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きまぐれな日々

先週は記事を書き始めていたが、結局公開しなかった。参院選で自民党が圧勝し、安倍晋三が自滅しない限りこの男の政権が向こう2年ないし3年続くと見られる政治の「暗黒時代」が始まったが、その最初の月である8月には記事を3件しか公開できなかった。7月まではほぼ毎日更新していた『kojitakenの日記』も、8月は更新しない日が7日あった。その代わりというか、先月は本を11冊読んだ。ネットで意見を発信していた時間の一部を読書に回したのだった。

だが、本を読めば読むほど日本の前途に絶望的な展望しか持つことができない。とりわけ、2004年に没した経済学者の森嶋通夫が1999年に書いた『なぜ日本は没落するか』(岩波現代文庫, 2010年)は、読み進めるほどに絶望を深めさせる本だった。今から14年前に書かれているが、昨日今日書かれた本だと言われても信じてしまいそうな内容である。以下岩波書店のサイトに掲載された「内容紹介」(下記URL)を引用する。
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/6032050/top.html

 「日本はいま危険な状態にある」――1990年代末,2050年の日本を「没落する」と予言したのが,本書である.なぜそうなるのか.著者は次のように書いている.

 「マルクスは経済が社会の土台であると考えるが,私は人間が土台だと考える.経済は人間という土台の上に建てられた上部構造にすぎない.それ故,将来の社会を予測する場合,まず土台の人間が予想時点までの間にどのように量的,質的に変化するかを考え,予想時点での人口を土台としてどのような上部構造――私の考えでは経済も上部構造の一つである――が構築できるかを考えるべきである.」

 つまり,当時の13歳から18歳の人を見れば,50年後の政財界のトップがどうなっているかがわかる,というのである.これについての著者の見通しはまことに悲観的である.著者は,日本の戦後教育の問題点を厳しく指摘する.

 「日本は,底辺からよりもむしろ頂点から崩れていく危険が大きいが,そういう事態は,現在の学生や子供たちが社会のトップになった二一世紀中頃にやってくるであろう.」

 また,著者はこうした教育問題へのなみなみならぬ関心を示すとともに,日本の産業体制,金融体制についても厳しい批判の眼を向ける.

 今,少なくとも日本の世界の中での政治的・経済的地位の「没落」は現実のものとなりつつある.著者は「ただ一つの救済案」として,「東北アジア共同体」案を唱えているが,左右両翼からの批判があるなか,はたしてうまく実現するだろうか.そのためには,中国・韓国などとの歴史の共同理解がまず必要である,と著者はいう.

 11年前に書かれた本ではあるが,日本の現在・将来を見通し,今後どうしていくべきかを考えるために,いま一度読まれるべき本ではないだろうか.

  *本書は,1999年3月,岩波書店より刊行されました.


「東北アジア共同体」というと、鳩山由紀夫が唱えた「東アジア共同体」を連想される方が多いと思うが、鳩山よりも宮澤喜一を想起すべきだろう。この本が書かれた1999年には決して絵空事と片付けられる提案ではなかった。だが、今となっては実現不可能であろう。あるいは、日本を排除した形で中国を中心として実現される可能性はあるかもしれないが。

この本の60-61頁から引用する。

(前略)日本人はいまだに中国や韓国を蔑視し、嫌悪している。こういう感情は、日本の前途が上り坂から下り坂に転じたならば一層強くなるであろう。事実、「東京裁判史観批判」や太平洋戦争の「自虐史観」的解釈を拒否する「自由主義史観」や古典的な「大東亜戦争肯定論」の動きは、日本軍の戦争中の暴虐を肯定する方向にある。このような動きは日本を単にアジアで孤立化させるだけではなく、不法で残酷な扱いを受けた他の諸国−−たとえばビルマでのイギリス、フィリッピンでのアメリカ−−をも中国、韓国側に与させてしまうだろう。そういう状況になれば、アメリカはアジアで現在パックス・アメリカーナ(アメリカ支配に基づく平和)を推進していく上で(引用者註:原文ママ)、日本をとるか中国をとるかの岐路に立たされるであろう。過去にもアメリカは何回かそういう選択をせまられ、太平洋戦争直前には中国を選んだことを忘れてはならない。

 同じようにアメリカが、将来中国を選ぶようになるならば、日米関係は一挙に悪化し、日本はアジアで孤立するであろう。ビルマ戦線での英軍捕虜虐待に対する日本政府の対応に満足していないイギリス人は決して、そのとき日本支持に立ち上がることはない。こういう事態が生じれば、それは明らかに激しい逆風である。いかに巧妙に船を操っても、船は風下に流されてしまう。それは明白な日本の没落を引き起こす強風である。

(森嶋通夫『なぜ日本は没落するか』(岩波現代文庫,2010=初出岩波書店,1999) 60-61頁)


繰り返すが、これは1999年に書かれた文章である。森嶋は現状を的確に予測するとともに、今後のさらなる日本の没落をも描いている。この本では、藤岡信勝や小林よしのりは名指しで批判されているが、当時安倍晋三はまだ当選2回の若手世襲議員だったから安倍の名前は出てこない。私も1999年当時には安倍晋三なんか知らなかった。

その後総理大臣になった小泉純一郎は、イラク戦争で率先してアメリカに付き従い、プレスリー邸では国辱的なタコ踊りのパフォーマンスを演じて見せたが、それにもかかわらず、豊下楢彦著『「尖閣問題」とは何か』(岩波現代文庫,2012年)の指摘によれば、アメリカは尖閣諸島の帰属一つとっても日本に味方せず、久場島と大正島を一銭、もとい一セントも払わずに射爆撃場として借り上げておきながら(費用は日本政府が肩代わりしている。もっとも射爆撃訓練は1979年以後一度もなされていない)、日本と中国・台湾の尖閣諸島帰属争いに関して「中立」の態度をとり続けている。日本政府は、アメリカとの絆を守り、またはこれを深めることを、安全保障の手段ではなく目的とするという倒錯した隷従外交を行っているにもかかわらず、アメリカは態度を変えないのである。

それどころか、安倍晋三は第1次内閣時代の2007年にも、従軍慰安婦の問題に関する妄言を発して米議会で謝罪させられる羽目に至った。今回も、憲法96条の先行改正についてアメリカからストップをかけられ、先月の終戦記念日における靖国神社参拝も、安倍晋三自身は果たせなかった。今もまたシリアに軍事介入しようというオバマに対し、イギリスでさえ同調しなかったのに、安倍晋三は真っ先にアサド政権を非難する形でオバマに尻尾を振って見せた。しかし安倍は念願とする集団的自衛権の政府解釈変更さえアメリカのお墨付きをもらいかねている。アメリカとしては、日本がアメリカ軍の戦闘行為を一部肩代わりしてくれることは歓迎しても、日本と中韓の関係がこじれて極東情勢が不安定になったりすると、アメリカ経済がとばっちりを受ける恐れがあるからだろうと私は推測している。

そもそも、安倍晋三の言う「日本をトリモロス」とは、敗戦前までの「天皇の国」であった軍国日本を取り戻すという意味にほかならない。アメリカは、先の大戦で日本と戦った。そんなアメリカが「(神の国)日本をトリモロ」そうとしている自分を支持してくれると信じて疑っていないかに見える安倍晋三の能天気さは想像を絶している。

国際状況も日本に分が悪いが、それに加えて内政でも、日本の労働は崩壊している。森嶋通夫は『なぜ日本は没落するか』でいわゆる「日本的経営」を、下り坂の時代には有効ではないとして批判しているが、それに代わって現前しているのは、非正規雇用及び「ブラック企業」による正規雇用という悲惨な労働の現状である。そして安倍政権は非正規雇用の拡大を図るとともに、「ブラック企業」の経営者としてあまりにも悪名高い渡邉美樹(ワタミ)を安倍晋三自らが口説いて参院選の比例代表候補にする暴挙に出た。しかしこの国の有権者の多くはそれでも自民党に投票した。自民党に投票した有権者たちは、ワタミ以外の自民党候補の個人名で比例区の投票を行った人たちも含めて、派遣労働のさらなる拡大や「ブラック企業」の現状を肯定、支持したのである。

これで日本が没落しない方がどうかしている。自民党には、せめて2015年の総裁選で安倍晋三を引きずり下ろして自浄能力を見せてもらいたいと思うが、仮にそれが実現したとしても、今後2年間は第2次安倍内閣が続く。安倍晋三がどこまで日本を谷底深く突き落とすのか、想像もつかない。

今回は触れなかったが、上記の他にも東電の放射性汚染水垂れ流しや東京五輪の件がある。前者で世界各国から疑念を投げかけられているにもかかわらず後者が実現することなど本当にあるのだろうかと私は訝るのだが、この件は結果が明らかになる来週、改めて書くことにしたい。
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2013.09.02 08:00 | 安倍晋三 | トラックバック(-) | コメント(11) | このエントリーを含むはてなブックマーク

東アジア共同体って聞くと、遥か昔に大アジア主義を主張した頭山満と玄洋社の一派がそうした連中からリスペクトされているのが気にかかります。つまり欧米の帝国主義の侵略に対しアジアは一つになって・・・って主張なんですけど、でもその実頭山は中国や朝鮮をライバルとして意識していて、先ずはこの両国を叩いて主導権を握るべしって言ってたりしますから。

どうも日本で謳われているアジア共同体論って、アジアのリーダーとしての日本ってのが無意識的に前提となっていて、それに他のアジア諸国もついて行くって発想だったりするんですよね。平和憲法と自由と民主主義・技術と経済力をアジア諸国は頼りにしていてって端っから疑わず、鳩山のアジア共同体論なんてまさにその典型ですよね。

この森嶋氏の著作から10年経つんですけど、今やアジアは日本を無視しても充分やっていけるくらい「自立」しているんじゃないでしょうか?経営や技術でのエリート人材は既に欧米のそれと充分伍していけるのがいたりしますし、わざわざガラパゴス化した日本市場を気にしなくても欧米や発展途上国に売り込みできるまでに産品も良くなっていますから。肝心の外交問題でもアメリカが何とか日本を抑えているって認識で、中国の膨張(?)に対する牽制役としては期待してもそれ以上の「自立路線」なんて色気を出してしまうのは御免蒙るって気もします。

2013.09.02 14:11 URL | 杉山真大 #- [ 編集 ]

衰退で思い浮かぶのが
建築というか都市の経済学を分析したジェーン-ジェイコブスという女傑。繁栄には多様性保持が必要性で、ある産業や組織やイノベーションが衰退した時、古くからあった産業等が新たな改変をしてまた繁栄を引っ張るという分析していて説得力有るなと思う方です。
彼女は更に、分業の専門化も規模の経済も否定しているわけではなく、専門化の後の分離や仕事の追加を見いだしてもいます。経済学では分業だけで終わってしまうのが多い、経営は取り上げいると思いますが。

と考えながら森嶋さんの本も、多様性が無い均一化の教育や専門性がなく、また、数字的な効率性ばかり追って試行錯誤の非効率や興味のある他の仕事や実験を遣らせてやる重要性を書いてるのかな…とか妄想してしまいました。経済思想史も書いてたよなあとか…

2013.09.02 22:33 URL | 基礎固め 始まりは #- [ 編集 ]

御無沙汰しています。
今回の本は随分懐かしいなと思いました。
僕もチラリと読んだことがあるので。

日本型経営の批判にかんしてはよく覚えてないのですが、日本型でもブラック経営でもない新たな経営方法が必要ということでしょうか。
まあ人間関係を賢く処理して行くみたいな?

東アジア共同体は聞いたことあります。
アジア重視という形ですかね。

2013.09.05 18:47 URL | SPIRIT(スピリット) #Bcjh3QfU [ 編集 ]

森嶋さんの善意や問題意識だけは評価できるけど、彼のマルクス理解も教育論も北東アジア共同体の提唱もあまり評価出来ませんね。
ま、それでも、彼や宇沢弘文や宮本憲一のような経済学者は、重箱の隅を穿り続けているだけの教条解釈・講釈屋的凡百マル経派よりは数段上等でしょうが。

2013.09.06 08:31 URL | バッジ@ネオ・トロツキスト #CrLMSZ1k [ 編集 ]

http://mainichi.jp/opinion/news/20130826ddm003070155000c.html

小泉は経団連の人間を連れてオンカロ行ってんじゃねーか。
何もしてねぇって言うのは間違えだろ?

2013.09.07 23:18 URL | 寺山みなみ #- [ 編集 ]

 サンデーモーニングが伊達正宗小田原参陣よろしく、命からがらいった按配で、安倍総理の膝下に身を投げ出さん勢いでもって平蜘蛛状態になりながらの決死のLive、まことに恐れ入った。

2013.09.08 09:30 URL | 情報ライブ・ハルモニ・・じゃなかったサンモニ #- [ 編集 ]

やりました!2020年オリンピック東京に決定です。招致活動でがんばってくれたスポーツ選手ほかいろんな人々に感謝です。今朝の報道でもNHK、朝日放送でも安倍首相の満面の笑顔が写っていました(これこそスポーツで、政治的な色を持ち込まず右派左派に関係なく祝福する傾向は良かったです)。やはり日本国民の心に希望を与えてくれるすばらしい総理大臣だと思います。サンデーモーニングでも張本勲さんが「僕は個人的に安倍さんが好きなので安倍さんのときに東京五輪決定でよかったなあと感じます。」というコメントをされたことも私は大変嬉しかったです。アベノミクス第4の矢としての効果も期待できるでしょう。7年後に外国の人々にしっかりおもてなしができるように日本全体が一丸となって頑張っていきましょう。

2013.09.08 09:44 URL | zappo #- [ 編集 ]

馬鹿ウヨは「福島から離れているから安全」とか叫ぶが、水元公園や柏市、流山市、松戸でも除染やっている。 世界に向けてウソつくな!それに福島の人達を無視した発言!こんな汚染を放置、無関心な国がオリンピックなどと問題外。それに、欧米人は人権問題に敏感ですから、人権軽視・歴史無視の極右政権では平和の祭典など元々無理。隣国とすら仲良くできず、平和憲法を改悪しようとしている内閣と国会、冤罪連発・死刑維持の人質司法では、対外的イメージが最悪です。

それに、石原や猪瀬が望むものは復興の象徴としてのオリンピックじゃない。ナチス政権下のベルリンオリンピックみたいなもの。

2013.09.08 21:00 URL | 丸点 #- [ 編集 ]

このコメントは管理者の承認待ちです

2013.10.05 06:47  | # [ 編集 ]

ただ北東アジア共同体は本気でやろうとすれば大企業は案外喜ぶかもしれないです。

日本人とアジア人との雇用獲得の競争は激化されるんじゃないかと。

企業は低賃金人材を今もアジアから求めている訳だからその低賃金の人たちと競う必要があるからな。
高賃金の日本人なんぞ無用の役立たずだ。

この共同体で日本人が仕事がほしけりゃ、時給200円、年収100万円ぐらいでも足りず、ブラック企業のような職場は当たり前。正社員は有能なエリート人材のみ。

同時に内需などを増やす意味はないのでどのみち日本人には苛烈な競争社会に生きるしかないのでは。

日本の製品はガラパゴス化してるので競争に勝ちたそうにないし、その北東アジア共同体でもグローバル、新自由主義チックな社会になるんじゃないですかね。

2013.10.07 23:30 URL | R2 #- [ 編集 ]

中国を強者だと思うところから論点がズレまくってるとしか思えませんが?
アジアと言っても中国・韓国は特別アジアであって関わるとろくなことがない代表国でしょう。今、日本は着実にアジアとまとまりつつあり、大変理想的な形です。中国・韓国は無視。それが日本にとって一番いい状態であり、中国に嫌気が差しているアメリカとも価値観が一致している。あなたの頭のなかは30年遅れていとしか言いようが無いと感じます。

2013.10.09 11:05 URL | あ #- [ 編集 ]













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