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きまぐれな日々

今年のゴールデンウィークは、風邪で寝込んでしまい、最低でした。

やりたいことはほとんど何もできず。
下記2冊の本を読んだくらいかな。

高千穂遙「自転車で痩せた人」(NHK出版・生活人新書)
筒井康隆「大いなる助走」(文春文庫)

前者は、50歳を過ぎて自転車に乗り始め、わずか2年で24キロの減量を成し遂げ、体脂肪率を24%から10%以下にしたという著者の快著。自転車については、よく使うにもかかわらず、私は今までほとんど機種にも手入れにも無頓着だった。昨年頃から考えを改めなければと思いながらも、何もせず今に至っている。これではいかん、本格的に動き始めないとという気にさせられた。

後者「大いなる助走」は、1979年の作品で、20年ほど前に読んだことがあるが、文春文庫で字を大きくした新装版が出ていたので、しばらく前に再読しようと買っていたもの。
文壇の内幕を暴露し、かつて直木賞候補になりながら落選の憂き目を見た筒井氏が、私怨を晴らした小説として、発表当時話題になった作品。
主人公の市谷京二が、地方の同人誌に、自らが勤めている会社の内幕を暴露した小説を掲載したところ、それが「直廾賞」候補作品になる。小説のせいで会社をクビになった市谷は、「直廾賞」を獲るしか生きる道はないと考え、裏工作に奔走するが、デタラメな選考の末、落選してしまう。これに逆上した市谷は、選考委員の老大家らを次々と射殺して回る、というストーリーである。1979年に東京・世田谷区で起きた祖母殺し事件(本多勝一のルポ「子供たちの復讐」で有名な事件)の犯人・朝倉泉少年に影響を与えた作品としても知られる。
「直廾賞」(読みはよくわからない)はいうまでもなく「直木賞」のもじりで、モデルになった選考委員は松本清張、川口松太郎、源氏鶏太、海音寺潮五郎氏らだとされている。

昔読んだ時は、痛快な読後感だったが、読み直してみると、苦さが残った。それは、文庫本の解説でも、故大岡昇平氏が指摘している箇所なのだが、「おれたちはいったい何をしているのかなあ」で始まる、同人誌仲間の会話の部分だ。読後感の変化は、その間に私が過ごした時間の重みだ。そして、文庫本の解説を書いた大岡昇平は、1988年に没している。なぜ没年を覚えているかというと、昭和天皇の病気について、大岡氏が新聞にコメントを出した記事を読んだあと、昭和天皇より先に大岡氏が死去されたことが印象に残っているからだ。
「大いなる助走」が「別冊文藝春秋」に連載されていた頃、連載中止の圧力をかけたという松本清張氏も、もうこの世にいない。モデルになった他の直木賞選考委員たちも、みな世を去っている。
筒井氏自身も大きく変化した。「大いなる助走」中で、SF作家として自ら登場する筒井氏は、「SFご三家と呼ばれている中ではいちばん若い」とはいえ「四十歳は過ぎていて、前髪など垂らし若造りをしているだけである」と、自らを描いている。ちなみに文庫本171ページのSF作家の科白「声が違う口が違う目つきが違う態度が違う」は、山口百恵のヒット曲「イミテーション・ゴールド」(1977年)のパロディだ。
その筒井氏は、70年代末から純文学雑誌での作品発表が増え、「文学部只野教授」(岩波書店、1991年)あたり以降は、文学論でも巨匠扱いされる大家になった。
そして、今、「巨船ベラス・レトラス」という、「大いなる助走」の続編ともいえる長編を書いているという筒井康隆氏も、もう71歳だ。
もちろん、読者の私も年をとった。年齢を重ねていくにつれ、「われわれはいったい何をしておるのか」という問いかけは重くなっていく。ともすれば気力を失いそうになることもあるが、20年以上も前に大岡昇平氏が書いた、「大いなる助走」の文庫本に寄せた解説文に改めて刺激されて、70歳を過ぎて長編に挑む筒井氏を見習わねばなるまい。人生死ぬまで勉強と挑戦なのだ。

なお、筒井氏の著書では、中公文庫「小説のゆくえ」も読み始めた。
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2006.05.07 17:07 | 読んだ本 | トラックバック(-) | コメント(-) | このエントリーを含むはてなブックマーク