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きまぐれな日々

 今年は括弧付きの「リベラル・左派」が7月の東京都知事選で小池百合子に肩入れしたかと思うと、11月のアメリカ大統領選では「小沢信者」及びその流れを汲む人たちを中心とする「リベラル」どもが「クリントンよりトランプがマシ」と合唱するなど、「『リベラル』の劣化もここまできたか」と心の底からうんざりさせられる年だった。

 それは何も支持者に限った話ではなく、財政再建原理主義者の岡田克也のあとを受けた民進党代表の蓮舫が、党幹事長に岡田以上の財政再建原理主義者にして、政治思想的にも中道に近かった岡田よりもずっと右寄りの野田佳彦を指名したことで、ただでさえ衰勢のこの党の前途をさらに暗くしたのだった。

 野党第一党のふがいなさが与党の弛みを引き起こすのは世の常である。このところの安倍政権のダメっぷりにも本当に呆れるばかりだ。トランプが当選してTPPの発効が絶望的になってもTPP批准案を強行採決し、さらに関連法案をすべて成立させようとしている。その一方でまだ大統領にもなっていないトランプに会いに行って、おそらくTPP参加への心変わりをおねだりしたと思われるが、トランプはあっさり大統領就任初日にTPPを脱退することをビデオメッセージで明らかにした。

 その一方で、気候変動抑制に関するパリ協定の批准が遅れて発効に間に合わない醜態も晒した。パリ協定も、地球温暖化陰謀論という、世界ではアメリカの共和党と日本の括弧付き「リベラル」とノビー(池田信夫)ら一部のトンデモ人士にしか信じられていない妄論(それは重厚長大産業に大量の塩を送るものでもある)を信奉するトランプの当選によって先行きが怪しくなったが、それはともかく、なぜパリ協定を先送りしてTPPにかまけたかというと、マスコミ情報で漏れ伝えられるところによると、自民党の政治家たちが安倍晋三の意向を忖度したものらしい。これには開いた口が塞がらなかった。

 さらに、しばらく前から12月にプーチンを呼んで下関だかで行われるという日露首脳会談の成果を引っ提げて、衆院を解散して総選挙を行い、その結果が自民党の対象になることは目に見えているから、自民党総裁の任期の限度が3期9年に延長されたことと合わせて、いよいよ改憲に本腰を入れようと安倍が企んでいるなどという話もあった。

 しかし、日露首脳会談で安倍の思い通りの成果が出るはずなど最初からなかった。数日前に、ロシア国防省が択捉島と国後島に新型の地対艦ミサイルシステムをそれぞれ配備したことを発表したが、これなどもロシアが領土問題で譲る気など一切ないことを示している。

 マスコミは、ロシアの強硬姿勢をトランプの大統領選当選と結びつけているが、アホかと思う。ロシアは、仮にクリントンが大統領選に勝ったとしても、領土問題で譲るつもりなどあろうはずもなかった。私は、まだ大統領選の結果が出る前の10月19日付の『kojitakenの日記』に下記のように書いた。

 周知のように、永田町では安倍晋三が来年の党大会を1月から3月に先送りしたことから「年初解散説」が流れている。これは特に公明党と創価学会が積極的に流している話らしいが、日露交渉で挙げた成果を引っ提げての「北方領土解散」になるなどの話が取り沙汰されている。だが、安倍政権は日朝交渉の打開をもくろみながら全く糸口さえつかめなかったことがあることからもわかるように、外交には全く期待できない政権であると私は考えているから、次の衆院解散が「北方領土解散」になることはあるまいと確信している。

 もっとも、「野党共闘」が先の新潟県知事選で、右翼にしてネオリベの保守系候補を担いでやっとこさ自公の原発推進派候補に勝てる程度の力しかない現状では、いかなる口実で安倍晋三が解散に踏み切ったところで、毎度おなじみの自公の圧勝にお悪、もとい終わるであるだろうことだけは確実だ。


 案の定、という展開になりつつある。

 安倍晋三のトランプに対するTPP参加へのおねだりをトランプが一蹴することや、ロシアが領土問題で譲るはずなど全くないことなどは、素人の私にだって確実に予想できる程度のあまりにも当たり前のことなのだが、マスメディアはあたかもそれらが安倍晋三の思惑通りになるかのような「忖度報道」をしている。「権力批判が絶え果てた『崩壊の時代』」(by 坂野潤治)がここまで進むとは、と嘆かずにはいられない。

 トランプが「現実路線」をとるなどというマスメディアの「希望的観測」もまた、安倍晋三の願望に添ったものといえるだろう。だがこれもまたトランプを「反グローバリズムの星」と期待する「小沢信者」と同様の愚かしい手前勝手な願望に過ぎない。

 この土日に、故・森嶋通夫(1923-2004)が1988年に書いた岩波新書『サッチャー時代のイギリス』を読んだ。28年前の本だから当然ながら歴史的限界はあるが、森嶋氏の本はいつも刺激的で面白い。氏の生前からもっと読んでおけば良かったと思った。

 この本には、小選挙区制によってイギリスの首相の権力はアメリカ大統領をも上回るほど強大であり、その権力をもって「歴史の車輪を逆回転させる女」サッチャーが独裁政治を行っていること、それを可能にした小選挙区制の反民主主義的な性質などが指摘されている。しかし、本の書かれた6年後には、小沢一郎の「剛腕」などによって衆議院に小選挙区制が導入され、それは2005年の小泉郵政選挙、2009年の政権交代選挙を経て、2012年にサッチャーにひけをとらない極右政治家・安倍晋三の独裁政権を生み出した。

 トランプは「反エスタブリッシュメント」として「小沢信者」らの期待を集めているが、サッチャーもまた「反エスタブリッシュメント」であった。サッチャーは富裕層の出身ではなく、田舎町の食糧雑貨商の家に生まれた。父は市長を経験した地元の名士だったとはいえ、イギリスのエスタブリッシュメントからはほど遠い。英保守党内の旧保守の政治家たちはサッチャーに「ウェット」のレッテルを貼られて干され、代わりに新保守の極右政治家が重用された。

 最初は「労働党政権ガー」で支持を浮揚させたサッチャーだが、徐々に人気が落ちると、1982年にフォークランド戦争を引き起こして政権の人気を浮揚させ、1983年の総選挙での圧勝につなげた。さらに1987年の選挙の前には、持ち前の新自由主義政策である緊縮財政とは真逆(まぎゃく)の、日本のメディアなら「バラマキ」と称するであろう大判振る舞いを行ったあとに議会を解散してやはり総選挙の圧勝につなげた。なお、当時のイギリスでは現在の日本と同じように総理大臣が勝手なタイミングで議会を解散することができた。2011年に議会期固定法が制定されてこの悪弊が改められた。この点は日本も早くイギリスに倣うべきだろう。

 以後は1988年に書かれた森嶋通夫の本には出てこないが、その後サッチャーは1989年に究極の悪税である人頭税を導入して総スカンを食い、1990年に退陣に追い込まれたが、11年の長きにわたってイギリスに害毒を垂れ流した。その間にイギリスはたいした経済成長もできず(経済成長率は労働党政権より低かった)、その一方でイギリス社会の格差は拡大したのだった。

 このサッチャー政権の歴史は、今後安倍晋三やトランプがいかなる道を歩むかを予想させるものでもある。トランプは、かつてブッシュ親子やビル・クリントンがやったように、内政が行き詰まると外国との戦争を引き起こしたり空爆をやったりするのではないか。また、自衛隊の海外派遣で戦死者が出て、それを機に安倍晋三が自衛隊の軍事活動をエスカレートさせたら、日本国民はそれを熱狂的に支持するのではないか。後者については、ブッシュ親子やサッチャーの戦争をアメリカ人やイギリス人が歓呼で応えたのに、日本国民は自衛隊員を死に追いやった安倍晋三を責めてその支持率を落とすとは、私にはどうしても思えない。

 これ以降はいつもの最後っ屁だが、「都議会自民のドン」と「戦っている」らしい小池百合子を応援して、このところテレビ(のワイドショー)の応援がやや不活発だとぼやく「リベラル」や、「トランプばかりを悪人呼ばわりするな、もっと安倍晋三を批判しろ」などとキーキー言っている現・元を問わない「小沢信者」たちには、「反既得権益・反エスタブリッシュメント」なら小池百合子やトランプはどこが橋下徹やサッチャーと違うのか、説明してもらいたいものだ。

 もっとも、彼らは2012年に小沢一郎が「私の考えは橋下市長と同じだ」と言った時に小沢一郎を批判することが全くできなかった。「リベラル」や「小沢信者」のみならず、紙面を挙げて総力で「日本未来の党」を応援した東京新聞も同罪だ。2012年の衆院選で日本未来の党が惨敗したことは本当に良かったと思うが、同時に最悪の安倍晋三独裁政権(第2次安倍晋三内閣)が発足してしまった。

 坂野潤治氏によると、この時に現在の日本の「崩壊の時代」の幕が開けたのだった。
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 『kojitakenの日記』に、トランプ米大統領選を制したことに本当に驚いたというコメントをいただいたが、私にとっては「そんなこともあり得るだろうな」という、想定内の結果だった。テレビのニュースでは、「クリントン勝利確実」などとずっと言っていたが、たとえば朝日新聞では、かなり前から「トランプ侮るべからず」という記者の指摘があり、「隠れトランプ」も選挙戦前に指摘していた。

いや、朝日だけではない。スポーツ紙の記事でも、たとえば日刊スポーツも(朝日系の新聞だが)11月8日の紙面に下記記事を掲載していた。以下引用する。

やっぱりヒラリー氏優勢も「隠れトランプ票」がカギ
[2016年11月8日9時34分 紙面から]

 米大統領選は日本時間のあす9日、いよいよ投開票される。民主党のヒラリー・クリントン元国務長官(69)と共和党のドナルド・トランプ氏(70)が最終盤まで大接戦となり、米メディアも情勢を見通せない中で、最後に勝負の鍵を握るのは、「隠れトランプ票」になるとみられる。

 最終盤の大接戦の要因になったクリントン氏の私用メール問題で、再捜査を行っていた連邦捜査局(FBI)のコミー長官は6日、従来の方針通り、訴追しない方針を表明。クリントン氏の支持率は、FBIの再捜査着手後に急落し、トランプ氏に逆転された調査もあったが、6日の主な世論調査は、クリントン氏が4ポイント前後リード。政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス」集計の平均支持率は、6日時点でクリントン氏が1・8ポイント上回り前日よりやや差を広げた。

 しかし、米国民には世論調査にトランプ氏支持を明言しない「隠れトランプ票」が、一定の割合で存在するとされる。トランプ氏は、FBIの訴追見送りに関し、ミネソタ州の演説で「クリントン氏は不正な制度に守られている」と批判。逃げ切りを狙うクリントン氏に対し「歴史的大逆転」への望みを捨ててはいない。

(日刊スポーツより)


 要するに、本当はトランプ支持なのだがそれを公言できない人たちが多くいて、彼らが大統領選のメディア予想を覆した。アメリカのメディアは民主党支持系ばかりか共和党支持系の保守系メディアまでも、トランプ不支持を打ち出していたから、そんなメディアの調査に本音など答えられない、という心理があったに違いない。

 だからトランプ当選は大いにあり得ると思ったのだが、日本では藤原帰一だのの「権威ある」(?)論客がトランプ当選間違いなしと断言し、それがテレビの電波に乗ったりしたため、クリントン勝利を信じて疑わない視聴者が続出したのだろう。

 さらに私は、トランプが勝ったら日本の「リベラル」の一部、特に「小沢信者」系やそれに親和性を持つ人たちが喜ぶだろうなと予想していたが、それも予想通りだった。

 ヒラリー・クリントンの敗因が、手のつけられないほど格差が拡大したアメリカにおいてかつてなく「反エスタブリッシュメント」感情が高まったことにあることは誰もが指摘することだが、それをトランプが解決することなどあり得ない。

 それは、トランプが取り入ったのが没落した白人労働者層であることからも明らかだろう。トランプは白人労働者層を救済するために「強いアメリカをトリモロス」と言う。その手段として、移民や国内のマイノリティを排除する。アメリカ社会の分断をさらに強めるだけになるのは目に見えている。

 9月9日付朝日新聞に翻訳が掲載された、ポール・クルーグマンのニューヨークタイムスのコラムによると、トランプというより共和党は鉛汚染の対策に消極的であり、鉛汚染対策に積極的なクリントン(民主党)の政策とは正反対であって、それがトランプや共和党が企業の要望に添った政策をとるためだとのことだ。そんな政治家、そんな政党の政権がまともな政策をやるはずがないのは当たり前だろう。

 クルーグマンはさらに先月、ハフィントンポストのインタビューに答えてトランプを痛烈に批判していた。

ポール・クルーグマンがトランプ氏批判「優れたビジネスマンは、マクロ経済の知識ない」
The Huffington Post | 執筆者: Alexander C. Kaufman

投稿日: 2016年10月15日 16時58分 JST 更新: 2016年10月15日 17時02分 JST

アメリカ大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏が支持されるのは、誇張する形で自由貿易に反対する彼が、アメリカ国内の雇用市場を改善してくれるのではという期待につながっているからだ、という分析がある。しかし、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏はこうした分析を一刀両断する。

クルーグマン氏によると、トランプ氏は、経済的な困難を移民や有色人種のせいにする、白人低所得者層の人種的な緊張感を利用しているのだという。

「経済的不安は、誰がトランプ支持者かを見分ける最良の指標ではない」と、クルーグマン氏は8月にブルームバーグTVのインタビューで答えている。「人種的対立が、トランプ支持者を見分ける格好の目印だ」

リアリティ番組のスターだったトランプ氏は、自身が「労働者階級の大資産家」であり、そのファシスト的なスタイルと、これまでの伝統的な大統領のあり方を否定することで、自身が一般大衆の声を代弁することになる、とぶちあげている。ここ何十年かで雇用が海外に流出し、苦しんでいる工場労働者たちを守ると、彼は誓っている。不景気にあえぐ鉱山業界の雇用を促進するため、最も環境汚染度が高い化石燃料である石炭への制約を減らすとも明言している。

トランプ氏はFoxテレビの番組の「Foxビジネス」で、民主党候補のヒラリー・クリントン氏が公約に掲げた「アメリカ全土で老朽化したインフラの再建費2750億ドル」を「少なくとも倍増させる」と語っている。この公約は、政府歳出を抑えるという共和党正統派の理念とは決別することを宣言したものだ。クルーグマン氏は、マイナス実質金利が政府の借入を利益事業にしている現実があるのにもかかわらず、トランプ氏の公約の実現性に疑問を呈した。

「彼は、『インフラのために借入するべきだ』と誰かが言ったのを聞いていた。そこでテレビ番組に出て、『それが今やるべきことだ』と言っている」と、クルーグマンは言った。

資産と派手な不動産業界での経歴を誇示するトランプ氏は(両方とも父親からの相続だ)、ほとんどの職歴が公的機関であるクリントンよりも、自分の方が優秀な経済のマネジャーになるのは当たり前だと主張している。

「私たちは、ビジネスでの経験が経済政策を回していくのに重要だ、という錯覚を持っている。しかしそれらは、全くの別物だ」と、クルーグマン氏は述べた。「優れたビジネスマンは一般的に、マクロ経済学について何の知識もない」

トランプは、環太平洋連携協定(TPP)や北米自由貿易協定(NAFTA)といった国際貿易協定を廃止し、メキシコと中国からの輸入品に巨額の関税を課すと公約しているが、それは貿易紛争の火種となりかねない。ムーディーズ・アナリスティクスの報告書によると、1100万人の不法移民を強制退去させ、効果が疑わしい巨大な壁をアメリカ・メキシコ国境に建設するという公約にかかる支出を合算すると、トランプ氏の経済政策はアメリカに大恐慌以来の長期的な不況をもたらす可能性がある。

「彼の中国バッシング、そして『中国の貿易商品がアメリカ経済停滞の原因なのだ』という考えは間違いだ」とクルーグマン氏は言う。「今まさに進行しているのは、何十年にもわたって共和党への投票を促してきた、こうした隠れた本音が、表面化してきているだけだと思われる」

実際に、トランプ氏が大統領選の候補者となったことで、白人優位主義、反ユダヤ主義など、政治のメインストリームでは長らくタブー視されてきた声を増幅させた。白人優位主義の差別団体「クー・クラックス・クラン」(KKK)の元指導者デビッド・デューク氏は、トランプ氏支持を表明した後、アメリカ上院のルイジアナ選挙区に自ら立候補すると発表した。トランプファンとおぼしき集団が、ユダヤ人ジャーナリストに対してサイバー攻撃を企て、伝統的なユダヤ人の名字を持つ人たちを判別し、嫌がらせの対象にしやすいようにするGoogle Chromeの拡張機能を開発するまでに至っている。トランプ氏が長年にわたって女性に対し非常に下品な発言を繰り返していたことは、2015年に初めて明るみに出た。Foxニュースの司会者ミーガン・ケリー氏が、予備選討論会の序盤で彼に答えづらい質問を浴びせたのは、「彼女が生理中だったからだ」と、トランプは発言している。

有色人種、宗教的マイノリティ、女性を侮辱するコメントは数え切れないほどあるのに、トランプ氏は自身が人種差別主義者でも、ミソジニスト(女性嫌悪)でもないと主張しており、メディアは経歴のあら捜しをすることに執着していると攻撃している。

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ハフポストUS版編注:ドナルド・トランプ氏は世界に16億人いるイスラム教徒をアメリカから締め出すと繰り返し発言してきた、嘘ばかりつき、極度に外国人を嫌い、人種差別主義者、ミソジニスト(女性蔑視の人たち)、バーサー(オバマ大統領の出生地はアメリカではないと主張する人たち)として知られる人物である。

(ハフィントンポストより)


 いやはや、アメリカという国はとんでもない男を次期大統領に選んでしまった。

 私には、トランプという男は日本にもとんでもない災厄をもたらすとしか思えない。それを「クリントンよりはマシ」とする日本の「リベラル」(特に「小沢信者」系)は、いつものことながら「なんて浅はかなのか」と呆れるほかない。そんな人たちが、鳥越俊太郎に投票するくらいなら小池百合子の方がマシだ、などと言っていたのだろう。

 そう、東京都知事選で小池百合子に投票した人たちには、トランプに投票したアメリカ人を笑う資格はないと思う。今回の大統領選は、消去法でいえば「鼻をつまんでクリントン」しかなかったと、ヒラリー・クリントンに好感など全然持たない私は思ったのだった。

 絶対に間違いないことは、「反エスタブリッシュメント」の有権者の心情から生まれたトランプが、アメリカ社会の格差をさらに増すことだ。それは、トランプが反エスタブリッシュメント層の一部に過ぎない白人労働者層にウケの良いことしか言ってこなかったことからも明らかだが、トランプはその白人労働者層を救済することさえ絶対にできないと私は確信している。そんな男をなぜ日本の括弧付き「リベラル」たちは「クリントンよりマシ」などと、クリントンとの比較という限定つきとはいえ「歓迎」するのだろうか。開いた口がふさがらない。

 最後に、トランプが大統領になったところで安倍晋三は何も困らないだろうとも指摘しておく。TPPは頓挫するだろうが、かつて自民党が野党時代に稲田朋美が「反TPPの急先鋒」であったことからも明らかなように、自民党の極右政治家たちにとってTPPに力を入れる契機はもともとなかった。自動車産業などの日本の財界からの強い要望で、国会で強行採決ほどの強硬さで推進していたに過ぎなかった。なお、TPPの発効が絶望的になってからも国会で関連法案を無理矢理に通す姿からは、政治を決める最大の力は惰性だという確信をさらに強める喜劇だった。

 安倍晋三最大の野望である「憲法改正」は、トランプの大統領就任によって、クリントン政権が誕生した場合と比較して格段にやりやすくなった。普天間基地の辺野古移設問題に関しても、トランプは反基地派・反安倍政権派の期待するような動きなど間違ってもしてくれないし、いわゆる「思いやり予算」増額の要求を、安倍晋三は易々と受け入れてしまうだろう。

 それで安倍政権の支持率が下がればまだ良いのだが、そんなことさえ期待できないのが今の日本だと思うと、暗さは増すばかりの今日この頃なのである。