋太郎の代筆まで行ったことがあるらしく、そのよしみで第1次安倍政権では安倍晋三に期待をかけていたと見られるが、半年ほど前に読んだ岸井と佐高信との共著における岸井の言葉から、かつて安倍晋三に期待したことは誤りだったと岸井が感じているらしい様子がうかがわれた。

それに何より、岸井がまだ駆け出しの記者だった頃に毎日新聞社を揺るがした外務省機密漏洩事件、通称「西山事件」(1972年)の記憶が、岸井らの世代のベテラン記者には今も鮮明に残っているに違いない。事実、法案担当大臣の森雅子が「『西山事件』が法案の処罰の対象になる」と答弁したことを、岸井は繰り返し強く非難していた。

それとともに、経営の苦しい毎日の記者は朝日その他ほど高給取りでないと思われるため、多少のハングリー精神が残っており、それが地方紙やブロック紙と比較して遅きに失したとはいえ、全国紙としては先陣を切って法案反対の立場を鮮明にしたことにつながったのだろう。朝日も、安倍内閣が法案を閣議決定した翌日に法案に反対の社説を掲載し、それ以降は積極的な論陣を張った。あの麻生太郎の「論文」代筆者にして安倍晋三にも近いとされる政治部長の曽我豪も法案反対の記事を書いたほどだったが、いかんせん腰を上げるのが遅かった。

成立した「特定秘密保護法」の本質は、岸井成格が明確に述べている通り、「一般市民がターゲットにされる治安立法」であろう。

ただ、「『西山事件』が処罰の対象となる」という森雅子の答弁に対する岸井の激怒は、41年前に「西山事件」によってジャーナリズムに関心を持つようになった私には十分伝わるけれども、あの当時から世論は「ひそかに情を通じて」と喧伝された西山太吉元記者の手法ばかり問題にしていたことを想起すると、多くの視聴者には十分伝わらなかったのではないかと思う。当時私の家では毎日新聞をとっていたが、親は「知る権利」を掲げて佐藤栄作政権を激しく批判する毎日の報道に眉をひそめていたものだ。

そうでなくても、TBS、特に『サンデーモーニング』や毎日新聞は、朝日新聞とともに右翼のターゲットになっているし、一般人の間にも「朝日・毎日の論調は偏向している」という偏見を持つ人々は少なくない。今回は、穏健保守の人々を動かせるかどうかが鍵だったが、元「保守本流」の谷垣禎一の沈黙に象徴されるように、彼らは動かなかった。土壇場で保守系にして改憲論者の憲法学者である小林節が法案賛成から反対へと「転向」するなど、一部の人たちは動いたが、大きな流れにはならなかった。

また、ネットの世界はマスメディア以上に激しく右傾している。ネット右翼は論外だが、そうではない「アルファブロガー」と呼ばれる評判の高いブロガーたちの記事もひどいものだった。

たとえば、ある「アルファブロガー」は「ツワネ原則」を引き合いに出して秘密保護法案の制定を肯定する記事を書いた。「ツワネ原則」とは、Wikipediaを参照すると、

ツワネ原則(ツワネげんそく)とは、50項目からなる「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(英語:Global Principles On National Security And The Right To Information )」の通称。アメリカの財団(Open Society Justice Initiative) による呼びかけにより「安全保障のための秘密保護」と「知る権利の確保」という対立する2つの課題の両立を図るため、国際連合、米州機構、欧州安全保障協力機構、人及び人民の権利に関するアフリカ委員会の関係者を含む、世界70か国以上から500人を超える専門家により、2年以上かけて作成された。2013年6月に南アフリカの都市・ツワネで採択されたことから「ツワネ原則」と呼ばれる。

というものである。「アルファブロガー」氏は、

「ツワネ原則」に則った形で熟議を経て法案をまとめていくとよいだろう。

などと書いていた。

しかし、当の「ツワネ原則」の策定を主導した米国の財団が、特定秘密保護法案に「深い憂慮」を表明したのだった。以下毎日新聞記事(下記URL)より引用する。
http://mainichi.jp/select/news/20131207k0000m040049000c.html

秘密保護法案:「ツワネ原則」策定の米財団「深い憂慮」

 情報公開と国家機密のバランスをとるための国際的な指針として注目されている「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(ツワネ原則)の策定を主導した米国の「オープンソサエティー財団」が5日、特定秘密保護法案に「深い憂慮」を表明した。

 発表文によると、同財団の担当者は法案について「国家安全保障についての市民の知る権利を厳しく制限しており、国際的な標準を逸脱している」と指摘。同財団顧問で米国家安全保障会議(NSC)の元高官、モートン・ハルペリン氏は「市民や国際的な専門家を含む幅広い意見聴取をせず、急いで法案が策定されたことも憂慮している」と見解を示した。【日下部聡】

毎日新聞 2013年12月06日 20時47分(最終更新 12月06日 20時48分)


「オープンソサエティー財団」の声明の詳細は、『明日の自由を守る若手弁護士の会』のブログ記事「ツワネ原則発表のオープン・ソサエティ財団が“今世紀最悪”と声明発表」(2013年12月6日付)で参照できる(下記URL)。
http://www.asuno-jiyuu.com/2013/12/blog-post_4434.html

上記毎日新聞記事の引用文にある通り、「市民や国際的な専門家を含む幅広い意見聴取をせず、急いで法案が策定された」ことが批判されている。つまり、「アルファブロガー」氏が求めた

「ツワネ原則」に則った形で熟議を経て法案をまとめていく

ことを、安倍政権はやらなかったのである。

そうであれば、「アルファブロガー」氏は安倍政権を批判すべきだったはずだ。しかし、法案の成立に当たって新たに公開した記事で、彼は、

自民党、特に安倍首相はかなり譲歩したし、国内外から批判されていた問題点の多くも修正されたので、ここで廃案にするデメリットとメリットをバランスして見れば、しかたがなかったか

などとぬけぬけと書いたのである。最初から「法案賛成ありき」でブログ記事を書いていたことがミエミエである。実は最初の記事で、「アルファブロガー」氏は「ツワネ原則」を「ツネワ原則」と誤表記していたのだが(もちろんすぐ訂正された)、これでは「ツワネ」でも「ツネワ」でもない「スネ夫原則」とでも言うほかない。これが「アルファブロガーの処世術」というものなのであろうか。

上記のブロガーはもちろん保守系の論者であるが、政権批判側でもほめられない例はある。それは、この特定秘密保護法案が国連の人権部門のトップであるピレイ国連人権高等弁務官に批判されたことにキレたあの「安倍晋三の腰巾着」城内実の醜態に関して、かつての有力な「(民主党を中心とした)政権交代を求めるブログ」の運営者がしぶしぶながらまともな方向へと「転向」した件であるが、この件について『kojitakenの日記』に「城内実は『転向』も『darksideへの転落』もしていないのだが」と題した記事を書いた。要点は、城内実は「転向」など何もしておらず、城内実の本質を見誤って城内を応援してきた当該ブロガーのかつての主張が破綻しただけだということだ。2009年の自民党から民主党への「政権交代」を後押しした人たちの中にも、城内実の如き「敵」に「塩を送った」者が少なくないにもかかわらず、自らの誤りを認めようともしない醜態を晒しているのだが、こんな笑止千万の態度がとがめられもせずまかり通る言論状況が「特定秘密保護法」の成立を易々と許してしまった一因だと私は考えている。

さて、法案の成立自体は安倍晋三という人の言うことを聞かない人間を総理大臣にしてしまった必然的帰結ではあるが、今後は安倍政権を再度打倒した上、法案を廃棄するというエネルギーを要する作業が求められる。これに関して、「生活の党」代表の小沢一郎が、

多数さえ取れば、3年後に法律を変える事はいくらでも出来る。

などと強がっている。しかし、第1次安倍内閣時代の2006年にやはり強行採決で成立した「改正教育基本法」は民主党政権になってもそのまま変わらなかった。小沢代表時代の2006年、民主党が対案として提出した「教育基本法」の改定案は「自民党案よりひどい」と酷評された代物だったから、さもありなんといえばそれまでだが、政権交代で新首相になった鳩山由紀夫は、2009年の臨時国会で下記のように答弁したのだった。

 (鳩山由紀夫)首相は答弁の中で、安倍晋三内閣時代に成立した郷土・国への愛情の育成といった「愛国心条項」を盛り込んだ改正教育基本法について「尊重するのは当然のことだ。一気に変えていくと考えているわけではない」と述べた。ただ、「見直すべきものがあれば見直したい」とも言い添えて、将来的な見直しには含みを残した。
(産経新聞 2009年11月5日 20時24分)

上記の産経新聞記事はリンクが切れているが、『kojitakenの日記』の2009年11月7日付記事「安倍晋三が改悪した『教育基本法』を鳩山首相は『尊重する』そうだ」に記録しておいたものである。鳩山由紀夫が小沢一郎の傀儡であったことを考え合わせると、小沢一郎がいかに口先だけの大嘘つきであるかがわかろうというものだ。

今度安倍政権を倒したあとには、前回の「政権交代」における鳩山由紀夫のようなふざけた態度は絶対に許されない。「ツワネ原則」策定の中心を担ったアメリカの財団に「21世紀に民主政府によって検討された秘密保護法の中で最悪なもの」とまで酷評された今回の「特定秘密保護法」は廃棄して、新たに情報公開をベースとする法律を制定する以外ないだろう。

もちろん上記の実現のハードルが極めて高いことはわかり切っている。しかし、2000年の森喜朗政権成立以来、間に(清和会と同質の麻生太郎政権と)民主党政権をはさんで続いた清和会支配の政治を清算しなければ日本の政治は絶対に良くならない。「改正教育基本法」にしても、2006年以前の旧教育基本法に戻さなければならない。未だにこんなことを言う人間はほとんどいないことは承知しているが、私は今後もずっとこれを主張し続けていく。
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恐ろしい法律が可決されてしまいました。
朝日新聞により、海上自衛隊のいじめ自殺告発者への懲戒が検討されているとの報道がありましたが、今後は間違いなく防衛に関する秘密を漏らしたということで、秘密保護法を適用してくることでしょう。
もう誰も怖くて内部告発もできなくなります。行政の隠蔽体質に強力な武器を与えてしまった与党に投票した国民は自分たちが、目の前のにんじんを追いかけて泥沼にはまってしまったことを大いに反省すべきだと思います。

2013.12.09 10:43 URL | なのはな #- [ 編集 ]

世論調査で、安部内閣の支持率が10%ほと下がり、逆に不支持が10%ほど増えたとか。
今回の強引なやりかたが支持されていないことの証左だと思います。
施行まであと一年ですが、出来てしまったものは仕方ないとして忘れられて行くのかどうか民主主義にとっては分岐点となりそうです。
最悪の展開としては、安部バブルが崩壊して経済が大混乱に陥り国民みんなとても秘密保護法どころではなくなり、現在の形のまま施行されてしまうことです。

2013.12.09 20:02 URL | ミリシヤ #- [ 編集 ]

私は特定秘密保護法に賛成です。
漏洩したら国民の命が危険に晒されるような秘密は保護するのが当然だと思いますが違いますか?
これに反対するのは日本の破壊やテロを企てている他国のスパイやテロリストくらいだと思います。
そういう連中にまで「知る権利」を認めて国民の命が脅かされることの方が私は遥かに恐ろしいです。

2013.12.10 20:55 URL | ミサコ #pzEDURrk [ 編集 ]

>これに反対するのは日本の破壊やテロを企てている他国のスパイやテロリストくらいだと思います

日本国民の半数以上、パブリックコメントの8割以上の人間がスパイかテロリストだそうだ。
ずいぶん物騒な国に住んでいるんだなあ、私ら。その割には世界一治安がいいのはなぜだろw?

2013.12.10 22:33 URL | 飛び入りの凡人 #mQop/nM. [ 編集 ]

食品安全情報も「特定秘密」か 森大臣が見解示すhttp://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000017222.html

「秘密」の恣意的運用は「テロ」の名目が付けばなんだってできることにある。
国民が危機に直面するのは、軍事や外交よりも、こうした生活に密着したことまで隠されてしまうことだ。

2013.12.10 23:12 URL | 飛び入りの凡人 #mQop/nM. [ 編集 ]

 この法律自体は、私たちの生活には何の影響もありません。たぶん2、3年経てば、みんな忘れている。10年運用して、逮捕者が一人二人出る程度でしょう。最初は、官僚も自衛官も身構えるだろうけれど、リークだって従来通り続くし、公安は現状程度のリークで、いちいち法律を振り回したりはしない。(だいたい今のマスゴミに国家機密を暴くようなベースの知識を持った記者なんておらんだろうがw。テーマが防衛だろうが財政問題だろうが)
 この法律が影響を及ぼすのは、私たちが現役を退いてから。30年後60年後、何かの国家機密が明らかにされた時、それを検証や証言できる関係者はもういないかも知れない。その頃は、そもそもなぜこんな案件が機密指定されたのかすら誰も理解出来ないかもしれない。すでに外交文書の公開でそういう事例が起こっている。

 安倍晋三は、民族が後世に伝えるべき記憶や、歴史の価値を解っていない。薄っぺらな愛国者だということが良く解った。はやく辞めろ。

2013.12.15 10:20 URL | 与志 #- [ 編集 ]

この法案で「外国のスパイやテロリストは捕まえられず、記者や研究者の自由な調査が阻害される」なんてことになったら本末転倒というのも甚だしい結果に終わるのは非常に残念なことと言わざるを得ませんね。

2014.07.07 14:14 URL | NSS #- [ 編集 ]













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