きまぐれな日々

 今年の黄金週間中に、安倍晋三が改憲を仕掛けてきた。今度は2020年施行というタイムリミットも設けてきた。

 正直言って、ただでさえ気の重い連休明けの日に取り上げたくない件なのだが、取り上げないわけにはいかない。

 今回読売新聞などで安倍晋三がブチ上げた改憲構想(以下「安倍改憲構想」と仮称する)の目玉は、なんといってもこれまでさんざん批判に晒されてきた2012年の自民党第2次改憲草案を棚上げして、改憲草案にあった「9条2項を変えて『国防軍』を書き込む」方針を一転させて「9条1項と2項はそのまま維持して、3項に自衛隊を明記する」という策に出てきたことだ。合わせて、教育無償化も憲法に書き入れるという。

 正直言って、今回は手強いと思う。もちろん、憲法遵守義務のある内閣総理大臣の安倍晋三自ら改憲構想を言い出すことは憲法違反の疑いが強いとか(これは5/7のサンデーモーニングで岸井成格が言っていた)とか、よく言われる「立憲主義をないがしろにする安倍政権下での憲法改正には絶対反対」とか、石破茂が言ったらしい「これまでの自民党内の議論とは整合しない」という意見など、いろんな反対論はあるが、いずれも世論に訴えて「安倍改憲構想」反対を国民の多数意見を形成できるかといえば誠に心許ないというのが正直な感想だ。

 憲法学者を見渡しても、たとえば一昨年の「安保法案反対」で共同戦線を張った改憲派の小林節と護憲派の樋口陽一が今回も共闘できるかといえば、どうだろうか。小林節は昨年だったか独自の改憲論を新書で発表していたように記憶するが、今回の安倍改憲構想について何を言っているか、軽くネット検索をかけたがわからなかった。水島朝穂が毎日新聞にコメントした内容は、有料記事(5ページ分は無料で読めるのでそれで読んだ)なので記事の引用はしないが、従来の自民党や安倍自身の主張と整合しないとか教育無償化は維新への配慮だろうとか安倍が言い出したのは森友学園事件から目をそらさせるためではないかなどなど、最後の森友学園云々以外はおっしゃる通りだと私も思うが、広く国民の理解が得られるかといえば誠に心許ない。また毎週更新している水島氏のサイトのコラム「直言」でも本日付の記事ではドイツの話が取り上げられていて、

日本国憲法施行70年や安倍政権の改憲動向については、来週以降の「直言」で書く予定である。

とのことだ。

 何より「やられた」と思うのは、「安倍改憲構想」の9条改憲の、2項はそのままにして3項を書き込むという案は、従来から小林節や矢部宏治や池澤夏樹や想田和弘や加藤典洋やその他多くの人たちが提案してきた「改憲案」よりマイルドだということだ。だから、憲法遵守義務だとか自民党の従来の改憲案と整合しないなどの論法が出てくるのだが、前者はともかく石破茂などが言っている「従来の自民党内でやってきた改憲の議論と整合しない」というのは、「右」からの「安倍改憲構想」への批判に過ぎない。リベラル・左派がこれに頼っているようでは勝機は全く見出せない。

 「野党共闘」を叫ぶ護憲派の間では、民進党さえしっかりしてれば勝てるという意見もある。しかし、その民進党自体の存続が危ぶまれる事態になっている。

 投票日まであと2か月を切った東京都議会選挙では、周知のように民進党の支持層の多くが「都民ファーストの会」に侵食されて民進党が歴史的大敗を喫する可能性が濃厚になっている。これは民進党の崩壊の引き金になる可能性が高い。民進党は既に大阪では国会(衆院選挙区では辻元清美のみ)はおろか府議会でも全88議席のうち1議席しかない政党になっている。東京でも同じような状態になれば、もともと「都市型政党」のはずだったことを考えると、党の大分裂というか雲散霧消が現実味を帯びてくる。

 しかも、今後国政への進出が予想される「都民ファーストの会」代表の野田数が、大日本帝国憲法の復活を求める、安倍晋三どころではないとんでもない極右であることを考えれば、「民進党さえしっかりしていれば安倍の改憲を阻止できる」などというのは、全くあてにならない楽観論だとしか私には思えない。それでなくても、民進党の議員の多くは保守か右翼であって、今は岡田克也代表と枝野幸男幹事長の時代に敷かれた「立憲主義に反する安倍総理の下での壊憲には反対」という基本方針に従っているだけだから、彼らが「都民ファーストの会」の国政版政党に移った時には改憲賛成側に回ることは目に見えている。

 この記事を書く直前に、東洋経済新報オンラインに泉宏氏という人(調べてみると元時事通信の政治部長らしい。当然保守系の人と思われる)が書いた「安倍改憲の本丸『9条改正』に待ち受ける関門」と題した記事を読んだ(下記URL)。
http://toyokeizai.net/articles/-/170745

 上記リンク先の記事によると、

首相が着目したのは施行70年の節目となる憲法記念日だった。4月24日夜には、数年前に独自の改憲試案を紙上で発表した読売新聞の渡辺恒雄・グループ本社主筆と会食。同26日には同紙の単独インタビュー応じ、その内容が同紙の5月3日朝刊の一面トップに掲載された。

とのことだ。

 やっぱりナベツネの入れ知恵だったのか。道理で手強いはずだ。ナベツネはもうヨボヨボで、現場の記者たちが取り仕切るようになったと思い込んでいたが違ったようだ。

 今回の「安倍改憲構想」は安倍のもともとのイデオロギーとは整合しないが、安倍や自民党が多くの「顔」を持っているとは、従来から坂野潤治が指摘していたことだ。

 4年前の「96条改憲」の時と違って、今度は安倍晋三は本気だ。多くの人があらゆる知恵を振り絞って全身全霊で対抗言論を紡ぎ出して世の人々を説得できなければ勝てない(この記事で具体的なことを書けないのは私の無能による)。いくら世論調査で「9条維持」が多数派だとはいっても、「いや、2項はそのままにして3項に自衛隊を明記するだけだから」と言われれば9条改憲賛成に転向する人間が続出するのは目に見えている。なにしろ、NHKは岩田明子を頻繁に登場させて視聴者の洗脳に余念がないし、読売は完全に安倍自民党の機関紙と化している。

 次の世論調査では、「安倍流の9条改憲」に賛成する人が一気に増えるのではないか。それはほぼ間違いないように私には思われる。
スポンサーサイト