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きまぐれな日々

よく「株価は景気の先行指標」だと言われるが、全然そんなことないなと思わせるのが昨今の株高だ。財務相の麻生太郎が「まだ何もしていないのに」と言ったという。麻生太郎らしい率直な物言いとも言えるが、麻生が財政出動派であることとも関係しているのではないかと私は思った。

つまり、麻生太郎としては、財政出動をした結果景気が刺激され、その結果株価が上がるのだったら納得できるのだろう。現実はそうではなく、アベノミクスとやらが喧伝されただけで株価が上がっている。それ見たことかと「りふれは」が勢いづくかもしれない。彼らの中には、財政政策など効果は薄い、金融政策こそ効くのだという「小さな政府」信奉者が少なからずいて、こういう人たちを指して「上げ潮派」というのだと私は勝手に理解している。上げ潮派の代表的な文化人は竹中平蔵と高橋洋一であり、言わずとしれた小泉純一郎内閣の閣僚及びそのブレーンである。麻生太郎の声が小さくなり、竹中平蔵や高橋洋一の声ばかりがよく聞こえるようになった時、第2次安倍晋三内閣は曲がり角を迎えるかもしれない。

私は金融政策偏重の政策など、バブルを生み出すだけでメリットよりデメリットの方がずっと大きいという偏見を持っている。1989年をピークにしたバブル景気と私の暮らしは無縁だったが、2000年にピークにしたITバブルは、その破裂で手痛いダメージを蒙った。バブル景気の頃にマンションに手を出してローンに苦しんでいた人も身近にいたから、バブルなどろくでもないものだと思っている。バブルなんかに影響を受けたら人生設計なんてできない。

しかるに、現在週刊誌等には「安倍バブル」なる言葉が踊っている。誰も「安倍景気」なんて言わない。テレビを見ると、幸田真音(この人の名前は「まいん」と読むが、私には「マネー」にしか見えない)なる新自由主義者の小説家が嬉しそうに「自民党政権に戻って良かった、安心感がある」などと言うが、その舌の根も乾かぬうちに、今回の株高は外国人投資家が買っていることによることを認める発言をして、馬脚を現したりしている。

やはり財政政策が伴わなければダメだ。その点で、安倍政権が反緊縮の姿勢を打ち出している、ただ一点に関する限り私は肯定的に見ているが、使い道が公共事業偏重ではダメだということは、再三当ブログで主張してきた。

最近、神野直彦・金子勝門下に当たる井手英策・慶応大准教授の「土建国家」に関する論考が頭から離れない。井手准教授は『世界』2003年3月別冊「日本を立て直す」にも、「『コンクリートから人へ』何が正しく、何が間違っていたのか」と題する論文を寄稿している。

以下同論文から自由な引用を行うが、井手氏によると、公共事業を「土建国家」という日本型福祉国家の中核に位置するものであった。土建国家を一言で言いあらわせば、経済成長を前提とし、公共事業と減税で利益を分配する統治のあり方であるとする。

高度成長期、政府はほぼ毎年、中低所得層向けの減税を実施した(革新陣営に属する野党もこれを強く要求してきた=引用者註)。1980年代の増税なき財政再建・行革の時代に減税は一時停止されるが、バブル崩壊以降再び大規模な減税が繰り返された。

日本型福祉国家は対人サービスが不十分だが、毎年のように実施された減税は、中間層が、本来であれば政府が提供するような対人サービス(教育、福祉、医療、住宅など)を市場から購入できるようにした。減税は中間層を受益者とした。

再分配政策の柱が公共投資であり、1960年代後半以降地方に傾斜配分されるようになった公共投資は、都市に移動できない低所得層の雇用の機会を保証した。それが土建国家であり、「じつにあざやかなメカニズムであった」と井手氏は評している。

この公共投資は、小泉純一郎の悪名高い「構造改革」以来削減されてきたが、建設業と農業に致命的な悪影響を与えた。井手氏は、「公共事業を社会保障に置き換えることによって、どのようにこの機能が代替されるのか。その点を無視した公共投資の抑制は、良くて節約、悪ければ地域経済社会の破壊でしかない」と指摘する。「コンクリートから人へ」は、将来のあり方を問うことなく、予算の削減にまい進した政治の限界を示していた。ビジョンなき政治の果てに、再び土建国家に舞い戻ろうとしている。

しかしそれは危険な動きだと井手氏は言う。なぜなら、土建国家はあくまでも経済成長を前提とするモデルだからだ。1990年代の政権は、成長なきあと、成長を生むために多額の借金をしてきたが、成果が上がらなかった。

私自身の感想を述べると、そりゃ急激に労働人口が減少する今後の日本で、土建国家の政策を繰り返したって成果が上がらないのは自明だろうと思う。井手氏も書いているように、社会保障の拡充は、人びとにとって重要な課題であり、「コンクリートから人へ」という方向性自体は正しかった。だが、理念もへったくれもなく、「ムダの削減」を叫んで「犯人捜し」に明け暮れるようでは人びとの暮らしを良くする政治などできようはずもなかった。

井手氏は、「分断型利益分配システム」という日本の政治的特質を民主党政権が払拭できなかったと指摘する。民主党政権はこれを克服して「普遍主義」を目指そうとはしていた。所得制限のない「子ども手当」はその一例だろう。民主党政権の「子ども手当」には所得制限はなかった。復活した「児童手当」には所得制限がある。一見、所得制限を設ける方が再分配政策であるかのように見えるが、現実には制限を設けない方が再分配が進むというのが、神野直彦氏の指摘で知られる「再分配のパラドックス」だ。政治や社会に「他の人びとと同じに扱われている」と感じさせる政策が求められる。

逆に言えば、分断型の統治は、井手氏が例に引く以下の言葉を生み出す。「生活保護を与えれば、低所得者は働く意欲を弱め、怠惰な生活を選んでしまう」、「医療費を下げれば高齢者は健康なくせに病院通いをする」、「公務員は収入と雇用が安定しているので働かない」、などなど。これらの悪弊についてくだくだしく述べることは、ここではしない。

井手氏は、普遍主義の政策を行うためにはそれなりの財源が必要であるとする(つまり増税が必要であるということ)。井手氏は、「既存の土建国家のフレームワークのうち、公共投資による雇用保障の機能を回復しながら、中長期的にはこれを量的に縮小し、少しずつ普遍主義的な対人社会サービスにシフトさせていくという戦略がもっとも現実的な選択肢となる」と書いているが、少なくとも私はこの意見に説得される。

井手氏や師の神野氏は、「日本人には公(おおやけ)の考え方がない」と言う。最近の目を覆うばかりの生活保護バッシングなどはその典型的な表れだろう。また、依存心が強く、支配者側も、特に自民党政権は人びとの依存心を強める統治を目指す。安倍晋三の「道徳教育」などその典型だろう。

本当は今回の記事に入れたかったのは、かつて安倍が学校の必修科目にした武道の代表格である柔道界で起きた女子柔道のパワハラ問題をめぐる女子柔道家・山口香の行動を高く評価した西谷修・東京外大大学院教授の論考である。前述『世界』別冊でも五野井郁夫・高千穂大学准教授と「デモは政治を開けるか」と題したリベラル派の学者である西谷氏の論考はまことに興味深く、山口香が目指す「自立と自律」は、井手英策氏や神野直彦氏が「ない」と嘆く「公」の考え方と深く密接につながっているのではないかと思ったからだ。だが、その言葉を紡ぎ出すことは今回できなかった。今後の宿題にとっておくことにする。


[お詫びと訂正](2013.2.19)
井手英策氏のお名前をずっと「井出」と誤表記する非礼を犯し続けていました。お詫びします。本記事の誤記を訂正するとともに、過去の当ブログ及び『kojitakenの日記』の誤表記を訂正しました。
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朝日の世論調査では安倍内閣の支持率は上がっているようです。
「アベノミクス」が功を奏しているためのようですが、よくよく考えてみれば安倍はまだ何もしていない。円や株が回復しているのは多分に「自民党政権なら景気対策をするのではないか?」という期待と思惑からのみです。

安倍の今回の教育改革が第一に「学力向上」を掲げているように、彼の頭の中はいまだに高度成長期の夢よもう一度! に彩られているとしか思えません。教育分野のシバキ上げ思想とでも言うべきでしょうか。
次々と仕事があった高度成長期は土建偏重国家でも成長を成し遂げたかも知れませんが、今は多くの分野で日本は太刀打ちできなくなっています。産業の中には早く見切りを付けて、高付加価値化へと舵を取るべきものも見受けられます。教育も同じで、早く高付加価値の技術者育成などを目指すべきです。
今の安倍の景気対策による結果や、安倍の支持率は土台がないのです。いわば「プチバブル」の様相です。

それにしてもこの世論調査でわけが分からないのは公共事業に対する国民の姿勢です。確かに民主党は必要な公共事業も切り捨て過ぎました。しかし公共事業だけで経済が活性化する時代ではすでにないのです。
民主党政権ができたときには、あれほど目の敵にされた公共事業を、大幅に増大させることに多数の国民が賛成しています。
この国民のいい加減さにほとほと愛想が尽きます。

2013.02.19 22:54 URL | 飛び入りの凡人 #mQop/nM. [ 編集 ]

話は少し変わりますが

安部首相がTPPに参加意欲… やっぱり新自由主義かこいつも。

日銀への一方的な批判により急激なインフレ、TPP参加。
これでニパーセントが来てすぐ消費税上げたり、社会保障と組み合わせないで増税したら、相当市民の生活を考えてない。そしてTPPも合わさって、生活を壊す土台をつくった政権になるでしょうね。

マスコミは株や輸出筋の業績が上がったと持ち上げるでしょうが… その二つは実際乃日本経済の指標にはならない。


2013.02.24 09:42 URL | 基礎固め やっぱり #sK7dvhWA [ 編集 ]













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