もともとこの季節の台風は大きな被害をもたらすことが多いが、特に近年は短時間にすさまじい量の降雨を記録することが多い。2004年にはいくつもの台風が当時私が住んでいた四国を襲い、多くの犠牲者を出すとともに、山沿いなどのあちこちで道路が寸断される被害があった。翌2005年はカレンダーが今年と同じなのだが、9月第2週に四国山地に集中豪雨があって、一夜にして貯水率0%だった早明浦ダムが満水になったことがある。その翌月四国山地を訪れた時、山道が随所でズタズタになっていることを身を持って知った。
徳島県の東祖谷村では林業がすっかり衰え、人口の大部分が土建業を生活の糧にしていると聞いたのはその数年前だった。林業が衰退し、間伐が適切に行なわれなくなると森林が荒廃して山の保水力が低下するという。2005年の剣山山地の被害をそれと結びつけるのは短絡かもしれないが、中山間地域から人が失われていき、残った人々も林業を離れて土建業で食っていかざるを得なくなるのは日本にとって深刻な問題だ。適切な間伐を行ない、間伐材を利用してバイオマス発電を行なおうという動きがもっと出てきても良いと思うのだが、そんなニュースがマスメディアに報じられることは少ない。
いや、問題は中山間地域だけではない。今朝(9/9)の朝日新聞1面トップは、岩手・宮城・福島の3県で東日本大震災後3.6万人の提出超過になっているとの記事だった。震災そのものに加えて東京電力の福島第一原発の事故が影響していることは間違いない。関東との結びつきが強い福島県からは首都圏への流出が多い。
こうして地域は衰えていく。これは、市場原理に任せたために人口が都市部、特に首都圏に集中したためではない。そういう政治を行なってきた結果だ。原発という「迷惑施設」は過疎の地を選んで建てられるが、原発立地自治体の市町村自体では、電源三法交付金や固定資産税、法人市民税などの歳入があって一時的に財政が潤うが、その時に無駄なハコモノに金を使ってしまうと電源三法交付金や固定資産税が減っていった時にハコモノの維持費などが自治体の財政を圧迫して、自治体はたまらず原発の増設を求めるようになる。これはしばしば覚醒剤(シャブ)中毒になぞらえられる。そして、原発の集中立地が原発のシビアアクシデントのリスクを高めることを実証したのが今年の東電原発事故だった。
今後の日本が「脱原発」を進めなければならないことは当然だ。しかし、総理大臣が従来原発推進に積極的だった野田佳彦に代わって10日ほどになるが、「脱原発」が報道される頻度は目に見えて減ってきた。現在はまだ「菅前首相にきく」などの記事が三大全国紙に一斉に載るなどして原発に関する記事が新聞に載っているが、それも間もなくなくなるだろう。
野田佳彦というのはなかなか狡猾な男であり、私はこの男を「羊の皮を被った狼ならぬ豚」とひそかに命名している。経産大臣に旧社会党にして昨年9月の民主党代表選で小沢一郎ではなく菅直人を支持した鉢呂吉雄を任命した。野田首相や鉢呂経産相は現在では「将来は原発ゼロ」、「新規原発の建設はやらない」などと言って、中国電力に上関原発を建設させたい山口県知事の二井関成(にい・せきなり)の反論を引き出したりしているが、鉢呂経産相はともかくとして野田佳彦にとってはこれはポーズもいいところで、結局原発の再稼働は「原発推進派」の海江田万里のような人間ではなく、「原発慎重派」の鉢呂吉雄がやることになるのである。原発推進派に再稼働をやらせて世論の反発を招くより原発慎重派の鉢呂吉雄に再稼働をやらせる方が得策という、いかにも本音では原発推進派の野田佳彦の考えそうな人事だと思った。
このあたりの狡猾さが鳩山由紀夫や菅直人と野田佳彦の違いだ。原発推進派の鳩山由紀夫は、経産相に旧民社の直嶋正行を任命した。鳩山は一方で自然エネルギー推進論者でもあったが、経産相に旧民社の人間を起用して自然エネルギーが推進できるはずがない。案の定骨抜きにされて鳩山自身が何やらぼやいていたが、そんなのは直嶋正行を経産相にした鳩山由紀夫の責任以外のなにものでもなかった。
ところで、『kojitakenの日記』でこき下ろしておいた、陰謀論系小沢信者にして当ブログコメント欄荒らしの常連が、一点だけまともなことを書いていたので、このウジ虫の助言を受け入れて9月7日付読売新聞の社説にリンクを張っておく。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20110906-OYT1T01165.htm
読売新聞は、「脱原発」の菅直人が政権を手放し、本音では原発推進派の野田佳彦が総理大臣に就任したのがうれしくてたまらないらしい。早く野田佳彦に「原発推進」を明確にせよとせっついている。実にバカバカしい社説だけれど、新聞の社説は一定期間が過ぎるとアクセスできなくなるので、追記欄に社説の抜粋を示しておく。
私が言いたいのは、原発事故のリスクもさることながら、国土の均衡発展を妨げ、人口の都市部集中を加速させるだけの原発の推進に未だにこだわる読売新聞とは、大昔に正力松太郎が方向づけて動かした力の惰性によって今なおナンセンスな記事を撒き散らしている、この国の未来にとって百害あって一利なしの新聞なのだなあということだ。それもそう長くは続かないだろうけれど。
[付録] 2011年9月7日付読売新聞社説(抜粋)
エネルギー政策 展望なき「脱原発」と決別を(9月7日付・読売社説)
◆再稼働で電力不足の解消急げ◆
電力をはじめとしたエネルギーの安定供給は、豊かな国民生活の維持に不可欠である。
ところが、福島第一原子力発電所の事故に伴い定期検査で停止した原発の運転再開にメドが立たず、電力不足が長期化している。
野田首相は、電力を「経済の血液」と位置づけ、安全が確認された原発を再稼働する方針を示している。唐突に「脱原発依存」を掲げた菅前首相とは一線を画す、現実的な対応は評価できる。
首相は将来も原発を活用し続けるかどうか、考えを明らかにしていない。この際、前首相の安易な「脱原発」に決別すべきだ。
◆節電だけでは足りない◆
東京電力と東北電力の管内で実施してきた15%の電力制限は、今週中にすべて解除される。
企業や家庭の節電努力で夏の電力危機をひとまず乗り切ったが、先行きは綱渡りだ。
全国54基の原発で動いているのは11基だ。再稼働できないと運転中の原発は年末には6基に減る。来春にはゼロになり、震災前の全発電量の3割が失われる。
そうなれば、電力不足の割合は来年夏に全国平均で9%、原発依存の高い関西電力管内では19%にも達する。今年より厳しい電力制限の実施が不可避だろう。
原発がなくなっても、節電さえすれば生活や産業に大きな影響はない、と考えるのは間違いだ。
不足分を火力発電で補うために必要な燃料費は3兆円を超え、料金に転嫁すると家庭で約2割、産業では4割近く値上がりするとの試算もある。震災と超円高に苦しむ産業界には大打撃となろう。
(中略)
野田首相は就任記者会見で、原発新設を「現実的に困難」とし、寿命がきた原子炉は廃炉にすると述べた。これについて鉢呂経済産業相は、報道各社のインタビューで、将来は基本的に「原発ゼロ」になるとの見通しを示した。
◆「新設断念」は早過ぎる◆
代替電源を確保する展望があるわけではないのに、原発新設の可能性を全否定するかのような見解を示すのは早すぎる。
首相は脱原発を示唆する一方、新興国などに原発の輸出を続け、原子力技術を蓄積する必要性を強調している。だが、原発の建設をやめた国から、原発を輸入する国があるとは思えない。
政府は現行の「エネルギー基本計画」を見直し、将来の原発依存度を引き下げる方向だ。首相は、原発が減る分の電力を、太陽光など自然エネルギーと節電でまかなう考えを示している。
国内自給できる自然エネルギーの拡大は望ましいが、水力を除けば全発電量の1%に過ぎない。現状では発電コストも高い。過大に期待するのは禁物である。
原子力と火力を含むエネルギーのベストな組み合わせについて、現状を踏まえた論議が重要だ。
日本が脱原発に向かうとすれば、原子力技術の衰退は避けられない。蓄積した高い技術と原発事故の教訓を、より安全な原子炉の開発などに活用していくことこそ、日本の責務と言えよう。
◆原子力技術の衰退防げ◆
高性能で安全な原発を今後も新設していく、という選択肢を排除すべきではない。
中国やインドなど新興国は原発の大幅な増設を計画している。日本が原発を輸出し、安全操業の技術も供与することは、原発事故のリスク低減に役立つはずだ。
日本は原子力の平和利用を通じて核拡散防止条約(NPT)体制の強化に努め、核兵器の材料になり得るプルトニウムの利用が認められている。こうした現状が、外交的には、潜在的な核抑止力として機能していることも事実だ。
首相は感情的な「脱原発」ムードに流されず、原子力をめぐる世界情勢を冷静に分析して、エネルギー政策を推進すべきだ。
(2011年9月7日01時19分 読売新聞)
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請許為トラバ不可
【自民党政治延命の政治改革は失敗!! 列島に根を張る主権者国民の力が 「アメリカいいなり・財界中心政治」の本質を抉り出した】
五十嵐仁の転成仁語
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/
9月7日(水) 政治改革の失敗によって自縄自縛となった日本政治 [政局]
は、
下記のように(---内)閉塞した日本政治の現状を、詳しく、正確に分析し、説明しております。目から鱗です。
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昨日のブログで、日本の政治はどうしてかくも劣化してしまったのでしょうか、と問題を提起しました。色々な回答が可能でしょうが、その要因の最たるものは政治改革の失敗だったと思います。
企業・団体献金を禁止せずに政党助成金を導入し、小選挙区制を中心とする選挙制度に変えたために、日本の政治は「改革」どころか「解体」の危機に瀕し、自縄自縛に陥ってしまいました。細川内閣によってなされたのは「政治改革」ではなく、「政治解体」だったのです。
(以下省略、詳しくは下記サイトにあります)
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/
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2011.09.09 13:46 URL | hamham #wMyNaENg [ 編集 ]
このコメントは管理者の承認待ちです
2011.09.09 16:15 | # [ 編集 ]
ご忠告ありがとうございます。この社説のインパクトが強かったものでつい。せめてけなしてからが礼儀かな、とは思ったのですが…。
それより、私自身はここに粘着状態になってしまっていることの方が「カコワルイ」ようで悩んでいます。もっとみなさんにまぎれてさりげなくコメントしたいのですが…。これでまた、右側にはsuterakusoがやたらと並ぶのでしょうね。
2011.09.09 21:04 URL | suterakuso #- [ 編集 ]
各脱原発・反原発団体などを支援しよう。
9・11:経産省を人間の鎖で囲もう!1万人アクション | 福島原発事故緊急会議 情報共同デスク
http://2011shinsai.info/node/660
http://2011shinsai.info/
集まれ5万人! 9・19は「さようなら原発集会」へ | さようなら原発1000万人アクション
http://sayonara-nukes.org/2011/09/110919_s-2/
http://sayonara-nukes.org/2011/08/110919_s/
脱原発:「さようなら原発」決断を 大江さんら新政権に要請、声明を発表 - 毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20110907ddm012040006000c.html
◇19日に都内で集会
2011.09.09 23:34 URL | isdpjsure #He9/JPOs [ 編集 ]
いくら口で「差別はよくない」と言っても、
足元にあるものを土足で踏み付けるまねをしていたら、
何事もうまくいかない。
2011.09.09 23:57 URL | 観潮楼 #- [ 編集 ]
suterakusoさん、
あの『kojitakenの日記』のエントリ自体「ネタ」ですので、気になさる必要は全くありません。気にしてたら、それこそ「ネタにマジレス」になってしまいます。
ブログを長年やっていると、どうしても「ケレン味たっぷり」になり、あつかましい限りの文章を書いてしまって、われながらひどいもんだなあと思いますが、そうでもしなければブログなんて運営できないというのもまた実感です。この5年間でずいぶん面の皮が厚くなりましたよ。
2011.09.10 00:06 URL | kojitaken #e51DOZcs [ 編集 ]
今回の鉢呂氏ばかりは同情を禁じ得ない。
政治部のバカタレどもの伝言ゲームだけだろ。
政治記者って何様だよ。
どうせオフレコで「福島滅びろ」とか言ってんだろ。
前々から思っていた「政治不信を拡大させたのは永田町の論理をふりかざす政治記者と評論家」という仮説を
今回も証明することになるのかも。
2011.09.10 22:23 URL | 観潮楼 #- [ 編集 ]
鉢呂大臣がまだ大臣として何もしないうちに辞任に追い込められました。
脱原発派で自然エネルギー推進の署名をしていた彼は、また自然エネルギー推進の菅前総理に近い人物でもありました。
先の死の町発言で噛みつかれ、とどめは記者との放射能がどうたらとかいうくだらないやりとりです。
鉢呂大臣にしてみれば、まさかこんなことで追い詰められるとは思ってもいなかったと思います。
しかし国策に逆らう動きをする恐れのあるというだけで、体制側はそんな人物を大臣にしておくわけがないのです。
たとえ総理大臣でも国策に反する動きをすればこの国では引きずり降ろされます。
鉢呂大臣は、まさに革命的警戒心が足らなかったということでしょう。
しかしまた、この国のシステムを変えない限り、誰がなっても絶対に同じ目にあわされるはずです。
ちなみに私にはなぜ死の町と発言したのがいけないのかまったくわかりません。
たしかに表現は少しきついのかもしれませんが、現実に福島第一原発の周辺は人が一人も住めないまさに死の町になっているのです。
それを帰還を願う住民の気持ちを逆なでするのはけしからんなどと非難するのでは、世界から呆れられます。
しかもそれを言うのが自民党の副総裁なのですから天に唾をするようなものです。
国策として原発エネルギーを推進させ安全を神話にまでした責任政党が自民党です。
原発周辺を死の町にした責任者ではないですか。
それが鉢呂大臣の発言を逆手に取るように避難し、それに自治体の首長が寄り添うように呼応し、マスコミが責めたてる。
なんとももはや私の中の腹立たしさは沸騰点に達するようです。
もはや原発周辺の汚染度の高い土地になど人は住めるわけがないのです。
それをはっきり認めれば東電の賠償につながるので曖昧にして誤魔化し続けているのです。
鉢呂大臣がそれをあっさりと認める様な態度を取ったので彼は引きずり降ろされたのです。
このまま御用学者の山下教授のような人物の指導で多くの住民が危険な汚染地帯に戻されてしまったら、多くの人が癌発症などの危険にさらされることになります。
しかしそれでも原発を推進したい連中はかまわないと思っているのでしょう。
専門家の一人もいない安全委員会の主導の下に形だけの除染が行われて多くの住民が汚染地帯に戻されていくのです。
そこには200万人の調査が出来るとほくそ笑む山下教授率いる御用研究者が待ち構えています。
彼らは被曝し続ける事になる住民が癌を発症しても決して原因は原発だとはいわないでしょう。
なぜならばそれが彼らが多額な研究費を手中に収める取引条件だからです。
ちなみに山下教授の福島での研究テーマは「カタストロフィ効果理論」だそうです。
これは、連続する事象を背景として不連続な事象が発生する過程を追究しようとする理論のことです。
つまり生物の体中で少しずつ起こる変化、青虫が蝶へと劇的に変態を遂げたりするプロセスを解明しようとするもので、突然の破壊・崩壊が起こるプロセスなどを研究するものです。
このままだと将来癌患者が大量に発生するだろう福島で彼がやろうとしている事が見えてくるようです。
恐ろしいことです。
話がそれましたが抜本的な国家の変革をしないままでは民主主義は実現しません。
霞が関主導の低次元の三文芝居が続くまま日本は終演を迎える事になるのでしょう。
大事なのは国家システムの変革です。
これを避けて通る事は決して出来ないのです。国民の幸せの為には。
2011.09.11 00:22 URL | 風太 #seTEoywg [ 編集 ]
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鉢呂経済産業大臣、失言辞任で脱原発への打撃招いた罪は重い
鉢呂経済産業大臣が辞任しました。
しかしまあ、「閣僚の首が何個あっても足りない」状況ですね。
ただ、自民党も、あまり深追いしすぎると、結局、自分たちにはね帰ってくるように思います。
わたくしの個人的な思いとしては、大臣側はあまりに脇が甘い、と思い...
2011.09.10 22:52 | 広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)