30年前の今日、7月27日は、ロッキード事件に関与したとして、田中角栄元首相が逮捕された日だ。「蝉の鳴く頃高官逮捕だ」と稲葉法相が予告した通り、夏の暑い日、角栄は逮捕された。「総理大臣の犯罪」として話題になったものだ。この事件が元で自民党は支持を失い、年末の総選挙で三木赳夫内閣は退陣し、福田赳夫内閣が成立した。しかし、無所属で立候補した田中角栄は、地元新潟三区で圧倒的な得票を得て当選し、以後、闇将軍として政界に君臨することになった。
以上のことはあまりにも有名だが、このロッキード事件で、「編集高官」として疑惑が取り沙汰されたジャーナリストがいたことを知っている人は少ないだろう。そのジャーナリストとは、ナベツネこと渡邉恒雄その人である。ナベツネは、中曽根康弘や児玉誉士夫との関係で知られる、異色のジャーナリストだったのである。
フリージャーナリストの魚住昭氏は、こう書いている。
『ロッキード社の「秘密代理人」児玉誉士夫の周辺を調べていくと、あちこちから渡邉の名が出てきた。3月には、鉱山経営者の緒方克行が渡邉と児玉の癒着を暴露した「権力の陰謀」も出版された。疑惑の「政府高官」として中曽根の名が一部で取りざたされたこともあって、渡邉を「編集高官」と揶揄するも者まで現れた』
(魚住昭「渡邉恒雄 メディアと権力」=講談社、2000年=第9章「社会部帝国主義を打倒せよ」より)
今回、この記事を書くにあたって、私はこの「渡邉恒雄 メディアと権力」を6年ぶりに通読した。この本は稀に見るすぐれたノンフィクションだ。これほどエキサイティングな本は、そうそうはない。
この本をどう要約しようかと思っていたのだが、思いがけずウェブ検索で、魚住氏が自著を語ったインタビュー記事("TIMEBOOK TOWN" より 「知のゆくえ」第14回)を見つけた(下記URL)。
http://www.timebooktown.jp/Service/clubs/00000000/f04/f04_14_01.asp
これは、たいへん長いインタビュー記事だが、印象的な言葉が散りばめられているので、是非全文を読んで欲しい。そして、今では講談社文庫に収められている「渡邉恒雄 メディアと権力」を是非読んで欲しいと思う。
反骨のジャーナリストである魚住氏は、安倍晋三にも挑んでいる。月刊「現代」の2005年9月号に掲載された「『政治介入』の決定的証拠」という記事がそれである。いうまでもなく、安倍晋三らがNHKに圧力をかけて番組を改変させた一件に関する記事である。どういうわけか、雑誌の発行元・講談社のサイトには良い記録が残っていないので、天木直人「メディアを創る」の昨年8月2日の記事 「勝負がついたNHKの政治圧力問題」 をあげておく。
この月刊「現代」の記事に対して、安倍が実にふざけたリアクションを示したのだが、魚住氏は「ゲンダイネット」に、それを痛烈に批判した記事 「安倍晋三の噴飯反論と朝日の弱腰」 を掲載した。しかし、朝日新聞は安倍晋三の恫喝に屈服してしまったのである。この後、朝日新聞の紙面は死んだようになってしまった。
以上のことはあまりにも有名だが、このロッキード事件で、「編集高官」として疑惑が取り沙汰されたジャーナリストがいたことを知っている人は少ないだろう。そのジャーナリストとは、ナベツネこと渡邉恒雄その人である。ナベツネは、中曽根康弘や児玉誉士夫との関係で知られる、異色のジャーナリストだったのである。
フリージャーナリストの魚住昭氏は、こう書いている。
『ロッキード社の「秘密代理人」児玉誉士夫の周辺を調べていくと、あちこちから渡邉の名が出てきた。3月には、鉱山経営者の緒方克行が渡邉と児玉の癒着を暴露した「権力の陰謀」も出版された。疑惑の「政府高官」として中曽根の名が一部で取りざたされたこともあって、渡邉を「編集高官」と揶揄するも者まで現れた』
(魚住昭「渡邉恒雄 メディアと権力」=講談社、2000年=第9章「社会部帝国主義を打倒せよ」より)
今回、この記事を書くにあたって、私はこの「渡邉恒雄 メディアと権力」を6年ぶりに通読した。この本は稀に見るすぐれたノンフィクションだ。これほどエキサイティングな本は、そうそうはない。
この本をどう要約しようかと思っていたのだが、思いがけずウェブ検索で、魚住氏が自著を語ったインタビュー記事("TIMEBOOK TOWN" より 「知のゆくえ」第14回)を見つけた(下記URL)。
http://www.timebooktown.jp/Service/clubs/00000000/f04/f04_14_01.asp
これは、たいへん長いインタビュー記事だが、印象的な言葉が散りばめられているので、是非全文を読んで欲しい。そして、今では講談社文庫に収められている「渡邉恒雄 メディアと権力」を是非読んで欲しいと思う。
反骨のジャーナリストである魚住氏は、安倍晋三にも挑んでいる。月刊「現代」の2005年9月号に掲載された「『政治介入』の決定的証拠」という記事がそれである。いうまでもなく、安倍晋三らがNHKに圧力をかけて番組を改変させた一件に関する記事である。どういうわけか、雑誌の発行元・講談社のサイトには良い記録が残っていないので、天木直人「メディアを創る」の昨年8月2日の記事 「勝負がついたNHKの政治圧力問題」 をあげておく。
この月刊「現代」の記事に対して、安倍が実にふざけたリアクションを示したのだが、魚住氏は「ゲンダイネット」に、それを痛烈に批判した記事 「安倍晋三の噴飯反論と朝日の弱腰」 を掲載した。しかし、朝日新聞は安倍晋三の恫喝に屈服してしまったのである。この後、朝日新聞の紙面は死んだようになってしまった。
さて、話をナベツネに戻す。魚住氏が指摘するように、ナベツネの思想の根底には、大衆侮蔑がある。そしてそれは、小泉・竹中・安倍の政策とも相通じるものなのだ。
「渡邉恒雄 メディアと権力」を何回読んでも腹が立つのは、ナベツネが読売新聞の社論を大きく右に傾けたことである。自衛隊の憲法9条解釈に関する裁判所の違憲立法審査権をナベツネは否定し、自衛隊の戦力の憲法判断を、高度の政治的問題として司法の審査対象外とする「統治行為論」に転換した(「渡邉恒雄 メディアと権力」第11章「異端排除」)。それだけならまだ「立場の違い」で済むのだが、ナベツネは意見の合わない記者たちを次々と追い出したり、冷や飯を食わせたりしたのである。
大阪読売の「黒田軍団」を放逐したいきさつ、それに対抗しようとして敗れた「黒田軍団」の記事について書かれたくだりは、何度読んでも悔しさで目頭が熱くなる。今の大阪読売は、東京本社版となんら変わらない紙面だが、かつては右傾化を強める東京読売に対抗するかのように、反戦平和を訴えた大阪読売の社会部があったのだ。現在、テレビ朝日の「やじうまプラス」で売国奴・勝谷誠彦と並んで水曜日のコメンテーターをつとめている大谷昭宏氏は、「黒田軍団」のエース記者だった。その大谷氏を、勝谷がネットの記事で揶揄している文章を見た記憶があるが、「怒り心頭に発する」とはこのことだった。
なお、TBSの「NEWS23」にもたびたび出演されていた黒田清氏は、2000年7月23日に亡くなられた。それから、もう6年になる。
ナベツネが最終的に読売の社長にのし上がる過程で、ライバルの丸山巌氏を陥れたやり口や、社長になってから自民党政治家のスキャンダルをもみ消したやり口にいたっては、ジャーナリストの良心はおろか、人間としての倫理観も失いつつある権力者の姿を見るようで慄然となる。ナベツネは90年代末の「自自公」連立にも関与した。朝日新聞や毎日新聞だけでなく、多くの週刊誌が反対した通信傍受法案にも、読売は賛成した。果ては産経新聞に急接近し、共同通信および地方紙を潰そうとたくらんだ。首相の靖国神社参拝にも、肯定的な社説を掲載した。
これが、90年代末から21世紀最初の数年にかけての読売新聞であり、渡邉恒雄だった。
魚住昭氏はこう書く。
『かつて誰よりも自由を愛した哲学青年は、国家の論理をふりかざして記者たちの言論の自由を脅かす巨大な権力者に変身した。そして彼は「国家と対峙する新聞」から「国家と一体化する新聞」へとジャーナリズムの理念そのものまで変えようとしている』
(魚住昭「渡邉恒雄 メディアと権力」第13章「野望」より)
ナベツネは、プロ野球の世界をも、弱肉強食の新自由主義的世界に変え、読売ジャイアンツは「巨大戦力」をもって、2000年と2002年に日本一になったが、その後崩壊した。
今年のペナントレースでは、6月上旬までは首位を走っていたが、奇しくも安倍晋三の統一協会への祝電事件がネットで暴かれた6月5日(移動日でプロ野球の試合はなし)を境にして、翌6月6日(「666の日」)から10連敗し、そのあと2連勝後にさらに9連敗と、21試合でなんと2勝19敗と急降下したのである。テレビ局もお荷物の巨人戦中継を見放しつつある。
魚住昭氏は、こう書いている。
『こうして戦力の不均衡が起こり、一時的には巨人が勝ったものの、その後は彼の思惑通りにはいきませんでした。そうした流れの行き着く先は、プロ野球全体の人気低迷と、パ・リーグにおける経営危機だけだった。慌てて1リーグ制という荒療治を持ち出したものの、結果的にはうまくいかなかったわけです。
まあ、プロ野球は戦力が均衡しないと面白くない、弱肉強食では全体の繁栄はない、という認識を多くの人に知らしめたという意味では、先のプロ野球のゴタゴタは決して無駄ではなかったと言えるかもしれませんが。
しかし、私はこうした流れはプロ野球の問題だけでは終わらないと見ています。例えば政治の世界で言えば、現在の小泉政権が進めてきた弱肉強食の構造改革も、矛盾の激化による経済、社会の破綻に行き着くということを、先のプロ野球の問題は予告しているのではないでしょうか。希望的観測にすぎないかもしれませんが、プロ野球界で起こった弱肉強食に対する見直しの気運が数年後にもっと大きな世界で起きる、いや起きて欲しいのです。無論、競争は必要ですが、それが行き過ぎるのはやはり問題です。強者だけが生き残っても、弱者がいなければ強者もありえないのですから。
人間は自由で平等であるという戦後民主主義の理念は、この10年ほどで大きく後退したわけですが、それがプロ野球の世界では、一定の歯止めがかかりつつあるのではないでしょうか。次に日本の社会全体でも歯止めをかけられるかどうか。それは我々と皆さんの考え方次第。多くの人が、グローバリゼーションという名の弱肉強食主義のいかがわしさを、いかに意識するか。すべてはそこにかかっているのではないでしょうか。』
(「知のゆくえ」第14回・魚住昭="TIMEBACK TOWN"より)
そんな渡邉が昨年、突如変わった。若き日を思い出したかのように、靖国神社への首相参拝を批判し、日本人の手で戦争責任を追及しようと、読売新聞の紙面を通じてキャンペーンを張っている。自らが育てたモンスターの恐ろしさに気づき、それを撃とうと、人生最後の闘いに挑んでいるのであろうか。漫画「MONSTER」の天馬賢三のように。
(更新: 2006年9月9日)
(最終更新: 2008年3月1日)
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大阪読売の「黒田軍団」を放逐したいきさつ、それに対抗しようとして敗れた「黒田軍団」の記事について書かれたくだりは、何度読んでも悔しさで目頭が熱くなる。今の大阪読売は、東京本社版となんら変わらない紙面だが、かつては右傾化を強める東京読売に対抗するかのように、反戦平和を訴えた大阪読売の社会部があったのだ。現在、テレビ朝日の「やじうまプラス」で売国奴・勝谷誠彦と並んで水曜日のコメンテーターをつとめている大谷昭宏氏は、「黒田軍団」のエース記者だった。その大谷氏を、勝谷がネットの記事で揶揄している文章を見た記憶があるが、「怒り心頭に発する」とはこのことだった。
なお、TBSの「NEWS23」にもたびたび出演されていた黒田清氏は、2000年7月23日に亡くなられた。それから、もう6年になる。
ナベツネが最終的に読売の社長にのし上がる過程で、ライバルの丸山巌氏を陥れたやり口や、社長になってから自民党政治家のスキャンダルをもみ消したやり口にいたっては、ジャーナリストの良心はおろか、人間としての倫理観も失いつつある権力者の姿を見るようで慄然となる。ナベツネは90年代末の「自自公」連立にも関与した。朝日新聞や毎日新聞だけでなく、多くの週刊誌が反対した通信傍受法案にも、読売は賛成した。果ては産経新聞に急接近し、共同通信および地方紙を潰そうとたくらんだ。首相の靖国神社参拝にも、肯定的な社説を掲載した。
これが、90年代末から21世紀最初の数年にかけての読売新聞であり、渡邉恒雄だった。
魚住昭氏はこう書く。
『かつて誰よりも自由を愛した哲学青年は、国家の論理をふりかざして記者たちの言論の自由を脅かす巨大な権力者に変身した。そして彼は「国家と対峙する新聞」から「国家と一体化する新聞」へとジャーナリズムの理念そのものまで変えようとしている』
(魚住昭「渡邉恒雄 メディアと権力」第13章「野望」より)
ナベツネは、プロ野球の世界をも、弱肉強食の新自由主義的世界に変え、読売ジャイアンツは「巨大戦力」をもって、2000年と2002年に日本一になったが、その後崩壊した。
今年のペナントレースでは、6月上旬までは首位を走っていたが、奇しくも安倍晋三の統一協会への祝電事件がネットで暴かれた6月5日(移動日でプロ野球の試合はなし)を境にして、翌6月6日(「666の日」)から10連敗し、そのあと2連勝後にさらに9連敗と、21試合でなんと2勝19敗と急降下したのである。テレビ局もお荷物の巨人戦中継を見放しつつある。
魚住昭氏は、こう書いている。
『こうして戦力の不均衡が起こり、一時的には巨人が勝ったものの、その後は彼の思惑通りにはいきませんでした。そうした流れの行き着く先は、プロ野球全体の人気低迷と、パ・リーグにおける経営危機だけだった。慌てて1リーグ制という荒療治を持ち出したものの、結果的にはうまくいかなかったわけです。
まあ、プロ野球は戦力が均衡しないと面白くない、弱肉強食では全体の繁栄はない、という認識を多くの人に知らしめたという意味では、先のプロ野球のゴタゴタは決して無駄ではなかったと言えるかもしれませんが。
しかし、私はこうした流れはプロ野球の問題だけでは終わらないと見ています。例えば政治の世界で言えば、現在の小泉政権が進めてきた弱肉強食の構造改革も、矛盾の激化による経済、社会の破綻に行き着くということを、先のプロ野球の問題は予告しているのではないでしょうか。希望的観測にすぎないかもしれませんが、プロ野球界で起こった弱肉強食に対する見直しの気運が数年後にもっと大きな世界で起きる、いや起きて欲しいのです。無論、競争は必要ですが、それが行き過ぎるのはやはり問題です。強者だけが生き残っても、弱者がいなければ強者もありえないのですから。
人間は自由で平等であるという戦後民主主義の理念は、この10年ほどで大きく後退したわけですが、それがプロ野球の世界では、一定の歯止めがかかりつつあるのではないでしょうか。次に日本の社会全体でも歯止めをかけられるかどうか。それは我々と皆さんの考え方次第。多くの人が、グローバリゼーションという名の弱肉強食主義のいかがわしさを、いかに意識するか。すべてはそこにかかっているのではないでしょうか。』
(「知のゆくえ」第14回・魚住昭="TIMEBACK TOWN"より)
そんな渡邉が昨年、突如変わった。若き日を思い出したかのように、靖国神社への首相参拝を批判し、日本人の手で戦争責任を追及しようと、読売新聞の紙面を通じてキャンペーンを張っている。自らが育てたモンスターの恐ろしさに気づき、それを撃とうと、人生最後の闘いに挑んでいるのであろうか。漫画「MONSTER」の天馬賢三のように。
(更新: 2006年9月9日)
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「メディアと権力」を読んで目からウロコが落ちる思いをし、関連記事を検索してブログを読ませていただきました。いまの言論の安易な右傾化をもたらしたのが、この読売-自民のタッグだったんですね…まだ読後のブルーから抜けきれませんが、勇気をもって発言していきたいと思います。
2008.03.01 10:18 URL | aktmn #- [ 編集 ]
aktmnさん、
古いエントリへのコメント、どうもありがとうございます。
コメントいただいたのを機に、記事の体裁を一部変更しました。
魚住昭さんの著書は、「渡邉恒雄 メディアと権力」にとどまらず、必読書ばかりだと思います。
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