きまぐれな日々

1970年代から80年代にかけて内橋克人が『夕刊フジ』に連載した『匠の時代』は当初サンケイ出版から出版され、のち講談社文庫に収められて、今年4~9月に岩波現代文庫から出ている。製造業の技術者たちが苦労して製品を開発した話が中心で、ひところNHKテレビで放送されて人気を博した『プロジェクトX』を先取りしたともいえる著作だ。

岩波現代文庫版では今年新たに書かれた「緒言」が付記されているが、全6巻の後半3巻に付記された「緒言その2」に、内橋克人は下記のように書いている。

「FEC自給圏」の形成に向けて

 日本と日本人はいま根源的な「成長概念の問い直し」を迫られている。

 たとえば「原発安全神話」のうえに築かれたエネルギー政策は行き詰まった。エネルギー多消費型産業と消費のあり方、それらを前提とした経済成長追求の慣性(イナーシャ)は断ち切られた。過去、原発への強引にして過剰なる依存政策推進、すなわち国策が、結果において「エネルギー選択」の幅も自由も狭めてしまった。その咎が厳しく自らのうえに跳ね返る。そのタガを取り外すときがきた。

 東北の復興では「FEC自給圏」の形成を目指すべきだ。Fは食料(フード・農)、Eは自然の再生可能エネルギー、Cはケアとコミュニティー再生。それらを地域内で自給していくシステムの構築である。もう長い時間、筆者がつづけてきた主張だ。

(内橋克人『匠の時代』第4~6巻(岩波現代文庫, 2011年)「緒言その2」より)


このように書く内橋克人が大のTPP反対論者であることはいうまでもない。たとえば、今年2月8日に『農業協同組合新聞 JAcom』のサイトに掲載された記事「異様な『TPP開国論』歴史の連続性を見抜け 内橋克人氏講演会」(下記URL)などを参照されたい。
http://www.jacom.or.jp/tokusyu/2011/tokusyu110208-12482.php

ところが、現在の野田政権(「野ダメ政権」)はTPPを推進しようとしている。TPP推進は昨年、菅前首相が大々的にぶち上げたものの、今年3月の東日本大震災以後は店晒しにしていた。菅直人のTPP推進は、「原発輸出」の制作とともに、仙谷由人、野田佳彦、前原誠司らの支持を受けて昨年6月に民主党代表選に当選した見返りとしての「妥協」の産物であったように思われる。菅は東電原発事故を奇貨として「脱原発」に転向するとともに、6月の不信任案否決の際に近い将来の退陣を約束させられたこともあって、TPPへの熱意を失ったように見える。

しかし、菅退陣を受けて成立した野田政権は、もともと原発再稼働、TPP推進、消費税増税、辺野古移転を「4つの柱」にしているかのような極悪政権だから、これら4つに狂ったように邁進している。

内橋克人は原発について「慣性(イナーシャ)は断ち切られた」と書いた。中長期的にはその通りだと思うが、現在の日本を支配している経団連にとっては「慣性が断ち切られ」ては困るのである。そして官僚は変化を嫌うし(彼らは自らの仕事を増やす厄介ごとが嫌いで楽をしたいだけである)、政治家は財界と官僚の意を受けて動く。つまり永田町と霞ヶ関の論理においてはまだ「慣性が断ち切られ」てはいないのであり、野田佳彦は典型的な「慣性に従って行動する」タイプの政治家だ。

私はある意味、この野田佳彦は日本でもっとも総理大臣にしてはならなかった人物であり、その悪質さにおいてここ数代の総理大臣で野田と比較できるのは安倍晋三だけだと考えている。そんな人物を代表にしてしまった民主党は、近い将来滅びるほかはないとも思っているが、その責任の多くは「トロイカ」に帰せられるものだろう。「原発輸出」と「TPP推進」の旗を振っていた菅直人の責任はいうまでもないが、小沢一郎もまた典型的な風見鶏であり、TPPの政局においても静観を決め込んでいる。「脱原発」にも踏み込まなかった小沢は、事実上「原発再稼働」と「TPP推進」を容認しているようなものだ。小沢もまた、「永田町と霞ヶ関の慣性」に従って動く「政治屋」に過ぎず、そんな小沢一郎にすがる「リベラル・左派」が少なくない現状は、日本にとって百害あって一利なしだと考えている。鳩山由紀夫が菅・小沢以下の論外であることはいうまでもない。

ついつい「トロイカ」の悪口に話がそれたが、野田政権の異名として「野ダメ政権」の他に「野惰性犬」というのも思いついた、というよりタイプしているうちにそういう誤変換が現れたものだが、野田政権とは「惰性で動く野犬ならぬ(財界やアメリカの)飼い犬」にほかならないと言いたくなる。ところが、毎回にように書くことだが、菅直人に対してはあれほど人格攻撃まで辞さなかったマスコミが野田佳彦にはいたって甘い。だから野田内閣の支持率は発足直後と比較して少し下がった程度であり、鳩山内閣や菅内閣とはずいぶん違う。

原発問題に関しては、東電原発事故が起きた福島では完全に「慣性(イナーシャ)は断ち切られた」といえるだろう。また、今朝(10月26日)の朝日新聞オピニオン欄に掲載されている自治体首長のインタビューを読むと、村上達也・茨城県東海村長は日本原子力発電東海第二原発の廃炉を求め、西原茂樹・静岡県牧之原市長は浜岡原発の永久停止を求めている。後者にはスズキが「原発を再稼働させたら工場を浜松近辺に移転するぞ」と圧力をかけている影響も大きい。スズキの影響は同社が支援する極右政治家・城内実にも及んでいて、城内は「脱原発」を主張している。このレイシスト政治家の唯一の取り柄といえるだろう。

朝日のインタビューで異彩を放っていたのは福井県敦賀市長・河瀬一治である。新聞に載っている顔写真を見ても、村上村長・西原市長の2人と河瀬では全く印象が異なり、早い話がヤクザのような容貌だ。見てくれが悪くとも中身が立派なら良いのだが、中身も最悪であり、ひたすら関西電力敦賀原発の増設を求めている。「特に市民に喜ばれているのは、電源三法のお金を使ったサービスです」と河瀬がほざいているのを見た時には、新聞を破りたくなった。本当に「電源三法交付金」が敦賀市を発展させたのか。検証が必要だろう。

敦賀市といえば、前市長・高木孝一が1983年に発した暴言があまりにも悪名高いが、その高木でさえ、1995年の市長選で河瀬に敗れた前年には、次のように発言している。

私どもは、ずっと何十年前から、いわゆる日本国の政府等が日本国家としてどうしてもこれをやっていかなければならないところの国策であるというふうに、原子力発電所の推進方についていろいろと言われまして、そのことに相呼応してやってきておるというのが最大の基本理念であります。(中略)こうしたことで最近特に地域社会から迷惑施設とまで言われておりますけれども、こうしたものも私の敦賀市にも4基ございます。日本では45基が稼働いたしておりますし、さらに7基が建設中でありますが、私どもの、福井県の嶺南地方と言っておりますけれども、いわゆる若狭地区であります。若狭地区には、あの狭い土地柄において15基の発電所が実はあるわけでございまして、これもなかなか本当に大変でございましたけれども、ただ今申し上げましたような理念に基づいてこれに協力してまいったものでございます。

ですから国策ということを最重点に置いてもらわなければならない。ところが、1つの例を挙げてみましても、やはり若狭には旧態依然たる国道27号線1本しかないわけであります。

(「長期計画改定に関するご意見を聞く会」会議録、1994年3月4日、5日=高木仁三郎『原子力神話からの解放 日本を滅ぼす九つの呪縛』(講談社+α文庫, 2011年=初出は光文社, 2000年) 184頁より孫引き)


つまり、高木孝一は国策に従って原発を誘致したけれども、道路さえ引かれていないと愚痴っていたのだ。さらに高木は、「私どもも決して、原子力発電所がいい、ほれ込んでやっているんじゃないんですよ」とまで発言していた。ところが現市長の河瀬の発言は、17年前の時計の針をさらにその11年前に戻している。

何より問題だと思うのは、河瀬にとって福島県の東電原発事故は「他人事」に過ぎないことだ。河瀬のような人間を市長に選んだ敦賀市民の責任も重い。同じことは、青森県・下北半島で原発を誘致している自治体にもいえる。東電原発事故の前なら、「国策の犠牲になった」という側面を考慮しなければならなかったが、東電原発事故後も政策を変えないということは、「人の痛みを感じようとしない」悪魔の所業というほかあるまい。

そして、経団連と官僚と保守政治家仲間の世界に働いているイナーシャに従って「安全運転」をしているつもりの野田佳彦も河瀬らと同じ非難を受けなければならないのは当然のことだ。野田の場合、前政権が腰が引けていたとはいえ「脱原発依存」を打ち出したのに、それさえ「なかったこと」にしてしまった悪逆非道ぶりであり、河瀬一治をはるかに凌ぐ「ヤクザ的政治家」だと断定せざるを得ない。

「野ダメ」が日本を滅ぼす、と言いたいところだが、何も野田佳彦一人でこんなことになっているわけではなく、日本の政治・経済がシステム的にダメになっているとしか思えないことに脱力感を覚える今日この頃だ。
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>驚くべき話。昨日、日比谷野音での反TPP集会で喝采を浴びた鈴木宣弘東大教授が、別の場所で、「民主党のTPP推進派のある議員が、『日本が主権を訴えるのは、50年早い』と発言した」と暴露。TPPの推進派は、TPPが、米国隷従を深めるという自覚があって、その上で推進を唱えている確信犯。 iwakamiyasumi岩上安身twitterより

やはりTPPに賛成している政治家や官僚達は、日本をアメリカの属国にしておかないと駄目だと思い込んでいるようです。
戦後60年以上も国際戦略をすべてアメリカに依存してきた主体性なき国家の本性みたいなものでしょう。
しかし彼らはまだわかっていない、それはすでにアメリカはかつての様な力のある国ではなく、斜陽の国家だという事です。
だからアメリカは日本を食って生き延びようとしている。
しかしそれは本質的な解決ではなく、せいぜいアメリカに巣くいアメリカ人を食い物にしている連中が逃げ出せるまでの時間稼ぎに過ぎないのです。
だからアメリカ人でも賢い人たちはTPPなどというまやかしには反対なのです。

もはやこのTPPには、自民党から共産党までの幅広い議員が反対を表明しています。
しかしまだまだ自民党はアメリカの推すTPPに反対ではなく、民主党が情報を公開しないから反対なのだと詭弁を弄している。
自民党にとってTPPに反対しないと農協などの支持団体に見捨てられるが、明確に反対を言えばアメリカに睨まれる。
あちら立てればこちら立たず、まさにハムレットの心境なのでしょうね。

それにしても現民主党の執行部のTPP積極参加派の正体はこれでさらにはっきりしてきました。
野田も前原も玄葉も、結局彼らはアメリカの公認(苦笑)する日本の政権政党に民主党をしたかっただけです。
そして自分達が、自民党になり変ってアメリカの任命する日本の総理大臣(総督)になるということなのでしょうね。
そう考えればすべてがすっきりします。
マスコミも結局アメリカ無しの日本というのが怖くて仕方が無いのでしょう。
だからいまだにTPPの本質について報道しようとしない。
奴隷根性ですね。

2011.10.27 13:04 URL | 風太 #seTEoywg [ 編集 ]

もともと先の衆院選マニフェストにおいても、『農家の戸別所得補償』と『諸外国との自由貿易』はセットになっていましたよね。
自由貿易と農家の保護を両立させていくと。


政府もTPP下での農家保護のために農家の大規模化を考えているみたいですが、まだまだ不安ですね。
やはりTPPには参加せず、諸外国と広く薄く貿易したほうがいいと思います。もちろん戸別所得補償は継続しつつ。
(ちなみに、TPPに参加すると中国にそっぽを向かれる、という意見もありますが、可能性はありますか?)

2011.10.28 13:52 URL | SPIRIT(スピリット) #Bcjh3QfU [ 編集 ]

TPPはエンゲル係数の高い貧困層にはメリットが多いですね。

2011.10.29 20:04 URL | popper #EBUSheBA [ 編集 ]

あなたは記者に向いているよ。マスコミのように面白い記事を書く生来の性がある。

2011.10.30 00:27 URL | azalea #- [ 編集 ]

君は政治について書かない方が良い。これは単なる進言だがね。実は、政権交代について調べていたところこのブログを見つけてね、当時の記事を拝見した。君は多くの部分で事実とかり離した―マスコミ報道が如き―稚拙な内容であった。特に麻生太郎については感情的になり、暴走状態である。気取ってないで反省でもしておいて欲しい。また同じ間違いを犯すだけだ。謙虚になれない自分を自覚したらどうしょうかか。

2011.10.30 01:34 URL | 十字軍 #- [ 編集 ]

最近の首相を見ていると、日本を小泉さん以上に壊してしまうような気がしてなりません。

私の地元である北海道は、民主党の最強と言っていいほどの牙城にも関わらず、TPPの被害を一番多く受ける地域です。

ここまで来ると、TPPの是非自体が総選挙の争点にしていいくらいの大事な問題です。

首相がTPP参加を決断するなら、解散すべきだと感じるこの頃です。

2011.10.30 17:33 URL | 葉隠 #/45F..dA [ 編集 ]













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【自然エネルギー 各論1】 太陽エネルギーの直接利用について。
(本エントリー記事は、『「即時脱・原発を可能にする、「段階的電源移行論」』と言う試案http://yanotakumi.seesaa.net/article/229859926.html の補強のための一連の連続記事の一部ですので、初めての方は、上記記事を先にお読みいただければ幸いです。)。  さて、自…

2011.10.27 05:45 | 元・東電社員が語る、脱原発への道筋。今後の日本の政治、社会。

TPP推進論に足りないこと
   日本政府や政治家や報道機関から出てくるTPP(環太平洋連携協定)推進論を読んでいても相変わらず全く物足りなく感じます。物足りないのは説明不足のせいであり、現場の人々を納得させることのできる...

2011.10.31 23:38 | 村野瀬玲奈の秘書課広報室

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2011.10.31 23:39 | 村野瀬玲奈の秘書課広報室